まずは周りの雑魚から片付けよう。数を減らせば戦闘が楽になる。そう思ってバルバラの取り巻きを処理していたのだが、全く数が減らない。無限に出てきそうな勢いだ。全滅させるのは無理かもしれない。バルバラまで無限に湧いてきたら、どうしようもない。それは無いと信じよう。
ついにバルバラが発砲した。両手に持っているガトリングから想像した通り、濃密な弾幕だ。こちらが撃っても撃っても傷つく様子が無いし、あの弾幕の濃密さ。人が戦うには不利だ。私じゃないと有利に攻撃できない。流石に体力が無限にあるわけがない。外見上体力が減ってないように見えるだけだ。が、倒すのに弾数がいるならそれだけで厄介だ。こちらの弾薬は無限ではない。
目的を変えよう。奴を倒すのは諦めるべきだ。元々の目的はアツコを助けることなので、先生がアツコを抱えてきたらさっさと逃げればいい。勿論倒せるのなら倒した方がいいだろう。
私はバルバラが発砲しているところに体を出した。機体はガトリングの銃弾を受けても無事、ではなかった。APの数値が僅かずつ減り、スタッガーのゲージまで増えた。私は驚き、急いで柱に隠れた。当然こんなもので機体を隠しきれるはずはなく、手足に被弾し続ける。幸い手足ではたいしたダメージではないが、奴が回り込めばそうもいかない。私はたまらず壁を突き破り外に出た。
今まで銃弾を受けても全くの無傷だったので、今回もなんともないだろうと思ったが、流石にバルバラの持っているガトリングはそうはいかなかった。屋内だったので必然的に近距離で受けたのもあるだろう。こうして外に出れば射程外に出れるはずだ。
私は外でバルバラが追ってくるのを待った。少しして、バルバラが外に出てきたが自分の予想外なことに、他の取り巻きが外に出てきていないのだ。まさかミカの方へ行こうというのか。
最初に何人向かった。今何人の聖徒会がいる。全員向かったのか。それともバルバラ以外はさっきの部屋で待機しているのか。もしバルバラ以外の聖徒会が全員ミカの方へ向かったとして、ミカは対処できるのか。分からない、全く分からない。ミカの戦闘力は如何ほどだ。さっき戦った時、ミカは意外にも高い戦闘力を見せた。あの動きができるなら大丈夫か? いやでもミカが戦ってるのは屋内だから……屋内なら家具に隠れられるし……駄目だ。
『分かんない! 全員ぶっ倒す!』
全員始末すれば何ら問題は無いのだ。私は残弾数を確認した。その時、光の大剣に目が行った。ハンドガンでダメなら、これでやってやる。私は迷わず構えた。これにはチャージが必要だ。視界の片隅にやって来た銃口から、青い光が発せられた。それは光球となり、だんだん膨らんでいった。
以前、この肩武器を受け取った際にたまたまアリスがエンジニア部に遊びに来ていた。アリスが持っている光の剣を参考にして作ったこともあり、彼女から『光の大剣』という名前を貰った。アリス曰く、自分が撃つ時はある言葉を発しているらしい。だから私も真似をしてみると言いそうだ。その言葉は確か——
『光よ!』
その光はとても神々しく、太かった。私が知ってるレーザー類よりも倍はあったのではないかと思う。バルバラの全身を飲み込むには十分すぎた。強大な反動に、体勢を崩しかけた。数秒程度の照射の後、レーザーはだんだん小さくなり、最後は糸の様になって消えた。スクリーン上に『OVERHEAT』の文字が現れた。一発でオーバーヒートしてしまうとは、実用性が低いが浪漫はたっぷりだし、火力は目を見張るものがあった。後ろの校舎はレーザーの形に穴が開いていた。
照射された跡にはバルバラが立っていた。黒い煙を上げている。焦げたか。しかしヘイローは失われていない。消える様子もない。まだ生きている。
『嘘でしょ、あれでも死なないっての?』
正直ACでも、あれは当たり所が悪ければ一発でアウトだろう。当たり所が良かったのか、いやそもそも全身が飲み込まれたのに、当たり所も何もないだろう。奴の体力の底が見えない。だがしかし、全くダメージが無かったわけではなさそうだ。ふらふらとしており、私を狙う様子が無い。私は駆けた。ブレードを構え、バルバラを袈裟切りにした。実際はこのブレードで両断することはできないので、地面に叩きつけられる形となった。
力いっぱい叩きつけると、地面が割れ、バルバラは武器を両手から離した。反動で上がった手が地面に下りると、ついにバルバラのヘイローが消えた。しかし、体が消える様子はない。聖徒会は力尽きると、幽霊のごとく消える。体が残ったままなら、気絶しているという事だ。あれだけの攻撃を喰らってようやく気絶か。願わくば先生が戻るまでずっと気絶しておいてほしい。
私はミカを援護するべく、急いで屋内に戻った。懸念していた通り、バルバラ以外の聖徒会は全てミカの元に行っていた様だ。屋内へ入る時に廊下から湧いて来た聖徒会を二人倒した。それから部屋にいた五人を薙ぎ払い、ミカが逃げた廊下を覗いた。大量の聖徒会がいる。ミカの姿は無かった。私はハンドガンを廊下に差し込み、マガジン内を全て撃ち尽くした。光の大剣はまだオーバーヒートしている。
数回マガジンを交換したところで、ようやく廊下にいた聖徒会が全滅した。とはいえ休めるわけでは無い。未だ聖徒会は湧き続けている。無限に湧いて出てくる。このままでは先にこちらの弾薬が尽きてしまう。少し節約しなければならない。右手のハンドガンを銃と言うよりも鈍器として使うことにした。それと左手を主に使うことにした。ブレードを振り回して、クールタイム中はルビコン神拳を振り下ろす。
どれだけ戦っていたか分からない。空はもう朝陽が見えようとしているし、敵はほとんどこちらで引き付けているはずなのに、ミカは戻ってこない。聖徒会の数も減らない。平行線が続いていた。
弾を節約しながら戦っているとはいえ、そろそろ三十パーセントを切りそうだ。先生はまだ助けられてないのか。それと同時にミカが戻ってこないことが気になった。聖徒会はミカの元へ向かう前に私が全て処理している。だからここへ戻ってきてもおかしくないはずだ。
私は隙を見て、ミカが進んでいった廊下を覗いた。すると廊下の向こう、恐らくここと同じような部屋を聖徒会が横切っているのが見えた。何という事だ。全て処理していたと思っていたが、敵は反対側からも湧いていたのだ。
『くそ、あれじゃ結構な数がミカの方に』
今すぐにミカの元へ行くべきだろう。一瞬、前に古聖堂で会った異形の聖徒会が見えた。
しかしその時、横から多数被弾した。APの減り方とスタッガーゲージの溜まり方で、すぐにバルバラだと気づいた。とうとう目覚めてしまったらしい。前と位置が逆転しているが、私の後ろには光の大剣で開いた穴がある。そこからまた外に出て距離を取ればいい。実際に私は、その場から距離を取るように穴へ向かって外に出た。校舎程度の厚さなら体当たりで十分壊せた。バルバラは中に入って来たが、予想と反して私ではなくミカの元へ向かおうとした。光の大剣を喰らって、私にはかなわないと判断したか、先にミカを倒して数を減らす方に注力したようだ。
私は慌てて屋内に戻った。するとバルバラはそれを待っていたかのように私へ発砲した。私の反応から自分の攻撃が有効だと学んだのだろう。確かに有効であるが、ダメージは微々たるものだ。久々にダメージを受けたので私は大げさなリアクションを取ってしまったが、それが敵に自身を過大評価させたらしい。実際は一分ほど当て続けなければまともなダメージにはならない。
私は被弾しながらも、バルバラへ駆けた。奴は自分の攻撃を信じているのか動こうとしない。その慢心が命取りだ。私はバルバラを掴み上げると、そのまま地面に叩きつけた。そしてハンドガンを七発撃ちこみ、ブレードでも二回薙ぎ払った。最後に、四つん這いになってようやくクールダウンが終わった光の大剣を押し付けた。
『いい加減に死んでくれ……光よ!』
光球はレーザーとなり、至近距離でバルバラを飲み込んだ。直後、地面が崩れ穴へと落ちていく。光の大剣で床に円状の穴が開いてしまった。私はバルバラと共に、穴へ真っ逆さまに落ちてしまった。
着地したのは地下の、恐らくバシリカと呼ばれる場所だった。一目見て神聖な場所なのだろうと分かった。古聖堂に行った辺りでそういう建築の雰囲気は学んだからだ。地下にこれほど広い空間があるとは思わなかった。
「れ、レイヴン?」
その声で私の僅かな観光気分は現実へと引き戻された。周りには私を見ている先生とスクワッド、それとベアトリーチェの姿があった。
「なぜあなたが落ちてくるのですか? 私はバシリカの兵を呼んだはずですが」
『さあね、私にはそんな声聞こえなかった。届いてないんじゃないの?』
「いえ、今まさに兵がここへ集まろうとしているのです」
ベアトリーチェはやけに自信満々だし、先生たちは辺りを警戒している、それほどまでに彼女の発言は現実に起こり得るという事なのだろうか。まあ確かに、あいつらは無限に湧いてくるから、私が処理しなくなって数が増えているだろう。今にも大挙して押し寄せてくるかもしれない。
しかし、待てども誰も来る様子はない。代わりに何かの音楽が聞こえてきた。私は以前この音楽を聞いたことがある。記憶を遡ってみると、それはミカが檻の中で聞いていたものだ。
「この歌は?」
「これは……キリエだ」
「ミカ!」
「なりません!」キリエが聞こえてきた途端にベアトリーチェは慌て始めた。初めて彼女がペースを乱されるところを見た。「なりません! 私の領地で慈悲を語る歌を響かせるなど!一体どんな手段を? 楽器も蓄音機も全て破壊したというのに……まさか奇跡とでも? なりません! 生徒は憎悪を、軽蔑を……呪いを謳わなければなりません! お互いを騙し傷つけあう地獄の中で、私たちに搾取されなければならないのです!」
ベアトリーチェはヒステリックに叫び散らかした。それに対して先生は冷たく「黙れ」と言った。その一言だけでも普段の先生とは全く違う印象を受けた。
「何?」
「私の大切な生徒に話しかけるな。あなたは偽りの教育で生徒を騙した。私はあなたを絶対に許さない」
終始静かに語りかけた先生はきっと激怒しているに違いない。自分をないがしろにしてまで生徒を愛する先生が、生徒をないがしろにする当人を前に起こらずにいられるはずがないのだ。
「よ、よくも……良くも私にそのような言葉をぉぉぉおお!」
ベアトリーチェはまたヒステリックに叫んだかと思うと、だんだんその造形を変えていった。かろうじて人の姿をしていたのにそれすら捨てきってしまえば、ただの化け物だ。人型でなければ雀の涙ぐらいはあった罪悪感も無い。つまり快く銃弾を撃ち込める。
「ま、また変わり始めましたよ!?」
『うっわぁ、すっごい気持ち悪い。アイビスシリーズの足より細いよあれ。生き物として破綻してない?』
「ああ、そうだサオリ、あなたを新しい生贄としてささげましょう! 貴様が計画を台無しにしたのですから、貴様が代償を払うのです」
何を言っているんだと思った。自分から生贄になろうとするやつはいない。しかしサオリは「いくらでもどうぞ、マダム」と生贄を了承してしまった。思わず私はサオリの方を向いてしまった。ヒヨリやミサキも同じように思ったらしい。
「り、リーダー!?」
「何をバカなことを言ってるの!?」
「私にまだ払える代償があるなら、むしろ感謝したいくらいだ」
サオリはもう十分に代償を払ったと思う。これだけ払ってなお払い足りないと思っているのだろうか。しかし、話し合う時間は無い。
「さあマダム! 私はここにいるぞ!」
サオリは挑発までしている。急いで戦闘の準備をした。
全体的に細くなったベアトリーチェはまるで木の様だ。実際に木の枝みたいなものまで伸びている。となれば頭のあれは花だろうか。私の狙いは自動的に頭に向かった。あそこが一番狙いやすかったし、狙いたくなる造形をしている。真ん中に当たれば百点だ。
私はベアトリーチェの頭を狙って引き金を引いた。的が大きいとマニュアルでも照準がしやすい。弾丸は見事、頭の真ん中に命中した。ベアトリーチェは奇怪な悲鳴を上げてのけ反った。バルバラと戦った時よりも反応が大きい。腕で頭を覆っているし、相当痛かったのかもしれない。
私の中で一つの仮説が生まれた。私はその仮説を実証するため、ベアトリーチェに接近し、ブレードで薙ぎ払った。予想通り、片腕が飛んだ。ベアトリーチェは同じような悲鳴を上げる。これで私の仮説は立証された。異形と化したベアトリーチェはバルバラよりも、キヴォトス人よりも脆い。
『弱いね』
私は一言、そう思った。ベアトリーチェにもそれが伝わったのか、悲鳴とは違う鳴き声を上げた。私はそれに構わず引き金を引いた。残弾が少ないことをすっかり忘れて、何度も撃ちこんだ。
『右腕武器残り三十パーセント』
『しまった。残弾少ないんだった』
COMの声でようやく思い出した。私は代わりにブレードで薙ぎ払った。ベアトリーチェの体は三分割された。真ん中だけ異様に短い。光の大剣が使えれば即座に消し飛ばせていただろうに。余計な痛みを味合わせずに済んだろうに。私はとどめに、ベアトリーチェの頭に一発撃ちこんだ。彼女は動かなくなった。
振り返ると先生たちは呆然と私を見つめていた。
『終わったよ』
そう伝えてみたものの先生はスマホを見ようとしない。
『ほら、早くアツコを助けないと』
また振り返るとアツコは十字架に磔にされていた。やっぱり先生はスマホを見ない。誰も動かないので、私は仕方なくアツコが磔にされている十字架を折り、ヒヨリたちの前に置いた。
「あ、ひ、姫ちゃん!」
ヒヨリがようやく我に返り、声を上げた。その声に他の全員も我に返ったようだ。サオリたちは急いでアツコを十字架から解いた。マスクを外すと、アツコは目を閉じたままだ。見ればヘイローも浮いていない。しばらくアツコの様子を見ていると、彼女の頭にヘイローが顕現した。それからすぐにアツコの目が開いた。
実際ベアトリーチェってゲーム内でもバルバラより楽に倒せましたし、ヘイローも無いですから、あれだけ細いならパルスブレードで十分両断できるでしょう。