シャーレ所属傭兵レイヴン   作:猫又提督

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第3話

「あ、あの。ご、ごめんなさい」

 

 コトリが謝りながら俯いてしまった。他の二人も気まずそうな顔をしている。

 

『気にしないで。傭兵やってると似たようなことはよく起こるから。カーラはちょっと違うけど。さ、次の質問はある?』

「ほ、本当に大丈夫なのか? もしあれなら一度休憩するか?」

『大丈夫だって。コトリも顔上げて。気にしないから』

「で、でも失礼なことを言ってしまったのは変わりのないことなので」

『なんだか私が悪いみたいだ』

「い、いえ! 決してそんなことはありません! 悪いのは私なんです!」

 

 また誤爆してしまった。便利だと思ったが何でもかんでもリアルタイムに表示されると少し面倒なことが起きる。やっぱりキーボードで会話した方がいろいろと融通が利く。

 

「なら、レイヴン。君の過去のことを聞いてもいいだろうか。君の話から出てくる単語はどれも聞いたことのないものばかりだ。あまり信じられないことだが君は別の星から来たんじゃないのか?」

 

『別の星から? まさか。AC単体で星を渡ることはできないよ』

「だがここはルビコン3なんていう星ではない。地球だ。それに君の話だと星を簡単にわたる技術があるようだが地球にそんなものはない」

『え、ここルビコンじゃないの?』

 

 それは完全に予想外だ。ではなぜ私はルビコンにいないんだろう。ACだけでは星は渡れないはずなのだが。考えられる原因は……コーラルの爆発でここまで吹き飛ばされたとかだろうか?

 

「だから君の過去について興味があるんだ。良ければ話してくれないだろうか」

『別にいいけど……長いよ』

「構わないよ」

『それじゃ——

 

 私はルビコンに降り立ったところから話し始めた。何をどう話そうと過去のことを思い出すと本当にいろいろなことがあったと思う。レイヴンという名を借りたことや、初めてベイラムとアーキバスの依頼を請け負った時のこと。ウォルターに褒められたことや、褒められたことや、褒められたことや……いろいろあったと思う。私はその一つずつを思い出しながら文字に書き起こした。人に自分の過去を教えるのは初めてだったので難儀したが三人は文句も言わず私のお話に目を通していた。

 

 

 私がストライダーを落としに行った時のことを教えていると誰かが部室に入って来た。先生たちだった。そういえば機体から降りてから彼らの姿を見ていなかった。どこにいたのだろう。

 

「おや、戻って来たみたいだ。すまない、話はまた後で聞かせてもらっていいかい?」

『うん。いいよ』

「あれ、なんか変な車いす乗ってる。エンジニア部のやつ?」

「そうだよ。多機能車椅子。いろいろあるけど一番はBluetoothが接続できること」

「あ、あー。そうなんだ……これもBluetooth接続」

「それで? わざわざここに戻って来たということは何か話があるんだろう?」

「うん。実はエンジニア部に手伝ってほしいことが有って」

 

 そう言って先生は話を始めた。私にはよくわからないことだらけだったが一応話半分程度に聞いておいた。分かったのは『生徒会』を襲撃し『鏡』というものを強奪するという作戦だった。その過程でエンジニア部の助けが必要らしい。

 

「お願い。どうか僕たちに協力してくれないかな」と先生が言った。

 

 ウタハはしばらく考える素振りを見せて頷いた。

 

「なるほど、それは確かに的確な判断だ。君の言う通り、その方法なら私達じゃないと難しいだろうね。うん、分かった。協力しよう」

「ほ、本当にいいんですか? エンジニア部には実績もたくさんありますし、こんな危ない橋を渡る必要は」

「そうだね、そうかもしれない」

「それなのにどうして、メイド部と戦うなんていう危険な計画に乗ってくれるんですか?」

「それは」

「うん、その方が面白そうだから、かな」

「そうです! それに私たちも、もっと先生と仲良くなりたいですから!」

「そうだね、それと」

 

 ウタハはアリスの方をじっと見つめた。アリスはなぜ見られているのかわからずに首を傾げた。ミドリも同様に首を傾げた。

 

「いや、今はいいさ。それにレイヴンも手伝ってくれるなら百人力だ」

「レイヴン?」

 

 なんか急に私に飛び火してきた。全員が一斉に私を見る。

 

「こちら独立傭兵のレイヴンさんです!」

『よろしく』

「よ、傭兵?」

「細い話は省くが別の星で傭兵をしていたらしい」

「別の星!? てことはこの人は宇宙人なんですか?」

「宇宙人って結構人の見た目してるんだね」

「よろしく! 私は才羽モモイ!」

「才羽ミドリです」

「は、花岡ユズです」

「アリスです!」

 

 なんだか覚える名前がまた増えたようだ。多分後で何人か忘れるだろう。

 

『私はC4-621。レイヴンは借り物の名前。まあ好きに呼んでもらっていいよ』

「え、え?」

「彼女は複雑なんだ。私たちは一先ずレイヴンと呼んでいる」

「えっと、じゃ、じゃあレイヴンさんも手伝ってくれるんですか?」

『私もやるの?』

「え、さっき手伝ってくれるって」

 

 あれはウタハが勝手に言っただけで私は一言もやるとは言ってないのだが。しかしやれと言うならやる。報酬があるなら。それが傭兵というものだ。

 

「私からもお願いできないだろうか」

『報酬があるならやるよ』

「報酬か……予算は今はないし……そうだ。じゃあこの部室でどうだろう。ここを君の拠点として提供しようじゃないか。拠点がないと未知の惑星では苦労するだろう? 君がルビコンに帰るにしろ帰らないにしろ、ね」

 

 拠点か。確かに拠点は重要だ。ただで手に入るのならそれ以上のことはない。

 

『分かった。その作戦引き受けるよ』

「ありがとうございます!」

「ぱんぱかぱーん! エンジニア部とレイヴンが仲間になりました!」

「それじゃヴェリタスに行こうか。そこで作戦会議だ」

「分かった。レイヴン、君も一緒に来てくれないか」

『分かった』

 

 私が車椅子を動かそうとするとヒビキが「まだ慣れてないでしょ」と言って後ろから押してくれた。私はヒビキに任せることにした。

 

 ヴェリタスに向かう道中私はずっと気になっていたことを聞いた。

『ねえ、ヴェリタスって何?』

「ヴェリタス? ヴェリタスはね、部活の一つで言うならハッカー集団かな。私たちも心得はあるけどヴェリタスには及ばないね」

 

 ハッカー集団か。そう聞くとウォルターとカーラのことを思い出す。二人もよくハッキングをしていた。

 

 廊下を車椅子で押されているとすれ違う人が皆こちらをじろじろと見ている。あまり気にはしてなかったが、あまりにも見つめられるのでなんの気無しに聞いてみた。

 

「あー、まあその格好だとね」

 

 ヒビキは私の格好を見て苦笑いした。全身に包帯を巻き、その上から先生から貸してもらったジャケットを羽織っている。これが奇異な目で見られる原因か。そういえばジャケットを借りっぱなしだった。後で返さないと。

 

「服は私が後で見繕ってあげるよ。でもそうだね、多分レイヴンに一番目がいってる理由はヘイローがないからだね」

『そのヘイローって一体なんなの?』

「ヘイローっていうのは私たちの頭の上に浮いている輪っかのことだよ。キヴォトスの人なら全員このヘイローがあるんだ。ヘイローがないのは先生と、あとはレイヴンだけだね」

『私のヘイローが無いのってそんなに変? 一人ぐらいいるでしょ』

「うーん、わかりやすくいえばレイヴンの知ってる世界だとヘイローは普通ないんだよね。それならその世界で頭に輪っかをつけた人を見つけたぐらい珍しいことだよ」

 

 つまりヘイローがあるというのがこの世界の常識か。私は非常識というわけか。

 

「特にレイヴンみたいな背格好の人だと余計にね。そういえばレイヴンって何歳なの? 背は私たちとそんなに変わらないよね」

『わかんない。手術で脳を焼かれたから昔の記憶は全部無くなったよ』

「サラッととんでも無いこと言うね。本当に人生壮絶すぎるよ」

『でもウォルターはルビコンでコーラルを見つければ私でも人生を買い戻せるって言ってくれたよ。そのお金で再手術をしなさいって』

「ウォルターさんは優しいんだね」

『うん。いつも私のこと気にかけてくれた。仕事を持ってきてくれたの。だから私もウォルターの手伝いをたくさんした。それで喜んでくれるウォルターが見たかったの』

「じゃあ早くルビコンに戻らないとね」

『ウォルターは死んだよ。と言うか私の周りの人はみんな死んだ。私だけ生き残っちゃったんだ』

「そっか」

 

 ヒビキは黙り込んでしまった。またあの重苦しい空気が流れる予感がしたので私は慌ててキーボードを打った。

 

『大丈夫だよ。傭兵をやってたらよくあること。昨日の友と今日は殺し合うなんてことは日常茶飯事だったから。私はもう受け入れたから。ウォルターはこれからは自分の判断を信じなさいって言った。だから私はウォルターの指示通り自分で選ぶんだ』

 

 自分で言っておいてその自分が一番まだ引きずっているなんて笑えると思えないだろうか。私はその思いを殺しながらキーボード打ち込んでいた。

 

「なら部長の頼みを聞いてくれたのもレイヴンの判断?」

『それは傭兵的な判断かな。報酬さえあれば誰の味方にでもなって誰の敵にでもなるから。私を味方にしたいんだったら見合うだけの報酬を出してね』

「努力するよ」ヒビキは苦笑しながら言った。

『まあでも、受けてもいいかなって思うぐらいはしてるよ。私にも依頼を選ぶ権利はできたからね』

「なら良かった」

 

 

 ヴェリタスの部室に入るとそこには三人の少女がいた。彼女たちは私の姿を見るとギョッとした。目線は上から下へ全身を見るようにしてから、やはり私の頭上で止まった。

 

「先生、その人は?」

 

 白髪の彼女が先生に聞いた。

 

「この人はレイヴン。話すと長くなるから今はとりあえず作戦に協力してくれる人だと思って」

 

 彼女は少し納得がいってなさそうだったが「わかった」と言って私たちを部室の奥まで案内した。

 

「これで、メンバーは揃ったよね?」

「うん、準備もできてる」

「よしっ! あ、そういえば、いつ作戦配置始まるの?」

「いつ……? もう始まってるよ」

 

 それから彼女は作戦の内容を語りだした。その殆どは私には関係のないものだった。もともと私の存在がイレギュラーなのは彼女たちの態度を見れば明らかだったし、作戦の内容を聞いても私が必要ないことは分かった。だから私をどこで使うのかで少し議論が為された。私は使われる側だし下手に口は出すまいと終始黙っていた。

 

「一先ずそこの彼女をどう利用するかは置いておいて計画の一段階目を進めよう」

 

 そう言って彼女たちはアリスに指示を出し、ヴェリタスを出ていった。

 

 しばらくしてアリスが生徒会に捕まったという情報が伝わった。そこから更にウタハたちがなにかしていたが私にはさっぱりわからなかったのでぼーっと眺めていた。やがてしばらくしてウタハが「こちらエンジニア部、トロイの木馬を侵入させることに成功した」と誰かに報告していた。

 

 アリス抜きで戻ってきた彼女たちは再び作戦会議を始めた。カメラがなんだのエレベーターがなんだの複雑な話ばかりだ。その後の内容的にも私が必要そうなところは見えない。

 

『これ私動く必要あるの?』

 

 私はとうとう隣りにいたウタハに聞いた。

 

「ああ、君には私と一緒に動いて欲しい」

 

 ウタハと一緒ということはカリンというメイド部の一人を妨害するときだろうか。

 

「折角のACだ。私情を挟むのなら私ももっと動いているところを見たいんだ。合理的に言えばACの機動力があればいささか楽だからね」

 

 作戦会議が終わり私たちは一時解散となった。エンジニア部の部室の戻るころにはすで

に空が少し暗くなっていた。

 

「では私は早速行ってきます!」

 

 そう言ってコトリはヴェリタスの一人と囮作戦を遂行するため足早に出ていった。

 

「私たちも準備しよう」

 

 私は頷きヒビキに押してもらいながらリフトで上がっていった。コックピットに乗せてもらう際、私はヘルメットを一つ渡された。これは何なのかと言いたげにヒビキを見ると

「これで交信できるよ。思ったことを読み取るタイプ固定だけど会話ができないと不便だから」と言った。私は了承し、ヘルメットをかぶった。液晶にHUDが浮かび上がったかと思うとすぐに表示は消えた。

 

「どうだ、聞こえるか」

 

 突然ウタハの声が聞こえた。

 

『聞こえるよ』

「よし、ちゃんと接続できてるみたいだな。乗ってる間はそれをつけておいてくれ。少し付け心地が悪いかもしれないが勘弁してくれ。まだ試作品なんだ」

『構わないよ』

 

 私は機体の電源を入れた。

 

『メインシステム起動』

 

 真っ暗な機体に外の風景がなだれ込む。視界は二階ぐらいの高さに変わり下から見ていたものが全て上からの視線になる。

 

「さあ行こうか。外に出たら私たちを運んでくれ」

 

 そう言ってウタハとヒビキは部室を出ていった。私も入った時と同じように四つん這いになりながらバンカー方面に出た。外に出ると意外にも明るかった。それはまだ完全に日が落ちていないというのもあるが、何よりも建物全体に光が灯っていたからである。人が居るのだということを嫌でも実感した。

 

「そんなに明かりがついているのが不思議なのか?」

 

 思わず伝わってしまっていたらしい。軽く見とれていた意識はその声に引き戻された。

 

『こんなに人が居るところを見たことが無くて』

「ルビコンってそんな荒廃してるの?」

『分かんない。でも確実にここよりかは荒廃してるね。昔にいちど星が焼かれたことが有ったみたいだから。人が居ないというわけじゃないんだけど。如何せん目立つのはACとかMTとか機体ばっかりだから』

「ほう、君みたいなのがたくさんいるのか。それは俄然興味がある」

『止めといたほうがいいよ。ああいう世界じゃいつ死んでもおかしくはない。私はたまたま生き残っただけだから』

 

 でもコーラルを焼き払ったからルビコンを狙う企業はもういないだろうし、あの時よりかは平和になってるかもしれない。

 

「だといいな」

『また送られちゃったの? やっぱりちょっと不便だよ。送る文章選べるようにしてほしい』

「すまないね。そも思ったことをそのまま出力すること自体難しいからね。でもいずれは

何とかするよ。エンジニア部だからね。さあ、来たぞ」

 

 気づけば二人は私の足元まで来ていた。私は腕を近づけて二人を乗せた。

 

『で、どこに向かえばいいの? その鏡を保管してる場所が分からないんだけど』

「あそこだよ。あのひときわ高いビルが見えるかな。あそこの近くまで行ってほしい」

 

 あの周りより一際大きなビルか。よく目立っている。

 

「それと出来るだけ隠密にいこう。ACだと目立つからね。まだ時間はあるから遠回りしながらできるだけ人気のないところを通るんだ」

『分かった』

 

 私はブースターをつけ移動を開始した。なるべく目立たないように……苦手だな。

 

「頑張ってね」

『うっ……うん』

 

 早くこの機能を何とかしてほしいものだ。




隠密(目撃者は全員消す)
この前ACの大きさ調べたら思ったより小さくてびっくりしました。
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