「というか背格好のメンバーはどうしたのさ」
「所確幸だ! 所有せずとも確かな幸せを探す集い、略して所確幸! 前の交戦でメンバーが減ってしまってそんなときに公安局に押し入られたから私たちはただ為すがままで」
「狂犬ってカンナのこと?」
「ああ、あの公安局のトップか。確かに犬みたいな見た目してたな……ん? お前それちょっと見せて見ろ」サキは何かに気づいたようでデカルトに近づくと、体についた弾痕を観察しだした。「この発火の具合、角度を見ても相当硬度が高い。これHEIAPだな」
HEIAPがなんなのか分からなかった私は少し調べてみた。徹甲炸裂焼夷弾らしい。主に装甲目標に使われる弾薬だそうだがロボットである彼だからこそ使われたものなのだろうか。
「弾痕だけで分かるの?」
「完璧じゃないけど、これくらい教範にも乗ってることだ」
市街地戦の狙撃手の配置と言いHEIAPのことと言い、サキが持っている教範には幅広いジャンルが載っているようだ。分厚いだけのことはあるらしい。
サキの発言にミヤコも一緒に弾痕を観察しだした。
「こんな口径のHEIAP初めてみました」
「そもそもHEAIP自体珍しいし、実用性も低い。こんな特殊なもの使ってるのなんてカイザーインダストリーぐらいか?」
その時、にわかに点と点がつながった。その場にいた全員が気付いただろう。
「つまりヴァルキューレがカイザーインダストリーから武器を買い占めたってこと?」
「で、でもヴァルキューレにそんな資金の余裕あるのかな?」
『余裕があったんだから買えたんじゃない?』
「まあ、普通そういうことになりますね」
「面倒なもんが渡っちまったな」
しかしただ一人、先生は何かを考えているようだった。「確かキリノが……」とうわごとを言っている。
「先生?」とミヤコに声をかけられ先生はすぐに我へ返った。
「あ、ごめん。ちょっと考え事してた」
「なんだ、立ったまま昼寝でもしてるのかと思った」
「起きながら夢を見られるなんていいことだねえ」
「とにかくヴァルキューレの件に関してはご愁傷さまでした」
「ご愁傷様でしたじゃない! 君たちにとっても他人事じゃないんだぞ! 公安局はこのあたり一帯の放浪者を全員駆逐している。いつここに来たっておかしく——」
その途端、数発の銃声と共にデカルトがその場に倒れた。一同は突然のことに固まったが流石はSRT特殊学園の生徒か、RABBIT小隊はすぐに臨戦態勢に入った。公園には続々とヴァルキューレの生徒が入ってくる。
「野生動物は危機に瀕すると、最も強い群れにすがるもの……ここにいたのか、歩き回る手間が減ったな」
ヴァルキューレの生徒たちの中からカンナが出てきた。
「あなたは——」
「ヴァルキューレ警察学校の狂犬」
「カンナだ。せめて公安局長と呼べ。嫌いなあだ名ではないが、そもそもお前たちとはあだ名で呼ぶ間柄ではないだろう」
「公安局長がどうしてここに」とミヤコが聞くとカンナの顔はより一層険しくなった。
「それは、自分たちの行いを理解したうえで質問しているのか。市民たちが使う公園を不法占拠し、地域社会に不安を広めている存在がいる……そう聞いて取り締まりにきた」
「でもここにいてもいいって言ったのは防衛室の室長さんだよ。シャーレ経由だけど。公安局長が上官の命令に背いて言いわけ?」とモエが言うとカンナは呆れたようなため息をついた。
「勘違いしているようだが、防衛室長は公園に滞在してもいいとは一言も仰っていない。ただ処罰を保留すると仰っただけだ」
全員が先生を見た。先生はただカンナを見つめるだけで何も言い返そうとはしない。そしてみんなを見て重苦しく頷いた。カンナの言うことは事実みたいだ。
「さらにいえば公園の管理は防衛室の管轄ではない、だから私たちに立ち退きを要求することは正当であると?」
「私たちに帰る場所が無いって知ってるくせに、いい性格してんね公安局長さん」
モエの煽りにカンナは眉一つ動かさない。ずっと険しい表情であるのは狂犬と呼ばれるが故の表情なのだろうか。
「で、でも公安局が直接ですか? 治安管理なら警備局の管轄では?」
「確かに治安管理は警備局の管轄だ。公安局の出る幕ではない……普通の状況ならな」
「御託はいい。つまり私たちを無理やり追い出しに来たってことか」
「別にいいけど、前回もシャーレありきだったじゃん」
「風倉、言葉には気を付けた方がいい。聞けば前日の大雨でほとんどの武器が水没したそうじゃないか。中古品で装備を調達したそうだが公園全体をカバーするには心もとないんじゃないのか」
私はコックピットを閉めて四人の前に躍り出ようとした。しかしカンナが私の名を呼ぶので私は動きを硬直させた。
「レイヴンさん、レイヴンさんも協力する相手は選ぶべきですよ。あなたが今協力しようとしているのは紛れもない犯罪者です。シャーレが犯罪者を援助したと知られれば困るのは先生ですよ」
私はそれを聞いてまた後方に、先生の側に並びなおった。
「今回公安局はスポンサーの協力を得て大量の火器を得た。その中には対戦車火器もある。もしもの場合はレイヴンさんとも事を構える所存だ。貴様らがエリートだとしてもこの数的優位を覆せるかは別の話だ。レイヴンさんも今の話を聞いてお前たちに協力するとは思えない。どうする、今すぐに投降するか、それとも試しにその粗雑な武器で私たちに抵抗してみるか?」
ミヤコは苦い顔をした。私が共闘してくれるなら勝算はあったが、それが無理ならば勝率は著しく低くなる。申し訳ないが先生の立場を危うくさせる選択は私にはできない。すると先生が「ちょっと待ってくれる?」とカンナの前に出た。
「先生……防衛室長から聞きました。RABBIT小隊の処遇はシャーレに一任すると。ですがそれとこれとは話が別です。子ウサギタウンの再開発は決定事項ですから先生でも取り消すことはできませんよ」
「でもいきなり立ち去れと言われても困る。少し皆に考える時間をくれないかな」
「今までにも十分時間はあったと思いますが」カンナはそう言ったものの、軽く頭を抱えて何か考えだした。だがやがて諦めたようなため息をついた「はぁ、分かりました。先生には借りもあることですし今日は引き上げましょう。ざっくりと計算して今月末までです。それまでに公園から立ち退きしないのであれば我々も武力行使をせざるを得ません。レイヴンさん相手でも対抗できる火器を持っていることをお忘れなく」そしてカンナが何かを呟いたが距離が遠くよく聞こえなかった。「撤収!」とカンナが号令をかけると生徒たちは軍隊のごとく撤収していった。公安局が去った後の公園は嵐が過ぎ去った後のように静かになった。
「けっ、偉そうに」
「ですが武器が強化されていたのは事実です。何名か対戦車ミサイルを所持していたのも確認できました。モエ、あれはカイザーインダストリーの武器で間違いないですか?」
「だね。でもあんなケチなヴァルキューレが羽振りのいい買い物をするとは思えないんだけど」
「そ、そういえばさっきスポンサーって」
「リベート、かな」と先生は静かに言った。
「リベート?」
「それって割り戻しのこと?」
私には何のことかさっぱりだったので調べてみた。どうやら支払金額の一部を支払者に返す行為のことだそうだ。
「つまりカイザーインダストリーが支払金の一部をヴァルキューレに返すってことだよね。確かにそれならヴァルキューレでもあれだけの火器を揃えられるだろうけど……カイザーインダストリーがリベートをするメリットって何なのさ」
先生は自身が考えたことをみんなに話した。要点を言うならば、カイザーコンストラクションが子ウサギタウンの再開発を担っており、公安局がその協力をしているという事だった。
「なるほど。カイザーコンストラクションはカイザーインダストリーと同列企業です。再開発で得られる利益を見越して割り戻しを行ったと考えれば自然でしょう」
「でもそれって違反だよな」
『え、どうして?』
さっきの説明だと特に違反しているようには見えなかった。確かにリベートを調べているときに違反になる可能性があると書いてはいたが、現時点ではそこに違反している要素があるとは思えない。
「そうですね。市民に奉仕すべき警察学校が私企業のために動いているんですから」
依然理解できない様子の私に先生はまた教えてくれた。
「ヴァルキューレがリベート行為を行ったこと自体まずいんだ。そもそも特定の企業の仕事を手伝っちゃダメなんだよ」
『なるほど。なんとなくわかったような気がする』
「警察と企業が結託して市民を攻撃とか意味わかんねえな」
『あ、わかりやすい。それ今一番分かりやすかったよ』
「わ、私たちもいろいろ言えない立場だけど」
「もちろん推測の域は出ないよ。証拠が無いし」
「そうですね。カイザーインダストリーとの取引記録があれば確実なんですが」
「ヴァルキューレってローカルサーバーでしょ? 外からのハッキングは無理だよ」
「どうやって取引記録を見つけ出すかだよな」
一同は頭を捻った。しかしなかなか案が出ない様子で誰も唸ってばかりで何も言わない。しばらく唸ったうえでミヤコがぽつりと言った。
「ヴァルキューレに潜入すれば取引記録を探せますよね」
「潜入って、お前正気か? 取引記録ってことはヴァルキューレの本館だぞ。あそこ何人いると思ってるんだ」
「し、支援があっても無理そう……」
「警察に通報すればよくない?」
「警察のことを警察に通報するの?」
「そうだった。どっちもヴァルキューレじゃん」
「ヴァルキューレでトラブルがあった時に操作できる上位機関……」
サキがそう呟くとミヤコ以外の全員がほぼ同時にあ、と呟き互いの顔を見合わせた。
「それが、SRTです。私たちなんです」
「そうだね。確かにそうだ」
「私じゃないと、他に解決できないか」
「で、でも今学校は無いし……」
ミユの発言ににわかに彼女たちの顔は曇った。しかし先生はそんな彼女たちに優しく声をかけた。
「君たちがそう信じるなら……いいよ。責任は僕が取る。だから行ってらっしゃい」
先生の発言に一同は呆気にとられた様子だ。しかしそれまでの訝し気な表情ではなく笑顔で答えた。
「変な人ですね」
「先生、本当に責任って言葉の意味わかってる?」
「本当にバカだったな」サキはそういうが表情にバカにしている要素は見受けられなかった。
「ふふ」
『分かった。先生がRABBIT小隊につくなら私も協力する。何でも使って、陽動、殲滅、受けた仕事は絶対にこなすから』
「ありがとうございます……私たちはSRT。キヴォトスの込み入った事件に真っ先に投入される特殊部隊」
「秩序維持のため、犯罪者を速やかに制圧し」
「可能な限り全火力を瞬く間に投下し」
「気づかれる前にその場を去る」
『おお、かっこいい』
「特殊部隊感出てるね」
「ヴァルキューレが私企業と結託し、不法行為を行おうとしている……正規の方法ではその実態は絶対に露わにはならないでしょう。まさにSRTが投入される事案です。皆さん作戦の準備を。これよりヴァルキューレの不法取引の証拠をつかむため、クローバー作戦を開始します!」
時刻は夜の二十三時半。ミヤコ、サキ、ミユの三人はヴァルキューレに潜入した。一方で私、先生、モエはヴァルキューレから一キロほど離れた場所で身を隠している。先生とモエは輸送ユニットの中でミヤコ達の様子をうかがっていた。私の役割は証拠を確保したミヤコ達を回収し素早く撤退することだ。
「こちらRABBIT1。現在時刻二三三〇。現着。哨兵の姿は無し、廊下の向かいに監視カメラ確認」
「こちらキャンプRABBIT。その監視カメラはハッキング済みだから進んで大丈夫」
「流石モエちゃん。仕事が早い」
「ふっふっふ。これくらい朝飯前……と言いたいことだけど、どうやら一定時間ごとに乱数コードが変わるみたい。持って三十分ってところかな。作戦は三十分以内に終わらしてね」
「三十分以内だな。了解した」
「こりゃヴェリタスの副部長だな。相変わらず面倒なもの作りおって」
「にしても静かすぎる。仮にも本館なのに警備が誰もいないってどういうことだ」
「大丈夫だって、安心してよ。三十分は確実なんだから」
「違う、お前に言ったんじゃない。ヴァルキューレに言ったんだ」
『案外警備がガバなところってあるもんだよ。私だって暗殺したことあるもん』
「ACが侵入してバレないって相当だな」
「まあとにかく、目標のクローバー、ポイントSは地下三階にある。一応警戒して西側の通路を使って」
「せ、先生は?」
「今回は作戦が作戦なので無理やり置いてきました。場合によっては銃撃戦にもなりますしそうなった場合先生を守りながら戦う余裕はありません。そもそも訓練していない先生では私たちの動きについて行けないでしょう」
「レイヴンは別に陽動で使ってもよかったんじゃね?」
「非常事態になって普段と違う行動をとられると予期せぬアクシデントに見舞われる可能性があります。最悪クローバーの保管場所を完全にロックされる可能性もあるため通常通りに動いてもらった方が都合がいいです」
「ごめんね、役に立てなくて」
「まあ、ある意味いつものメンバーだな」
「そ、そうだね」
『申し訳ないね。人相手の隠密は流石に無理そうで』
「気にすんな。その代わり撤収の時には期待してるぜ」
「そうですね、私たち、だけで」
「どうした。何か問題でもあるか?」
「いえ、何でもありません。警戒しつつポイントSまで行きましょう」
それから時折ミヤコから報告が入るものの幸い見つかることはなかった。報告を聞きながらGPSの動く様子を見ていた。建物の角に着くたびに立ち止まり、するとミヤコからの報告が入る。「哨兵を確認せず。前方に進む」するとモエからも「フロアの監視カメラを全部ハッキングした。進んで大丈夫」と報告する。私と先生は何もできなかった。いや、まだ私には仕事がある。先生はただ待っておくことしかできないのだから一番むず痒いだろう。
そしてついに目的のポイントSに到着した。
元旦から大変なことになってしまいましたね。