クリスマスだろうが何だろうが関係ありません。出します。
「さりげなく近づかないでください。次は足を狙いますよ」
ミヤコはそう言って銃口を上に向けた。そして先生の顔と私が向けている銃口を交互に見ていた。先生はその眼の動きに気づいて私の方へ振り返った。
「わわっ。レイヴン、そんなことしないで!」
『でもこいつ先生に発砲しやがった』
「当たってないし、僕が不躾に近づいたのが悪かったから! だから銃口を下して!」
先生が必死で言うものだから仕方なく。私は銃口を下した。自分が狙われていたわけでもないのに先生はホッと胸をなでおろしていた。
「それでなんでそんなに近づかれたくないの? やっぱり具合悪いんじゃ」
「いやだからそうじゃなくって匂いが」
「や、やっぱり僕臭いかな?」
「だから私たちの問題なんだよ!」
サキがそう口走ると他の三人は呆れたようにため息をついた。
「あーあ、言っちゃった」
「もう四日以上もシャワー浴びてねえんだよ!」
「え、でも近くに銭湯が」
「前に行ったろ。口座が凍結されてるからお金が使えねえって」
「洗顔ぐらいなら公園の水でどうにかなるんですけど」
「短期なら気になりませんが長期的になると衛生的にちょっと」
「じゃあ、シャーレのシャワー室でも使う?」
先生がそう言った途端、周りの空気が冷えた。四人の先生を見る顔は明らかに見下したものになった。
「最っ低」
「度し難いですね」
「わ、私たちが武装解除した瞬間に一体何するんですか!?」
「実物より残滓のほうが好みだって? ひゅー!」
モエに至ってはその言い方はまるで皮肉を言っているみたいだ。流石に先生も少し参っているようだ。
「一体僕ってどう思われてるの」
「信頼できない大人」
「変質者」
「燃えないゴミみたいな?」
「特に何も」
「そ、そんなあ」
先生はがっくりとうなだれていた。そりゃまあ、ずっと気にかけているのにこの言われようじゃへこみもするだろう。私なら金輪際面倒を見てやらない、と思う。というか今思ってる。
「とにかく、解決策を考えるのでそれまで先生は公園に近づかないでください」
「でも公園の水を被ったらそれこそ風邪ひくだろうしなあ」
「トイレの貯水槽にミサイルでもぶち込む?」
「それは余計に汚れそうな気が」
「キャンプでお風呂ならドラム缶とか?」と先生はちゃっかり四人の会議に参加した。
「ドラム缶……ですか。以前百鬼夜行連合学院で似たようなものを見ましたね」
「それどうやって体洗うのさ」
「というかセンスが古い」
「でも今はそれしか解決策が無いような」
ミユの言う通り、その後数分間考えたが結局誰もドラム缶以外に解決策が思いつかなかったので、ドラム缶を確保する方法に話は進んでいった。
「モエ、いまから資源管理システムにアクセスしてドラム缶を使っている現場を探してくれますか。衛生面の確保は部隊にとって最優先事項です。今から浴槽の確保……ニンジン作戦を開始します!」
しばらくしてドラム缶確保の候補としてD.U.の港湾施設が挙がった。ドラム缶が多数ある上に廃棄されるものも多い。そこから何個か拝借するという運びになった。なんだか入念な作戦が練られているが、ちょっと港湾施設に行って、そこの職員からドラム缶を分けてもらえばいいと思う。しかもいつの間にか私と先生まで参加する運びになっていた。ただ面倒だったので何も言わなかった。
夜、日も完全に落ち、住民はすっかり寝たであろう時間に私は潜伏場所から移動し、港湾施設に進入した。ここはコンテナが多く積まれており、照明も全くないおかげでACでも見つかりにくいだろう。
輸送ユニットを下すと中から先生とミヤコ、サキ、ミユが出てきた。現地で動くのはこの四人。モエは公園で後方支援を行うらしい。
「こちらRABBIT1。現着しました。現在こちらに問題はありません。作戦通りポイントEまで向かいます」
「こちらキャンプRABBIT。各位のGPSを確認。作業員のシフトにも大きな変化は無し。そのままEに向かっても問題ないと思うよ」
ユニットから出てきたミヤコは公園にいるモエに通信を行った。今回私も作戦に参加するので一応通信機を一つ貸してもらったが、私は声を出せないので聞き専になる。何かこちらから発信する場合は先生経由になる。それなら最初からいらないと思うが、私はドラム缶を確保した先生たちを回収して公園に撤収するという任務がある。だから『荷物』の状態は知っておいた方がいいだろう。もし万が一があれば強行して回収する手はずになっている。
「ちょっといい?」
先生が口を挟むと、ミヤコは少し迷惑そうな顔をした。
「なんですか? 今更ここまで来て小言を並べるつもりですか?」
「いやちょっといろいろと心配事が」
「安心してください。私たちは何も盗みに入ろうとしているわけではありません。私たちはここにある廃棄予定のドラム缶をもらうだけ。企業にとっては廃棄する費用を節約できるわけですからむしろ私たちがするのは善行ですよ」
「それなら最初から素直にもらいに行けばよかったのでは?」
「そこはプライドの話だ。そう易々と他人からの温情が信じられるか」
「そっか、信じられないか」
「ま、まあ弁当の件は私たちが確保したからな。温情じゃない」
「RABBIT2静かにしてください。騒いでは見つかってしまいます」
「というかなんでミヤコが指揮執ってんだよ」
「作戦中はコードネームで呼んでください」
「それはそうだけど。私が聞いてんのはなんでお前が勝手に指揮を執ってんだっていう話だ」
「それはもちろん私が隊長に任命されたからに決まっています」
「SRTを閉鎖させた連邦生徒会長の命令で、だろ。SRTも閉鎖された、連邦生徒会長も失踪した。ならこの状況、誰が指揮を執ってもいいはずだ」
「皆さんはどちらがいいですか?」
「私はどっちでもいいと思うけど、どっちも同じじゃない?」
「私は……その」
ミユは明言しなかったが、それはそれでつまりどっちでもいいという事だろう。私もどっちでもいいと思う。と言うかさっさと行ったらどうだ。誰か来るかもしれないのに。
「分かりました。では今回の隊長はRABBIT2に任せます」
「よっしゃ。こういう状況は授業で何回もやったし、教範でも確認した。相手は所詮ただの警備員、訓練の時よりも楽だ」
サキは隊長に任命されると途端に意気揚々としだした。最初から隊長になりたかったのかもしれない。上の位に立ちたがるやつはどこにでもいるものだ。そういうやつは大体まともな死に方をしないが。
「じゃあ、サキ……じゃなくてRABBIT2、私はどこに待機すれば?」
ミユが自身の待機場所を尋ねた。すると意気揚々としていたサキは一転して慌て始めた。
「え、あ。ちょっと待て。市街地の狙撃手の待機場所は教範に書いてたはずだ」
サキはいつも持っている教範を取り出し、ペラペラとめくりだした。明かりが無いのでとても読みにくそうだ。
「うぃー……飲みすぎちったなあ。トイレトイレ」
その時この場の誰のでもない声が聞こえてきた。恐らくここの警備員だろう。
「誰か来ます。RABBIT2、指示を」
「は、ちょちょっと待てよ。何でここに人が来るんだ。この時間は誰もいないんじゃなかったのか!?」
「なんでだろうね? まあ予想外ってやつ?」
「あ、あのえっと私はどこに?」
「ま、待て待て。えっと教範によれば確か狙撃手の最優先事項は視界の確保……あ、あのクレーンの上だ!」
「待ってください、あのクレーンでは逃走時に——」
「あ、そ、それくらいわかってるって!」
サキがあたふたしているととうとうコンテナの陰から声の主が出てきてしまった。お互いに目が合い、数秒間沈黙が広がった。
「だ、誰だ! まさか荷物を盗みに来たコソ泥か!?」
「くそっ! ああもう、交戦開始! 最大火力でポイントEまで強行!」
静寂が広がっていた港湾施設はにわかに騒がしくなった。作業員によりセキュリティのロボットが呼ばれ、一同はその場で戦闘となった。私は隠密を最優先させた。前もってそう説明されたからだ。だからコンテナの陰に隠れ自身は攻撃をしなかった。しかし、敵の数は多く、強行突破しようにもなかなか前に進めていない。しょうがないので私もドローンで援護することにした。
右肩のポッドからドローンが三機飛び上がり、セキュリティロボットに攻撃する。おかげで短い間だが敵の数が減った。その隙に四人は包囲網を突破して闇夜に逃げていった。
作業員やセキュリティロボットは四人を追いかけていった。幸い私の姿は見られなかったようだ。目撃者を全部消す隠密はやったことあるし、ミレニアムでも多少見られても構わない隠密もやった。ただ今回みたいに誰にも見つかってはいけないような隠密は初めてだ。しかもじっとしておかないといけない。こんな大きな図体でいつ見つかるかもわからないとひやひやする。
通信機からはサキたちが戦闘する音と走っているときの荒い息遣いが聞こえていた。やがてそれが収まると依然息が荒いながらも彼女たちの話し声が聞こえてきた。
「くそ、何がコソ泥だっ!」
「声を落としてくださいRABBIT2。RABBIT1からキャンプRABBIT、ポイントEに到着。ニンジンを多数発見。しかし先ほどの交戦で当初計画していた撤収経路が使用不可になりました。回収ポイントも変更しなければなりません」
という事は私も場所を変えなければいけないという事か? まあ直前で動けばいいか。わざわざ見つかるリスクを取る必要性もあるまい。
「まあ、サキが隊長て時点でこうなるとは思ってたけどね。サキは机上の空論が多かったから」
「うっせえ! モエだって実戦演習はダメダメだったくせに! 何がいけなかったんだ……教範通りに動いたはずなのに。ああもう、せっかくSRTの実力を見せようと思ったのに、逆にシャーレにこんな失態見せるなんて!」
「まあ、実際やってみたらうまく行かないなんてことはよくあるよ」
「ところでミユの姿が見えないのですが一体どこに?」
「え、GPS上では重なってるけど?」
「は? まさか……あ、あのバカ! 通信機置きっぱなしじゃねえか!」
「じゃあ一体どこに?」
「サキの指示の通りに動いたのならあのタワークレーンでしょうか」
「あそこか……さっき警備が沢山行ったところじゃねえか」
ふむ……タワークレーンと言うとあれのことだろうか。ズームすると確かにミユは一人で頂上に立っている。下を見ておろおろしているようだ、ここからでは下にいるとかいう警備の様子は見えない。
「どうしましょうか。ドラム缶を持った状態ではミユを助けることはできません。この際ドラム缶は諦めてミユの救出に向かった方がいいかもしれません」
「背に腹は代えられないか」
『三人を回収してから私がミユも回収すればいい。さっさとドラム缶回収してきて。回収ポイントも変わるんでしょ? 私もいつ見つかるか分からない』
「そ、そうか。そういう手段があったな。よしじゃあ手ごろなドラム缶をいくつか——」
その後約数分間にわたって三人のドラム缶を吟味する会話が聞こえてきた。その内容は大体どうでもいいものばかりで大きさがどうの形がどうの色がどうの穴が開いてるか開いてないかなど、いや穴が開いてないかは重要か。ともかくそんなに気にするようなことではないはずだからさっさと決めてほしい。
「よし、ドラム缶はこれでいいだろう。そうしたらさっさと撤収しないとな」
「こちらRABBIT2。ニンジンの確保に成功したのでこれより撤収を開始します。回収ポイントは予備ポイントのAとします」
Aか。となるとこの廃棄倉庫の近くだ。私はコンテナの陰から出ると、できる限り物音を立てないように、人影に見つからないように移動した。やがてポイントAにつくと、そこには情報通り廃棄倉庫があった。だが肝心の回収目標はいなかった。
少しの間待っていると、物陰から何かが出てきた。二つのドラム缶がひとりでに動いてこちらに近づいているではないか。私は静かに構えた。ドラム缶は私の近くまで近づくとゆっくりと持ち上げられ中に入っていたらしい人物が現れた。
「わ、私です。RABBIT2です。後ろにはRABBIT1と先生がいます」
『なんだ。ドラム缶が歩いてくるから何事かと思った。なんでドラム缶被って歩いてんの』
「隠密には最適でしょ?」
「段ボールやドラム缶を被って任務を成功させる伝説上の工作員の話があるだろ? それを参考にしたんだ」
『何それ知らないんだけど』
「ドラム缶の回収は完了しました。早くミユを救出しましょう」
私は輸送ユニットを地面に置いた。三人がドラム缶と共に入ったのを確認すると背負わずにそのまま抱えてタワークレーンの頂上を目指した。
タワークレーンに近づくとサキが言っていた大量の警備とセキュリティロボットが見えた。流石に私は見つかったが見つかったところですでに頂上付近にいる私には何も手出しができない。悠々とミユの前に立つと輸送ユニットを差し出した。
「うぇ、え、な、なに!?」
輸送ユニットの入口が開き中からサキが顔を出した。
「ミユ! 早く中に入れ! ドラム缶はもう回収した!」
「え、で、でも距離が」
ミユの言う通り彼女とユニットの間には少々距離があった。まさか私が乗るわけにもいかないので、できるだけ近づいて浮いている。
『早くして、じゃないと一回降りなきゃいけない』
ENが切れたところで一度降りて回復させればいいが何回も繰り返すのは面倒だし、そのうち警備がもっと集まって面倒になる。
「大丈夫だ! 私たちが受け止めるから! こういう訓練はSRTでもやっただろうが!」
「で、でもぉ、こんな高いところから飛び降りたことないよ」
「いいから早く!」
サキに急かされミユは訳も分からずに飛んだ。実際一メートルほどの距離しかなかったわけだから余裕で飛び乗れたわけなのだが、ユニットの中でミユが腰を抜かしたような様子が分かった。
全員の回収を済ませた私は、直ちに公園へと戻った。
まあ実際後輩と遊んだせいでこうやって投稿が遅れたわけなんですけどね。