シャーレ所属傭兵レイヴン   作:猫又提督

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誤字報告ありがとうございました。

もう年末も近いですね。私は変わらず書き続けますが。


第32話

 私たちが何か行動を起こす前に彼女はすでに離れていた。遠くで彼女が片手で立ち売り箱を持ちながら歩いていた。いなり寿司から染み出る油が垂れていてもそれを気にする様子はなかった。

 

 私たちは互いに見合ってから、次に先生が渡されたいなり寿司に目が行った。

 

『それ食べて大丈夫?』

「大丈夫だよ。さっき食べたし」

 

 それなら別に大丈夫かと思った私はこのいなり寿司をご飯代わりに持っていくことにした。

 

 

『あの人怪しすぎるよね』

「いなり寿司売ってた子?」

『ただのアルバイトにしては情報持ちすぎじゃない?』

「噂だからいろんなのがあってあの子はたくさん噂を聞いただけじゃない?」

『でも先生のこと知ってたし、知ってるはずなのに最初知らない体で近づいて来たんだよ。怪しい以外の何でもないでしょ』

「それはまあ、そうかもしれないけど」

 

 しかし私はそれ以上言及することができなかったし、先生もあまり触れたくないのか自分からは話そうとしない。この話題は自然消滅した。

 

 

 公園に到着するとすぐにミユと出会った。しかし、なぜか銃口を向けられている。

 

「と、止まってください。へ、変な動きをしたら、撃ちます!」

 

 AC相手に人間一人で立ち向かうのはなんともまあ勇敢と言うか蛮勇と言うか。私と先生は一体どうしたものかと対応に困ってしまった。先生がミユに声をかけようとした時、モエが後ろからミユの肩を叩いた。

 

「警告するときはまず相手をちゃんと見ような。ほら、先生たちだよ」

「え……あ。す、すみません」

「あとこんな巨大ロボット相手に警告しても無駄だからこういう時は一回身を隠そうね」

「ご、ごめんなさい」

「なんだ、やっぱり先生たちか。轟音がしたから何かと思った」

 

 サキもモエの後ろからやって来た。

 

「今日は何の用?」

「これを持ってきたんだけど」と言って先生はいなり寿司の入った袋を見せた。

「あ、いなり寿司だ!」

「懐かしいな。SRTの頃を思い出す」

「も、もしかして私たちのために買ってきてくれたんですか?」

「う、うん。良かったら食べて」

 

 先生は少し言いよどんだ。さっきのアルバイトの生徒のことが引っ掛かったのかもしれない。サキはその一瞬の言いよどみを見逃さなかった。訝し気にいなり寿司を見るとモエの方を見て「一つ試しに食べて見ろ。なんか入ってるかもしれない」と言った。

 

「なんで私が食べなきゃいけないの。サキが自分で食べてみればいいじゃん」

「だ、大丈夫だよ。さっき僕とレイヴンも食べたし!」

『美味しかったよ』

「この匂いは……いなり寿司ですか?」と言ってミヤコも寄って来た。そして先生が持っていた袋からいなり寿司が入った箱を取り出した。「懐かしいですね……ああ、えっと。昔いなり寿司が好きだった先輩たちがいたんです。よくいなり寿司を作ってもらって食べていたので。先輩たち、今頃どこに……」

 

 ミヤコはいなり寿司の箱を見つめながら言った。私はさっきのアルバイトのことを思い出した。明らかに公園の集団、RABBIT小隊に執着と言うかよく言及していた。もしかしてあのアルバイトがミヤコの言う先輩たちの一人ではないかと思ったのだが、確かな証拠は無いし先生も何も言おうとしないので、私も何も言わなかった。

 

 

 一同はいなり寿司を食べながら先生から話を聞いた。連邦生徒会でリンから聞いた話、ヴァルキューレでカヤから聞いた話、そして噂のことをアルバイトの子から聞いたという事を伏せて話した。

 

「連邦生徒会からの支援はむずかしい、と。元々連邦生徒会には期待してなかったのでいいんですが、再開発のプレッシャーは大きいですね。先日の大雨で武器はほとんどダメになてしまいましたから、生活安全局にすら抵抗できるかどうか」

「いざとなれば素手でも戦う覚悟だ」

「物資が無くなって、支援も無くて、攻撃は続いて……降参したらブラックマーケットに連れていかれて……」

「流石に先生とレイヴンさんがいるのでそこまでの事態にはならないと思いますが」

『私もあまり長くは支援できないよ。そろそろ弾薬が怪しい』

「補給はできないんですか?」

『ミレニアムで弾薬の複製をしてもらってるけどまだかかりそう』

「せめてターレットの改修ぐらいはしたいところなんですが」

『私の知り合いにゲリラ戦が得意な人がいるんだけど連絡してみようか』

「ゲリラ戦?」

『IEDとかトラップを作るのが得意で、もちろん効果的に仕掛けることもできるし、立てこもりも得意だよ』

「す、すごい。今の私たちにぴったりかも」

「SRT以外でそんな人がいるとは思いませんでしたね。どこの学校ですか?」

『今はトリニティかな』

「トリニティ!? あのお嬢様学校のか?」

『ちょっと複雑なんだよ』

「ふむ。とはいえ確かに今の私たちには必要な人材かもしれません。立てこもりに関してはあまり知識がありませんからその方に教えてもらう方がいいでしょう」

 

 概ね賛成のようなので私はアズサにモモトークを送ろうとした。しかしその時モエが私の行動を止めた。彼女は不敵な笑みを浮かべていた。

 

「ふっふっふ。まさか私のことをお忘れかな?」

「何かいい方法でもあるのですか、モエ」

「でも今の私たちにはお金も口座も……」

「ていうか一番最初に派手に弾薬消費したのお前だけどな」

「あ、あれは必要な爆発だったから! じゃなくて、お金を使わなくても補給する方法があるの」

「ま、まさか銀行強盗を」

「何言ってるんですか、先生。市民を守るSRTが銀行強盗なんてするはずないじゃないですか」

「そうだよ。私たちがするのは古典的な方法ではあるけど、確実な方法。つまり物々交換だよ!」

「物々交換?」

「私たちが貴重なものを差し出して、代わりに弾薬や武器をもらうのさ」

「貴重なもの……もしかして私たちの」

 

 ミユは何を想像したのか自分の体を見て真っ青な顔をした。モエは呆れたような顔をしてミユの考えを否定した。

 

「ミユが思っているようなことじゃないよ」

「じゃあ焼肉弁当か?」

「賞味期限きれてる弁当何て誰が欲しいのさ。せいぜい所確幸ぐらいでしょ。そうじゃなくて、私たちが持ってるミサイルとか余ってる武器を差し出すんだよ」

「ですが先日の大雨でミサイルも武器も錆びてしまっていて使い物にはならないと思いますが」

「使えないからって価値がゼロになったわけじゃないはず。断腸の思いではあるけど水が浸かったミサイルでも私たち以外の人ならもっとうまく使ってくれるはず」

「でも買い取ってくれるところなんてあるのでしょうか」

「大丈夫、ちゃんと伝手があるから。ブラックマーケットのカイザーインダストリーなら傭兵用に武器が沢山必要だから需要は絶えない。あそこなら水に浸かったミサイルでも買い取ってくれるはず。それでその対価にカイザーインダストリーからそこそこいい武器を貰うってわけ」

 

 モエの考えを聞いた一同は感嘆の声をあげた。

 

「モエにしてはまともな発想だな。体調は大丈夫か? 変なもの喰ったんじゃないのか。あ、もしかして昨日のナポリタン弁当に当たったんじゃ——」

「うっさいなあ!? 一体私のことなんだと思ってんのさ」

 

 モエはぶつぶつ文句を言いながらもスマホを取り出して電話をかけた。相手はすぐに出たようでモエが会話を始めた。スピーカのせいか向こうの声も漏れていた。

 

「はい、こちら高品質の武器を提供するカイザーインダストリーでございます。どういったご用件でしょうか?」

「やあやあ、久しぶり。私だよ、私。SRT特殊学園の補給担当。前にもいろいろ買わせてもらったでしょ」

「あ、あの時のVVIPの方ですか!? ご無沙汰しております!」

『VVIPって?』

「えーっと……Very Very Important Person、VIPより上の待遇の人みたい」

『VIPより上の階級ってあったんだ。ていうかモエがVVIPなんだ』

「いつの間にそんな繋がり持ってたんだ」

「ご無沙汰しております! 今回はどんなご入用でしょうか。もしかして以前購入したクラスター爆弾に何か問題でも?」

「そんな買い物いつしたんですか」

「あ、あくまで私用の爆弾だから、自費だから問題なし!」

「私用の爆弾とはいったい?」

「とにかく……今日は買う方じゃなくて売る方で連絡したの」

「売る方ですか……当店は基本買取はしてないのですが……とはいえ何も聞かずに断るわけにはいきませんね。まずはお話を伺いましょう」

「実はね、今手元にコンビニじゃ手に入らない高級装備があってさ。誘導式対空ミサイルに威力調整可能なクラスターグレネードに、遠隔操作可能な対戦車ロケット——」とモエは後方に置いてある兵器群を見ながらその名称を挙げていった。

「なんと、それらを売ってくださるのですか」

「うん、若干錆びてるけど大丈夫でしょ」

「若干? 相当錆びてるけど思うけど」

 

 先生が口を滑らせるとモエは指を口に当て「シャラップ!」と小声で言った。

 

「そういった特殊なものでしたら需要もあるで……はい、お受けしましょう。代金は以前の口座と一緒でよろしいでしょうか」

「あー、実は今口座が使えなくてさ。代金の代わりに現物でどうかな。ちょっと安めの奴でいいからさ、威力高めの武器が欲しいんだよね。気化爆弾とか、白リン弾とか、はあはあ」

 

 果たして本当にそれは大丈夫なのだろうか。白リン弾のことは良く分からないが気化爆弾はやりすぎな気がする。しかし向こうの返答は意外なものだった。

 

「申し訳ありません。実はただいま武器の在庫が切れている状況でして」

「え、いつもたくさんあるのに? 全部?」

「はい。先日匿名で全て買われていったお客様がいまして」

「なっ……全部ってキヴォトスで戦争でも起こすつもり? 誰がそんなに大量に」

「申し訳ありませんが顧客の情報は守秘義務ですのでお教えすることはできません」

「まあ、それもそうか」

「それでは今回のお話はなかったことに。またのご利用をお待ちしております」

「ああ、待って!」

 

 モエの叫びは虚しく電話は切れてしまった。

 

「なんだその状況。武器全部買われるとか流石に予想できないって……当てが外れたな」

「なあ、いつカイザーインダストリーのVVIPになったんだって」

「そういえば、前にいろいろと計算が合わないことが有りましたね。もしかして」

「モエちゃん、横領罪で逮捕?」

「い、今はいいじゃん。SRTも閉鎖されてるんだしさ。と、ともかく伝手はカイザーインダストリーだけじゃない。中古オークションでも武器は確保できる」

「銃火器ならまだしもミサイルって買う奴いるのか?」

「舐めるな! 最近のオークションはミサイルからハッキング機器、ちょっとした野菜まで手に入るなんでもある場所なんだぞ」

『何でも?』

「うん何でも」

『じゃあ私の武器の弾薬も置いてるかな』

「い、いや、どうだろう。レイヴンの武器は流石にちょっと置いてないかも」

『じゃあ何でもじゃないじゃん』

「そもそもレイヴンの武器はお前とミレニアムの連中しか持ってないだろうが」

「それはそうとして。早速オークションに出品してみよう。きっと今すぐにでも爆弾を買わせてくださいってメッセージが来るはず」

 

 そしてモエはスマホでミサイルや機器の写真を撮りに行った。数分ほど置かれた兵器の写真を撮ってきてスマホを操作しながら私たちの元へ戻って来た。モエの読み通りメッセージは早くに来た。その後、何人か入金する人が現れたが、すぐに同じ人が入金を繰り返す。結局最初に入金した人が買い取ることになった。

 

 

 その人は公園にやってくるなり購入したミサイル等の兵器を全てトラックに積めると代金を渡して早々に立ち去ってしまった。

 

「まさかあの錆びたミサイルを欲しがる人が居たなんて」

「こんな額のお金初めて見た」

 

 ミヤコは立ち去るトラックを見ながら、ミユはアタッシュケースに詰め込まれていたお金を見ながら言った。一方でサキもトラックを見ながら、しかし顔は訝し気であった。

 

「さっきのやつなんか怪しいな。器用に顔隠してたし、ミサイルの状態を一切調べてなかった。普通のならまだしも錆びてるって前情報があるんだから多少なりとも調べるはずだ」と言うと、視線をアタッシュケースに向けた。「それ偽造紙幣じゃないよな」

「お金の出どころなんてどこでもいいよ。これで資金繰りは多少良くなった。でもサキ、なんで最初に注文するのが固形燃料とガソリンなわけ。こんだけお金があるならプラスチック爆弾でも買えばいいのに」

「バカ。お前は爆弾で米を炊くつもりか。それにヘリにも必要だろ。それに火力はあればあるほどいいってわけじゃないだろ」

「そんなことない。火力は一番だよ」

『そうだね。火力はいいね。空浮いてミサイル撃っとけばなんとかなる』

「ほら、レイヴンだってそう言ってる」

『まあ、当たればの話だけど』

「火力がでかいやつは総じて弾数も少ないし、当てにくい。外したら一転してピンチだし、爆発系は近かったら自分たちもまきこまれるだろうが」

「一先ずこれで多少防衛力は補えるでしょう。しばらくは誰かが来ても安心——」

「だ、誰か助けてください」

 

 ミヤコが言いかけた瞬間、誰かが助けを求める声がした。「早速だれか侵入しているじゃねえか」とサキが言う。声のした方向には、いつだったか先生を拉致しやがった所確幸のリーダーがいた。曰く奴の名はデカルトなそうな。

 

『地雷が反応しなかったのかな』

「レイヴンが地雷を踏み抜きまくったせいで網に穴が開いてるんだよ」

「でも丁度いい。早速新しく買った兵器の火力を確かめてみるか」

「お、おい、もう私のことを忘れたのか! それに助けてと言ったはずだが!?」

「はぁ……今日は一体何の用事ですか」

「じ、実はヴァルキューレの公安局にアジトを追い出されてしまって」

「公安局? 公安局が放浪者に手を出すわけないでしょ」

「け、警備局の間違いでは?」

「いいえ。私は確かにこの眼で見たのです! 見慣れない武器を持ち、私の聖域で暴れまわる狂犬の姿を!」

 

 狂犬と聞いて全員が私の方を向いた。私は一斉に視線を受けながらも冷静に文字を打った。

 

『私は狂犬じゃなくて猟犬だから。そこんとこよろしく』

 

 とはいえ何か引っかかるところでもあったのか、一同は彼の話に耳を傾けることにした。




名無しタウンって知ってますか。その町には名前が無くって誰かがいつの間にかつけた名前なんです。噂だとそこに住んでいる人は全員名前が無いそうで。その名が示す通り人も町も名無し何です。そこに移住した人もいずれ名無しになってしまうとか。

嘘です。さっき適当にでっちあげました。
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