「レイヴンはレイヴンだよ。過去が消えるわけじゃないけど、少なくとも今のレイヴンは誰も殺してないだろう?」
『殺してないというか死なないんだよ。キヴォトス人が丈夫すぎるんだ。いつも殺す勢いで戦ってる』
「アリス、英雄の過去の話が聞けると思ってわくわくしていました。ですがそのお話が人殺しの話だったなんて」
『私が怖い?』
「そんなことはありません。レイヴンは見ず知らずの私達を助けてくれました」
『あれはまだ状況がつかめてなかったし、反射的にロボットを敵だと思ったんだよ。結果的に今があるわけだけどね』
「ではレイヴンは私たちでも殺すのですか?」
『頼まれれば、あとは私の気分が乗れば。傭兵とはそういうものだから。でも安心して、今のところはあり得ない。アリスとは仲が悪くないでしょ? それに今の飼い主は先生だから、私は先生の望まないことはしないよ』
「アリス、なぜ英雄が過去を語りたがらないのか分かったような気がします。英雄と言う名誉の後ろには、人には到底話せない過去がある物なのですね」
『だから私は英雄じゃないよ。むしろ……まあいいか。これでお話はおしまい。どう、面白かった?』
「面白いと言っていいのか分からないです」
『じゃあ、少しは参考になったかな』
「それは、はい。いくつか」
『ならよかった。先生にも少しは私の過去を知っておいた方がいいと思ってたから丁度よかった』
「レイヴンの過去がどうであれ、僕が知っているのは今のレイヴンだから。僕は今のレイヴンを見ているよ」
『それは嬉しいね』
「ではアリスたちは冒険の旅を続けます!」
「じゃあ、レイヴン、また後で」
私は手を振って先生とアリスを見送った。二人が見えなくなると、一緒に見送っていたウタハが声をかけた。
「リスキーなことをするね。あれで先生に拒絶されてたらどうするんだい」
『ウタハはさっきの話を聞いて、私を拒絶する?』
「今更だ。前に仕事の話は聞いたよ。今回みたいに詳細に聞いたのは初めてだけどね。理解するよ」
『じゃあエンジニア部でお世話になったよ』
「私たちのところで? まさか。私たちは歓迎してもセミナーから拒否されるさ」
『ACの技術を全面的に譲渡すると言われても? 私の機体を自由に弄らせてあげるし、ACの操縦まで教えてあげる』
「そ、それなら……むう。セミナーを何とか説得してでも」
『そこまで真剣に悩まれると、私も揺らいじゃうなあ』
「全く……冗談はよしてくれ。私でも肝が冷えたぞ」
『今、あんな話をしたら先生は一体どういう反応をしただろうと思ってね。好奇心だよ』
「好奇心は猫をも殺すぞ」
『私は犬だから問題ないね。それと、先生が思っている私と本来の私が乖離している気がして。先生が思っている私がどういう存在なのかはわからない。でも、違う気がしたの。いや、これは私が勝手にため込んでいたのかもしれない。今までまともに過去を話してなかったから先生を騙しているような気分だったんだ。一回ぐらいはちゃんと話して、その上で私と一緒にいてもらいたかった』
「なんだ、結局レイヴンはシャーレにいたいのか。少しは期待してたんだがな」
『おや、そうだね。なんだかんだシャーレは居心地がいい』
「あ、あの」
コトリが気まずそうに、声をかけた。私とウタハは彼女の方を向いた。
「メンテナンスが終わったので」
「ああ、そうか。よし、続きをしようか」
『続きって言っても、撃ったら腕が壊れるじゃん』
「片手はまだ無理だったようだからね。ここは見栄を張らずに両手で持って撃ってみようじゃないか」
『あれ両手で持てたかな』
私は再び搭乗した。同じようにコトリも搭乗した。おいていたショットガンを手に取り、ウタハに言われた通り両手で持ってみた。一つの武器を両手で持ったことが無かったので、どう持てばいいのか分からなかった。いろいろな持ち方をしていると、横からコトリが教えてくれた。
狙いはACと同じようなやり方らしいので、人間が撃つようにのぞき込む必要は無い。腰撃ちのような恰好で引き金を引いた。大きな反動が伝わったが、腕の損傷はない。実験は成功した。
「よかった。これならこの機体でも戦えますね!」
『MTぐらいにはなるんじゃないかな。ACほどではないなあ』
「そ、それはとうに分かり切っていたことです。そもそもこれはまだ試作機、それも一号機ですから。これからどんどん改善を施していって、いずれは完ぺきなACを作ってみせますよ!」
『期待しているよ』
機体の試運転は終わった。ただ私に乗ってみてほしかっただけの様だ。降りるとすぐに、私は意見を求められた。
「忌憚のない意見を求めるよ」
『はあ、まあ、じゃあ、まずACとは程遠いね。用廃機よりも性能が低いよ』
そういうと三人の肩がガクッと落ちた。もしかして忌憚のない意見の意味を間違えてしまったのか。私は急いでスマホで意味を調べたが、私の解釈と間違いはない。思ったことを素直に言っただけだ。
「ま、まあ私たち自身、テストをしていて感じていたことだ。しかし改めて言われると心に来るな」
「え、エンジニア部としてのプライドが」
『最低限飛べるようにならないと』
「最低限のハードルが高すぎます!」
『じゃあMT目指したら? MTは確か飛ばないよ』
「ACとMTの違いって何?」
『んー、専門家じゃないから詳しくは分からないけど、私が戦ってた感じだと、弱い、脆い、飛ばないって感じだったかな。あ、あと人型じゃない奴もいた。多かったのは首が無いやつとか、雷ちゃんを巨大化させたやつとか』
「話を聞いただけだとACの下位互換ですね」
『ACより強いMTもいるから、一概にそうとは言えないけど、大方そうだね。安いから』
「雷ちゃんみたいなMTがいたのか?」
『いたよ、もっと武骨だったけど、雷ちゃんの座席部分に武器を乗せてそのまま大きくした感じ』
「それなら作れるかもしれないな」
「いきなりACは無理だったのかもしれないね」
「となるとまずは簡単な機構からやってノウハウを積むべきでしょうか」
「ACより安価に作れると聞く、実際雷ちゃんを巨大化させるならそこまで費用は掛からない。試行回数も積みやすいな。ありがとうレイヴン。今後の目標が固まったよ。レイヴンの言う雷ちゃんみたいなMTを作ろうと思う」
『役に立ったみたいでよかった』
それから、先生が戻ってくるまで私たちはずっと話していた。新しい武器の案だったり、ルビコンにあった武器を再現できないかと、詳細を求められた。先生が帰って来たのはすっかり日が暮れたころだった。
ある日のこと、オフィスに珍しく先生がいなかったので、地下の方へ行くと、やはり先生がいた。大体オフィスにいなければコンビニか地下にいる。
先生は誰かと話していた。私は先生が話し終わるまで待っていた。会話の内容からは誰と話しているのか分からなかった。
『先生、誰と話してたの?』
「ああ、レイヴン。誰って、ヴェリタスだよ」
『ヴェリタス? 誰だっけ』
「ほら、ミレニアムのハッカー集団。レイヴンがキヴォトスに来てすぐの時に一緒に作戦で動いたでしょ?」
『ああ、あのハッカー集団。懐かしいね。最後にあったのは本当に何か月も前だ。で、そのヴェリタスが一体何の用なの?』
「何か見たことのないものを見つけたらしい。誰も見たことないから僕に見てほしいって」
『誰も見たことが無いものを先生が見たって、何もわからないと思うけど。それならエンジニア部に見てもらった方がいいんじゃないの?』
「まあせっかく呼ばれたし、レイヴンも来る? ピザが用意されてるかもしれない」
『ピザか……まあ、いいよ。面白そうだし』
私も先生に同行することにした。
ヴェリタスの部室に向かっている途中の廊下で、ゲーム開発部に出会った。
「あ、アリス、先生を発見しました!」
「あれ?」
「こ、こんにちわ」
「やっほー、先生。あ、レイヴンもいる! 久しぶり」
『久しぶり』
「どうしてここに?」
「やほ。ヴェリタスに呼ばれてね。モモイたちも?」
「うん、なんかマキが面白いもの見つけたって」
「もしかしたら何かしらのインスピレーションがもらえるかもと」
「今回は重要そうなイベントなのでユズも一緒です!」
「はい……い、いいアイデアのためなら……ここまで来るのは、すごく大変でしたけど」
『そこまで遠くないと思うけど』
「ユズにとってはここまで来るのも大変なんだよ」
『少しぐらい動けるようになった方がいいよ』
「う、うう」
「あともうちょっとだよ」
「うん、頑張ろう」
「ユズが倒れないよう、アリスがしっかり支えます!」
「み、みんな……ありがとう」
ゲーム開発部は仲がいい。私はその様を見せつけられた。
「じゃあ入ろうか」
先生がノックをすると、中から「はーい、どうぞー」という声が聞こえた。先生はドアを開けた。ヴェリタスの部室は、一度来た以来だったが、記憶と何も変わっていなかった。よく分からない高性能そうなPCやモニターがたくさん置いてある。
先生が中に入るのと同時にモモイとアリスが脇を通り抜けた。
「やっほー! お邪魔しまーす」
「途中で合流したパーティーメンバー、先生とレイヴンも一緒です!」
「レイヴン?」
ハレは先生の後ろを見て、納得した声を上げた。
「ああ、あなたか。久しぶりに見た気がするよ」
私は手を振っておいた。ハレは手を上げて私に応えた。
「間に合ったみたいだね」
「やっほー、久しぶり」
「やっほー」
なんだか今日の先生はやけにフランクだ。
「それでハレ先輩、例の物って?」
「ああ、それなら……これ」
ハレはその場から退いて、後ろに置いてあった例の物とやらを見せてくれた。それは奇妙な形をしており、ボールから二本の触手のような足とたくさんのコードが繋がっていた。それを見た私の第一印象は、タコのロボットだった。
「これは……どこにあったの?」
「これらは全て、ミレニアムの郊外で発見されたものです」
「これで全部じゃなくて、まだあと二十体ぐらいあったよ」
「なんというか見た目が」
『タコみたいだね――』
「深海魚みたいだよね――」
私とマキの発言が重なった。私たちは互いに目が合った。深海魚と言われれば、まあ確かにそう見えなくもない。
「タコ……まあタコと言われればタコのような気も」
「まあ、ロボットの様ではあるけれども」
「でもちょっと変だよね。ミレニアムで作ったドローンに、こんな形状のものは無かったし」
「個性的な形です」
「個性的と言うかなんというか」
その場にいた全員がロボットを見た。なんとなく生物チックな見た目だ。
「ええ……なんだかコメディ映画かと思ったら、急にホラー映画になったみたいな……何これ?」
「これって、本当にミレニアムで作られたロボット、なのかな」
そのユズの発言で、全員の視線が私に向いた。ルビコンのロボットだと思われたらしい。
『ルビコンでもこんな形のロボット見たことないよ。自走する破砕機なら見たことあるけど』
「ハレ先輩、これって今どんな状態なんですか? 頑張ったら起動させることができたり」
「私たちの方でも一通り調べてみたんだけど」
「結構綺麗な状態だったから、起動できるんじゃないなかなーて思ったんだけど、でも、結局何も見つからなかったんだ」
「というと?」
「調べた結果、電源ボタンも接続ポートも見つかりませんでした」
「それどころか、表面にはつなぎ目すらなかった。だから開けることができなくて、起動しない原因がソフトなのかハードなのか、そもそも故障してるのかすらわからないんだ」
ハレたちの話を聞いていると、アリスが例のロボットに近づいているのを見つけた。気になるようなので、私もアリスの後ろについて行った。
「だから先生を呼んだんだ」
「はい、もし危険物だったらシャーレに協力してもらおうと思って」
「そういう意味だと、ゲーム開発部を呼んだのはちょっと違う気がするけどね。あはは、まあついでってことで」
『アリス、私にもよく見せて』
アリスの背中が邪魔でロボットが見えなかったので呼びかけたのだが、アリスは気付いてくれなかった。アリスはじっとロボットを見つめていた。
「どう、先生。何かわかった?」
「いや、うーん、何もわからないなあ」
「やっぱダメかあ。先生なら何か分かったりするんじゃないかと思ったけど。レイヴンも見たことが無いんじゃ、多分キヴォトスの技術だと思うんだけど……やっぱり部長に聞くしかないのかなあ。確かオカルトとか詳しかったし」
「オカルトかぁ」
「もしくは副部長とか? 副部長なら情報見つけてくれそうなんだけどなあ」
「今ここにいない人の話をしても仕方がないですよ」
「ここにいないというか、部長は滅多に来ないけどね」
「あ」
アリスは唐突に声を上げた。まるで何かに気づいたかのようだった。モモイはアリスの声を聞き「何かわかったの?」と聞いた。
「アリス……これを知っています」
「アリスちゃん?」
アリスはロボットの何かを弄った。私からは背中が邪魔で何をどうしたのか分からなかった。しかし何かが押されたような音がした。仕方なく横にずれると、なんとロボットの電源が入っていた。
「え、電源入った!? なんで!」
「え?」
「え、なになに!?」
それと同時に何か音が鳴った。バイブレーションしている音だ。
「この音……お姉ちゃん、ゲーム機から何か音が鳴ってるよ?」
「え?」モモイはポケットからゲーム機を取り出した。「本当だ、さっきまで電源入ってなかったのに」
「待って、アリスちゃんの様子がおかしい」
アリスはロボットを起動してから動かない。私は心配してアリスを少し揺らしてみたが、なにも反応が無い。
「起動開始」
アリスは小声でつぶやいた。きっとすぐ隣にいた私にしか聞こえなかっただろう。すると、目の前のロボットと同じものが更に四機起動した。アリスの周りに集まり、浮遊している。
「え、え!? なんで、どうして!? コタマ先輩、何かした!?」
「いいえ、私は何も弄っていません。一体何が」
「気を付けて、何かおかしい」
『アリス?』
私はアリスに尋ねた。しかし彼女は何も答えない。光の剣を取り出した。私はもう一度彼女の名を呼んだ。
「これは一体何が?」
「コードネームAL-1S起動完了。プロトコルATRAHASISを実行します」
まるで別人のように、抑揚のない声で告げると、アリスは光の剣の銃口を私に向けた。
余談ですが、ヴェリタスの部室にピザは用意されていませんでした。残念でしたね、レイヴン。