武器の反動に耐えられるか試していた。まずは反動が低いであろうハンドガンから試した。いつも通り片手で持ち上げ、狙い、引き金を引いた。
『うわっ!?』
いつもより腕が跳ね上がった。そもそも、ハンドガンで腕が跳ね上がるなどということが無かったので、腕が動いた時点で、普段とは違う感覚がした。命中精度は悪くなかった。ちゃんと狙ったところに命中している。
「大丈夫ですか?」
『ハンドガンで反動を感じることなんてなかったから驚いちゃって」
「反動を無視させることも可能ですけど、それだとパーツに負荷がかかりすぎちゃいますので」
『いつもの感覚じゃ撃てないな。ショットガンが不安になってくるよ』
私は不安を感じながらもハンドガンからショットガンに持ち替えた。狙いを定めて、引き金を引いた。腕が大きく後退した。バランスを崩しそうになり、慌てて姿勢を戻した。
「あっ」
コトリが声を上げた。私が『どうしたの』と聞くと、「肩の関節部分にちょっとダメージが」と気まずそうに言った。
一度メンテナンスを行うため、機体から降りることになった。ヒビキがリフトと車椅子を用意してくれた。私は機体から降りた。
私は肩を弄られている機体を見ながら、使えないなと思った。移動にならまだ使えるが、武器の反動に耐えられないなら使用価値は無いと思った。でもそのまま伝えたら感じが悪いから伝え方を変えないといけないとも思った。
どうやったら傷つけずに使えない、と伝えられるか考えていると、後ろから突然私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「レイヴン!」
後ろから私の元へ歩いて来たのは、アリスと先生の二人だった。珍しい組み合わせだ。私は車椅子を回転させて応じた。
『久しぶりだね。どうしたのこんなところで』
「アリスは今、先生と冒険中なのです!」
『冒険?』と私は先生の方を見た。先生はこれまでの経緯を簡単に教えてくれた。
要はアイデア探しに散歩に出かけているそうだ。
「あれは何ですか?」
アリスが聞いたのは、きっとあの機体のことだろう。私は『エンジニア部が作ったACだよ』と言った。
「へえ、AC作ったの?」
『まあ、本物のACとは遠く及ばないけどね』
「現実は厳しいのですね」
『アイデア探しはうまく行ってる?』
「どうだろうね。僕にはどういうものがアイデアなのか良く分からなくって」
「冒険は一筋縄ではいかないのです。仲間と協力して苦難を乗り越える……それが冒険なのです」
『それじゃあ今の苦難はアイデアを探すことだね』
「あはは、そうだね」
『私のところに来たのは、私に話を聞くため?』
「まあ、そんなところかな。あとはあれが見えたから」先生は機体を指さした。
「英雄の過去を知るイベントですね! 昔は世界に名をとどろかせていた英雄が、今では人知れずこっそり暮らしている。勇者たちはそんな英雄の元を訪れ、過去のお話を聞くんです。そしてその英雄が昔使っていたという伝説の武器を手にするんです!」
『私は英雄でも何でもない。ただの傭兵だよ。まあそれでもいいっていうなら何か話すけど』
「ぜひお願いします!」
アリスは目をキラキラさせていった。話すとは言ったが、何を話そうか。もう血なまぐさい話しか残っていないし、それでいいか。
『ならず者を掃討した話、とあるACをこっそり撃破した話、本物のレイヴンの話』
「どれも面白そうです! 全部お願いできますか?」
『長くなるけどそれでもいいなら』
「おや、私たちに内緒で話かい?」
ウタハが後ろから声をかけてきた。ヒビキとコトリもこっちに歩いている。
『丁度私の昔のお話でもとね』
「それは興味深い。一体どんな話かな」
『人殺しの話』
私は正直に伝えた。もう別に言ったっていいだろう。初対面ならともかく、ある程度交流を持っているし、エンジニア部にはさわりだけでも話したことがあるはずだ。しかし、やはり場の空気は冷えた。笑顔だった皆の表情は真顔になる。
「れ、レイヴンは人を殺したことがあるのですか?」
『あるよ。たくさん』私は即答した。
「ど、どうしてそんなことを」アリスは心配そうな目で私を見ている。私から半歩下がった。先生の手を繋ごうとしている。
『それが仕事だったんだ。私ができる話なんて人殺しの話しかないんだよ。話をしてほしいと言ったのはアリスだからね。ちゃんと聞いてほしいな。先生もぜひ聞いて言ってほしい。今まで避けてきたけど丁度いい。私がしたことについて話すよ』
先生は覚悟を決めた顔をした。そんな顔など私は見たことないが、勝手に決めた。ヒビキとコトリが来るのを待ってから私は話を始めた。
さて、最初に話すのはならず者を掃討した話。これはあまり暗い話じゃないね。これは……そうだ、まず前提から。ルビコンじゃ、ならず者はドーザーって呼ばれてる。私がカーラの元へ訪れた時の話なんだけど、先生とアリスにはカーラを紹介したことが無かったよね。カーラは私の前のご主人であるウォルターと古い付き合いがあったんだ。だから私のことはすぐに受け入れてもらったよ。いろいろと試されることはあったけども。今回はその話じゃない。そのあとの話。実はウォルターに内緒でカーラの所に行ったからこっちが襲撃に来たみたいな状況になっちゃった。カーラがリーダーのドーザーが半壊して、その隙に別のドーザーが攻め込んできちゃった。
私はカーラの組織を半壊させた責任としてそのドーザーを撃退することになった。なんてことはない。相手は所詮コーラルに酔った、人を捨てかけたやつら。操縦の腕もたいしたことない。私にとっては雑魚だよ。ドーザーっていうのはね当然だけどまともな機体を持ってないの。でもね、攻めてきたドーザーはカーラたちが作った機体を持ってた。だから耐久性だけはあったよ。でも猫に小判、豚に真珠、使いこなせてるとは言えなかった。そんなものだからすぐ終わるよね。攻めてきたやつらを全部撃破しろって言われたから全員殺ったよ。奴らは第一自分が死ぬことなんて考えてなかったろうね。会話を聞いたら良く分かった。ACは時代遅れ、ドーザーでもそれは常識だったみたい。でもそんな時代遅れに為す術もなくやられたって考えると、面白いよね。
ドーザーの話はこれくらいかな。話してみると内容が薄いね。まあドーザーの話だしそんなものか。次は暗殺の話だね。これを話す前に、まず前提から。私は前々から言ってる通り独立傭兵だから、どこの組織の依頼も請け負う。ルビコンに来た当初は、二つの企業の依頼を受け続けた。それぞれベイラムとアーキバスっていう名前がある。ルビコンの現地組織を攻撃する依頼だったり、もう片方の企業を妨害する依頼だったり。ある時、敵であり続けたルビコンの現地組織から依頼が来た。名はルビコン解放戦線。アーキバスのAC部隊にいる何人かの隊長の内の一人を暗殺してほしいという依頼。ベイラムとアーキバスはもともとルビコンの外からやって来た企業だから、解放戦線にとっては、侵略者みたいなものなの。その二つの企業に加担してる私も、向こうから見れば侵略者と同義なんだけど、私は傭兵だからね、頼まれれば味方にだってなるよ。
話を戻そう。依頼を受けたはいいけど、実際現地に向かうと結構難しかったんだよね。当然ながらMT部隊が見張ってる。MTっていうのはACとはまた違う種類の機体だよ。今回は説明を省くね。今まで目標さえ破壊できれば過程は適当だった私には、今回の依頼はとても難しかったんだ。なにせ依頼は暗殺。当人以外に見つかっちゃいけないんだよ。こそこそ動くのは苦手だったんだよね。今まで見つかる前提で突っ込んで、そこにいる敵を全員殺ってたから。でも別に見つかっても目撃者を消せばいいって助言をもらってね、なるべく隠密して、見つかっても仕方がないときは突っ込んで敵を消して、針路上にいる敵は前もって倒した。そうすると、あら不思議。途端に簡単に思えるんだ。
最初に表示されたマーカーに向かってみたけど、そこには誰もいなかった。でもどこからか砲弾が飛んでいくのが見えた。助言もあって、私は砲弾か飛んできた方向へ移動したんだ。すると、誰かが何かと戦ってるんだよね。偶然にも、そこには暗殺対象がいたんだ。私は後ろからこっそり近づいた。そして切り捨て御免、みたいなノリでショットガンで一発撃った。勿論ACがショットガン一発で壊れるわけが無いからね、戦闘が始まるんだ。相手がね、これまた妙に機動力が高くて。四脚なのになぜかすばしっこいんだよね。だから私は仕方なく近づいて戦うんだけど、それはそれで相手の電気バトンが痛いんだ。知ってる? 電気バトンを喰らうとスタッガーゲージが早く溜まるんだよ。だから馬鹿みたいに近距離戦するわけにもいかなかくって……で、結局中距離で戦うことにしたんだよね。アセンは丁度、そこに掛かってる今はもうぶっ壊れた機体とほぼ同じだったから、肩のミサイルだけ違ったかな? 確かまた別のミサイルを背負ってたと思う。今思えば近距離より中距離が得意なアセンだったかもしれないね。それ以外は特段苦労しなかったよ。
順調に敵を追い詰めた。とどめを刺そうとしたところで、奴は私に提案を持ち掛けてきた。命を助けてくれれば、それ相応の礼金を払ってくれるって。まあ、私は傭兵だからこういう時に元の雇い主から乗り換えるのも自由。でもその時の私はそんな気分じゃなかったからね。所謂真面目モードだったから、雇い主を裏切る気はしなかったよ。それにね、相手の口調がなんか胡散臭くって、本当にお金を払ってくれるか怪しかったっていうのもある。
だから殺した。
最後はなんとも無様な悲鳴を上げたよ。面白いぐらいに小物チックだった。実際そいつは隊長格の中でも下だったし、実際小物だね。命乞いまでしちゃってさ。ああでも、私はそれを軽蔑するつもりは無いよ。誰だって命は惜しいからね。死にかければ生きたいと思うのは当たり前だから。でも悲しいかな、立場が上がるにつれて命を惜しむことが当たり前じゃなくなってくるんだよね。当然のように命を張ることを強制される。いやだね。だから私はそんなに偉くなりたくないよ。先生に命を張ってほしくないのもそういう部分があるのかもしれないね。勿論ただ先生が死んでほしくないっていうのが大部分だけども。
最後は……ああ、レイヴンの話か。自己紹介はちゃんとしたよね。私はレイヴンじゃない。C4-621、それが本当の名前。名前かも怪しいけどね。番号と言った方がいいかもしれない。レイヴンっていうのは私がルビコンに入った時に借りた名前。破壊されたACの名前を借りたんだ。そこで採用されたのがレイヴンだった。でもレイヴンっていう名前は複雑な事情があった。レイヴンっていうのは代々受け継がれていた名前だった。だから私とはまた別にちゃんとレイヴンという名前を受け継いだ人がいた。ルビコンに来てしばらくは出会うことが無かったけども、私の名が知られるにつれ、向こうにも私の存在が知られた。
あれは、確か惑星封鎖機構から奪った基地を防衛する依頼が来た時だったかな。惑星封鎖機構っていうのは簡単に言えば、企業の敵。だからこの依頼は企業から来たもの。確かアーキバスの依頼だったかな。依頼を受けて基地防衛に出向くと、やけに静かだった。現場に来てみれば、援軍のMTも敵の惑星封鎖機構も全滅していた。破壊された一隻の強襲艦の上に奴はいたんだ。そう、本物のレイヴンだね。見た目は、今の私の機体と一緒だよ。頭がちょっと違うかな。武器はよく覚えてないや。でも左腕にパイルバンカーを持ってたのは覚えてる。パイルバンカーって怖いんだよ。APが一気に削られるんだから。あまり当たることは無いけどね。
レイヴンは強かったなあ。まるで自分と戦ってるみたいだったよ。戦い方が似ててね。基本中距離なんだけど、スタッガーゲージが溜まるとパイルバンカーを引っ提げて、急接近してくるんだよ。怖いよ。あれをまともに喰らえば一発でお陀仏もありえるから。あー、久々に必死に戦ってたから逆に記憶が無いな。アサルトアーマーとか使ってきた時はびっくりしたな。こっちが近づいたら向こうがアサルトアーマーを展開しようとするんだから、慌てて下がったよ。あれ喰らったら逆に私がパイルバンカーを喰らって死んでたかも。
苦戦はしたけども死にかけはしなかったかな。必死に戦ってたから、トドメと言えるトドメを刺せなかった。中距離からライフル撃ってたら急に向こうが爆発を起こして、後は誘爆して、最後に大きめの爆発がドカン。それっきりレイヴンは動かなくなったよ。あの爆発じゃ中の人も死んだだろうね。
私は……そうだね。言ってしまえばコピーみたいなものなんだよ。もっと言えばドッペルゲンガー、最近知ったけどスワンプマンも近いんじゃないかな? 近くないかな。まあいいや。ともかく私はコピーでありながらオリジナルを殺し、オリジナルにとってかわった。オリジナルが死に、唯一のコピーが残ったのなら、そのコピーはオリジナルじゃないかな。とはいえコピーであるという事実は残る。レイヴンのオペレーターの言葉を借りるなら、私は借り物の翼で飛び上がり、借主を蹴り落とした。どこまでも飛び上がった。そして今あなたたちの前にレイヴンという皮を被って表れたんだ。いや、違うね。私は最初にありのままを晒した。それからいくつか被せる皮を提示したんだ。勿論何も被せないという選択肢も与えた。でもあなたたちはレイヴンという皮を選んだんだ。
別に恨み言を言いたいわけじゃないよ。しょうがないことだよ。だって私はその時、話さなかったから。いくつか提示した名前の中で、レイヴンという名前が一番名前としてしっくり来たんだからしょうがない。
さて、つまり私はレイヴンでありながらレイヴンではないんだ。レイヴンの名を奪ったただの強化人間。あなたたちはこの話を聞いて、まだ私がレイヴンに見えるかな。私はシャーレ所属傭兵レイヴンである前に、独立傭兵レイヴンである前に、旧型の強化人間C4-621だ。そして仕事とはいえ、多くの人を殺した大量殺人犯だ。もう一度聞くけど、あなたたちは今も私がレイヴンに見える?
先生たちはこれを聞いてどんな反応をするでしょうね。エンジニア部は少しだけ話を聞いたことが有るはずなので、そこまでショックを受けることは無いでしょう。アリスは……泣いちゃうかもしれない。