今回より時計仕掛けの花のパヴァーヌ編二章に入ります。
第47話
その日は珍しくシャーレの仕事が無かった。どういう訳か一つも仕事が舞い込んでこなかったのである。どうせ明日も仕事が来るだろうからと、前日までに先生が悲鳴を上げながら片付けたというのもあるのだろう。とにかくうれしい誤算により、先生にとっては臨時休暇ができた。
「あれ、なんか来た」
早速臨時休暇が終わりそうな予感がした。今にも先生のため息が聞こえてくるだろう。コーヒーぐらいは入れてやってもいいだろう。最近ようやくコーヒーメーカーマシーンを扱えるようになった。私は砂糖をたくさん入れないと飲めないが、先生は砂糖を入れなくても飲めるという。良く飲めるな。
予想していたため息が全然聞こえてこなかったので、一体何の連絡だったのか先生に聞こうとすると、先に先生の方から私に話しかけてきた。
「レイヴン、ミレニアムに用事とかあったりしない?」
『急に一体どうしたの』
「実はモモイから呼ばれてさ、具体的なことは分からないけど何か手伝ってほしいことがあるみたいで」
モモイ、というとゲーム開発部か。ミレニアムプライス以来モモトークでの会話は少しだけ続いたが、全然会っていない。先生にも連絡は取っていなかったんじゃなかろうか。
『へえ、珍しいね。まあいいよ。私もエンジニア部の所に行かなきゃいけないと思ってたし丁度いい』
きっと先生は私に送ってもらいたかったのだろう。私に送ってもらった方が早いし、交通費も節約できる。まるで足に使われているようだが、私が断れば先生はきっと電車を使ってミレニアムまで行っていただろう。実際先生が私を足として見ているかはわからないし、別にそれでも私は構いやしない。仕事を手伝って上げれない代わりにこういう所で役に立っておきたい。
私はすぐに準備をした。外に出て機体に乗り、先生が乗ったユニットを背負い、シャーレを飛び立った。
ミレニアムに到着すると、先生は私に一声かけてゲーム開発部の部室に向かった。私は私でエンジニア部の元へ向かった。
バンカーの前では、事前に連絡していたこともあり、ヒビキとコトリの二人が待っていた。
「お久しぶりです、レイヴンさん!」
「久しぶりだね。元気にしてた?」
『久しぶり。私は元気だよ。そっちはなんか変わりある?』
「いえ、特には。ささ、どうぞどうぞ!」
「ウタハ先輩もレイヴンが来るのを楽しみにしてたよ」
私は二人に進められるがままにバンカー内に潜っていった。部室の中に入ると、以前私が預けた片方のハンドガンや、ショットガンが置いてあった。そしてその横には巨大なコンテナが置かれていた。それらよりも最も目についたのは、エデン条約襲撃時に大破した私の機体と、その横に立っている謎の機体だった。
「やあレイヴン。待っていたよ」
『久しぶり』
「ああ、久しぶりだ。今すぐにでも話をしたいところだが、下りた方が互いにも話がしやすいだろう」
聞きたいことが盛りだくさんだったが、ウタハの言う通り、一度降りた方が話しやすかった。ユニットを置いてからリフトを展開させた。機体に乗っているときはあまり感じなかったが、地上に下りると以前より部室が狭くなった気がする。物が増えたからだろうか。
「レイヴン、こっちに」
ウタハに呼ばれるがままに向かった先は大きめのデスクだった。多分細かい作業をするんだろうなと思う工具や部品が置かれていた。その上には私を含めた四人分のコップが置かれていた。
「どうせなら何か飲んだりしながらの方が話が弾むだろう。何か希望はあるかな?」
『何でもいいよ。あ、コーヒーは砂糖が無いと飲めない』
「そうか、まあなら普通にお茶でいいだろうか」
『構わないよ』
コトリが何本かペットボトルを持ってきた。その内、お茶は私のコップへ、他にもジュースやら紅茶やらが並んだ。それぞれに飲み物が行き渡ると、ウタハたちも席に座った。
「さて、お互いに色々と話したいことがあるはずだが、どちらから話そうか?」
『私は後でいいよ』
「ならぜひ試作品の感想が聞きたい」
ヒビキが言う試作品とは、以前取り付けられた光の大剣のことだろう。アツコを助けに行った際にはその法外な火力に助けられた。
『いい火力だね。ルビコンでも通用すると思うよ。でも一発撃っただけでオーバーヒートするのはいただけないね。クールタイムも長すぎる』
「うーん、痛いところを突かれてしまいましたね」
「すまないな。今の私たちではそこの部分はどうしても解決できなかったんだ。解決しようとすると火力や照射時間を減らす必要がある」
「そこだけは妥協したくなかったの」
『全然かまわないよ。しょうがないのは分かったし、まさかキヴォトスでこんな武器に出会えるとは思ってもいなかったよ』
「レイヴンからそう言ってもらえるとは光栄だ。その問題、いつかは絶対に解決してみせよう」
『そういえば、光の大剣って予算超過したんでしょ? 大丈夫だったの?』
「はい! そのあとにコンクールや技術提供の功績で報酬やら賞金やら、セミナーからの特別予算もおりましたから」
「実は結構ギリギリだったんだけどね。でも後悔はしてないよ」
『ゲーム開発部とは大違いだね』
「そういえば先生はそっちに用があるらしいな。また面倒なことに付き合わされていないといいな」
『最近はどうなの、ゲーム開発部』
「特には。何か活動しているっていう話は聞かないかな」
「たまに何か相談しているところは聞きますね!」
「さあ、次はレイヴンの番だ。気になることがあったら何でも聞いてくれ」
『ふむ……それなら、まず一番聞きたいことなんだけど、弾の量産ってできた?』
「ああ、やっと量産できるようになったんだ。長らく待たせてしまって申し訳ないね。今日レイヴンが来ると聞いて急いで梱包したんだ。あのコンテナに入っているから後で持って行ってくれ」
見た時から薄々予想していたが、やっと補給ができるようになった。もう節約プレイをせずに済む。コンテナは見上げるほどの高さがあった。中にどれだけ入っているかはわからないが、ACでも両手で持つ必要があるだろう。今回は一先ずハンドガンの方を持って帰ろうか。
『助かるよ。今日はハンドガンの方を持って帰る。また後日にショットガンの方も引き取りに来るから』
「ああ。そうだ、こっちは申し訳ないんだがミサイルの方は多分無理だ。サンプルが一つも無いし、レイヴンの話を聞く限り私たちの技術力では再現できそうにない」
『いいよ。今の機体構成でもキヴォトスでは十分やっていける』
「代わりにドローンの方はちゃんと再現できるように頑張ろう。何なら追加機能も付けれるぞ」
『い、いや。そこまではしなくていいよ……因みにさ、あの機体って何なの?』
私は遂に例の、謎の機体を指さした。するとウタハたちは待ってましたと言わんばかりに立ち上がった。
「よくぞ聞いてくれた、レイヴン」
「今私たちが一番聞いてほしかったことだよ」
「聞いて驚かないでくださいよ。なんと私たちは今、ACの建造をしているんです!」
『ACの建造を?』
「そうだ。前々から、そう、初めてACを見た時からその野望は生まれていたんだ。ぜひACを自らの手で作りたいとね」
「でも簡単にはいかなかった」
「はい、レイヴンさんの機体を分析していくほど技術力の差を感じたんです」
「まあ廃墟で軽く弄った時から分かっていたことだ。キヴォトス外から来た技術だったからな」
「でも、レイヴンが機体を譲渡してから状況は変わったんだよ。より詳しい解析が可能になった」
「今までは下手に弄って壊してしまっては申し訳が立ちませんでしたからね」
「そうして出来上がったのがこの機体だ。きっとレイヴンの視点から見れば至らぬ点は多くあるだろうが、ぜひとも一度乗ってみてほしい。君からの視点が非常に重要なのだ」
軽い演劇でも見てる気分だった。三人の気迫に押されて私は二つ返事で了承してしまった。立ち上がって私の眼前にまで迫ってくるのだから、これで拒否でもしたら何を言われるか分かったもんじゃない。了承する以外の選択肢が無かったことは誰であっても分かるだろう。
「そうかそうか。嬉しいよレイヴン。断られてしまったらどうしようかと思った」
そんなこと言って、どうせ拒否したら何が何でも首を縦に振らせただろう。さっさと折れた方がこちらの心理的負担が減る。
「すぐにでも、と言いたいが、せっかくの茶会だから楽しもうじゃないか。私たちは別にトリニティの生徒会ではないがね」
茶菓子代わりに私の近況を求められた。幸いにも話のタネはたくさんある。公園で会った特殊部隊だとか、とある自治区からお姫様を救った話などだ。
茶会は至って楽しく進んだ。私の話は予想通り茶菓子の代わりになった。少しは他人に物を語るのもうまくなったかもしれない。
「じゃあ今でもコンビニに来るの?」
『ほぼ毎日来てるよ。お客さんが大体私と先生だけだからね。ソラも廃棄する手間が省けて嬉しそうだよ』
「シャーレにカフェが併設されてたんですね。私今度行ってみようと思います!」
『いいんじゃない? 知名度あまりないから空いてるよ。まあ知られたら皆行きそうだけど』
「先生もよく行くんでしょ?」
『仕事がひと段落着いたら行くこともあるかな』
「じゃあ先生と会えるチャンスが増えたってことだね」
「話は変わるが、あのニュースは丁度私も見ていた。巨大なロボットと聞いた時点で予想していたが、やはりあれはレイヴンだったんだな」
『まあ、分かる人にはわかるよね。シャーレに特に何も苦情は入らなかったけどね』
「そうか、私も少し心配していたが特に何もなかったのなら良かった……さて、じゃあそろそろ始めようか?」
ウタハが不敵な笑みを見せてそう言った。それに合わせてヒビキとコトリの二人も席を立った。
「さあレイヴンさん! こちらへどうぞ!」
コトリが腕を上げてあの機体に案内した。私は大人しくコトリについて行った。
その機体は何というかゴツかった。あと身長も低い。真新しさで何とか誤魔化せるものの言っては何だが、技研都市から逃げ出すときに使った用廃機に似ていた。
乗り込む用のリフトは普段私が使っているもので十分という事だった。あと、コックピットを開けるのに少しコツがいるとかでコトリがリフトに同乗した。リフトで上がり、機体の前まで行くと、コトリが前に立ちはだかり、コックピットがあるのだろう胸部を弄りだした。
「えっと……確かこれをこうして……ここを掴んで上げれば……開きました!」
コトリは両手で装甲を持ち上げた。とても重そうだ。コトリに通されて中を見ると、私が乗っているACよりも広かった。
『広いね』
「はい! 二人まではスペースに余裕ができるように出来ています!」
『二人まで乗れることに意味はあるの? まさか二人じゃないと動かせないとか?』
「いえ、ただレイヴンさんが操縦してもう一人、私たちのうちだれかが中で様子を見られるようにするためです! 今回は私が乗ります!」
『そういう事』
リフトのアームは乗る機体が違ってもちゃんと席まで私を運んでくれた。座り心地はあまり変わらなかった。
「じゃあこれつけてください」
コトリは頭上からヘルメットを下した。私が普段被っているものよりごつくない。私はヘルメットを被り、コトリに感想を伝えようとした。すると私の横のモニターが起動し、そこに文字が表示された。
『ここに表示されるんだ?』
「はい、後はいつも通りスマホの方にも。同乗者にはこっちの方が都合がいいですから。それじゃあ電源を入れてみましょうか。そこのボタンを押してください」
コトリが指さしたのは『始動/停止』と書かれたボタンだった。彼女の言う通りそのボタンを押すと、周りからファンの廻る音が聞こえだした。聞き慣れたCOMの声はしなかった。
操縦桿を握ろうとすると、コトリから待ったがかかった。
「ごめんなさい、起動してから動かすのにちょっと時間がかかるんですよ」
『え、嘘』
「ああでも、長時間じゃありませんから、ほら、せいぜい数十秒程度で」
コトリは前のスクリーンを指さした。人型の絵が映っており、五つの部位に分けられている。バーのようになっているのか緑色と数字がそれぞれ上がっていた。コトリの言う通り、数十秒で全て緑色になり、百パーセント表示になった。今度は操縦桿を握っても何も言われなかった。スクリーンにカメラも映し出された。普段より視点が低い。一先ず歩いてみるか。
今までのことから予想していたが、やはり動きがもっさりしていた。まあでも許容範囲内か。思ったよりかは悪くない。
「よし、そのまま外に出てくれ」
ウタハとヒビキが部室の外に誘導してきた。何時しかと同じように外で色々と動かすみたいだ。
外に出ると二人がコーンを並べていた。しばらくそれを眺めていると全て置き終わったのか私の方へ近づいて来た。
「あのコーンに沿って一周してくれないか」
『分かった』
操縦桿を前に倒すと、機体が小走りしだした。よく見れば操縦桿の間にはスピードメーターが設置されている。大体時速六十キロぐらいか。たしかACだと百キロは出ていたはずだからちょっと遅いな。
『これ以上は早くならないの?』
「できないことも無いんですけど、まだ安全性が確保できてなくて」
『確保できてないっていうのは?』
「レイヴンさんの機体を真似して、ブースターをつけてみたんですけど、点火すると姿勢制御がうまく行かなくて倒れちゃうんです」
『それは……致命的だね』
「はい……数秒だけなら耐えれるんですけどね。まあそれでもACの速度には程遠いんですけど」
コトリは肩を落としてしまった。私は何とか慰めてあげようと『走りは悪くないよ』と言ってみた。
「本当ですか!?」とコトリはすぐに元気を取り戻し私に顔面を近づけた。
『う、うん。スピードは遅いけど、それだけだし歩く分には全然問題ないよ。武器は持てるの?』
「いえ、それはまだ試していません」
「それなら今からでも試してみようか」
突然ウタハの声が聞こえていた。スマホからではない、スピーカーの声だ。前にはいなかったので横を向くと、なんとウタハが何かに乗って併走していた。
『何に乗ってるの?』
「雷ちゃんだよ。自動車に併走できるようにしたんだ。そんなことより一周したら早速試してみよう。武器の反動に耐えられるかは試していなかったんだ」
時速六十キロの風を生身で受け、かつ雷ちゃんから落ちないバランス力は驚異的だ。ウタハは結局私と一緒に併走しながら一周したのだった。
この機体が今後活躍するかは、ブルアカのメインストーリーの展開と、私の構成力次第ですね……
最初はACよりもかなりスペックダウンさせてたんですが、キヴォトスにも一応カイテンジャーがいるので少しスペックを盛りました。