シャーレ所属傭兵レイヴン   作:猫又提督

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誤字報告ありがとございました。

おかげさまでお気に入りが500件を突破いたしました。こんなたくさんの方に気に入っていただけけて感無量です。これからも頑張って書いていきます。


第31話

 外はとてつもないほどの大雨だった。折角出てきた少しのやる気も削がれてしまいそうだ。先生が傘を渡してくれた。傘をさして屋根から出ると、途端に傘に雨が打ち付けるとてつもない轟音が聞こえた。

 

 外に置いてある機体の場所に行くと、見る間でもなくリフトとユニットはびしょぬれになっている。ウタハたちは防水だと言っていたがこんな大雨だと少し心配になってくる。武器の様子でも見るついでに一度点検でもしてもらおうか。

 

 機体の中に傘を置くスペースは無いし、リフトに一緒に詰めたら壊れてしまうかもしれない。しょうがないのでリフトのスイッチを押して傘を閉じた。一瞬で私の全身はびしょびしょに濡れてしまった。機体に乗るまでの数分間、私は雨に打たれ続けた。

 

 機体の中に入り、ようやく雨に打たれなくなったが、包帯はたっぷりと雨を吸って水まで滴っている。なんだか全身がピリピリしてきた。雨水を吸った包帯が傷に滲みているのかもしれない。帰ったら包帯を取り換えてもらおう。

 

 先生がユニットに乗ったのを確認すると、私はユニットとリフトを背負って公園に向かった。視界は普段よりもよっぽど悪い。公園の付近に高いビルなどが無くて良かった。公園の近くに下りて中に入るとミヤコが一人スコップを持って何かしているのが見えた。先生はユニットから降りて、ミヤコの元に向かった。

 

「先生ですか。見ての通り今は冗談を言っている場合ではないのですが何の用ですか?」

 

 ミヤコは先生を一瞥するとシャベルで土を掘り返しながら言った。掘り出しているのは排水路に詰まった土なのだろうか。先生は何も言わずに近くに置いていたシャベルを持ってミヤコの隣で同じように土を掘り出し始めた。ミヤコは先生のその行動に少し驚いたようだが、黙って作業の続きを始めた。私もACで土を掻き出した。

 

 しばらくしてサキやモエたちも集まってきて「シャベルの使い方が下手」と言って先生の隣で同じように作業をしだした。土を掘り出している間、誰も何も話さなかった。何か声を発していたとしてもこの雨では掻き消えているかもしれない。そして顔は見えなかったが、その背中は心なしか寂しく見えた。

 

 

 ACで手伝ったとは言え、掘り出す必要のある排水路は公園全域に渡り、作業が終わったころにはすっかり日が落ち雨も止んでいた。

 

「雨、止みましたね。先生は……先生は何がしたかったんですか。私たちに恩を売ろうとでも思いましたか?」

「理由は無いよ。僕は先生だから。先生が生徒を助けるのに理由はいらないさ」

「そうですか。装備は全てダメになってしまいましたが、おかげで公園は浸水せずに済みました」

 

 ショベルを片付けていたサキたちもミヤコの元にやって来た。その顔は幾分かマシになっているように見えた。

 

「何の得にもならないのに……筋金入りのバカだな」

「まあ、先生がバカなのは最初から知っていたけどね」

「モエちゃん、せっかく助けてくれたんだから」

「助けは要らないとずっと言っていましたが、今まで何度も助けていただきましたし、今回も先生たちの助けが無ければ公園が浸水していたのも事実です。ありがとうございました」

 

 先生は満足そうに頷くと私に「帰ろうか」と言った。私は先生を回収してシャーレまで帰った。

 

 機体の中は少し湿気があった。びしょびしょの状態で密閉された空間にいたのだから仕方が無いことはある。コックピットを開けると謎に解放感があった。しかし車椅子に座ると再び不快感が現れた。収納されていた車椅子は半日でも全く乾かず、濡れたままだった。少しだけ乾いていた包帯は車椅子と面するところだけまた濡れた。

 

 翌日、先生は風邪を引いた。大雨の中傘を差さずに作業したし、たまった雨水に足をずっと突っ込んでいたので、順当ではあった。一方で私は全くその兆候すらなかった。因みに先生が風邪をひいてしまったためにしばらく業務ができないと告知した際にどういう訳かいろんなところから見舞いの品が届いた。ここ最近RABBIT小隊ばかりと接していたせいで忘れていたが、先生がよく慕われていたことを思い出した。

 

 

 ある日のこと、先生はサンクトゥムタワーに向かった。子ウサギ公園に関する何かで行ったらしい。しかし数時間後、落胆した様子で戻って来た。話を聞く限りあまり受け入れてくれなかったようだ。それどころか子ウサギ公園が撤去されるという不穏な話があったらしい。

 

「ちょっとカヤの所に行ってくる」

 

 一瞬誰のことだったか忘れたが確か行政委員会の一つ、防衛室の室長だったか。連邦生徒会に突っぱねられたというのにその傘下に相談しに行って何か解決するとは思わなかった。

 

『そこに行って何とかなるの?』

「カヤは僕たちをサポートしてくれると言っていたし、何か支援してくれるかもしれない」

『そういえばそんなこと言ってたね』

「だからまたちょっと空けるよ」

『待って私も行く』

「え、留守番は嫌だった?」

『サンクトゥムタワー方面ならまだしも、ヴァルキューレの方面は安全性が確保できない。またさらわれても困る』

「だ、大丈夫だよ。今度からは気を付けるって」

『先生の気を付けるって言葉あんまり信用ならないんだけど』

「さ、三度目の正直ってあるでしょ」

『二度あることは三度あるっていうのもあるね』

 

 正論をぶつけても先生は折れようとしない。仕方がないので理屈ではなく感情で訴えてみることにした。

 

『じゃあこういう事で、ずっと中にいても暇なの』

 

 そういうと先生はあっさり私がついて行くことを了承した。やはり先生は感情論に弱いな。

 

 

 ヴァルキューレに先生を下すと、先生はそのまま中に入っていった。私はその場で待っていようと思ったが生徒の一人に邪魔だと言われてしまった。確かに入り口の前に陣取るのは良くなかったかもしれない。じゃあどこに止めればいいかと、わざわざ膝をつけてコックピットを開けてスマホに文字を打って尋ねると、その生徒はしばらく悩んだ末に駐車場を指定した。

 

 ヴァルキューレの横にある駐車場にはまばらに車が止まっていた。その中で『来客用』と書かれたスペースに機体を置いた。駐車場もあいているしせっかくだから降りようと思った。リフトもユニットも下すので仕方なく隣のスペースも使ったが、まだスペースは開いているし大丈夫だろう。

 

 降りたはいいが、ここは学校とは言え警察なわけだし警察で何か時間か潰せるのかと言えばそんなわけないだろう。大人しく機体の中で待っていてもよかった気がするが、いつ終わるか分からない話を何もせずに待っているというのも暇だった。先生の連れだと言えばロビーで待たせてくれるぐらいはできるだろうと思い、学校の入口へと向かった。

 

 ロビーで適当な場所を探そうとすると、生徒の一人が私に話しかけてきた。

 

「外部の方ですよね。今日は一体どんな用で?」

『先生の連れだよ。さっき中に入っていったでしょ』

「ああ、シャーレの。先ほど防衛室長に会いに行かれましたがあなたもそこに?」

『いや、私はただ待ってるだけだから。別にここで待っててもいいよね』

「はい、構いませんよ」

 

 そう言ってその生徒は私から離れて行った。そして入り口のすぐそばにある部屋に入った。受付係だったのかもしれない。

 

 ヴァルキューレは他の学校とまた違う雰囲気があった。学校であると同時に警察組織であるからどちらの役割も持たせたが故の内装なのだろう。ロビーにいると町の住民らしき人たちがたまにやってきては何か話している。その様子をしばらく眺めていたが、ふと何か飲もうと思い自販機に向かった。

 

 適当にジュースでも買って飲んでいると先生が戻って来た。顔を見る限りそれほど悪い結果にはならなかったみたいだ。

 

「あ、待っててくれたの?」

『うん、まあ。その様子だとあまり悪い結果にはならなかった感じ?』

「うん。なんとか学籍だけは維持してくれるみたい。でも公園は難しいかもしれない」

『なんで?』

「あの辺りは再開発区域みたいでカヤでもどうにもできないって」

『まあ、防衛室が町の建築に手を出せるとは思えないからね』

「公園の代わりを見つけてあげないとなあ」

『それは先生がやる事じゃないんじゃない?』

「先生だからだよ。一度面倒を見ると決めたんならちゃんと見てあげないと」

『ストイックだね』

 

 私は先生と一緒に外に出た。先生が周りを見て「ACは?」と聞いたので『駐車場』と答えた。駐車場に止めた機体は何の変りもなくそこにあった。

 

 

 私たちはその足で公園を目指した。途中で先生が何か食べようと言って、下りるように勧めてきた。

 

 私は商店街の近くに下りた。しかし異変にはその時点で気づいた。そこにある店は全てシャッターが下りており、開いている店が何処にもなかった。

 

『どこも開いてないね』

「おかしいな。今日は何かイベントでもあるのかな?」

『さあ、HP見ても特に何も書いてないけど』

 

 商店街のHPを見ても店を紹介する分が続くだけだ。掲示板やイベントのお知らせを見ても今日の日付に何かあるという知らせは何もなかった。

 

 しばらく立ち呆けていると先生がどこかへ振り向いた。少し遅れて私もそちらへ振り向いた。何か歌のようなものが聞こえてきた。

 

「美味しい美味しい、おいなりさんはいかがですか~」

 

 どこかの学園の生徒が今時珍しく立ち売り箱を持っていなり寿司を売り歩いていた。周囲が閉店している上、誰いないのでは彼女の声は遠くからでもよく聞こえた。彼女は周りにいなり寿司を宣伝しているもまっすぐ私たちの方へ向かってきた。じっとその生徒のことを見ているうちにいつの間にか彼女は私たちのすぐ近くまで来ていた。

 

「あ、そこのお二人様! お食事がまだならこのおいなりさんはいかがですか? 出来たばかりですよ。出来立てが一番おいしいですよ」

「じゃあ二つもらおうかな」

「毎度あり! 今日お客さん全然いなくって売れるか心配だったんですよ。せっかく作ったのに一つも売れないんじゃ悲しいですし、もったいないですからね」

「今日は商店街もどこも開いてないからね」

「あれ、お客さん知らないんですか?」

「やっぱり今日何かあるの?」

 

 すると彼女はわざとらしく近寄ってくると先生に耳打ちするしぐさを見せた。その割には私にも聞こえる程度の声で話してきた。

 

「実はこの辺りもうすぐ再開発が始まるらしいんですよ。そのせいで周りも全部閉店しちゃってるんですよ」と言って離れた。そして今度は普通に話してきた。「このあたりの地下に地下鉄を通して、商店街を潰してからショッピングモールを建てるらしいですよ。何でしたっけ……タコさんみたいなマークをした会社だったはず」

「カイザーコーポレーション?」

 

 先生は少し考えた素振りを見せてから言った。私の聞いたことが無い会社名だった。

 

「あ、そうそう。そんな名前だったはずです。たしかカイザーコンストラクションっていう名前だったと思います。社運がかかったおっきな事業らしいですよ。それによってお店は閉店を余儀なくされて、住民の立ち退きも進んでいるようで……まあ、アルバイトの私には雲をつかむような話ですけどね」

「いなり寿司もう一つくれるかな」

「あら、お口に会いましたか? 自分で言うのもなんですけどそのいなり寿司結構自信があるんですよ。そこのロボットの人にも是非食べてほしいです」

 

 そこまで言うので私は仕方なくコックピットを開けて先生からいなり寿司を受け取った。二口、三口程度で食べれそうなサイズだった。一口食べると甘いいなりの皮とわずかにしょっぱい酢飯の味がした。確かにこれは美味しい。私は彼女にサムズアップして味の感想を伝えた。

 

「あはは。気に入っていただけて何よりです。同僚……友人や後輩にもよく食べてもらったんです。そうですね……せっかくたくさん買ってもらってるのでもう一つ情報をあげちゃいます。実はこの辺りに放浪者さんの集団がいるんですけど、やたら強い武器を持っていてカイザーコンストラクションの方々が来るたびに騒ぎを起こしていて工事が遅れてるみたいなんです。それと公園を占拠してる集団もいるみたいで。そっちの集団も強力な武器を所持していてヴァルキューレの方々も苦労しているみたいですよ」

 

 彼女が言った公園の集団と言うのは間違いなくRABBIT小隊のことだろう。先生もそれに気づいたはずだ。そして彼女は先生に何か心当たりがあることに気づいたようだった。

 

「あれ、もしかしてお知り合いでした? うふふ、私結構おしゃべり好きなんですよ。でも人から話も聞くのも大好きなんです。おいなりさん、もう二つあげるので何か知っていることがあれば教えてくれませんか?」

「申し訳ないけど、僕から話せることは何もないかな」

 

 先生はそう言って差し出されたいなり寿司を断った。

 

「そうですか……噂ですが、その公園を占拠した集団はどこかの学校のエリートらしいです。強い武器を持っている上に学校のエリートじゃあヴァルキューレが手を焼くのも納得できますよね。でも何で彼女たちは公園を占拠しているんでしょうね。どこかに反発してデモを起こしているのか、はたまた公園に何かを隠蔽しているのか、何かとんでもない失敗をしてしまったが故なのかもしれません。もしくは……夢を見ているとか。温室育ちが見るような淡くて、はかない夢を。その子たちを指導する立場にいる人はきっと大変でしょうね。叶いもしない幻想に憑りつかれている子たちの面倒を見るんですから」

「そんなことはないと思うよ」

「ふむ……それはどうしてですか?」

「生徒たちの夢を支えるのは指導する側の義務だから。たとえそれが叶わないものだとしても支えないといけないんだ。別の形で叶えてあげる方法もあるはずだから」

 

 彼女は何かつぶやいたようだった。しかし私にはよく聞こえなかった。

 

 彼女は箱の中のいなり寿司を箱詰めしだした。そしてその箱をさらに袋に入れて全て先生に差し出した。

 

「これは?」

「今日はもう店じまいですから。売れ残りですが私だけでは食べきれないのであげます。お腹がすいている子にでもあげてください」そして彼女はまた先生に耳打ちをするように、しかし私に聞こえるように言った「また機会があれば会いましょうね、先生」




書いてる途中でいなり寿司食べたくなってきました。小さい頃はいなり寿司あまり好きじゃなかったんですけど最近食べたら普通においしかったですね。うーん、食べたい。
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