シャーレ所属傭兵レイヴン   作:猫又提督

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終わりませんでした。ついでに長くなりました。

嬉しいことにはじめて誤字報告が来ませんでした。でもいざ来なくなるとちょっと寂しいものですね。まあ無いことはいいことなんですが。




第20話

 ハナコから話を聞いた。要は入り口で敵を足止めすればいいそうだ。ただ数が多いと何人か隙間を通り抜けていきそうだ。

 

「大丈夫だ。私たちだって戦えるし、レイヴンに頼むのは敵が大量に流入するのを防ぐこと。ある程度引き付けてくれればいいんだ」

『いつまで相手してればいい?』

「ナギサさんを運んだところで正義実現委員会に連絡をします。レイヴンさんはハスミさんたちが来るまで耐えていただければと」

『分かった。それで作戦はいつ始まるの?』

「今からだ」

『いいね』

 

 私は車椅子に乗り換えてハナコとアズサと共に外に出た。先生、ヒフミ、コハルの三人は体育館に待機した。外に出ると僅かな風を感じた。今日は満月であるがそれとは関係なく学園の中は別館でもライトによって十分な明るさを保っていた。

 

 ハナコの手助けを得て私はACに乗り込んだ。その際ハナコは私にこんなことを口にした。

 

「もし正義実現委員会の方が来られなかった場合、シスターフッドが来るはずです。本物の裏切り者に心当たりがあるので来るとすれば後者になるでしょうね。私の勘が当たってなければいいのですが。ともかく両者のどちらかが来た場合その方たちを体育館まで連れてきてください」

 

 私はすでに車椅子から降りていたので返事ができなかった。スマホを取り出そうにもすでにハナコはリフトから降りてしまっていた。裏切り者と言うのはアズサのことではなかったのだろうか。ハナコの言う裏切り者とはいったい誰のことだろうか。そんな疑問が湧いてくるがそんなこと私が知ったって意味はない。状況をいまいち理解しきれてないが傭兵は傭兵らしく目の前の仕事を片付けるのみだ。

 

『メインシステム。戦闘モードを起動』

 

 私がACを起動したときにはすでにアズサとハナコは別館を離れていた。

 

 

 二人が戻ってくるのを待っていた。ひたすらに。本館の方へと続く道を見ていた。何も聞こえないせいか耳鳴りが聞こえてきた。耳は何か音を拾おうと必死の様だ。包帯と座席がすれる音がする。私が呼吸する音が聞こえる。ACのどこかが駆動している音が聞こえる。スマホが振動した。何かの通知が来たのだ。多分ゲームの通知。

 

「もしもし、そっちの様子はどう?」

 

 突然スマホから先生の声がした。僅かな音も拾おうと過敏になっていた耳はその声を余計に大きくして拾ってしまう。故に私は肩を跳ね上げさせた。

 

『びっくりした。どうしたの?』

「ごめんごめん。ちょっとそっちの様子を聞きたくて」

『二人が行ってからそこそこ経ったけどまだ静かだよ。何も聞こえない』

「作戦が上手くいってるといいけど」

『うまくいくよ。多分ね。二人のこと信じてあげなよ』

「そうだね。レイヴンの言う通りだ。信じてあげないとね」

 

 先生との会話中もずっと道をにらみ続けていた。すると遠くからアズサとハナコがこちらに走ってくるのが見えた。アズサが誰かを担いでいる。

 

『来た。二人が戻って来た』

「これで第一フェーズは完了だね。次は第二フェーズだ」

『そして私の仕事の始まり』

 

 二人はそのまま別館に入っていった。担いでいたのはナギサだった。約十分後、二人は再び外に出てきた。

 

「ナギサを連れてくるところまではうまく行った。今頃アリウスの部隊がナギサがいたところに到着しているはずだ」

「これで本物のトリニティの裏切り者に情報が行くはずです。コハルちゃんにはすでに正義実現委員会に連絡してもらっています。もし私の勘が当たれば……いえ、この話は止めておきましょう。後はお願いしますね」と言ってハナコは交互に私とアズサの方を見た。

「任せろ。こんな時に備えて学校中にトラップを仕掛けてある」

 

 アズサは再び本館の方へと消えていった。私とハナコは彼女の後姿を見送った。

 

「それでは私も動きますね。アズサちゃんがここに来るまでには戻ってきます」

 

 そう言ってハナコも消えていった。

 

 

 しばらく待っていると遠くの方から爆発音が多数聞こえていた。それはだんだん近くなり、やがてアズサが走ってくるのが見えた。彼女の後ろには多数の人が見える。これまた見たことのない制服だ。皆ガスマスクを被っている。アズサの話によればあれがアリウスの生徒だ。

 

「頼んだぞ」

 

 アズサはそう言って別館の中に入っていった。私はすかさず入り口の前に立ちふさがった。

 

「な、なんだこのロボットは。報告にはなかったぞ!?」

「だがあのスパイの仲間であることは確実だ。全員射撃を開始しろ!」

 

 アリウスの生徒は一斉に射撃を開始した。私の機体にはたちまち多くの銃弾が着弾するがそんなものは私には効かない。銃弾を物ともせずに私は目の前のアリウスにルビコン神拳を炸裂される。人をACで殴るのはあまり良くないこと、と言うか一発でむごいことになりそうだがキヴォトスの生徒なら、ましてやアリウスの生徒ならまずこの程度では死なないという。現にルビコン神拳を食らった数名は吹っ飛ばされたものの、ヘイローは消えていない。つまり意識を失っていないということだ。驚いた、本当に耐えるとは。それも意識を失わせずに。

 

「くそっ! 銃弾が効いてないのか!」

「駄目だ。私たちだけじゃどうにもならない。早く援軍をこちらに呼べ!」

 

 遠くで倒れているアリウスの一人が何かを耳に当てた。恐らく通信機だろう。まずった。遠くに飛ばしすぎたせいで始末するには届かない。おめおめと援軍を呼ばれてしまった。ただ援軍が到着するまでにはこの部隊は殲滅できるだろう。

 

 思惑通り一分後には私の周りにアリウスの生徒たちが横たわっていた。ヘイローは消えていないものの全員動けないようだ。数人ほどヘイローが消えているが意識を失っているだけなのだろう。

 

『アズサの追手は全員片付けた。でも援軍を呼ばれちゃった。ごめん』

「え、あ、あの数を全員か?」

 

 私は先生に報告したはずだが、聞こえてきたのはアズサの声だった。私は『そうだけど』と返事をした。

 

「そ、そうか。うん、援軍を呼ばれても問題はない。私たちだって戦えるからな」

『数によるね。全員片付けられそうならこっちでやる』

「レイヴン、無理はしないでね。私たちの方でも戦えるんだから」

『覚えとく』

 

 先生への報告を終えると静寂が訪れた。時折僅かなうめき声をマイクが拾っていた。しかし静寂は僅かなものとなった。本館へと続く道からは多くのアリウスの生徒たちがやってきている。増援と言うのだから数は前回よりも多い。それにしても多い。ちょっと処理しきれないかもしれない。先に断りを入れておこう。

 

『ごめんやっぱ何人か見逃すかも。数が多い』

「無理だけはしないでね。危なくなったら逃げてよ」

 

 その言葉には返事をしないで置いた。猟犬が主人を置いて逃げることはあり得ないのだから。

 

 増援との戦闘は苛烈なものになった。銃弾だけではなく、グレネードまで飛んでくる始末。流石に爆発はダメージか衝撃が行くかもしれない。だとしても戦闘はこちらが一方的だ。ルビコン神拳を繰り出すたびに何人か吹き飛んでいく。にしても数が多い。危惧していた通り私が戦闘している間に横からどんどん別館に入っていく。しかし別館の中からも爆発が聞こえる。そういえばアズサがトラップを仕掛けていたか。まさか本当に役立つ時が来るとは思わなかった。

 

『ごめん敵が入った』

「大丈夫、任せて」

 

 先生たちの様子は分からないがきっとうまくやっているだろう。こちらはこちらの仕事に集中する。殴って殴っての繰り返し。銃弾やグレネードを無視し続け目に入ったアリウスを片っ端から殴り続ける。増援はあとからあとからやってくる。まるできりがない。

 

 何十人目か忘れた頃、突然聞いたことのある声がした。

 

「全然報告が来ないからなんでだろって思ったらなるほど、こういうことか」

 

 声の主は後方で待機しているアリウスたちをかき分けながら私の前にやってきた。最も、上から見ていた分にはその特徴的なヘイローは酷く目立った。聖園ミカは若干困ったような笑みを見せていた。彼女がなにかの合図をするとアリウスの生徒たちは動きを止めた。

 

「道理で全然事が進まないと思ったよ。あなたが動いてるってことはつまりシャーレが動いてるってことじゃん。ちょっと面倒なことになっちゃったなあ。ねえ、ナギちゃんがどこに行ったか知らない? それさえ教えてくれれば私たちはすぐに引き下がるから……教えてくれないの? あ、そっかあ。喋れないんだっけ。困ったなあ。これじゃどこにいるのかわかんないよ。あ、でもそれなら中にいる先生に聞けばいいじゃんね。あなたがここにいるなら先生も中にいるんでしょ?」

 

 ミカがべらべらと喋っている間、私は現状を先生に伝えていた。きりのない増援に大量に流れ込むアリウスの生徒たち。そして目の前にいるミカの存在。

 

「ミカがっ!?」

 

 スマホから先生が驚愕する声が聞こえた。無理もない。私だって驚いている。だがしかし、少し考えてみれば納得がいくことだ。アリウスと繋がりがあるのはアズサとミカだけだからだ。

 

『敵の動きは一旦止まってる。どうする、こっち来る?』

「うん。こっちが片付いたらそっちに向かう。それまで引き止めといてくれ」

『引き止めるたって、私は話せないから実力行使になるけどね』

 

 私と先生が会話している間もミカは延々となにか話していた。しかし先生との会話が一段落した時にはミカの口は止まっていた。

 

「はあ、いくら話せないからって何も反応してくれないと寂しいなあ。ずっと一人で話してても時間の無駄だしさっさと先生のところに行ったほうがいいね」

 

 まずい、ミカが動きそうだ。手荒だが実力行使で止めさせてもらう。私はミカに向けて拳を振るった。拳は確かにミカの正面から当たった。しかしその手応えには違和感があった。

 

「危ないなあ。急に殴ってくるだなんて。私じゃなかったら怪我してるよ」

 

 拳を戻すとそこにはヘイローを失わず、無傷で立っているミカの姿があった。更にその何かを受け止めたような構え、まさかルビコン神拳を受け止めたというのか。しかも真正面から。まさかそんなこと、人間がACの拳を受け止めるなんてありえない。百歩譲って意識を保っているならまだしも、無傷で受け止めるなんて一体どんな馬鹿力を持っているんだ。もはやキヴォトス人としてもおかしくないか。

 

 だが私に驚いている暇はない。ミカを止めることができなかった。彼女は進撃の合図を出した。やむを得まい。私は別館の入口に立ちふさがった。これで正面からの侵入はできないはずだ。

 

「必死だね。そんなに守ってるならそれってナギちゃんが中にいるってことじゃんね。正面だけ守ったって意味はないよ」

 

 言葉の通りアリウスは正面ではなく窓や裏口から侵入しようとした。もはや私ができることはただ入口の前に立っていることしかできない。武器があればまだやりようはあったかもしれない。

 

「いたぞ!」

 

 すぐそばから声がした。そして銃声も。いたというのは先生たちのことか? それを証明するかのようにスマホから先生と銃声が聞こえてきた。

 

「レイヴン、入口まで来た。ドアが開かない!」

『ごめん、今退く』

 

 私が入口から離れるとすぐに先生たちが出てきた。そしてミカの名を先生は叫んだ。

 

「ミカ! どうしてこんなことを!」

「あ、先生。なんで私がここにいるの知ってるの? 誰かから……もしかしてレイヴンから? 私とは話せないのに先生とは会話できたんだ。それってなんか不公平だね」

「僕は理由を聞いているんだ。どうしてナギサを襲撃しようとしたんだ」

「理由? それはゲヘナが嫌いだからだよ。心の底から嫌い。なのにナギちゃんがあんな変なことしようとするから」

「エデン条約のことですか?」

「ん? あなたは……えっと誰だっけ。えっとね……あ、そうそう。浦和ハナコ。覚えてるよ礼拝堂の時のこと。とてもびっくりしたんだから。うん、そう。エデン条約。あんな角の生えたやつらと平和条約だなんて裏切られるにきまってるじゃんね。後ろから刺されちゃうかも。そんなことさせない。平和条約だなんて……あんなに長い間いがみ合ってきたゲヘナと? 夢物語じゃないんだからさ。ナギちゃんもいい加減私たちがドロドロした世界の住民だってこと分かってもらわないと」

「エデン条約は武力同盟じゃなかったの?」

「あ、それは嘘。エデン条約は正真正銘平和条約だよ。そもそもナギちゃんがあんな組織を一人で動かせるはずが無いからね。でもアリウスと和解したいっていうのは本当だよ。アリウスだって元はトリニティの一員だもん。だから私がホストになってアリウスを本当のトリニティの一員にするの。エデン条約が締結されたらそれも難しくなるからね。だから締結される前にホストになるしかないの」

「それは、つまりクーデターなのか?」

「そうだねえ。考えてみればクーデターかも。クーデターってなんかイメージ悪いなあ。なんだか先のことを考えてないみたい。でも私はちゃんと考えてるよ。私がホストになったらアリウスを公的な武力組織にするの。正義実現委員会みたいにね。私はゲヘナが嫌いだしアリウスの子たちもゲヘナが大っ嫌い。だから一緒にゲヘナを潰すの。共通の敵がいれば敵同士でも仲良くなれる。一時でも仲良くなったらそこから和解の足掛かりになるでしょ?」

 

 ミカはそう言うが私はそれこそ夢物語だと思った。どうせ共通の敵がいたとしてそれがいなくなればすぐに敵対する。私はそれを実際にこの目で見てきた。アリウスのトリニティに対する憎悪はゲヘナを一緒に潰したぐらいで消えないだろう。たとえ一緒に潰そうと共闘したとしてもそれは協力ではない。利用だ。

 

「あなたのことは覚えてるよ白洲アズサ。あなたは私にとって大事な人物だもん。今までもこれからも。だって今からあなたにはナギちゃんを襲った犯人になってもらうから。スケープゴートってやつ」

「ミカは最初からティーパーティのホストになる事が目的だったの?」

「んー、まとめるとそうかな。でもね、先生。私は権力が欲しいわけじゃないの。ホストになってトリニティの穏健派を追い出してから空席をアリウスで埋める。新しい組織が生まれるから新しく公会議もいるよね。そうしたら合理的にゲヘナを潰せる。こそこそせずに真っ向からトリニティとゲヘナの全面戦争! どう? いいシナリオだと思わない?」

 

 笑顔で言うミカのその顔は一種の狂気に包まれていた。純粋な狂気だ。ゲヘナを潰したいという思いだけで動いている。その宣言に先生は一体どんな顔をしたのだろう。たちまちミカの顔はおっかなびっくりしたようなものに変わった。

 

「先生ってそんな怖い顔できるんだね。うーん、確かにちょっと説明が雑だったかもしれないね。こんな場所で話すようなことでもないし、まずは邪魔者を消してからゆっくり話そっか」

 

 その瞬間緊張した空気が流れた。今この場で決着をつけるつもりなのが分かった。数はこちらが劣勢、戦力は……多分五分五分。ミカの戦力がひどく高そうだ。ACの拳を受け止めるほどだから。

 

「言っとくけど、私強いから」

 

 戦闘はミカの合図で始まった。




ミカならルビコン神拳ぐらい受け止めれるっしょ(適当
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