シャーレ所属傭兵レイヴン   作:猫又提督

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今回でエデン条約三章はおしまいです。三章は今までで一番話数が少なくなってしまいましたが、お話の濃さはトップクラスだったと思います。

今回ちょっと短めです。


第25話

 その機体は僅かに穴の開いた胸部だけが見えていた。私は多分ここから引っ張り出されたのだろう。ヒフミたちは何か話し合っているようだが、この機体にはマイクが付いてないので何も聞こえない。そうしてヒフミが私に何か話しかけているんだがもちろん何も聞こえなかった。私はスマホを取り出してモモトークでヒフミにそのことを伝えた。

 

『この機体マイクついてないからよっぽど近づかないと声が聞こえないんだ』

『そうだったんですね。じゃあこうやってモモトークでお話しますね。私たちも一緒に手伝いますよ』

『ヒフミたちじゃこの瓦礫は退かせないでしょ。私が一人でやるよ』

『そういう訳にはいきません。レイヴンさんがずっと大切にしていた機体ですし、私たちも何度も助けてもらいましたから、私たちにも手伝わせてください』

『そこまで言うなら私も止めはしないけど』

『では私たちは足の方を手伝いますね』

 

 その後、ヒフミは私の方を見てほほ笑んだ。それから後ろのハナコたちに何か指示をして足の方の瓦礫を退かし始めた。私も頭の方へ向かった。胸部の辺りから大体頭はこの辺だろうと予想した場所には大きな瓦礫が積みあがっていた。人間では到底動かせない大きさだ。ACでも軽々と動かすことは出来なさそうだ。一番上の瓦礫に手をかけた。力を入れると思ったより動かない。もう少し出力を上げると砂埃と欠片を落としながら瓦礫が動き始めた。捲るように瓦礫を退かすとその下には瓦礫がまだ重なっていた。

 

 何枚か退かすとやっと頭が見えた。僅かに空いた穴に腕を突っ込み少々強引に引っ剥がした。力に耐えきれず瓦礫が割れた。おかげで一個あたりの瓦礫が軽くなって楽々と退かせた。機体の装甲にヒビが入っている。メインカメラは完全に割れている。センサーも駄目だろうな。胸部に至るまでを退かすとコアと頭部が繋がった。

 

 肩に納めていた車椅子なんかも全部ガラクタと化していた。新しく先生を運ぶアタッチメントをつけてもらったばっかりだったのに。

 

 次に腕部を掘り出しにかかった。しかし掘り出してすぐに右腕が完全に破損していることに気づいた。ミサイルに直撃したのだから無理もないか。左腕も駄目かもしれない。そう思いながら右腕を掘り起こすと、一応繋がっていたが素人目にも使い物にならないのが分かった。

 

 ヒフミたちの方を見るとまだ足先が少し見えてる程度だった。ヒフミは私を見て申し訳無さそうに笑ってからメッセージを送ってきた。

 

『すみません。手伝うって言っておきながら全然進んでなくて』

『気にしないで。気持ちだけでも嬉しいよ。こっちは終わったからそっちやるよ』

 

 私は腰の部分から退かし始めた。作業は順調に進み、すぐに全ての瓦礫を退かすことができた。改めて見るともうガラクタ同然の有り様だ。やっぱりこれはもう動かないだろうな。あのミサイルが着弾したのだ。原型が残っているだけでも奇跡だろう。

 

 頭の方へ回り肩を持って上半身を起こすと、適当な瓦礫の山に座らせた。機体は力無くうなだれ、腕がないのでバランスを失って倒れてしまった。もう一度座らせても倒れてしまう。何度やっても倒れてしまうのでそのうち諦めた。

 

 倒れる機体の前でコクピットを開けた。視点はメインカメラから見ていたときより少しだけ低くなった。

 

「すみません。私のわがままに付き合ってもらって」

『いいよ。ヒフミの言うこともわかるし、ハナコの言う通りでもあるから』

「随分とボロボロね」

『ミサイルが直撃したからね』

「ミサイルって今朝飛んだミサイルですか? あれが直撃って……よく無事でしたね」

『よく原型が残ったと思うよ』

 

 突然スマホの着信音のような音が鳴った。互いに顔を見合わせたがすぐにコハルがポケットからスマホを取り出してその場から離れた。

 

 コハルは二、三分ほどで戻って来た。彼女は少し困ったような顔で、また口調で話した。

 

「あ、あのね。さっき別の正義実現委員会から応援をお願いされたの」

「あらあら、それじゃ早く向かわないといけませんね」

「うん。それで、実は同時に二箇所頼まれちゃって」

「つまり手伝って欲しいと言うことですか?」

「う、うん。そう言うことなの」

「分かりました。じゃあ一箇所は私たちが行くとしてもう一箇所は」

「私たちが行くよー」

 

 ヒフミが何かを言う前にホシノが名乗り出た。後ろにいるノノミたちも異論はないようだ。だが私がホシノの提案に待ったをかけた。

 

『もう一箇所は私が行く。ホシノたちはヒフミについて行って欲しい』

「大丈夫なの……と言いたいけどさっきの戦いを見た感じ君だけで十分そうだね。分かったおじさんたちはヒフミちゃんについていくよ。それじゃ行こうか、ヒフミちゃん」

「あ、はい。それじゃあレイヴンさんもお気をつけて」

 

 ヒフミたちを見送った後、私は一人去り際に教えてもらった場所に向かった。地図と照らし合わせてみるとどうやら交差点のようだ。

 

 

 その場所では正義実現委員会とユスティナ聖徒会の戦闘が熾烈を極めていた。少しの間眺めていたがその中に見知った顔があった。あれはハスミだ。最前線で指揮を執っているようだ。武装の残量を確認した。両腕のハンドガンは三桁を切りそうだ。ドローンはまだ余裕がある。

 

 私はビルの屋上から飛び降りた。位置を調節してユスティナ聖徒会と正義実現委員会の間に降りた。ドローンを三つ展開して斉射した。マガジンを交換しながらブレードで薙ぎ払った。残りはドローンが殲滅するのを待った。その間に後ろを振り返ったが、全員私を見て呆けている。私だと気づかないのか? 機体が違うとはいえACに乗っているのは私だけだから気づくと思うのだが。それどころかだんだん銃を構えだした。別に撃たれても何の損害も無いが気づいてもらえないのは少し寂しい。だがまあいいやと思い、その場を離れようとした。すでに敵は殲滅できていた。

 

 古聖堂に戻ろうとするとヒフミから連絡があった。どうやらまたほかに増援が必要みたいだ。渡されたマップには複数の場所にピンが刺してあった。これ全部かと聞くとそうだと言われた。これでも何割かはヒフミたちが対処しているらしい。まあ、別に大変とかそういうのは無いので全然かまわない。

 

 

 ピンを刺されたところ全てを回った。言うまでもなくただドローンを出して待っているだけに終わってしまった。多少は楽しめると思ったが古聖堂での戦闘が一番やりがいがあったな。あれはあれで虚しいものだったが。ただ不思議なことが起きた。最後の場所に降りた時、何もしていないのに敵が全て消えてしまったのだ。なぜ消えてしまったのか分からなかったがヒフミ達の所でも同様の現象が起きたらしい。原因として考えられるのは地下に行った先生とアズサが何かをしたという事だが、その何かは分からなかった。

 

 古聖堂に戻ろうとすると、マーカーが設置された。私は何も弄ってないのだが、もしかしてこの機体か? あのマーカーに一体何があるのか知らないがあなたがわざわざ知らせてくれるのなら行ってみようか。

 

 

 古聖堂とは真反対の場所だ。辺境で道路しかない。マーカーがあった場所にはトンネルが続いていた。一体こんな場所に呼んで何があるというのだろうか。辺りを見回しても特段何かあるようには見えない。しばらく待っていると道路の脇から誰かが出てきた。サオリたちだった。私は咄嗟にハンドガンを構えた。しかし彼女たちは腕を振り何かを必死に訴えている。戦う意思はないのだろうか。中にいたままでは何も聞こえないので仕方なくコックピットを開けた。

 

「お前がレイヴンか。話は聞いている」

 

 サオリは私に近づこうとして倒れかけた。咄嗟に近くにいた仲間が彼女の肩を持った。

 

「お前のせいで計画が諸々台無しになった」

 

 私は返事をしようとするとサオリが鼻で笑ったのが聞こえた。

 

「私とは話をする気が無いか。どうしてここから脱出したことがバレたのかは知らないが、先生たちに連絡する気か?」

 

 私は打ち込んでいた返事を消して、別の文を打ち込んだ。

 

『私は喋れないからスマホで会話するしかないの』

「喋れない? 誰かに口止めでもされてるのか」

『違う。声が出ないの』

「そうだったのか。勘違いして済まなかった」

 

 私はさっき書こうとした文をもう一度スマホに打ってサオリに見せた。

 

『私は一度ミサイルで気絶したし、ACも破壊された。私が戻ってくるまでの間に十分そっちの作戦が成功する可能性はあったと思うけど?』

「確かにそれもそうかもしれない。お前が居ようと居るまいとこの結果は変わらなかったのかもしれないな。私たちはもう行く。このことは先生に知らせるでも好きにすればいい」

『最後に聞くけど、先生を撃ったのはお前?』

「もしそうだと言ったら?」

『殺す、と言いたいけど先生は生きてたし今回は許す』

「恩に着る」

 

 そうしてサオリたちはトンネルの中に消えて言った。最後に残った少女が私へ振り向いた。仮面が無かったが服装からアツコであると分かった。

 

「アズサによろしく言っておいてくれる? あとどうかお幸せにって」

『分かった』

 

 アツコがトンネルの暗闇に消えるのを確認してから私も戻ることにした。スマホを見るとモモトークにヒフミから私の場所を尋ねるメッセージがいくつか来ていた。

 

『ごめん寄り道してた。すぐに戻る』と返してから、私はすぐに飛んだ。

 

 途中どうしてあの場所を指定したのか聞いてみたが、もちろん機体は何も答えてくれなかった。

 

 

 古聖堂に戻ると正義実現委員会やら風紀委員やら様々な人が集まっていた。そして一番古聖堂に近いところにはヒフミやホシノたち、そしてアズサに肩を貸された先生の姿があった。ヒフミは私に気づくとこちらに手を振って来たので、私も彼女の近くに降りた。

 

『先生大丈夫?』

「レイヴンだったのか。レイヴンこそ大丈夫? 落ちてきた時は本当にびっくりしたんだから」

『先生が撃たれたと聞いたときのほうがよっぽどびっくりしたよ』

「う、それは心配かけたね。それでその機体はどうしたの? 新しいやつ?」

『これはどっかから飛んできたやつ』

「え、それは……大丈夫なの?」

『同じACだから大丈夫だよ。それにこの機体ちょっと懐かしい感じがするからちょっと気にいってる』

「レイヴンがいいならそれでいいんだけど」

『そういえば全部解決したの? 敵が急に消えたから』

 

 そう聞くと先生とアズサは微笑んだ。そして先生は自信満々で言った。

 

「うん。解決したよ」

 

 

 

 エデン条約の締結は延期になった。両者の代表が重傷を負ったうえに会場である古聖堂も破壊されてしまった。故に締結のしようが無くなってしまったからである。

 

 シャーレはようやく平常運転を再開した。先生の体調を考慮してしばらく仕事量を減らしていたがそれも今日から通常に戻る。先生は悲鳴を上げていたし「もう一度怪我をすれば仕事が減るかも……」と血迷ったことを言っていた。流石に誰かから怒られていた。なんだか先生が持っていたタブレットから声がしたのだがだれかと通話でもしていたのだろうか。

 

 私はミレニアムのエンジニア部の所へ足しげく通った。機体が新しくなったのでまたいろいろと付け直してほしいし、せっかくいろいろもらったのに全て壊してしまったから謝った。

 

「気にしなくていいさ。形あるものはいずれ全て壊れるんだから」

「むしろ新しく作るチャンスが得られる」

「壊れたのなら新しく作ればいいだけですから!」

『ごめん、迷惑かける』

「そんなことよりニュースを見ていたがよく耐えたな。いくらACでもあれは流石に死んだと思ってひやひやしたぞ」

『あれは奇跡に近いね。こいつもよく頑張ったと思うよ』

「あ、あの! これ本当にもらっていいんですか!?」

 

 コトリが指さしたのは私が古聖堂から持ってきた機体の残骸だった。私が持っていたってしょうがないしシャーレに置いてくわけにもいかないしで、どうせならエンジニア部にあげることにした。

 

『ガラクタで申し訳ないけど、壊しちゃったお詫びにもらってくれると嬉しい』

「いやいや、こんな素晴らしいものをくれるだなんて。むしろこちらがお礼を言いたいぐらいだ。君からもらったこのAC、今後の研究に役立たせてもらうよ」

『うん、おねがい。そういえば前に預けたショットガンはどうなった?』

「ああ。解析は順調だよ。複製にはまだ時間がかかるだろうけどね。どうだ、新しい機体にいろいろつけている間に詳しい話でも聞くかい?」

『うん。今日は特に仕事も無いし、一日付き合うよ』

「それは良かった。ぜひレイヴンに試してほしいものがあるんだ——」

 

 珍しく私の中では平和な時間が流れていた。




ヒエロニムス戦にも参加させたかったんですけど、どうしてもACを地下に持っていく方法が思いつかなかったのでなくなく断念しました。
因みにレイヴンがウタハから預かっていた光化学下着はミサイルで紛失しました。

次回は第四章カルバノグの兎編に入ります。実はまだストーリー読んでないんですよね……なので私にストーリーを読む時間をください。もしかしたら投稿が遅れてしまうかもしれませんがそこはどうかご容赦を。
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