シャーレ所属傭兵レイヴン   作:猫又提督

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誤字報告ありがとうございました。

夢って不思議ですよね。初めて見る世界のはずなのに、自分はそこで何をすべきなのか初めから分かってるんですから。


第23話

 私はパイプ椅子に座っていた。前の机にはプロジェクターが置かれている。真っ暗で窓もない部屋、プロジェクターが映し出す映像だけが唯一の光源だった。ホワイトボードに映し出される映像には見覚えがあった。輸送ヘリの中だ。

 

「621。仕事の時間だ」

 

 ご主人の声が聞こえた。ベイラムからの依頼。ルビコン解放戦線の砲台を破壊しろ。昔やったことのある仕事だ。でもスクリーンに映し出されたのは知らない場所。でもなんだか知っているような雰囲気を醸し出したやっぱり知らない場所。

 

「身分の――」

 

 ご主人が何か言いかけていたのに私はその場から落とされた。降り立ったのはさっき見た映像とは違う場所だった。とても綺麗な街でどこにも壊れた建物がなかった。機体の腰の高さに高速道路が走っていた。でも道路には車が一台も走ってないし街には誰もいなかった。

 

 私はショッピングモールの屋上を目指した。警告音が鳴ったので避けるとすぐ横を砲弾が掠めていった。屋上には砲台が二基設置されていた。照準レーザーが二本私の機体に当たっている。定期的に飛んでくる砲弾を避けながら砲台の後ろをとった。二基の砲台は私のライフルとパルスブレードによって見事破壊された。屋上を歩き、縁までやって来て遥か下にある下界の様子を見ていた。ミレニアムにある廃墟がずっと向こうまで続いていた。遠くでACが一機、瓦礫から這い出て来た。私はしばらくそのACと見つめ合った。

 

 マーカーが新たに表示される。五キロ先にあるマーカーが指す場所には小さくジャガーノートの姿が見えた。私はその場所に向かうべくコントローラーの左スティックを押し込んだ。画面の中にあるACはアサルトブーストで飛んでいった。

 

「遠いね」と横からモモイが言った。

『うん。でもすぐ着くよ』と私は言った。

 

 私が言った通りすぐについた。マーカーに近づくと画面上部にバーが出てきてバルテウスと戦闘になった。その場所はいやに狭くて、ブースターの出力も無ければエネルギーも全然回復しない。そのせいで大量に迫り来るミサイルを避けることができずAPはすぐに無くなった。画面には『GAME OVER』の文字が浮かび上がりその後ろでACが爆発した。

 

「見掛け倒しだよ」とモモイは言った。

『ご主人は?』

「ご主人? 誰それ」

『ウォルター』

「ゲームだよ、それ」

『そっか』

「信じられない!」

 

 私でもモモイでもない声がした。振り返るとミドリが怒りながら部室に入ってきた。

 

『どうしたの?』

「イグアスがね、私のこと裏切ったの!」

「それはイグアスが悪いね」

『でも私だって裏切ったことあるし』

「レイヴンは大丈夫だよ」

「レイヴンは私達を裏切ったことないもん」

 

 二人に擁護されて私はそれ以上何も言えなかった。

 

「お姉ちゃん、レイヴン、行こう」

 

 ミドリの誘いを受けて私とモモイは立ち上がり三人で部屋を出た。トリニティの別館のような廊下には窓からから陽の光が差し込んでいて明るかった。外は真っ白だった。コハルが黒い本を掲げていた。

 

『何してるの?』

「誇張」

『ふーん。面白い?』

「うん。レイヴンもする?」

 

 コハルは懐からもう一冊取り出し渡してきた。私は本を受け取って表紙を見た。黒いハードカバーに金色の文字で『裏切りカラスと猟犬2』と書かれていた。1はコハルが持っていた。私はコハルの真似をして本を掲げて歩いてみた。廊下には誰もいなかった。

 

「あ、レイヴン」

 

 コハルが後ろを向いて言った。私も同じように振り向くと確かにコハルの言う通りレイヴンがいた。本物のレイブンだ。パイルバンカーを構えている。今にも撃ち込まれそうだったので咄嗟に後ろへ飛びのいた。クイックブーストを使った時特有の一瞬の強烈なGを感じた。突出した矛先が眼前にそびえたち、圧縮されていた空気がパイルバンカーから噴出された。私と“レイヴン”は互いに距離を取った。“レイヴン”はそのまま中距離を保とうとする。一方で私は一度距離を取るとすぐに両肩の十連ミサイルとライフルを撃ちながら距離を詰めた。“レイヴン”も撃ち返す。だが気を付けるべきはパイルバンカーと右肩のショットガンで後は無視していい。すれ違いざまに左腕のショットガンを撃つと“レイヴン”のスタッガーゲージが一気に溜まったのが分かった。あと一、二回繰り返せばスタッガー状態にさせれそうだ。

 

 距離が離れてしまったのでもう一度同じようにして距離を詰めた。今度はミサイルも多数当たってショットガンさえ撃てばスタッガー状態にさせられるだろう。しかし撃つ直前に警告音が鳴った。私は撃つ方を優先した。結果“レイヴン”はスタッガー状態になったが私もまた“レイヴン”のショットガンを受けてスタッガー状態になってしまった。数秒間互いに何もできなくなった。動けるようになるとすぐに私は後ろに飛びのいた。パイルバンカーを打ち込まれると思ったからだ。予想通り“レイヴン”はその場でパイルバンカーを打ち込んだ。

 

 パッとしない撃ち合いが続き、再度チャンスが訪れた。ショットガンやライフルを使うまでもなく蹴りさえすればスタッガー状態になりそうなほどにゲージは溜まっていた。アサルトブーストを使って急激に距離を詰めた。警告音が鳴る。今度はちゃんと避けてから蹴った。スタッガー状態になった“レイヴン”に私はミサイル、ライフル、ショットガン、全ての武装を使って攻撃した。トドメにアサルトアーマーを放ち“レイヴン”は敗れた。

 

「素晴らしいです、ご友人」と知らない男性が横から言った。

『すごいでしょ』と私が得意げに言うと男性は「ええ、素敵でしたよ」と言って立ち去ってしまった。

 

 駅に電車が入ったので仕方なく私はコントローラーを戻し、電車に乗った。やがてドアが閉まり、電車が動き出す。車内にはちらほらと乗客がいたがいずれも知らない人だった。電光掲示板には『オールマインドからコーラルリリースについてお知らせ』という文字が延々と流れていた。車内からは広大な海のような湖の上で多くのACが上を見上げている後姿が見えた。湖の中から立ち上がっているところも見えた。一機だけ私の方をじっと見つめていた。

 

「初めまして、レイヴン」

 

 振り返ると少女が一人、座っていた。金髪で小柄な、キツネみたいな耳を持った少女だ。ヘイローが浮かんでいる。キヴォトスの生徒だ。それにここはどうやらティーパーティがいつもいる場所の様だ。

 

『初めまして、あなたは?』

「私は百合園セイア。君のことはよく話を聞いているよ」

『あなたがセイア?』

「私のこと知っていたのかい?」

『名前だけは』

「そうか。なら私が今どういう状況にあるのかも知っているんだね」

『うん。ここは?』

「君と私の夢が混ざった場所さ」

『夢……あれが夢』

「そうだね。君が見ていた夢はいかにも夢らしいものだ。とはいえ私が君の夢に入るのには苦労した。なぜだか君の周りには多数の存在がいてなかなか入ることができなかったんだ。君自身こうして弱らないと夢なんか見ないだろうから」

『弱る……ああ、そっか』

 

 私は思い出した。確か古聖堂にミサイルが飛んできて、私はそれを庇って墜落したのだ。

 

『先生は大丈夫なの?』

「ああ、撃たれはしたが、もう動けるほどに回復しているようだ」

『撃たれた? 撃たれたの、先生?』

「そうだけど?」

『死んでない、よね?』

「だからもう回復していると言っただろう」

『そっか。死んでない。生きてる……良かった、生きてる』

「君は観察する限り他人や事象にそれほど興味を持たない人物だと思ったが……君にとって先生とはそれほど大事な人なのかい?」

『先生は私の雇い主で飼い主だから。猟犬がご主人を守るのは当たり前でしょ?』

「君は不思議な人だな」

 

 私周りを見渡した。トリニティであることに違いはなかったが私達以外に誰もいなかった。

 

「どうかしたのかい。そんなに周りをキョロキョロして」

『そろそろ起きたいんだけど。いつまでも寝ているわけにはいかないから』

「その時が来たら自然と目覚めるさ。まだ起きれないならきっと君の体はまだ回復しきれていないんだ。せっかくだから少しみんなの様子を見て見ないかい?」

 

 そう言ってセイアは立ち上がった。バルコニーの柵に手をかけ私にもバルコニーから外を見るように促された。セイアの言う通り私もバルコニーから見下ろした。庭の真ん中がまるでジオラマのように、風景を一部分だけ切り取ったようになっていた。そこには雨が降っている中、一人壁にもたれかかって膝を抱え込んで顔を突っ伏しているアズサの姿があった。そしてその横にはまた別の、知らない人たちが現れた。

 

「彼女はあの時私に使わなかった爆弾をサオリに使ったようだね。しかしサオリは重症を負ったもののまだヘイローは壊れていない。だが彼女を庇ったアツコはどうだろうか」

『あの二人は誰?』

「長身のがサオリ。仮面を被っているのがアツコだ。アズサはサオリから私のヘイローを壊すように命令を受けていた。その際に渡されたヘイローを破壊する爆弾を私にではなくサオリに使ったんだ」

『でも二人とも生きているみたい』

「そうだね。どうやらアツコ、彼女のヘイローは誰かに守られているようだ、しかしこれでユスティナ聖徒会との繋がりが少し薄れた。人殺しにはならずに済んだみたいだ。これでアズサの絶望が少しは和らげばいいのだが」

『アズサは人殺しを恐れていたの?』

「そうだ。実際私に使うはずの爆弾を使わず、私を気絶させるにとどめた。もしかしたらサオリに対してもアツコが庇うことを知って、そしてアツコのヘイローが何者かに守られていることを知っていたから爆弾を使ったのかもしれない」

『アズサは仕事を放棄したんだね』

「君にとってはあまり褒められないことかな」

『うん。放棄するにしても自分に対して何かしらのメリットが無いと。アズサにとってそのメリットはなんだったんだろう』

「ヒフミたちと出会えたことじゃないかな。彼女の存在はアズサの人生に豊かな彩りを与えただろう。それにアズサが仕事を放棄したからこそ君と出会えたんじゃないか」

『結果論だ。物質的なメリットが無い。今のアズサの様子を見る限り、仕事を放棄するべきではなかったと思う』

「手厳しいね。アズサがサオリを裏切らなければもっと酷い結末が訪れていただろうに」

『セイアはアズサをよく庇うね。そんなに美談が好きなの?』

 

 セイアは押し黙ってしまった。そして口を開こうとしてまたすぐに閉ざしてしまう。私が言ったことにどう答えればいいのか分からないみたいだ。

 

『なんか変なこと言っちゃったみたい。ごめん』

「いや先生と話したせいだろう。私も少し未来を信じてみようと思ったんだ」

 

 庭に現れた二つのジオラマはいつの間にか別のジオラマに置き換わっていく。皆難しい顔をしている。先生は単身でトリニティとゲヘナを行き来し生徒の様子を確認しているようだ。

 

『先生は面倒見がいいよね』

「そうだね。あそこまでのお人好しはそうそういないよ」

『でも先生ってどこか抜けているんだ。たまに変なことを言う』

「分かるよ。ついさっき私も変なことを言われたからね」

『先生はどこに向かうんだろう』

「古聖堂だろう。アズサがそこへ向かっている」

 

 セイアはジオラマを指さした。古聖堂に立つサオリたちの周りには変な人物が多数いる。

 

『あれは何?』

「ユスティナ聖徒会だ。その昔、第一回公会議にいた戒律の守護者だよ」

『あれが守護者。あれが私たちの敵なの?』

「残念ながら今はそうなっているね。無限に湧きだす彼女たちに私たちは為す術もなく敗れた。そこから混乱が広がりトリニティはバラバラになろうとしていた。しかし今、先生のおかげでトリニティは再び統率を取り戻そうとしている。そして彼はエデン条約機構に立ち向かおうとしているんだ」

『私も行きたい』

「君は未だに目が覚めないし、なにより君が乗っていたロボットはもう使い物にならないじゃないか。悪いことは言わない。事が収まるまでここにいた方が安全だ」

 

 残念だがセイアの言う通りだ。たとえあの機体がまだ使えたとしても古聖堂に放置されているなら私が乗ることはできないだろう。

 

「なら私を使えばいい」

 

 その声は後ろから聞こえた。柱の陰から出てきたのは私だった。私と同じ姿かたちをしている。セイアの顔は驚きに満ちていた。

 

「き、君は誰だ。ここには私とレイヴンしかいないはずだ。夢の造形物じゃないな。確かに存在している。レイヴンと同じ姿をしているだなんて君は一体何者だ」

「私はレイヴンだよ。百合園セイア、このレイヴンは私が連れていく」

 

 彼女は私の肩に両手を置いた。

 

「待て。一体どうするつもりだ」

「私たちの体は常に闘争を求めている。闘争を目の前にしてそれを阻止されるのはとても悲しいことだから」

 

 彼女は私と共にバルコニーの柵へと一歩ずつ近づいていく。

 

「待てっ!」

 

 セイアが叫ぶと同時に私と彼女は柵を乗り越えた。バルコニーから落ちながら彼女は私にささやいた。「もうすぐ迎えに行くから」

 

 私はその言葉の意味を聞く前に地面に激突すると同時に視界が真っ暗になった。

 

 

 私は飛び起きるように目を覚ました。その様子に驚いたのかその場にいた生徒が私の方を見ていた。

 

「め、目が覚めたんですね? 気分は大丈夫ですか?」

 

 私は荒い息を整え頷いた。すると部屋を影が通り過ぎた。直後、轟音と共に何かが過ぎ去った。赤い炎が見えた気がした。

 

「きゃ!? な、何ですか!? ロボット?」

 

 彼女は通り過ぎたのが何だったかのかが見えたようだ。ロボットと言う言葉に私はさっきまで見ていた夢を思い出した。周りを見ると画面の割れたスマホが見えた。私はスマホを手に取り、文字を打って彼女に見せた。

 

『さっきのロボットが行った場所に連れて行ってほしい』

「だ、だめですよ。まだ起きたばっかりなんですから!」

『お願い』

 

 無理を言って何とか連れ出してもらった。騒ぎになっていたのでそのロボットが何処に降りたのかはすぐにわかった。私が起きた保健室のある校舎の前にあった広場にそのロボットは降りていた。

 

 そのACはとても懐かしい機体構成をしていた。武装は違うが、久しぶりにルビコンへ降り立った時を思い出した。そういえば夢の中で私のことを見つめていたのもこの機体だった気がする。群衆をかき分け機体の前に着くと、その機体は胸部を開けコックピットを晒しながら片膝をつき、片腕のハンドガンを置いて開いた手を差し出した。私はすぐに車椅子から降りてその手の上まで這った。

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

 私を連れて来てくれた彼女が困惑の声を上げるが私はすでに持ち上げられコックピットへ入ろうとしていた。

 

『メインシステム起動』

 

 COMの声がした。メインカメラが起動し、動揺している群衆の姿が見えた。私はすぐに飛び上がった。

 

 

 ああ、これは幻覚だろうか。セイアが言ってたとおりまだ体が治っていないのかもしれない。特に頭が。だってここはキヴォトスだ。ルビコンじゃない。だっておかしいじゃないか。こんなにも真っ赤な火を噴きだすなんて。この機体に搭載されているジェネレーターは技研のものだ。

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