シャーレ所属傭兵レイヴン   作:猫又提督

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第51話

「名もなき?」

「アリスは……アリスは分かりません」

「そうですよ。勝手に脳内設定をしゃべらないでください! お姉ちゃんが良くそんなことを言ってたんで分かるんです。勝手にアリスちゃんに設定を付与しないで」

 

 ん、なんだ。一瞬本当のことだと思ったが、冗談なのか。こんな時にそんな冗談は合わない。

 

『慰めるならもっと別の方法があるはずだけど』

「み、ミドリ」

「ごめんなさい。配慮が足らなかったわね。もっと理解しやすいよう、貴方たちの好きなゲームで例えましょう。つまり、アリス。貴方は世界を滅ぼす魔王なの」

「アリスが、魔王?」

「またそんな変な設定をつけて……どうしてそんなことを言うんですか! 一体何を企んでいるんですか!?」

「企んでる? 私は何も企んでなどいないわ。寧ろ聞きたいのだけど、貴方たちは見たのではなくて? 不可解な軍隊とソレが接触したことで何が起こったのか」

「不可解な軍隊……もしかしてあのロボットのこと?」

「ええ、そうよ。本来はあんなことになる予定は無かった。完全に私のミスよ。C&CとAMASを通じてすべて監視していたと思っていたのだけど、まさか監視をかいくぐった個体がいたなんて。これに関しては私の不手際によるもの。謝罪をここに」

 

 そう言って、リオは先生に頭を下げた。それに対してミドリは困惑していた。あまりリオは謝るような人ではないらしい。

 

「でも、おかげで私の仮説は証明された。貴方たちが接触したソレは廃墟からあふれ出した災禍。ミレニアム、ひいてはキヴォトス全土に終焉をもたらす悪夢。そして、アリスの存在が奴らを廃墟から導いている事が証明された。今回は運よく壊れかけの個体と接触するにとどまったけど、次はどうなるか分からないわ」

 

 先生を含め、この場にいる者は誰もリオの言葉に反論しようとはしなかった。先生は一体何を考えこんでいるのだろう。アリスがまた暴走した時か、そしてその先までもをだろうか。だが、ネルが落とした際はすぐに気絶したし、気絶から戻った時にはアリスは通常に戻っていた。暴走する条件はその不可解な軍隊というロボットに接触すること。数か月間、暴走しなかったところを見るに、条件はその一つだけだろう。ならばロボットをアリスの元に近づけなければいいだけの話ではないか。ミレニアム中であのロボットを見つけ次第破壊するように命令でも何でもすればいい。

 

「この脅威を解決する方法は一つだけよ、アリス」

 

 アリスを監視下に置き、ロボットとの接触から防ぐことだろうか。協力者を募れば監視下で置いてもまともな学園生活を送れるだろう。

 

「解決、方法?」

「そう」

 

 しかし、リオの次の言葉は、私の予測とは全く違うものだった。

 

「――貴方が消える事。この世界に貴方は存在してはいけない」

「そ……んな」

『なにを言っているの?』

「当たり前のことよ。レイヴン、貴方の隣にいるのは世界を滅ぼす狂気のロボット。そんなものが存在してはいけないだなんて、至極当然のこと」

「アリスは……ただみんなと一緒に……勇者として、一緒に冒険を」

「貴方は果たして勇者かしら。私はゲームにあまり詳しくないのだけど、辞書的なことは知っている。だから質問させてもらうわ。貴方は己を勇者と言っているけれども、勇者とは己の友人に剣を向ける存在かしら? むしろあなたのやったことは魔王ではなくて?」

 

 アリスは言葉を詰まらせ、たまらずリオの顔を見た。リオは無表情でアリスの回答を待っていた。

 

「アリスちゃん、答えなくていい! 会長は前々から変な人だったと思っていたけど、まさかこんな人だったなんて!」

「せ、先生」

「リオ、やめて」

「やめる? なにを? 現実から目を背けるのは思いやりではないわ、先生」

「あ、アリスは……一体どうすれば」

「簡単なことよ。爆弾は安全な場所で解体すればいいの」

「ば、爆弾?」

「うまく伝わらなかったかしら。つまり、あなたのヘイローを破壊すれば済む話よ」

 

 全員がその言葉に固まった。リオが言うそれはつまり、アリスを殺すという事だ。この女は今ここでアリスを殺すと宣言した。私はたまらず反論した。

 

『あれをやったのはアリスじゃない』

「レイヴン、貴方は良く知っているでしょう。貴方は目の前でアリスが暴れたのを見たのでは?」

『間近で見ていた。一番近くで見ていた。だからこそ分かる。あれはアリスじゃない。アリスではない何者か、例えばウイルスのようなものだ』

「だから何だというの。ウイルスに感染したPCは捨てるべきじゃないかしら」

『直すべきだ。それが一般的でしょ。ほいほい買い替えるような富豪じゃないんだから。アリスは一人しかいない。なら殊更に直すべきだ』

「では一体どうやって直すべきなのかしら。私が今ここにいるのはその手段が無いからなのだけど、ぜひ教えていただきたい」

『そんなの私が知るわけないでしょ。私はそれをすべき立場にいない』

「無責任ね。自論を一方的に言って、それはただの我儘よ」

『じゃあ、納得させてみて。あなたは一体どれ程に探した。どういう経緯でアリスを消すほかないという判断に至った。全ての可能性を試したか。一人で勝手に決めたことなのか? 誰かに相談したのか?』

 

 リオは何も言わない。

 

『ミレニアムには優秀なハッカーとエンジニアがいるでしょ。あなたがその二つの集団よりも優秀だというなら、一人でそういう判断に至ったのも理解する。でもそれよりも乏しい知識で勝手に決めつけたのならばいただけない。なにより、お前は人を殺す覚悟があるのか。たとえアリスがロボットだとしても、キヴォトスでは人とそう変わらんだろう。人を殺したという事実は未来永劫、お前に付きまとうぞ。隠せるものではない。どこからか必ず漏れ出す』

「私の言動が気に食わなかったのであれば、謝罪するわ。昔から私のことが嫌いな人は多かったもの。それは私に問題があるという事なのだから。理解されなくても構わない。私は皆を守りたいだけ」

『その皆にアリスは含まれてないってわけ?』

「どうとでも言いなさい。これはもう決定事項。さあ、あなたの出番よ。美甘ネル」

 

 リオの陰からネルが出てきた。その顔は真剣であった。アリスのほか、ミドリやユズも怯えた顔でネルのことを見ていた。

 

「ネル……先輩」

「ネル?」

「悪く思わないでやってね。元々C&Cはセミナー……正確には、私直属のエージェントなの。そこに私的な感情は無いわ。ただただ私の命令に従うだけ。C&Cのリーダーであるネル相手ではいくら先生やゲーム開発部でも抵抗は出来ないでしょう。レイヴンのロボットも今はエンジニア部の元にある。ロボットを取りに行こうとしたり、外部に助けを求めるのも無駄よ」リオは指を鳴らした。するとどこかからか、大量のロボットが部室の前に集まって来た。「この周囲は、すでにAMASで掌握しているわ。救援が間に合うことは無いでしょう。さあ、仕事の時間よネル。アリスを確保して頂戴」

 

 リオの命令に、ミドリとユズは臨戦態勢に入った。私も加勢したいがACが無い、そして取りに行けないこの状況では何もできない。せいぜいアリスを庇うことしかできない。

 

 ネルはリオの前に立った。私たちはネルが行動を起こすのを待ったが、彼女はそれ以上何もしようとしない。しばらく待った挙句、彼女は「ふっ」と鼻で笑った。

 

「ネル?」

「くっそ、やってられるかよ!」

 

 ネルは反転し、リオに向けて発砲した。しかしAMASのロボットがリオを庇ったので無傷だ。

 

「ネル、一体何のつもり?」

「ネル先輩?」

「今までだって依頼内容を気に入ったことは無かったがよお……同じ学園の生徒を、しかもなんも分かってねえ奴を誘拐しろだあ? そんなこと、やってられっかよ。もうてめえに付き合う義理なんかねえぞ、リオ!」

「ここで裏切るつもり?」

「裏切る? ハッ! てめえの指示が気に入らねえだけだ」

「そう、そうなのね。ネル、貴方はいつもそうだった。自分の気分で命令を違反する姿、かんしゃく玉のようにいつ爆発するか分からない、それがあなたの長所であり、厄介なところだった。だからこそ、この状況も想定していたのだけど」

「ああ、んだって?」

「トキ、貴方の出番よ」

 

 ネルの後ろに誰かが立った。ネルはその存在に気づいていない。

 

「ネル、危ない!」

「ああ?」

 

 先生は咄嗟にネルに叫んだが、ネルがそれに反応するよりも早く、その生徒は足元にグレネードを落とした。

 

 爆発とともに埃や煙が舞い上がり、視界が悪い。私は腕で顔を覆った。

 

「だれだてめえ!?」

 

 ネルの声が聞こえた。無事なようだ。やがて煙が収まり、生徒の正体が見えた。ネルと同じようにメイド服を着た金髪の生徒だ。

 

「初めまして、先輩。そしてシャーレのお二方。C&C所属、コールサインゼロフォー。ご挨拶申し上げます」

「え、五人目?」

「C&Cって」

 

 つまりネルの仲間だという事だ。しかし、ネルの反応から見れば彼女のことは知らないようだが。

 

「背後から奇襲たあ、舐めた真似しやがって! 覚悟はできてるんだろうなあ!?」

 

 ネルはすでに戦闘態勢のようだ。廊下に出てしまったのか部室の中からは姿が見えない。リオの前に再びAMASが集結した。それからすぐに射撃音と、飛び交う銃弾が見えた。

 

 私たちはこの間に何ができる。今のうちに窓から逃げようか。いや、しかしネルが反抗するのを想定していたリオのことだ。窓から逃げた先にも何かしら配置しているに違いない。私たちにできることは何もない。仕方なく私は部屋の中からごく一部だけが見える戦闘を眺めていた。

 

 その戦闘が終わるのにそう時間はかからなかった。ネルはリオを守っていたAMASをすべて破壊し、部室に戻って来た。

 

「流石ネル。AMAS程度では貴方を止めることはできないという事ね。こんなことはしたくなかったのだけれど……トキ」

「イエス、マム」

「武装の使用を許可します」

「了解しました」

 

 リオの前にAMASの代わりにトキが立った。武装と言うがその手には何も握られていない。

 

「準備完了。モード2に移行します」

「ああ? 何をごちゃごちゃと――」

 

 トキの姿は間庭たちの間に代わっていた。少し身軽になったようで、武器らしきものも背負っている。そしてトキはネルの横に近づこうとした。ネルが撃つが、しかしトキには当たらない。また別の方向から近寄った。ネルは同じように迎撃するがやはりトキには当たらない。

 

「くっそ、ウロチョロと」

 

 何度か繰り返しているうちにトキの姿は見えなくなってしまった。

 

「あっという間に消えちゃった」

「一体どこに行きやがった!」

 

 ネルがあちらこちらを探すが一向に見つからない。その時、ネルの背後にトキが姿を現した。

 

「ネル先輩、後ろ!」

「なにっ――」

 

 ユズの警告もむなしくネルは羽交い絞めにされ、五発の銃弾を受けた。腕をきつく締めているのか、ネルが喘いだ。

 

「ネルがあっという間に」

「気づいたら、突然現れて」

 

 誰も先ほどの動きを捉えられてなかったようだ。かくいう私もさっきの動きは全く分からなかった。ミドリが言うようにトキが突然ネルの背後に現れたように見えた。

 

「くそっ! 離しやがれ! ぶっ壊されてえのか!?」

 

 ネルは暴れて抵抗するが、全く解けなかった。

 

「先輩、それ以上暴れると腕が曲がってはいけない方向に曲がってしまいますよ」

 

 その言葉にネルは少しだけ大人しくなった。

 

「皆さんも下手に動いて、抵抗しようとしないでくださいね」

「さあ、AMAS。アリスを回収しなさい」

 

 全滅していたと思っていたAMASが部室の中に入っていった。本当なら抵抗したいところだが、トキに何をされるか分からない。撃たれるものなら洒落にならない。私にはヘイローが無い。撃たれたら死ぬ。

 

「ちょ、ちょっとま――」

「抵抗しない方がいい」

 

 ミドリとユズがAMASを止めようとするが、リオの声が鋭く突き刺さる。

 

「無関係な子を傷つけたくない」

 

 それつまり、邪魔をすればたとえ私や先生でも排除するという事だ。

 

「やめて、リオ」先生がせめてもの抵抗に、リオへ言葉をかけた。

「それは私のセリフよ。私も対立などしたくないわ。貴方と敵対する気も、憎まれる気もない。むしろ貴方に聞きたいことがある。こういった事態において、シャーレの先生、貴方のような大人が真っ先に行動するべきではないかしら」

「それは、どういう」

「子供より感情に支配されず、冷静に状況を判断できる、そういった大人である貴方がまず働くべきだったのではなくて?」

「そんな、生徒を傷つけるだなんて――」

「いつまでそんな寝言を吐き続けるの!」リオは突然言葉を荒げた。思わず先生も口を噤んだ。「勘違いしないでほしいの。あれは生命体ではない。貴方が背負うべき生徒ではない。あれは世界を終焉に招く兵器。あれとキヴォトスの全生徒を天秤かければどちらに傾けるのかは明白なはず。もしそれでも動かないのであれば、アリスのヘイローは私の手で破壊する。その準備はすでに整っている」

 

 リオはアリスに近づいた。私はアリスの前に立ったが、さらに私の前にミドリが立った。

 

「ち、違うよ! アリスちゃんは兵器じゃない! アリスちゃんは勇者なんだよ。だ、だって光の剣を、スーパーノヴァを持っているんだもん」

 

 ミドリは肩を揺らしながら言った。今更、そんなこと証明にも何にもならない。だが、それほどまでに私たちは追い詰められている。もはや戯言な証言にもリオは残酷にも冷静に対処した。

 

「光の剣? ああ、エンジニア部のあのおもちゃね」

 

 そう言って、リオはスマホを取り出すと、アリスの横に立てかけてあった光の剣にかざした。すると、光の剣の電源が落ちてしまった。

 

「そ、そんな、光の剣の電源が落ちた」

「アリスの、剣が……ゆうしゃの、あかし、が」

 

 アリスは電源の切れてしまった光の剣を撫でて、それから私たちの顔を見た。

 

「全部……アリスが魔王だから起こったことですか。アリスがここにいれば、また同じことが起こるのですか。アリスが……勇者で無いのなら」アリスは顔を伏せた。しばらくそのままでいると、次に顔を上げた時にはやけに納得した顔であった。「そう、ですね。アリスは、理解しました。アリスが消えれば、皆が平和になるのですね」

「アリス」

 

 アリスは力なく立った。ゆっくりとリオの元へ歩き出す。先生は手を伸ばすが、アリスの手を掴むことは無かった。

 

「アリスは……皆に怪我をしてほしくないです。レイヴンは、そんなこと気にしなくてもいいと言ってくれましたが、怪我をさせないのであればそれでいいのではないですか。アリスは、それがいいです。でも、少し苦しみが和らぎました。モモイを怪我させてしまって、アリスの胸は苦しかったですから。もしモモイが起きたら、代わりに謝ってくれますか。アリスは、とても楽しかったです。短い時間でしたが、たくさん冒険ができました。いろんなお話を聞くことができました。アリスはとても幸せでした」

 

 アリスは涙を浮かべながら笑った。その顔に先生は力なくアリスの名前を呟くことしかできない。

 

「心配しないでください。アリスは生命体ではないのですから。ミレニアムの生徒ではないのですから、いなくなっても大丈夫です。みんな……アリスと一緒に冒険してくれてありがとうございました。レイヴン、お話をありがとうございます。とても面白いお話でした。もっといろんなお話を聞いてみたかったです」

 

 そう言ってアリスは最後に一礼すると部室から出て行ってしまった。

 

「それでは、失礼するわ。もし私の言動で先生が傷ついてしまったのなら、後日謝罪させてもらうわ。では、また」

 

 リオも、また一礼すると部室のドアを閉めた。とても暗い、だが目が慣れてしまったが故に皆の顔が見えた。私たちはAMASが完全に去り、解放されたネルが部室に入ってくるまで動くことができなかった。




改めてこの場面見ると、リオ会長は正義感が強いですね。正しいのは正しいですが、多数を助けるために少数を切る判断が手早いです。上に立つ者としては正しいのかもしれませんが、先生が立っているのが少数であるがゆえにリオの悪者ムーブが目立ってしまっていますね。
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