翌日のこと、部室にいた私たちは突然の訪問者に取り乱すことになる。
「ちょっと、いる?」
急に入って来たのはツインテールの比較的清楚な服装を来た女性だ。太ももが太い気がする。訪問者のその声には呆れのような怒りの混じった多少余裕のある調子があったが、次の瞬間には目を見開き体を固めることになった。
「な、なにそのロボット」
『誰?』
「ユウカだよ。生徒会の役員」
私はウタハたちのお願いをかなえるべくACに乗り様々な挙動を屋内でできる範囲で行っていたところだ。今は休憩中だ。ウタハは手をかけていたコンソールから手を離し、そのユウカという女性に近づいていった。
「どうした。何の用なんだ? そう言えばコトリがまだ戻ってきてないんだが」
ウタハが声をかけると機体をみて呆けていたユウカの顔は途端に戻った。そしてまた入ってきた時の表情に戻った。
「そ、そう、あんたたちに用があったの。昨日の件で話を聞きたいから来てくれるかしら。そこのロボットの近くにいる娘も!」
「質問に一つ答えてもらってないんだが。コトリはどうなっているんだ」
「今日一日反省室で謹慎……と言いたいんだけど今どっかの誰かさんのせいで修復でそれどころじゃないからあなたたちの話を聞き終わったら返すわ」
「それ、時間がかかるのか?」
「あなたたちがこっちの質問に快く答えてくれれば早く終わるわ」
「しょうがない。ヒビキ、行こうか。レイヴン、すまないがしばらく待っていてくれないか」
「は? 誰レイヴンって。エンジニア部にそんな名前の娘はいなかったはずだけど」
「あの機体のパイロットだ」
「あれ人乗るの?」
「当たり前だ。あんな巨大なロボットを無人で動かせるわけないだろう」
「もしかしてだけど昨日から散々目撃されてる巨大ロボットってまさか」
「ああ、たぶんあれのことだろうな」
「昨日メイド部を妨害したっていうロボットも」
「ああ、あれだ」
ユウカはその言葉を聞くとわなわなと震えてゆがんだ笑顔を見せた。放った言葉は震えており感情を押し殺しているのが察せられた。
「昨日からね報告がすごいの、ロボットが学園内を歩いてるって。でも一番原因が予測できるエンジニア部の予算報告書を見てもロボットを作っただなんて一言も書かれてなかったわ。で、報告の一つに廃墟方面から飛んできたっていうのがあったの。まさかあなたたち廃墟に入ってたりしないでしょうね」
さっきまで威勢の良かったウタハの目が少し泳ぎだした。
「あー、いや。入ってはないぞ」
「じゃあ、あれ何」
「あれはな……拾ったんだ。廃墟の近くで」
「ふーん。で、そこにいるパイロットさんも?」
「そうだ。一緒に見つけた」
ユウカがその言葉を信じたのかどうかは分からないがため息を一つ大きく吐いて表情をやわらげた。
「まあ、今はどっちでもいいわ。聞きたいのは昨日のことだし。でもそこのパイロットさんにもついて来てもらうわ。関係者なんでしょ」
ウタハがヒビキに目配せした。ヒビキは頷き私に「ごめん。巻き込んじゃったみたい」と言った。
『いいよ。大丈夫』
ヒビキにと一緒にリフトから降りてウタハの元までやって来た。ユウカは私を一瞥すると「あなたがレイヴン?」と聞いて来た。
『そうだよ。初めまして』
「なんで車椅子……ヒマリと一緒?」
「足に力が入りにくいそうなんだ。彼女は結構訳ありでね」
「まあ、その包帯だらけの格好を見るとそうみたいね。それに……キヴォトスの人じゃないみたいね。先生以外にキヴォトス外から来た人は聞いてないんだけど。聞きたいことが山ほどあるわ。ついて来なさい」
一同は部室を出た。昼間の学園は人が多い。道行く人々が相も変わらず私をじろじろ見つめてくる。そろそろこの目線にも慣れてきた。
『どこに連れていかれるの?』
「多分ミレニアムタワー。昨日向かった場所だよ。生徒会のセミナーがある場所だから」
昨日ACで向かった時は時間がかからなかったが歩いていくとミレニアムタワーまでは距離があった。大小さまざまな廊下を通り過ぎ、建物をいくつか通り過ぎた。何百人にも思えるほどたくさんの人とすれ違った。改めてミレニアム学園の広さを思い知った。
足早に通り過ぎた昨日と違ってのんびりと眺めると気づかなったことにも気づけるもので、例えばビルが乱立していたと思ったが、それはミレニアムタワーの周辺だけでそこ以外は芝生の広く開けた場所が点在している。遠くには謎のドームもあった。
『ここって広いね』
「キヴォトスにある学校はどこも広いよ。ミレニアムだけが広いってわけじゃない」
『ミレニアム以外にも同じようなところがあるの?』
「もちろん。私が知ってるのはゲヘナ学園に、トリニティ、あとは……まあたくさんあるんだ」
『へえ、そこにも行ってみたい』
「いつか行ってみるといいよ」
不意にできた楽しみを胸に四人はミレニアムタワーの入口まで来ていた。中に入ると人が忙しそうにしている。
『忙しそうだね』
「そうだな」
「誰かさんが派手に暴れたせいで後処理が面倒になってるのよ」
ユウカが私のモニターを見ていた。私は特に何も壊してないはずだ。暴れたとするならそれは先生たちでは? しかしそれを訴える暇もなくユウカはノンストップでエレベーターまで行き、何階かのボタンを押した。エレベーターが到着するとそこには瓦礫が散らばっていた。床には焦げたような跡もあり、おおよそ戦闘があったことを予測させるが、その廊下を人がさも当たり前かのように歩いているのは少し不思議に思えた。ユウカは何番目かのドアを開けて私たちに入るよう促す。
中は非常に簡素だった。時計と机があるだけ。窓も無い一見して何のための部屋なのかわからないような部屋だ。壁にパイプ椅子が立てかけられていたのでこれで座れと言うことだろう。
「じゃあ座って待ってて」
それだけ言ってユウカは一度部屋を出た。ウタハとヒビキはユウカの言う通りパイプ椅子を広げて机の一辺に座った。元々車椅子の私はヒビキの隣に位置どった。静かな部屋の中では時計の秒針が刻む音がよく響いた。窓がないせいで妙な閉塞感を感じる。時折外から慌ただしく走っているような足音がする。それと何かを話し合うような声。慌ただしい外と静寂な中、矛盾した空間がこの中で作られていた。
十分に感じられた一分が過ぎたころ、ユウカは幾つかファイルを持って喧騒を招き入れながら入って来た。ドアが閉まりなだれ込んだ喧騒はせき止められ再び静寂が流れる。ユウカも同様にパイプ椅子を広げ対面に座った。
「それじゃ今からあなたたちに質問するから」
ユウカはファイルから紙を取り出しながら言った。そして懐から一本ボールペンを出してノックした。
「じゃあまず、今回の騒動を引き起こした理由をそれぞれ言ってくれる?」
「先生の計画を聞いたとき私たちじゃないと遂行できないと思ったからだ」
「面白そうだと思ったから」
『頼まれたから』
ユウカは私たちの回答を復唱しながら紙に書いていった。「まともな回答がない」ユウカが静かにこぼしたのを私は聞き逃さなかった。
「じゃあ次、アリスが爆破した後のシャッター、あれは結局エンジニア部製のものだったの?」
「そうだね。エンジニア部製のものより低価格な高性能なものがあればそれを選ぶだろう?」
「はぁ、まんまと引っかかったわ」
「じゃあ指紋認証を書き換えたのもあなたたち?」
「いや、あれは私たちじゃない。私たちがやったのは隙を作ったところまで」
「じゃあ停電はあなたたちの仕業ってことでいいのね」
ユウカは質問の回答一つ一つを紙に書いていった。質問はウタハとヒビキに向けた者ばかりで私に対するものが無い。部室でACを見て驚いていたあたり、私の存在を知らなかったのでそも質問することなどないのかもしれない。その後も質問は続きまるで私などいないかのような質問答が繰り返されること約二十分。「じゃあこれが最後」と前置きしてユウカの目線は私に向いた。
「騒動の後全員を回収したのはあなた? タワー内でいくら待ち伏せしても先生たちは来ないし、ウタハたちもロボットが回収していったってメイド部から聞いてるんだけど」
『言っていいの?』
私は一度聞いた。ウタハは「言っていいぞ」と言った。私はユウカに向き直り『私が回収した』と打ち込んだ。
「やっぱりそうなのね。先生たちはどこから?」
『保管所』
「保管所? 保管所って最上階の? どうやって最上階まで?」
『近くのビルから飛んだ』
「飛んだ……飛んだ? あれ飛べるの?」
『まあ、ちょっとの時間なら浮けるから。結構ギリギリだったけどね』
「飛べるんだ……まあ謎は分かったからこれでいいかしら。それじゃ今からあなたたちの処分を決めてくるからまたちょっと待ってて」
ユウカは紙をファイルに収めて立ち上がった。そして足早に部屋を出ていった。部屋にはまた静寂が舞い降りた。
「謹慎は避けられないかな」
ウタハが唐突につぶやいた。
「まあだろうね。結構派手にやったし生徒会相手だからね」
『そういえば結構べらべら話してたけど良かったの?』
傭兵家業をしているとときたま敵対勢力に捕まる人はいるが最後まで話さずに死ぬ人も多い。傭兵は自分の命最優先なので助かるなら話すこともあるが、まあ話しても結局殺されることも日常茶飯事だ。
「信頼関係が大切でね。正直に話しとかないと二度と生徒会の設備とか触らせてもらえないだろうから。前にも言ったけど生徒会のセキュリティには私たちも関与している。私たちはキヴォトス内でも指折りの技術者たちだからだ。だから信頼関係を失ってセキュリティに関与できなくなるのは双方にとって大きな損失になるんだ。まあ、あと私たちは心から生徒会に敵対するつもりは毛頭ないからね」
そういうことか。学生全員が銃を携帯し常日頃ドンパチしている世界にしてはなんだか平和だと思った。そういう所はうまくやっているらしい。
ユウカはまた二、三十分も時間をかけて戻って来た。そして彼女と一緒にコトリも一緒に入室してきた。
「皆さん! ご心配おかけしました」
「そこまで心配してないから大丈夫だよ」
「それよりも待ちすぎてちょっと眠気が出ている」
「え!?」
「おしゃべりは後でとりあえず、座って」
ユウカに諭されコトリはパイプ椅子を持ってきたが、生憎私たちの辺にはもうパイプ椅子を置くスペースはなかった。仕方なくコトリはその横に椅子を出した。
「それじゃあなたたちの処分を発表します。まずあなたたちは明日から三日間の謹慎。部室の入室も禁止ね。それとレイヴンとあのロボットについて。エンジニア部はあのロボットの所持を禁止します」
その言葉に珍しくウタハは焦りの顔を見せた。
「は、き、禁止って、じゃああの機体は一体どうするつもりだ」
「あれは生徒会が接収……と言いたいところだけどどうやらパイロットがいるみたいだしそれは出来ないわね。そもそも生徒会にあんな大きなロボット置ける場所ないし」
「あれはうちの所にしか置いておけない。禁止にしたら一体どこに置いておくというんだ」
「代わりにあのロボットおよびパイロットであるレイヴンはシャーレに所有権を委託してもらうこととします」
「つまり先生に渡すということか?」
「ええ、うちで預かれない以上どこかに受け渡す必要があるのだけど、先生たちから話を聞いた限り廃墟のロボットを簡単に破壊したみたいじゃない?」
ユウカは不敵な笑みを見せた。あれ、そういえばユウカは部室でウタハにそのことを聞いていたような。ウタハも気づいたのか苦笑しながら「最初からばれてたのか」とつぶやいた。
「勝手に廃墟に行った罰も含めての対処です。とにかく、あのロボットは戦闘能力を有し、それも高性能。下手に他学園に渡すと、特にゲヘナかトリニティに渡したら最悪戦争が起こりかねないのでシャーレに預かってもらうことにしました。何か異論はある?」
「まあ、先生のとこなら私から文句はないが君はいいのかい?」
『報酬の件は?』
「報酬? 何の話?」
「ああいや。エンジニア部を拠点として提供する代わりに生徒会襲撃を手伝ってもらってね」
「何それ。まあ拠点ならシャーレでも十分だと思うわよ。エンジニア部の部室より広いわ」
『代わりがあるならそれでいいよ』
「ユウカ、せめて機体の整備くらいは認めてもらえないか? 先生たちから聞いたはずだが、あれは廃墟で拾った私たちから見てもほぼオーバーテクノロジーだ。正直私たちでも手に余る代物だが整備できるとしたらうちのほかにないだろう?」
「そこはおいおい。それについては事実だろうからシャーレでロボットの有用性が示せたなら認めてあげるわ。それじゃ話は終わり。とっとと帰んなさい。私はまだ後処理が残ってるから」
ユウカはそう言って私たちを半ば追い出す形で外に案内した。見送りはタワーの入口までだった。
「すまない」タワーの外にでたウタハは開口一番私に謝った。「約束を果たせなくなってしまった」
『いいよ。代わりが見つかったわけだし。なにより楽しかった』
私は微笑んで見せた。ウタハも私の顔を見て多少顔が緩んだようだ。
「そうだ忘れてた!」突然後ろからユウカの叫びが聞こえた。振り返るとユウカがタワーの外にいる。「先生がエンジニア部の部室の前で待ってるはずだから」
それだけ言ってユウカは今度こそタワーの中に戻っていった。
「あまり先生を待たせるべきじゃないな」
私たちは足早に部室に戻った。