シャーレ所属傭兵レイヴン   作:猫又提督

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誤字報告ありがとうございました。

今回からついに三章に突入です。


エデン条約編三章
第22話


 ゲヘナ学園には初めて来たがここもここで中々歴史を感じる建物が多い。私はゲヘナの生徒会、万魔殿が設置されている校舎で先生を降ろすとそのまま待機した。先生は私も一緒にと誘ったが、ミカの件で思い知った。面倒な話はとことん面倒くさいと。そもそも私は裏でこそこそするのは苦手だし、仕事を請け負ってこなすのが役割だ。難しい、思惑の混じった話を聞くのは先生に丸投げしたい。だから断った。

 

 ゲヘナには今のところあんまりいい思い出が無い。記憶にあるのは、追いかけられたり目の前で爆破されたことだけ。ここの治安も終わってそうだ。

 

 先生が万魔殿と話をしている間、スマホを取り出しモモトークを開いた。いくつか通知がきている。一つはヒフミからでアズサが正式にトリニティに入学できたという報せと今度一緒にペロロ様の映画を見に行こうという誘いだった。アズサの件に関しては簡単なお祝いを書き、誘いに関しては『予定が空いてたら』と曖昧に送っておいた。もう一つはウタハからだった。随分と会っていなかったが内容は廃墟に置いて来た武器の回収を手伝ってほしいという事だった。そういえばずっと置きっぱなしだったな。いつもはパージしたところで新しく買いなおすだけだがキヴォトスじゃそういうわけにもいかない。それにしてもまた廃墟に行っているのか。立ち入り禁止のくせによく入る、そのように送ってみるとどうやら手伝いでヴェリタスと一緒に入っているらしい。何でヴェリタスと一緒にと思ったが一先ず無断で入っているわけでは無いようだった。キヴォトスでも武器を持たないと不便そうだし、先生や他の人を運べるアタッチメントでもつけてもらうついでに回収に行こうか。

 

 ふと思い出した。そういえばハナコのことをウタハに教えようとか思って結局何も言っていなかった。この際教えておこう。ハナコのことを教えるとウタハは是非お礼と作品を試してほしいとお願いしてきた。今度ヒフミ経由でハナコに伝えておくか。

 

 数ある窓の中から一つ、造形の凝った窓から先生の姿が僅かに見えた。彼の前には白髪のなんだか動作の大きい少女が見える。彼女が生徒会長なのだろうか。あ、こっちを見た。何を話してるのだろうか。気にする必要はないが気にならないわけではない。だが、まあいいか、と一言思うと途端に私は興味を失った。

 

 

 先生は三十分ほどで出てきた。横にはヒナの姿もある。トリニティでは随分と長く話していたのにとても早くに出てきた先生に何を話していたのか聞いてみた。

 

「何を……顔合わせぐらいかな?」

「ごめんなさいね、うちの生徒会長が」

「ヒナが謝ることじゃないよ。僕も挨拶のつもりで来たし」

『今日はもうおしまい?』

「うん」

「それじゃ帰り道気をつけて」

 

 先生は手に乗ろうとしてもう一度ヒナへ振り返った。

 

「もしかして引退のことアコたちに言ってない?」

「そうね。先生にしか言ってないわ。アコには勘づかれてるかもしれないけど。でも引退とかそんな大げさなことじゃない。ちょっと休みたいってだけ……この話はやめよう。そんな大事なことじゃない。それじゃ、また調印式で」

「うん、それじゃあ」

 

 先生は今度こそ乗り込み、私たちはゲヘナから立ち去った。

 

 

 ミレニアムにパージした武装を取りに行ったり、治安維持に呼ばれたり、迷い猫を探したりしながら日は流れ調印式の日がやってきた。

 

 古聖堂はトリニティにある聖堂よりも古めかしい見た目をしていた。とはいってもそれは外装だけで、中は新しいものに置き換えられていた。私は先生と二人、古聖堂の中で椅子に座っていた。

 

「暇だなぁ」

 

 先生はふと呟いた。いやに広く、二人しかいないホールの中では先生の小さな呟きも微かに響いた。私も『暇だね』と先生に同調した。実際暇である。先生の護衛目的で付いてきたがこんなに暇になるとは思わなかった。余裕を持って早めに来たのが裏目に出てしまった。調印式が始まるまでの間私たちは古聖堂のホールで待つように言われ、私はスマホで今日のニュースを見ながら時間を潰していた。

 

『私の機体が紹介されてる』

「え、どれどれ」

 

 丁度カメラが古聖堂の前に向いたとき、入り口付近に置いておいたACに寄せられた。リポーターのシノンがACのことをいろいろ紹介している。シャーレの所有するロボットだとか、先生が自費で購入したとかある事ないこと言われているので私は思わず微妙な顔をしてしまった。先生も苦笑いしている。カメラにはACが持っているショットガンも映っていた。先日ミレニアムの廃墟から回収したやつだ。二丁あったが片方はエンジニア部に渡した。解析して可能なら弾薬含めて複製してくれるそうだ。三人ともえらく興奮しながら言っていた。ついでにウタハからハナコに対しての感謝の言葉と光学迷彩下着を預かった。いらない。

 

 今も外ではトリニティとゲヘナの生徒が向かい合わせで待機しているのだろうが、到着した時の雰囲気と言ったら一触即発の一言に尽きていた。あれはどちらか一方が踏み出せばそのまま戦争になりそうな勢いだ。裏切り者ってトリニティ全員じゃないのか? あの顔はどう見たってエデン条約を締結したがってるようには見えない。現にカメラに映っている両者の笑みが恐ろしい。

 

『ナギサの言ってたトリニティの裏切り者って全員じゃない?』

「え?」

『だってナギサの言ってた裏切り者ってエデン条約を締結させたくない人でしょ。絶対この人たちそうじゃん』

「う、うーん。まあ、でも一応争いごとは起こさないようにしてるから。それにもう終わった話じゃん?」

『今更蒸し返す話じゃないか』

「せっかくだしさ、ちょっとぶらついてみない?」

『いいよ。どうせ暇だったしね』

 

 先生は立ち上がり、私もスマホを仕舞った。先生が歩くのと同時に私も横を一緒に歩いた。古聖堂は普段私が行かないようなタイプの建物であるので観光気分で見ていた。観光なんてしたことないし、言葉しか知らないが先生が「観光気分だね」と言っていたので、観光とはこういうものなのだろう。一通りホールを見学してから入ってきた時とは逆の方面から出ようとしたのだがすぐに二人の生徒に止められた。トリニティの正義実現委員会とゲヘナの風紀委員だった。

 

「すみません、業者の方ですか? こちらは入れませんのでご遠慮を」

「見物人か? こっちは関係者以外立ち入り禁止だ」

「あ、あの、えっと僕たち一応関係者……」と先生が言いかけたが二人の目線はお互い同士に変わった。

「そこの風紀委員の方、さっきその線を超えませんでしたか?」

「は? あんたが線を超えてたから足で払っただけだけど?」

 

 二人の間の雰囲気は見る見るうちに険悪なものとなっていた。さっきニュースで見た目をしている。先生は慌てて仲裁をしようとした。私も先生に倣って仲裁の言葉を打ち込んでみたが、まあわざわざモニターを読んでくれることはしない。ACがあればこう、やめなさい! とかできたのだが生憎外に置いて来てしまった。そして火に油をかけるようにどこからともなく別の風紀委員がやって来た。

 

「あ? トリニティの奴喧嘩吹っ掛けてんのか? こうなりゃ話は早い」

「なっ、増援!? ならこっちだって……支援を、増援を要請します」

 

 両者ともに銃を取り出した。まさかここでおっぱじめるつもりか。先生はまだ止めようとしているが、ここは危ない。先生の裾を掴み、引っ張って避難を促した。すると、足音が聞こえてきた。ゆっくりと不規則な不思議な足音に私はすぐに振り向いた。そこにはおぞましい羽とヘイローを持った、やけに前傾姿勢で正義実現委員会の制服を着た生徒がいた。彼女は支援を呼んだ生徒の横に立つと、私たちとゲヘナの生徒を見比べた。

 

「急に委員長!?」

「増援がツルギ先輩?」

「キヒヒヒ」

 

 ツルギと呼ばれた彼女は鳴き声のようなものを発している。その独特な雰囲気と周りの反応から彼女が特異な存在であるのが分かった。彼女はしばらく私たちを見比べていたが突然「ひゃっはああああああ!」と雄たけびを上げ、私も含めてその場の全員が肩を跳ね上げさせた。その時もう一人、生徒がやって来た。彼女は服装からして恐らくシスターフッドだろう。

 

「み、皆さん喧嘩はダメですよ!」

 

 彼女がそういうとツルギも落ち着きを見せ悪魔の笑顔は虚無の顔になった。

 

「皆さん仲よくするために集まったんですから。ね、ツルギさんも」

「ここにいらっしゃるのはシャーレの先生とレイヴンさんだ。覚えておけ」

 

 ツルギの言葉にゲヘナもトリニティの生徒もいい返事をした。そしてそれぞれの持ち場へと戻っていく。両者とも顔と足が引きつっていた。

 

「ごめんねツルギ。それとありがとう」

 

 先生がそう言うとツルギの恐ろしい顔はみるみる少女のそれになり、やがて顔を紅潮させた。

 

「い、いえそんなとんでもありません、先生……それでは私は別の任務がありますので」

 

 声まで高くなりもはや別人のようになったツルギは羽をパタパタさせながら行ってしまった。

 

『知り合い?』

「前にちょっとだけね。やっぱりツルギは優しいね」

 

 果たしてそうだろうか? シスターフッドの彼女が居なかったらそのまま加勢していたような気がするが。それに彼女も先生の言葉を聞いて驚いているぞ。

 

「あ、君は確かシスターフッドのヒナタ、だよね。助けてありがとう」

「いえ、こちらこそ。あの時以来ですね」

「シフターフッドに来てもらって助かったよ」

「いえ、私はあの時あまりお役に立てず……私力があるだけで全然……」

「今日はほかのシスターもいるの?」

「はい、サクラコ様の指示で……シスターフッドは今まで対外的な活動に無干渉を貫いてきましたが前回の事件はそれが原因で招いたことではないか、と考えまして。それで今後はもっと積極的に活動していくように方針が変わったんです。今日は私たちも調印式の手伝いを、警備や案内をしているのですが……良ければお二方に古聖堂を案内いたしましょうか?」

「うん、是非お願いするよ。レイヴンもそれでいい?」

『うん。いいよ』

「レイヴンさん……あなたがあのロボットに乗っていた方ですね。そのようなお姿で……あなたに平和と安寧がありますように」

 

 私はなぜかヒナタに祈られ、反応に困っているうちに案内を始められた。ヒナタが一緒にいると流石に正義実現委員会も風紀委員会もすんなり通してくれた。

 

 

 古聖堂の奥は、外で見た印象と変わらなかった。トリニティで見えた聖堂よりもより古く見える。実際古いのだが材質のせいだろうか、それとも色味のせいだろうか、もしくは壁や床に生えている苔のせいだろうか。

 

 ヒナタ曰くここは今回の調印式に伴い廃墟として放置されていたものを急遽改修したそうだ。一部分のみが改修されており、特に地下にあるカタコンベは未だに手を付けていないらしい。

 

『カタコンベって?』

「地下のお墓のことだよ」

「カタコンベは数十キロに及ぶそうです。第一回公会議の記述でも終わりが見えないとありました。あ、ここは塞がれていますね。まだ修理中でしょうか」

 

 私も一緒に覗くと『KEEP OUT』と書かれた柵の向こうにはボロボロの外壁と散らばる瓦礫が見えた。なるほど確かに廃墟だ。

 

「いろいろな歴史があるんだね」と先生は立ち入り禁止区域を覗きながら言った。

「はい。なにせ第一回公会議が開かれた場所ですから。なんだか戒律の守護者の名残のような、神聖な何かがまだ残っているような感じがします」

 

 先生が「守護者?」と聞き返すとヒナタはそれについて説明してくれた。難しい話だったが曰く第一回公会議にて定められた戒律、約束を守るため、約束を破ったものに対処するユスティナ聖徒会を守護者と言うらしい。シスターフッドの前身で、今の正義実現委員会みたいな立ち位置だそうだ。

 

 その時ヒナタのスマホが鳴った。彼女がスマホを覗くとどうやらサクラコが到着したらしい。ナギサも直に到着するそうだ。

 

「中途半端になってしまいましたが、そろそろ行きましょうか」

「うん」

 

 

『メインシステム。戦闘モードを起動』

 

 ACに乗り込み、先生の隣に立った。さて、一応護衛目的なので戦闘モードを起動しておいた。何も起こらないといいが。古聖堂に着いた時やニュースで見た時と相変わらず両陣営の間には大きすぎる憎しみが見えた。少なくとも今から平和条約を結ぼうとしている雰囲気ではない。見ているこっちがハラハラしてくる。

 

 それぞれの代表が壇上に上がり互いに握手しようとした時、最も恐れていた音が鳴った。警告音。機体に害を成す大型兵器が飛んでくる音だ。同時にスクリーン出てきた簡易的に方向を表すマークの方を見ると、そこには見えにくいが確かにこちらに向かって飛んでくるものが見えた。あれは恐らく……ミサイルだ。

 

 私はすぐに飛び出た。式の真っ最中に突然飛び出した私に対して先生は「レイヴン!?」と私の名を呼んだ。私は『ミサイル! 逃げて!』とだけ言ってミサイルの迎撃に向かった。まさか本当にこんなことが起こるなんて思っていなかった。戦闘モードを起動しておいて良かった。幸い今日はショットガンを持って来てある。問題はミサイルにロックオンできないという事。当てられるだろうか。そう思いながら照準を定めて撃った。拡散した弾は見事にミサイルをすり抜けた。まずい再装填してもう一度撃つ暇はない。避けるわけにもいかない。地上を見て見ればすでにパニックになっているのが見える。しょうがない受けるしかない。

 

 胸の前で腕を交差し、最低限コックピットは守れる体勢を取った。飛んでくるミサイルを待ち構える。そして着弾する寸前に気づいた。そのミサイルは思っていたより大きかった。それはまるで以前護衛したRaDの打ち上げ花火ほどの大きさだった。耐えられないと思った。世界はスローになり、ミサイルが私の腕に近づいていくさまが見えた。そして着弾した瞬間世界は等速に戻り、機体内は暗くなり同時に明かりが入り込んだ。強い衝撃と頭への痛み、そして視界のほとんどがぼやけて、半分が赤く染まった。

 

『AP残り&#%!'#~=>?!\』

 

 何を言っているのか分からないCOMにスタッガー状態を表す警告音、他にも聞いたことのない警告音が入り混じって聞こえる。私は落ちながらコックピットに空いた穴からもう一発のミサイルを見つけた。しかし何もできない。体が動かない。ただミサイルだと認識することしかできない。古聖堂に墜落し、再び強い衝撃が私を襲う。

 

「レイヴン! 大丈夫!? レイヴン!?」

 

 先生の声がかなりぼやけて聞こえる。どこから聞こえているのか分からない。もう一本のミサイルのことを伝えたかったが私の脳は思考を拒否した。そして僅かに残っていた意識はミサイルの着弾によって崩れてきた瓦礫が私の機体に落ちてきたところで完全に失った。




三章に入ったばかりだというのになぜかもう大事件。

本来ミサイルは一発だけですしRaDの打ち上げ花火ほど大きくないはずですけどレイヴンを一度脱落させるためにはこうするしかなかったんです……アリウススクワッドにはレイヴンの情報も入っていたはずですし、ACを排除するにはこうするしかなかったんですよきっと。
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