「レイヴン、すまないが盾になってくれないか。この場ではACしか盾になるものがない」
『分かった。ミカは強いよ。ACの拳を受け止めた。周りの雑魚からやるしかない』
「え、う、受け止めた!? このロボットの拳を? ティーパーティの人ってそんなに力持ちなの!?」
「い、いえ。そんなことはないはずですけど」
「あはは……」
敵の数は多いが先生の的確な指示のおかげで戦線は崩壊せずにいる。しかし建物に侵入した部隊が後ろから攻めるために閉じたドアをこじ開けようとしている。機体で塞いでいるためそれは防がれているが先に扉が破れるかもしれない。
「レイヴン少しだけ動いてくれ。隙間にグレネードを投げる」
『少しってどのくらい? このくらい?』
「ああ、それぐらい結構だ」
数秒後後ろから爆発が起こり、同時に閃光と煙が出始めた。
「ど、どんだけ投げたのよ!」
「普通のグレネードと閃光弾と煙幕だ。ここで戦っても不利だ。私はこれから中に突入してロビーを再度占拠する」
「そ、そんな一人で危ないですよ!」
「だが、こんな開けた場所で戦ってても状況は不利だし、最大の戦力であるレイヴンを盾に使うのはもったいない。安心してくれ。多対一の状況は何度も訓練で体験したことがある」
「そ、そんな危ないよ。僕も一緒に行こう」
「いや、それこそ危ない。先生はレイヴンに守ってもらっててくれ。先生は一発でも受ければ致命傷になるんだから」
『話はおしまい? なるべく早くお願いするよ』
私は機体を少し動かし、アズサは隙間を縫うようにして中に入っていった。直後建物の中からは一層強い戦闘の音がした。銃声に加え何度も爆発が起こり、窓から漏れたであろう閃光も見える。
「粘るね! でも早く投降した方がいいと思うよ。私だってできればみんなのこと傷つけたくないから」
「は、ハスミ先輩がくればあなたたちなんか一網打尽なんだから! それまで耐えればいいだけなんだから」
「正義実現委員会のこと? それなら来ないよ。私が待機の命令を出したから」
「そ、そんな!?」
「今日一日静かだったでしょ? 私が色んなところに根回ししたんだよ。ナギちゃんの襲撃を邪魔されたくなかったからね。まあでも結果的にはこうしてナギちゃんを奪われちゃったわけだけど」
警告音が鳴り、爆弾が飛んできた。私は手でヒフミたちの前を遮った。コツンと爆弾が当たり直後機体の前で爆発した。それを皮切りに警告音が多数なり、私の手には多くの爆弾が当たっては跳ね返り、爆発する。その時、アズサから制圧完了の報せが入った。それに伴い先生たちは急ぎ屋内に陣地を移した。これで私はようやく自由に動ける。
私は真っ先にミカを狙った。指揮官を失えば部隊の力が弱まるはずだからだ。ミカを守るように展開するアリウスたちを薙ぎ払いながらミカの元までくると私はミカに拳を振った。しかし前回と同じようにミカは真正面からこれを受け止めた
「またこれ? さっき受け止められたじゃん。同じ攻撃ばっかしても意味ないよ。それとも時間稼ぎかな?」
私は拳を戻すと、ミカが体勢を戻さないうちにもう一方の腕でミカの側面から殴った。流石にミカも構えができてない状態で受け止めることはできない。咄嗟に銃を盾にしたがACの拳に体が弓ぞりになり大きく飛ばされた。アリウスの部隊をなぎ倒しながら飛ばされたミカは銃を杖に膝立ちしている。やっとまともにダメージが入ったか。
「痛った~。少しは加減してくれてもいいのに。本気で殴る事ないじゃん」とミカは言うがACの拳を受け止められて本気で殴らないわけがない。「強いなあ。先生たちもまだ投降する気はないみたいだし、正直これぐらいの量が居ればすぐに落ちると思ったんだけどな。皆がシャーレ、シャーレっていうのが良く分かるよ。うん、最初はあなたもどうにかなると思ったけどこれは無理だね。あなたは無視するしかない」
ミカは再度アリウスに指示を送った。私にちょっかいを出していたアリウスも一転して別館に向かう。先生たちの制圧を優先させるつもりだ。私は急ぎアリウスの掃討にかかったが数が多すぎてとてもじゃないが追い付かない。先生に警告を出すも向こうからも厳しいという返事があった。
その時後方から、本館の方向から爆炎と銃声が上がった。ミカもそれに気づき一緒になって後方を見た。
「なに? 一体誰が。ティーパーティの命令に逆らう組織なんていないはずなのに」
「た、大変です。後方からシスターフッドが!」
『シスターフッド』と私が思考を漏らすとすかさず先生の方から追及の声が挙がった。
「し、シスターフッドが来たの?」
『そうみたい。ハナコが言った通りだ』
シスターフッドが来たという報告にアリウスたちは混乱しているようだが私はその中で次々と掃討していった。ミカも先生たちの制圧を急がせるが、その声と顔には明らかな焦りが見えている。そしてミカ自身も別館に突入しようとしていた。私はミカが近づいてくるのを待ち、タイミングを見て彼女を捕獲した。焦りで前方しか見ていなかったのか彼女はあっさりと捕まったが、その怪力でACの手から逃れようとしている。冗談抜きで押しのけそうだったのでもう片方の腕でもミカを押さえ付けた。
「ぅ、ぐっ!」
ようやくミカは敵わないと自覚したのか力を弱めた。そしてぽろぽろと言葉をこぼし始めた。その声はただの独り言なのに、周りの銃声で掻き消えそうなほど小さな声なのに。どういう訳か機体のマイクはミカの声を強調して私に聞かせた。
「なんでこうなるかな。セイアちゃんの時だって動かなかったのにこんな時に動くだなんて……もしかしてハナコちゃんかなあ。ハナコちゃんはシスターフッドに気に入られてたし。どこで見誤ったんだろうなあ。ハナコちゃんのことを見くびってたから? ううん。浦和ハナコがとんでもない存在なのは知ってた。でもいつの間にか無害な存在になってた。アズサちゃんが裏切ったから? ううん。アズサちゃんが裏切ろうと裏切らまいと計画は何も変わらない。寧ろ裏切ってくれた方がスケープゴートとして切り離しやすかった。ヒフミちゃんは普通の子だし、コハルちゃんはただのおバカさんでしょ? どうしてかな……あなた、というよりシャーレなのかな。ナギちゃんが裏切り者って騒ぐから、仕方なくシャーレに連絡して、あなたもついてくるって言うから興味本位で一緒に招待して……あーあ、まさかあなたと先生がこんなに強いだなんて。知っていれば招待だなんてしなかったのに」
最後にミカは私に向かって笑いかけた。その顔はとても悲しそうな笑顔だった。アリウスが制圧されたのはそれからすぐのことだった。
「教えてください。セイアちゃん襲撃を命じたのはミカさんですか?」
シスターフッドに身柄を確保されたミカに対してハナコはそう聞いた。ミカはどこか諦めたような顔をしていた。
「そうだよ。でもヘイローを破壊しろとは言ってない。ただ卒業まで牢の中で生活してもらおうと思っただけ。ここまで大事になるとは思わなかったんだよ。そこらへんは当事者に聞いてみるのがいいんじゃないかな。ね、白洲アズサ」
ミカに名を呼ばれたアズサは顔を俯かせ何も答えない。ヒフミが「あ、アズサちゃん?」と聞いても黙っているだけだった。
「まあいいや。殺すつもりはなかったんだよ。あれは事故だったんだよ。元々セイアちゃんは体が弱かったからね」
「セイアちゃんは生きています」
「え?」
「まだ怪我が治っておらず目覚めないのですが今はトリニティの外部で救護騎士団の団長さんが一緒にいます。襲撃の犯人が分からなかったので今まで偽装していたんです」
「ミネ団長が? そっか……良かったあ」
ミカはそう言って笑った。その顔はさっき見せた悲しそうな顔ではなく安心した、憑き物が落ちたような顔をしていた。そしてもう一度アズサを見て言った。
「白洲アズサ。自分が何をしたのか分かってるの?」
「もちろん」
「これから追われ続けるよ。安心して眠れる日なんて無くなるかもしれない」
「ああ、分かってる」
「それにサオリから逃げられると思ってる? 覚えてるよね、et omnia vanitas……」
「覚えている。だとしても足掻いて見せるさ」
「ミカ」と先生が言うと、ミカの笑顔は困ってしまった。
「ごめんね先生。今は先生とは話したくないかな。でもあの時私の味方って言ってくれて嬉しかったよ。ありがと」
それっきりミカは誰とも口を利かなかった。やがてミカはやって来た正義実現委員会に身柄を引き渡されてそのまま連れていかれてしまった。
気づけば空はすっかり白んでいた。ヒフミはあくびを噛み殺しながら大きく背伸びをした。
「はあ……やっと落ち着きましたね」
「ずっと戦ってましたものね」
コハルはうつらうつらとしていたが、ハッとすると誰も何も言ってないのに勝手に弁明を始めた。
「ち、違うから。ちょっと気が緩んだだけだし」
「レイヴンもお疲れ様」
『初めてキヴォトスの闇を見たよ。やばいねここ。結構平和だと思ってたんだけどな』
「光が強い分闇は濃くなるからね。でもその闇を払拭するためのエデン条約だよ。僕たちはそれを守ったんだ。よくやったと思うよ」
「ヒフミ。まだ終わってない。寧ろここからスタート……いやスタートも出遅れてるかもしれない」
「え? どういうことですか」
「あー……そういえば試験が」
「あっ、忘れてた」
「そうでしたね。でも出遅れてるってのは?」
「今の時刻は午前七時五十分。走らないと間に合わない」
「え、そんな!? ここから試験会場までどれくらいでしたっけ?」
「走って一時間ぐらいでしょうか?」
「もう歩くのだって痛いのに一時間も走れないんだけど!?」
「ど、どうしましょう?」
「僕も一時間走りっぱなしはちょっと」
皆慌てふためているが、次の瞬間には私の方を見ていた。私はつけないため息をついて『私が送るよ』と言った。
「ありがとうございます!」
「レイヴンさんなら早く着きますね」
「ああ。少し余裕もできそうだ」
「と、とりあえず早く行きましょ」
私は片膝をつき、両腕を差し出した。五人全員が乗ったのを確認して立ち上がると私は言った。
『で、試験会場ってどこ』
トリニティを移動するたびに思うのだがここもミレニアムかそれ以上に広い。大体学園内で一時間以上の移動が発生するってなんだ。何かしらの交通手段がいるだろう。
八時を過ぎているのに学園内はやけに静かだった。走っていても誰とも会わない。今日は休日か何かだろうか。爆速で通り過ぎるので窓の様子は微塵も見えないが、かすかに見えた分には電気は消えていた。そんな建物群が続いている。
『静かだね。だれもいない』
「昨日ティーパーティから戒厳令が出されたらしいのでその影響でしょうか」
『でももうティーパーティ誰もいないよ』
「そういえば……そうですね。でもそれを知ってるのは私たちだけですし、ナギサさんが起きればきっと戒厳令も解除されるでしょう」
「はあ……裏切り者を捕まえたんだから合格ラインが下がるくらいしないかしら」
「どうだろうな。ナギサはまだ私たちがトリニティの裏切り者だと思ってる、というか確信してるだろうからな。誤解が解けるころには私たちはすでに退学してるだろうな」
「か、確信って何ですか」
「あ、あらえっとですね」
「ハナコがまるで補習授業部全員が裏切り者みたいな言い方をしてヒフミがその指導者みたいな言い方をしたんだ」
「え!? ちょっとハナコちゃん!?」
「ちょっとした意趣返しのつもりだったんですよ。あんまりじゃないですか、私やアズサちゃんならともかくヒフミちゃんまで」
「あぁ~、後でナギサさんに誤解を解きにいかないと」
試験会場は正義実現委員会が警備をしているところらしい。だから多分正義実現委員会が周辺にいるそうだ。なぜ試験会場を警備してるのか分からなかったがナギサの嫌がらせだと聞いてなんとなく納得した。
「結構余裕出来ましたね」
「ありがとうレイヴン」
『いいよこのくらい。試験頑張ってね』
試験会場の入り口には正義実現委員会が一人待機していた。
「補習授業部の皆さんですね。お待ちしておりました。ハスミ副委員長からの伝言です。頑張ってください……と」
「ハスミ先輩!」
「それと、力になれなくてごめんなさい。この分はいつか必ず、とも」
「うん。じゃあ入ろうか」
『私はここで待ってるよ』
「分かった。終わったらまた連絡するから」
先生たちは試験会場に入っていった。私はそれを見送ると、正義実現委員会と対称の位置に立ちそこで落ち着いた。ゆっくりと背伸びをしてようやく事態が落ち着いたことを実感した。それとなくMr.ニコライのぬいぐるみを弄った。手持無沙汰だからだ。ヘルメットを脱げば完全に一人の世界になる。さて、どうやって時間を潰そうか。試験時間までもまだ時間がありそうだ。ゲームでもしてよう、と思ったがふと充電の残量を見ると残り少ない。昨晩充電器に挿すのを忘れていた。これでは途中で切れてしまう。なくなくゲームは諦めた。
三十分ほど暇な時間を過ごしてチャイムが聞こえた。試験が始まったらしい。ふと横を向くと、顔を戻す正義実現委員会の子が見えた。ちらちら見ていたのだろうか。それから不定期に横を向くと彼女は何度も急いで顔を戻すので面白かった。なんやかんや彼女で遊んでいたら試験時間は終わっていた。
第三次特別学力試験の結果が届いた。結果は全員が九十点以上を獲得。見事補習授業部全員が合格した。
次回から三章に入ります。三章いいですよね。素敵だぁ。私はあの雰囲気を再現できるでしょうか。ご友人の皆さん、ぜひ読んでくださいね。