シャーレ所属傭兵レイヴン   作:猫又提督

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屋内戦では角に気をつけましょう。角待ちはされていませんか? よく確認してから角を通りましょう。またしっかり音も聞きましょうね。


第34話

 保管庫に到着したという報告が入った。モエはさっきからずっと何かと格闘している。ミヤコ達は保管庫の前で感想を言い合っている。どうやら警備がいないらしい。サキがヴァルキューレでもないくせに警備の甘さを嘆いている。ここまでくると一種の同情までしてしまう。

 

「なあ、ところでどうしてここで立ち止まってるんだ? 入らないのか?」

「この保管庫電子ロック式なんです」

「今モエちゃんが頑張って開けてるって」

「まさかこの時間も三十分に入ってるのか?」するとすかさずモエが物申した。

「今急いで開けてるから急かさないで……これをデコードしたら……開いた!」

 

 数秒後にミヤコからも「開きました」と報告が入った。

 

「三分かそこそこかかったな。急いで探そう」

「うう、暗い」

「中は保管棚が沢山あるみたいですね。手分けして探しましょう」

「分かった。じゃあ私は右側から」

 

 それからしばらくの間、報告は無かった。ただ待つほかに無い私たちにとってはたとえ数分でも数十分のように感じた。今にも制限時間が来るんじゃないかとひやひやしていた。しかしそんな心配はサキの「あった!」という声で打ち消された。

 

「これだ」

「見せてください……確かにカイザーインダストリーとの取引記録です。先生の言う通り子ウサギタウンの開発計画が絡んでいたようですね。これさえあれば公安局を十分足止めできるでしょう。それではこれより脱出ポイントへ——」

「ちょ、ちょっと! 何してるの! 待って待って嘘でしょ!?」

 

 ミヤコの声はモエに上書きされてしまった。モエの声色的に何かしらのトラブルがあったようだが、私にはみんなの声しか聞こえないため一体どういう状況なのか分からない。

 

「ミ、ミユ。お前何した?」

「え、扉閉めた。見つかったらまずいと思って……」

「私が見ておくって言ったじゃん! なんでそこで不安がるかなー」

「ご、ごめんなさい」

「おいおい。これどうするんだ。完全に閉まっちまったぞ。ドアノブもなんも無いし、なんでドアストッパーとか挟まなかったんだ」

「う、うう。私なんてここにいなければよかった。SRTに入学しなければよかった。私なんて生まれてこなければ……」

「ミユ、そんなこと言わないでください。狙撃手は屋内活動に不慣れですから。むしろそれを考慮できなかった私の失態です」

「おい。誤魔化すなよ。ミユの失態であることに間違いはないんだ」

「ちょっと、今は誰が悪いとか言ってる暇ないでしょ。あと五分も無いんだよ。どうにかしてそこから出て」

「どうにかって言ったって……あ、この保管庫電子式なんだろ? それじゃあハッキングしたら開くだろ」

「電子ロック式ね。開けるのは手動だよ」

「うう……死にたい、逃げたい」

「み、皆落ち着いて」

「ミヤコなんかない?」

「仮にも小隊長なんだろ」

「ミヤコちゃん」

 

 全員がミヤコを当てにしている。正直ミヤコ一人に負わせるのはどうかと思うのだが。ここは一つ私が何か助け舟を出すべきだろうか。

 

「わ、私は、私にはこの状況を打破することができません。先生ならきっと何か手段があったのかもしれませんが今の私には何もないんです。私は私自身を信じることができない。私一人では何もできません!」

 

 数秒の沈黙があった。先生がぽつりと言葉を漏らす。

 

「ミヤコ、一人で背負わなくてもいい。ミヤコは一人じゃないよ。だから皆を信じてあげて」

「教範にはこんなシチュエーション載ってないから私には無理だ」

「こ、怖い任務ばかりだけどミヤコちゃんと一緒なら……」

「そもそも私はオペレーションで手一杯だし」

 

 だから、という言葉が三人分重なった。そして「ミヤコ、お願い」と言った。

 

「分かりました。改めて作戦を開始します。この先指示に気になる点があるかもしれませんがどうか迷わずに従ってください」

『私も何かするよ。武器は持ってる』

「はい。すでにクローバーは確保しました。いかなる手段を以っても必ず公園に戻りましょう!」

 

 再び一致団結し、ミヤコは作戦の説明を行った。モエに脱出ポイントまでの道順を詳しく聞き、そして私の待機場所を聞いた。それを了解すると二人に作戦の内容を話していた。それは単純明快、強行突破だ。

 

「詳しい説明はまたその際に。今は一先ず時間がありません。位置について待ち伏せしてください」

「うん、分かった」

「頼んだぞ」

 

 

 それから約五分間音沙汰は無かった。作戦を開始するときは向こうの方から知らせてくれるという。

 

「警報が鳴った」とモエが知らせてくれた。一応これで直に作戦が始まることは分かった。私も場所を移動した。少しだけ開けた場所に移動するとビルの合間にヴァルキューレの本館が見えた。一キロも離れていてはその警報は聞こえなかった。

 

「行動を開始しました! これよりORPまで強行突破を行います!」

 

 ミヤコからの報告は突然だった。通信機越しに銃声が響き渡っている。

 

「了解。姿はこっちで捕らえられてる。監視カメラのハッキングはもう映像を共有させることしかできない。けどなるべく状況は知らせるよ」

「お願いします。RABBIT2は私と共に前進。RABBIT4は後方から支援及び狙撃手の排除を」

「了解!」

「り、了解!」

『支援射撃の準備は出来てる。いつでも言って』

「分かりました。その時はお願いします」

 

 その後もモエが行先を指示する声とミヤコが指示する声、そして二人がそれに答える声が聞こえ続けていた。

 

「地下二階東階段から三人、西エレベーターから四人来てる。その先のT字路で合流するはず。スナイパーがそれぞれ一人ずつ」

「了解です。RABBIT2、私と共に東側を、RABBIT4は西側の敵を攻撃してください。最優先目標は敵狙撃手です。カウントダウンと共に発砲を開始してください。モエ、カウントダウンを」

「合流まで五、四、三——」

「二、一、撃ち方始め!」

 

 コックピットの中に通信機越しの発砲音が広がった。そしてその発砲音に交じって僅かに悲鳴のようなものが聞こえる。

 

「リロード」

「敵狙撃手撃破」

「前方に移動してください。制圧射撃を行います」

「一階から増援が来てる。今のうちに地下一階か地上階まで上がったほうがいい」

「スモークグレネードを投下する。その間に駆け抜けよう」

「了解」

 

 通信機からは絶え間なく音声が発せられる。きっとヴァルキューレ内部も大騒ぎになっているだろう。一方でこちらはとても静かだ。何一つ音がしない。誰一人として歩いてない町の音などマイクは拾いやしない。耳鳴りでも聞こえてきそうな静寂と騒がしい通信機の音声をBGMに私は虎視眈々とハンドガンを構えていた。

 

 三人は順調に階を登っていた。地上階に上がり、また敵を待ち伏せしているときのことだった。

 

「まずい、装甲車と増援が大量に近づいてる。これが本隊かも」

「屋内に装甲車!?」

「装甲車は流石に貫けないよ」

「レイヴンさんお願いできますか」

『了解、任せて』

「詳しい場所を送るよ」

 

 直後マップにピンが刺されたものがスマホに送られてきた。何の問題も無い。ピンは私が立っている方面にある。普通一キロ先を狙うなんてACでもやらないことだ。勿論そんな遠くのものなどロックオンできないのでマニュアルで照準する必要がある。が、相手は装甲車とは言えほぼほぼ建物を狙うようなものだ。

 

 じっくりと狙いを定め、私は引き金を引いた。静かな町に突然一つの轟音が鳴る。その音と共に発射された弾丸はまっすぐに建物へ着弾した。同時に通信機からも爆発音が聞こえた。

 

「ちゃ、着弾確認」

「銃声が止んだな。直撃したはずだ」

「装甲車と増援の多数の無力化を確認しました。今のうちに一気に駆け抜けてしまいましょう」

 

 三人は二階、三階と階段を登っていく。時折私の援護射撃を受けながらも、敵の本拠地にいるとは思えないほど順調だった。

 

「モエ、ヴァルキューレの室温感知器はハッキング出来ますか」

「それぐらい、カメラや金庫に比べれば朝飯前よ」

「数値を操作してください。誤作動を誘発させます」

「オッケー、数値はいくら?」

「摂氏九百度で」

『摂氏九百度っていくら?』

「そのまま九百度だよ」

『わーお。そんなことしてどうすんの』

「防火扉を閉めて敵を分断させます」

「あとC4にリチウムバッテリーをつけたものをいくつか撒いておいた。今頃ドカンだ」

「お、屋上まであとちょっと……疲れた」

「ミユ、頑張ってください。もう少しですから。この部屋を突っ切りましょう。近道です」とミヤコが扉を開けた瞬間に「止まってください」と言った。「敵がいます。あれはたしか生活安全局の」

「寝てるな。この騒ぎでよく寝られるよ。無視して通ろう」

「いえ。念には念を入れておきましょう。一応用意していましたし」

「さっきの誤作動で敵の増援はほとんど分断できてる。多少の余裕があるとはいえ早めにね」

「ミヤコちゃん、それってドーナツ?」

「買ったのか」

「こ、これはその前に先生から頂いたもので」

「聞いてないんだが」

「もしかして独り占めしようと?」

「一人で楽しもうとか言い趣味してんね」

「み、皆さんの分もありますから帰ったら一緒に食べましょう。今は作戦に集中を」

「そのドーナツで何するんだよ」

 

 その後しばらく物音が聞こえていた。そういや先生がドーナツを持っていったこともあった気がするな。昨日だったか一昨日だったか、いつかは忘れたけども。

 

『ミヤコは何してるの』

「ドーナツの下にダイナマイト置いて段ボール設置してる」

『それ大丈夫なの?』

「さあ、ミヤコが考えたなら何とかなるでしょ」

「対象が起きました」

「それマスタードーナツの限定ドーナツ。しかもマシュマロ入り」

 

 直後爆発が起こった。まさかあれで本当にうまく行くとは。流石ミヤコだ。

 

「まさか本当にうまく行くとは」

「私もどうかと思ったけど、ミヤコちゃんの命令だったし……でも成功だね」

「私としても賭けでしたし、きっと私以外の人が指揮を執っていても結果は同じだったでしょう」

「誤魔化すなよ。この結果はお前が考えたからこそだ。お前が最適解を出したことに違いはない」

「そうだよ。ミヤコの指示に従ったからうまく行ったんだ」

「ミヤコちゃんの指示に従ったから」

「その……前はいろいろ言って悪かったな。今のお前は隊長だよ。私が保証する」

「いえ、私だけの功績ではありません。皆と動いたからこそです」

「はあ……話の通じない奴だな」

「話が長くなりましたね。先を急ぎましょう」とミヤコが言ったがGPSは動いていない。

『どうかしたの? 動いてないみたいだけど』

「生活安全局の生徒がもう一人出てきました。ですが問題はありませんこのまま突破します」

 

 ミヤコの言う通り三人はそのまま突っ切っていった。後ろで発砲音が聞こえたが幸い命中はしなかったようだ。

 

 屋上を目前にしたことを確認した私はついに移動を開始した。待機地点から飛び上がり、ヴァルキューレを目指した。静かだと思っていた町中は次第に喧騒が目立つようになり、やがて本館に着いたときには鳴り響く警報と立ち上る煙で大混乱になっていた。屋上に着地すると三人が待っていた。

 

『お待たせ』

「いえ、迅速な行動有難いです」

「帰りは何の問題もなさそうだな」

「やっと帰れる……」

 

 三人の顔には安堵の表情が見えた。そしてミヤコの手には例のクローバー、取引記録があるのも確認できた。私が輸送ユニットを下そうとした時、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「また貴様らか」

「公安局長……!」

「まだ扉のバリケードは破られてないはず。どうやってここまで?」

「外壁を登って来た」カンナはさも当然のように言う。

「嘘だろ、ここ十階以上あるんだぞ!?」

「公安局は犯人を捕まえるためになら何でもする。貴様らヴァルキューレに忍び込んでただで済むと思うなよ。貴様らはほぼ包囲されたも同然だ」

「はっ、レイヴンの姿が見えねえのか」

「確かにあれだけ言っておいてレイヴンさんが協力したのは予想外だった。だが言っただろう。対抗できる火器を所持していると。飛び立つ前なら十分可能だ。お前たちもあんな目に遭ったばかりなのに懲りないな。こんな犯罪まがいなことを起こして、今度こそ連邦委員会から学籍情報を抹消されるぞ」

 

 カンナの言葉に三人は全く動揺を見せない。それどころか堂々としている。そしてミヤコは手にしていた書類を突きつけながら言った。

 

「公安局長、そちらの犯罪行為についてはどうお考えですか」

「なぜそれをっ!?」

 

 一方でカンナはひどく動揺した。ミヤコが持っているものがよほどまずいものだと分かる。

 

「子ウサギタウンの再開発のため、放浪者の立ち退きに協力する。その報酬に火器を提供するという違法なリベートが発生していた、そうですよね。キヴォトスの治安を維持するヴァルキューレが私企業と結託して犯罪行為に手を染める。これは警察学校の理念に反する犯罪行為です」

 

 ミヤコは冷静に淡々と言った。そのせいなのかカンナは何も言わずに書類から目を背けて苦虫を噛み潰したような顔をした。そしてまた顔を上げるとぽつりぽつりと言葉を発した。

 

「そうだな。ヴァルキューレは公的な規則に則り、公正であるべきだろう。だがな、現実はそれほど公正ではない。貴様たちのように特権を使って無理やりにでも正義を貫ける訳じゃない。私たちが持っているのは所詮妥協に塗り固められたちっぽけな正義だ。手を汚さずに貫ける正義など存在しない。それが社会だ、現実だ。潔白な世界に憧れたガキどもに正義を語られる筋合いはない。一方的な強者が一方的な正義を語るな」

 

 カンナの言葉はずっしりと重く、暗かった。同時に彼女を取り巻く空気も重かった。それは彼女の見た世界がどれだけ理不尽であったのかを証明するものであり、また彼女の悲痛な叫びの様であった。

 

 私にはそれが言い訳のように聞こえた。実際言い訳だろう。だが、私はそれを咎めようとは思わなかった。彼女の言うこともまた事実だと思ったからだ。だから私は何も言おうとは思わなかった。言ったところで彼女には何も伝わらない。その代わり先生がユニットから降りてカンナに声をかけた。




正義を貫くのは難しいですよね。正義ってもう一方の悪ですから。今回だってRABBIT小隊はヴァルキューレの悪ですよ。
そもそもこれって公園の占拠を維持するための潜入ですし。
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