前回ちゃっかりレイヴンにアロナの声が聞こえてましたけど、調べたらアロナの声は先生にしか聞こえないらしいですね……まあ気にしなくても大丈夫……かな? 一応留意しておきます。
第26話
私は先生のいる部屋を掃除していた。理由は特にない。強いて言えば暇だった、と言うのが理由だ。つまりは暇つぶしなので適当に箒で掃いているだけだ。先生は朝からずっと書類作業に追われている。
不意に先生の眼の前にある固定電話が鳴った。先生はすぐに受話器を取った。
「もしもし……リンちゃん!」
電話の相手は私の知らない人の様だ。電話は一、二分程度で終わり、終始先生は相槌を打ってばかりだった。受話器を下した先生は苦笑していた。
「お疲れ様です、先生」
そんな先生を労う声が聞こえた。しかし周囲に先生と私以外の人はいない。声の主は先生の側に置いてあるタブレットの中にいた。彼女は名をアロナと言うらしい。自称つよつよAIなのだとか。私は話したことが無い。
「ちょっと空気感がアレでしたね」
「うーん、怒られるかもしれない。まあでもリンちゃんならいっか」
「そ、そういうものでしょうか? でもお茶を出してくれるそうですしもしかしたらおもてなしを受けるかもしれませんね! そうと決まれば早く行った方がいいですよ」
「うん。レイヴン、ちょっと留守番頼めるかな?」
『どこか行くなら私が送っていくけど』
「すぐ近くだから大丈夫だよ」
『分かった』
先生が部屋を出て行った後も私は一人で掃除をしていた。静かな部屋の中では車椅子の稼働音と箒で床を掃く音だけが聞こえていた。アロナも何も言わない。先生の前以外で彼女が声を発したことを見たことが無い。
何度も往復して掃いているうちに止め時を見失った私は適当なところで途中で掃くのを止めた。箒をロッカーに戻して塵取りの中身をゴミ箱に捨てるとそれもロッカーにしまった。
最近は平和すぎてシャーレに一日中いる日が多い。治安維持も何度か武力で制圧したらもう滅多にチンピラが騒がなくなってしまって必要がなくなった。ハンドガンを乱射しながらドローンで制圧したのはやりすぎだったろうか。暇になった私は理由もなく部屋を出た。
部屋に戻る途中でふとコンビニに行こうと思い立った。大体あそこに行けば何かしらあるし、何もなくても商品を眺めるだけで多少の暇つぶしにはなるはずだ。私はエレベーターに乗ると自分の部屋がある階のボタンを押さず、一階のボタンを押した。階を示す部分をじっと見つめて光っていく数字を追った。1が光ると同時にチャイムが鳴りドアが開いた。私はエレベーターから降りた。廊下を突き進みシャーレ内にあるコンビニ、エンジェルマートの入口をくぐった。
「い、いらっしゃいませ!」
入店音とともに聞きなれた声が聞こえた。ソラは多分ここの唯一の店員だ。彼女以外の人がレジに立っているのを見たことが無いし、そもそも彼女以外の従業員を見たことが無い。
「あ、レイヴンさん」
『お疲れ様』
「いえ、レイヴンさんこそお疲れ様です。いつもエンジェルマートをご利用いただき感謝してます」
『暇つぶしだけどね』
「だとしても私にとっては数少ないお客様ですから。ここ先生とレイヴンさん以外にお客さんが来なくって」
確かに店内には私以外の客の姿が無い。知らないアイドルグループの曲が店内のBGMとして流れていたが、その明るすぎる曲調は誰もいない店内ではミスマッチだろう。今はお昼時を過ぎてはいるが、まだまだ町に人はたくさんいるはずだ。なぜここのエンジェルマートに人が来ないのかと言えば多分ここがシャーレだからだろう。別にエンジェルマートはシャーレ以外の人が使ってもいいはずなのだがシャーレのイメージ的にだれも近づこうとしない。生徒たちはたまに併設されているカフェに遊びに来るので、その流れでここにも来るかもしれない。だとしたら今は平日の昼間であるので生徒たちがいるはずがない。となると、ソラは授業をどうしているのかと言う疑問が湧くが彼女曰く通信制の学校だとか何とか、とにかく大丈夫らしい。
「できれば何か買っていただくと嬉しいです。お客さんがレイヴンさんと先生しかいないので廃棄の数が多くって、処理が大変で大変で」
ソラが死んだ魚のような目でつらつらと言うので流石にいたたまれなくなって何か買うことにした。適当に店内をうろつき、目に入ったジュースとスナック菓子を手に取ってソラの所へ持っていった。先生からお小遣いをもらっているのでお金には余裕がある。なんだか金額がやけに多いので使い切ったことはない。
『少し立ち読みして行ってもいいかな』
「あ、はい。大丈夫ですよ」
『何か読みたいものある?』
「え?」
ソラは私が言ったことが良く分からないのか素っ頓狂な顔をした。
『ソラも暇だろうから一緒に読もう。何が読みたい?』
「レイヴンさん!」
ソラはさっきまでの死にかけのような顔から一点、満面の笑みを見せてくれた。どうせなら一緒に探そうと誘ってみると彼女はすぐに承知しカウンターから出てきた。そして私と一緒に雑誌コーナーを見て回った。
数々の雑誌とにらめっこした結果ソラが選んだのはファッション雑誌だった。私たちはその場で雑誌を広げた。私はファッションなどしたくてもできないので、はなから興味などないが、ソラは興味津々だった。他の私が知っている生徒たちよりも幼く見えるがやはり年頃の女の子なのだろう。ファッションに興味が無いと言ったが、ここキヴォトスでは生徒全員が銃を守有している関係上ファッション誌にも銃のカタログが乗っている。そちらには多少興味があるため私はそちらの方を見ていた。まあ私はACの銃火器はよく使っていたが人間用の銃は全く触ったことが無いので良く分からないのだが。それにファッション誌なので銃のカタログと言ってもほぼほぼ見た目が違うだけだった。
しばらくソラとファッション誌を眺めていると、突然メッセージが届いた。スマホを見て見ると先生からだった。
『ちょっと連邦生徒会のところまで来てくれないかな』
『何かあった?』
『うん。ちょっとね。ACで武装してきてくれないかな』
『急いだほうがいい?』
『うん。その方がいいかも』
『分かったすぐ行く』
何やら火急の様みたいだ。ソラに断りを入れて私はエンジェルマートを出た。
外に出るとまっすぐにACを置いてある場所へ向かった。そこにはリフトともう一つ、横長の六角柱が置いてあった。私はリフトの元に行き『全自動』と書かれたスイッチを押した。車椅子とリフトのモニターに『接続中』の文字が現れ、それはやがて『接続完了』と表示された。するとリフトから何本かアームが伸びてきて、車椅子を持ち上げた。リフトの上部、通路部分には溝のようなレールが敷かれている。アームはそのレールと車椅子の車輪を合わせた。そして車椅子はレールに沿って自動で進んでいく。開かれているコックピットの目の前までやってくると今度は車椅子からアームが伸びてきて私の体を掴んだ。そして私をコックピットへと乗せてくれた。運び終わるとアームは車椅子に収納され、リフトも収縮していき、やがて車椅子を巻き込んで一つの箱と化した。
『メインシステム、起動』
ACを起動した私は箱と化したリフトを掴んで左肩に接続した。先日ハンドガンも一丁エンジニア部に預けたのでパルスブレードを左腕に常備することになり左肩が開いたのだ。
次に私は六角柱をリフトの上につなげた。これらはエンジニア部からもらったものでリフトや車椅子は新機能が追加されている。おかげで一人で乗り降りできるようになった。そしてこの六角柱は人員輸送用のユニットで、アサルトブーストに耐え、同時に五人運ぶことができる。
全て積んだ私は先生がいるサンクトゥムタワーに向かった。距離は約三十キロ、これぐらいなら一分以内で送れたのに。連邦生徒会という事はサンクトゥムタワーのことか。そういえば初めて行くな。いつも見えてたあの高すぎるタワーだ。
サンクトゥムタワーの入り口に付近に着くと先生がこちらに手を上げた。
「流石。速かったね」
『これぐらいなら送ってあげたのに』
「他の学園ならまだしも電車で三十分ぐらいの所なら自分で行くよ」
『そう。で、用はなに? 武装してきてってわざわざ連絡するなんてよっぽどの事態だと思うけど』
「向かいながら説明しよう」
私が輸送ユニットを下ろそうとすると先生は近くだからと断った。だから仕方なく手に乗せて移動することにした。場所は子ウサギ公園、辺鄙な場所にある公園だった。
子ウサギ公園は辺鄙な場所にいる分にはやけに人が集まっていた。ただ公園に集まっている人はいずれも武装しており、怪我を負っているものが多い。おおよそ普段から公園を利用している人には見えなかった。私はその人たちの中でも一番見た目に特徴のある、何やら指示を出し続けている人の元へ下りた。突然下りてきたACの姿にその場にいた全員が騒然とした。それはもちろん彼女も例外ではなかった。
「な、なんだ!?」
「やあ、大変そうだね」
私は先生を降ろし、彼は私の手から降りながら彼女に声をかけた。声をかけられた彼女は怪訝そうな目で、あるいはそれはただ私が下りるときに発生した突風にただ目を細めているだけかもしれないが、とにかくそういう目で見てきた。
「誰だ、あんたたちは。見物は公園の外でやってくれ。それとこのロボットは」
彼女はそう言いながら私を見上げた。そして機体の胸部辺りにペイントされたシャーレのマークに気づいたのだろう。途端に背筋を伸ばし、不審者を見る目から上司を見る目へと変わり、敬礼までした。
「し、失礼しました。もしかしてシャーレの先生ですか?」
「うん。こっちは——」
「レイヴンさん、ですね。お話はかねがね聞いております。おかげでこのあたりの治安は随分と改善されました。あ、申し遅れました。私はヴァルキューレ警察学校の公安局長、カンナです。今回の作戦では現場指揮を任されています」
態度は変わっても目つきはあまり変わらなかった。元々そういう目だったのかもしれない。
「状況はどんな感じ?」
「見ての通り苦戦しています。相手はたった四人なのですがトラップやら最新鋭の武器を使っているせいなのか……流石はSRT特殊学園の生徒ですね。残っている戦力は——」
その時、私の足元を通って二人の生徒が現れた。
「お待たせしました。生活安全局、キリノ。ただいま到着しました」
「なんかでっかいロボット来てるんだけど、これ私たちいらなくない?」
「——この生活安全局のみです」
「奇遇ですね、先生。支援に来てくださったんですか?」
「こんなところまで出てくるだなんて大変だねえ」
「先生が来てくださったならもう作戦は成功したも同然ですね! 噂のロボットまでいますし!」
「ねー。だから私たちいらないよね」
「お前たちなあ。まずお前、早まるな。いくらレイヴンさんがいたとして相手はSRTの特殊部隊だぞ。警備局と公安局を撃退している以上対ロボット兵器を所有している可能性も低くはない。お前は帰るな。一応はやる気を見せろ」
私は全く知らないが、二人とも先生を知っているようだ。
「ここを占拠してる生徒について情報はある?」
「はい、SRT特殊学園所属の一年生チーム。RABBIT小隊です。学園の閉鎖に伴い四人ともヴァルキューレ警察学校に転校する手はずになっていたのですが、突然学園の閉鎖を撤回しろ、とデモを起こしてここの公園を占拠しています。顔に関しては……クロノスのドローンが迂闊にも中に入り込んだのでそちらを見るのがよろしいでしょう」
クロノス……という事はニュースで中継でもやっているのか。そう思いスマホを取り出してニュースを開くとそこでは丁度中継が映っていた。子ウサギ公園の中を映し出しているらしい。そこにはカンナの言うRABBIT小隊らしき生徒が映っていた。だが、情報じゃ四人いるはずだが映っているのは三人のみだ。
RABBIT小隊と言う名前だけあって兎のようなヘルメットやヘッドセットをつけている。武器については良く分からないが彼女たちが持っている物は普通のと大して変わらないような気がする。目立つものと言えば後ろに置いてある木箱やら武器の類だろうか。まさかあの木箱の中身全てが銃火器なのだろうか。だとすればおおよそたった四人の生徒が持つような数ではないと思う。やがて一人が何かをこちらへ向けた。その何かが発射されたと思った次の瞬間にはカメラは真っ黒な砂嵐だけを映した。
「ヴァルキューレ以外の物でもお構いなしか。よくSRTに入学できたな」
「元気な子達だね」
「ご冗談を。バカの間違いでしょう?」とカンナは鼻で笑いながら、特に「バカ」を強調しながら言った。「しかもただのバカじゃなくてやたら力を持ったバカです。ここは各学園の風紀委員の力を借りましょう」
「いや、僕たちで何とか出来るかもしれない」
「正気ですか? いくらレイヴンさんがいるとは言っても流石に少し危険なのでは?」
『問題ない。あの程度の武器じゃ傷もつかないよ』
「レイヴンはそう言ってるよ」
「そう、ですか。そこまで言うなら……確かに風紀委員を呼ぶよりそっちの方が確実で手軽かもしれませんね」
「キリノとフブキも借りるね」
「流石にそれは……平和ボケした生活安全局ですよ? かえってレイヴンさんの邪魔になる可能性が」
「カンナたちは占拠している生徒を捕まえる必要があるんでしょ? レイヴンじゃ人を捕まえられないし私がするにしても人が足りないからね。それに私の前ではみんな同じ生徒だから」
「そうですか。まあ、責任もシャーレが取るならいいでしょう……まだ動けるものに告ぐ! シャーレと生活安全局の生徒を援護しろ!」
「うぇえ、私も行くの!? ロボットだけでよくない!?」
「先生が言ったじゃないですか。私たちが中にいる生徒を捕縛する必要があるんです。それに、もしこれで成功したら特別休暇が得られるかもしれませんよ? あわよくば警備局への転科のチャンスも……えへへ」
「はあ……後者は別にいいけど。それならちょっと試しにやってみようかな」
『話は決まった? じゃあ乗って』
私は左腕を差し出した。キリノとフブキはきょとんとしていたが、先生が最初に乗って二人を誘うとようやく理解したようで同様に乗って来た。
「それではくれぐれも気を付けて」
カンナの声を背にして私たちは公園の内部へと入った。
ストーリ読みながら思ってましたがモエは絶対ACに興奮するでしょうね。バルデウスを見たらもっと興奮しそう。