シャーレ所属傭兵レイヴン   作:猫又提督

39 / 76
誤字報告ありがとうございました。

ようやくいつもの更新ペースに戻せそうです。


第39話

 空から見ると、探し物は見つかりやすい。アリウスの生徒が誰かを追いかけているのが見えた。その誰かは以前トンネルの前で出会った時にサオリに肩を貸していた人物だ。ミサキとヒヨリのどちらなのか分からないが、まあ探していた人物の一人であるのは間違いない。

 

『見つけた。下りるよ』

「本当か!? ミサキか? ヒヨリか?」

『分かんない、下りてから確認しよう』

 

 さすがサオリは順応が早い。ACに乗った私と会話できる人は先生を入れても未だ少ない。だから多くの人は私と会話をする先生を見て、突然見えない誰かと会話しているように見えている。サオリはユニットの中で私と話しているメカニズムを説明したらすぐに理解してくれた。今サオリは先生のスマホに話しかけている。ふむ……ユニットの中でくらいモニターを用意した方がやりやすそうだ。今度ウタハたちに頼んでみよう。

 

 探していたスクワッドのメンバーとアリウスの間に下りたかったが、生憎そんなスペースはなさそうだった。仕方なく、アリウスの後方に下り、追いかける形にした。

 

 地面に下りた私にアリウスはすぐに気づいた。

 

「な、なんだ!?」

「あれは、前に話に上がったシャーレのロボット!?」

「い、いや、でも報告にあった姿と違うぞ」

「そもそもあれはエデン条約の時にミサイルで破壊したはず!」

「じゃあなんでシャーレのマークが描いてあるんだ!」

「くそ! お前とお前はあいつを追え! このロボットは私らで何とかする!」

 

 二人抜け出した。良く吠えるな。その人数で私を止めれると思ったか。いや、事前に知ってるならせめてもの時間稼ぎか。まあ遊んでやってもいいが、生憎今は時間が無い。折角だからエンジニア部特製、予算超過してまで作ってくれた『光の大剣(グレートノヴァ)』で一度に吹き飛ばしてしまおう……いや、これだとスクワッドのメンバーごと吹き飛ばしてしまう。幸い、この肩武器を受け取った際にハンドガンを交換してきたからこっちの弾数には余裕がある。次に訪れるころには弾の複製も終わっている、いやそろそろ終わっててくれないと困る。また被弾を押さえたり、無駄打ちしないようにしながら依頼をこなしたような日々を経験したくない。ああ、ウォルターの悲痛な呻きが聞こえてくるようだ……おっといけない。ここはキヴォトス、ルビコンではなかった。

 

 追いつくのが最優先だ。適当に撒こう。道が狭いこともあってか比較的集まっている。その中心部分に撃てば——

 

「う、うわっ!?」

 

 一度に全員を制圧することも可能だ。ヘイローは消えてない。あれでも死なないのか。キヴォトス人はつくづく頑丈だな。でも、そうでなければヘイローを破壊する爆弾なんて代物は開発されないだろう。

 

 少し足止めされたが問題は無い。すぐに追いつく。ただどこかで曲がったのか視線上には見えなかった。再び飛び上がると、すぐに見つかった。さっきの騒ぎで多少間が空いている。あれなら割り込める。

 

 私はスクワッドのメンバーとアリウスの間に下りた。両者は突然降りてきた私に驚き、足が止まった。

 

「も、もう追い付いたのか!?」

「ひ、ひいいぃぃ!? な、なな、なんですかこのロボットぉ!?」

 

 スクワッドのメンバーも足を止めてくれたのはありがたい。追う手間が省けた。追手にはさっさと退場してもらおう。

 

 一発撃つと片方は弾と一緒に吹き飛び、もう一人は着弾時の勢いに巻き込まれた。ヘイローが消えているが、さっきと同程度の衝撃だろうからただ気絶しているだけか。

 

「レイヴン、降ろしてくれ。そこにいるんだろ」

『ちょっと待ってね』

 

 私がユニットを下した直後、サオリはユニットから飛び出し、左右を見た後すぐに、スクワッドのメンバーへ駆け寄った。

 

「り、リーダー!? ど、どうしてロボットと一緒に……あ、そ、そのロボットってまさかシャーレの」

「やあヒヨリ、無事みたいで何より」

「せ、せせせ先生まで!? なんでシャーレの先生まで一緒にいるんですか!?」

「それは……」

「リーダーとうとう捕まってしまったんですか!? だから私のところまで……ああ、ついに天罰が下るんですね。そうですね、先生はアリウスから私たちを取り返して自分の手で処罰を下したいんですよね。きっと私たちを噂の地下牢に連れて行く気なんですね。シャーレに反抗した子達のすすり泣く声が聞こえると噂のあの地下牢に!」

 

 はて、シャーレで過ごして数か月経つがそんな声は聞いたことが無い。地下牢があるという話も聞いたことが無いが。

 

『地下牢あるの?』

「そんなものないよ?」

『じゃあすすり泣く声は?』

「そ、そんなの僕も聞いたことないよ?」

『じゃあなんであんな噂立ってるの』

「なんでだろうねえ」

「うわぁぁぁぁぁぁん! もう終わりです! まだやりたいことも読みたい雑誌たくさんあったのに! リーダーもシャーレの先生に脅されているんですね!? リーダーも苦痛だらけの人生に……」

 

 なんだこの被害妄想激しめの奴は。最近似たような奴を見たような……ああ、そうだミユだ。あの子もなかなか被害妄想が激しかったがこっちは随分と騒がしい。

 

「ヒヨリを助けに来たよ」

「え、私をですか? そ、そのロボットさんも? え、どうしてですか? もしかして、記憶喪失とか……私たちのこと忘れちゃったとか?」

「先生の言う通りだ。シャーレの先生が私たちを手助けしてくれる」

 

 サオリがそういうとヒヨリはまだ信じられないっといった様子で私たちとサオリの顔を何度も見返している。

 

「事情は聞いたよ。アツコを助けに行こう」

 

 ヒヨリの顔は驚愕からだんだん落ち着いて、少し俯き顔になった。

 

「そうだ、姫ちゃん。私たちにアツコちゃんが救えるでしょうか」ヒヨリは俯いたまま黙った。そしてもう一度怯えたような目でサオリを見た。「私は、リーダーの居場所を教えたら、アリウス自治区に戻れるよう便宜を図ると彼女に言われました」

 

 サオリの動きが止まった。その腕は僅かに震えているように見える。

 

「私はリーダー指示に従ったっだけの存在だから、情状酌量の余地があるのだ、と言っていて……へへ」

「そうか、ならそうするといい」

「サオリ……」

「えっと?」

「彼女に私の居場所を答えて、お前はアリウス自治区に戻れ。そうすれば少なくともお前には迷惑が掛からないだろう」

「え、いや、私は!?」

「いつかこんな日が来ると分かっていた。今まで私について来てくれてありがとう」

「ええと、その、もう断ったんですけど」

 

 サオリの動きは再び止まった。今度は腕の震えすらない。

 

「え、なんですかその裏切り者に理解を示すムーブ。私ってそんな簡単に裏切ると思われていたんですか」

 

 見た目や言動は味方を売ってでも生き残りそうなやつに見えたのは私だけだろうか。

 

「そもそも彼女の話が本当かどうかわかりませんし、リーダーとはもう運命共同体みたいなものですし、一人でアリウス自治区に戻ったって意味がないというか……わ、私も、皆でアツコちゃんを助けられるなら、そっちの方がいいと思うんです。リーダーもそうじゃないんですか? だから私を助けに来たんですよね?」

 

 技研都市で会ったあの詐欺師よりよっぽど義理堅いな。それほどサオリが慕われているという事だろう。いやでも、ミシガンも結構慕われていたな。じゃあやっぱり個人の問題か。あと今の状況だと、サオリが冷静さを欠いているのが分かった。ヒヨリの言う彼女、ベアトリーチェの言うことが信じられないのに、サオリはヒヨリたちの保身の話にほいほいついて行こうとする。私は今のサオリが少し危なっかしく感じた。なんだか、あまり自分を大切にしていなさそうだ。

 

 サオリはヒヨリの言ったことに少し遅れてから返事をした。

 

「ああ、そうだ。詳しい話は全員集まってからにしよう。まずはミサキを探さなければ」

「そうですね……ミサキさんならこの状況をもっとうまく説明できるでしょうし……ミサキさんのいる場所には心当たりがあります」

「そうだな、恐らくあそこだろう」

『場所が分かるなら話が早い。早く乗って』

「だって」先生がスマホをサオリに見せた。

「ああ、了解だ」

「え、あ、あの? リーダー? 一体誰と?」

 

 サオリたちが案内したのは長い間放置されていたという橋だった。大層な橋だ。この地域の惨状の割には立派すぎる。昔は多分栄えていたのだろう。

 

 私は橋の真ん中あたりに下りた。そこにミサキと思わしき姿が見えたからだ。

 

「め、眩暈がするような高さだね」

『いつももっと高いところ飛んでるでしょ』

「ユニットの中と外じゃ全然違うよ……お、落ちたらひとたまりもなさそうだ」

 

 先生は橋の下を覗いて体を震わせた。そんな先生に誰かが言葉を繋げた。

 

「そうだね。下の川は水深五メートル以上はある。流れも速いから落ちたらあっという間に流されるだろうね」

「ミサキ」

「ミサキさん」

 

 先生が覗いた側とは逆側に立っていた。それから順にサオリ、ヒヨリ、先生、そして私へと視線を動かした。

 

「リーダーにヒヨリ……それにシャーレの先生とロボットか。なるほど、そういう選択なんだね。まさかリーダーが、ね。先生もそれを受け入れたんだ。どちらにせよ予想外だったな。でも先生、知ってる? 私たちは先生を始末すればアリウス自治区に戻れるんだよ」

 

 私は少し身構えた。引き金に指を回し、いつでも撃てる状態に。

 

「リーダーとヒヨリも同じ提案をされたはずだよね」

「ああそうだ。先生を始末すれば私たちの裏切りを許すと」

「私が受けた提案は少し違いましたけど」

 

 裏切り? サオリたちは失敗したから切り捨てられたのではないのか。裏切りとは、一体。サオリが先にアリウスを裏切ったという事か? アズサと同じように? いや、だとしてもサオリは仕事を続けた。失敗したとはいえ役目を全うした。なら、始末される前に自ら離反したという事か。この場合、私はサオリを軽蔑するべきか? いや、先に見限られていたのならむしろ生き残るための裏切りは褒めるべきか? 私だったらどうだろうか。ウォルターに見限られ……た場面が全く想像できない。無いな、ウォルターは絶対私を切り捨てない。失敗したからと言って始末しようとしない。つまりこれはあれだな。ベアトリーチェとかいうやつは手綱の握り方が下手だ。

 

「危ないミサキ! それ以上動いたら!」

 

 私が考え事をしている間に状況は変化していた。ミサキはいつの間にか手すりの上に立っている。まさか飛び降りるつもりか。

 

「黙れミサキ」

 

 おっと、なんだか知らない間に険悪になっている。ヒヨリがおどおどした様子でサオリとミサキを何度も見ている。

 

「それで? 苦痛だらけのお前の人生も安息を迎えたいという事なのか? そんな脅迫が私に通じると、本当に思っているのか? よく聞けミサキ。もしお前がここから飛び降りるなら、私もすぐにお前の後を追って飛び降りる」

 

 後追い自殺か。いつの間にそこまで話が進んでいたんだ。仲間思いが過ぎるぞ、サオリ。取り残されるヒヨリのことも考えるべきだと思う。

 

「服の中に重りを仕込んでいても無駄だ。すぐに岸まで運ぶ。そこまで長くて二十秒。もしお前が気を失っていたら何度でも心肺蘇生してやる。お前が何度繰り返そうと、お前を生かしてみせる。何度も失敗しているのに、今回は成功すると思っているのか」

 

 なんだ、心中じゃなかったのか。私の早とちりだったらしい。それよりもさっきの発言だとまるでミサキが今まで何度も自殺未遂していることになっている。ミサキは以前会った時、まともな印象があったのだがまさかそんな死にたがりだったとは。

 

 サオリが言い放った後、静寂が残った。それから少ししてミサキは「まあ、自信は無いかな」と言って手すりから降りた。先生とヒヨリは安堵のため息をついた。

 

「で、結局姫を助けるんだね。いいよ、リーダーの命令なら従う。今回も最後までお供するよ、リーダー」

「ああ、頼んだ」

「はああー……何とかなってよかったです」

「そうと決まれば急ごう。残り時間はあと九十分しかない」

「そうか、零時まであと一時間半か」

『一時間半? 説明と違くない? 夜明け前までの話じゃ』

「説明は後だ。一先ず案内する場所に向かってくれ」

「リーダー? 一体誰と話してるの?」

 

 

 私はスクワッドと先生を乗せ、ヒヨリの案内の基、指定される場所に向かっていた。その道中、先生は先ほどミサキが言っていた残り時間に着いて聞いた。

 

「アリウス自治区に向かうにはカタコンベを通る必要がある。カタコンベの入口は判明しているだけでも約三百か所。その中にある本当の入口は限られた数しかなくて、後は全部偽物」

「もし間違った入り口に入れば永遠に彷徨うことになる。だから私たちは正しい入口と、そこからアリウス自治区に通じるカタコンベのルートを暗号で伝えている」

「カタコンベの内部は一定周期で変化するからね」

「内部が変化する?」

「そう。この前通った道が行き止まりになってたりあるいは方向を見失ったり、そんな感じになっちゃう」

『方向を見失うのはともかく、道が行き止まりに変化するって、ゲームじゃないんだから。現実でそんなことが起こるとは思えないんだけど』

「でも実際にそうなんだ。おかげで今までアリウス自治区は誰にも見つからなかった」

「今の私たちはどの入口が本当の入口なのか分からないんです。もう暗号を教えてもらっていないので」

「逃げ出した猟犬に、帰り道を教える必要は無いからな」

『猟犬!? 今猟犬と言った!?』私はその言葉に思わず反応してしまった。

「え、あ、そうだが?」

『サオリは猟犬なのか?』

「いや、ただのたとえ話だ。まあ、やってることを考えれば猟犬と言っても過言ではないと思うが」

『そうかそうか。うん、仲よくしよう。同じ猟犬同士』

「お、おう……ど、どうしたんだいきなり」

「レイヴンはね、前にいたところで猟犬って呼ばれてたというかそれを意識してた時があって、いたく気に入ってたらしいんだよ」

「犬になって喜ぶなんて変な奴だね」

「ま、まあ私たちも彼女に飼われていた犬ですから……始末されようとしてますけど」

 

 後ろで何か言われているが私には全く気にならなかった。それよりも私は同じ猟犬と呼ばれる人物がいたことがちょっと嬉しかった。




やったね、レイヴンちゃん! 犬仲間が増えるよ!(おいやめろ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。