シャーレ所属傭兵レイヴン   作:猫又提督

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今更ですが、五十話を突破していましたね。


第52話

 私たちは意気消沈したまま、とにかく外へ出た。そこでたまたまヴェリタスの三人と出くわした。騒ぎを聞きつけやってきたようだ。とりあえず、こんなところで話したくは無かった。

 

 私たちはミレニアム内の広場にやって来た。ネルが呼んだのだろうか、途中でC&Cも合流した。一角に座り、先生は事の顛末を話した。

 

「結局、会長がアリスを連れてったんだね」

「ねえ、これって結構ヤバいんじゃない?」

「はい、非常事態です」

「では、リオ会長が部長だけを呼んだのは」

「恐らく、最初からリーダーが裏切ることを予想していたのだろう」

「ひどい! アリスちゃんを連れて行っただけじゃなくて、部長をいじめるなんて」

「はあ」

 

 ネルは大きくため息をついた。先生はネルに「大丈夫?」と声をかけた。

 

「いや、あたしはあんとき、あいつが連れていかれるのをただ見ていることしかできなかった」

「それは」

「リーダー、そんなに気に病む必要はない。正面から戦ったのではないだろう?」

「そうだよ、あんなの無効!」

「お前たちは任務が失敗してもそうやって言い訳をするのか?」

 

 慰めてくれた二人に対して、ネルは厳しい姿勢を見せた。その言葉にC&Cの三人は顔を反らし、口を噤んだ。

 

「あいつ、あたしを物ともしてなかった。あいつは、自分のことをコールサインゼロフォーと呼んでやがった。トキつってたっけ。アカネ、あいつのこと知ってたか?」

「はい、そうですね。存在は知っていました。コールサインゼロフォー、C&C所属でありながらリオ会長専属のメンバー、いわばリオ会長のボディーガード。知っていたのは存在だけで、実際に対面したことはありません。まさかリオ会長が彼女を使ってこんなことをしてくるとは」

「あいつ、なんか変なもんを使っていやがった」

「リオがくれた武装だと言っていたね」

「なあ先生、なんであいつはヘイローを壊されるなんて話をされてまで、会長について行ったんだ。レイヴンとも何か話していたみたいだが、あたしにはレイヴンが何を話していたのか分からねえが、きっとあいつが怪我させちまった友達のことだろ?」

『私は、アリスに気にしなくていいって話をしたんだ。モモイはアリスが怪我をさせたことをきっと気にしてないって。本人も納得していたはずなんだけどね』

「じゃあ、どうしてあいつはついて行っちまったんだ。自分が消える必要なんかねえだろ。あいつはちょっとゲームができるチビじゃねえか。なんでそんな奴にリオ会長はあんな言葉を投げかけたんだ。なんだ、これは私だけが理解できてないのか?」

 

 ネルは先生に問いかけた。きっと先生だってそんなことを言われても困るだろう。私だってなぜアリスがあの行動を選んだのか分からない。私はモモイが気にしないと言った。アリスも納得した。だが、リオが示した自分がいることの影響を考えてしまったのだろう。自分が今後存在し続けたとして、また怪我をさせてしまうかもしれない。もしかしたらリオの言う通り、キヴォトスを滅ぼしてしまうのかもしれない。でも自分が消えてしまえばそんな可能性は微塵も無くなる。より明確な方を選んでしまったのだろう。自分が消えても大丈夫と言いやがって。ミレニアムの生徒じゃないから大丈夫ではない、ミレニアムの生徒で無かろうと、悲しむ人はたくさんいる。

 

 先生は「状況を振り返ろう」と、言葉を濁した。先生は思案に入り、そのほかの人たちもそれぞれ思案を始めた。

 

「わ、わたしは……よく分からない。アリスちゃんが何を考えてるのか、よくわからないよ。だから、アリスちゃんと話がしたい。アリスちゃんが魔王じゃないって、リオ会長に説得したい。わたし……私たちは」

 

 ユズが絞り出すように言った。普段一度にこんなに長く話すことは無かったはずだ。それほどに、ユズはアリスのことを大切に思っていたのだろう。よく見ればユズの眼もとにはうっすらと涙が浮かんでいる。

 

「先生、私たちはどうすればいい」

 

 ハレは先生に尋ねた。先生は再び顔を下してしまった。どう、何を答えたらいいのか分からない表情だ。

 

「モモイ……降臨!」

 

 それは突拍子もなく現れた。皆が顔を下げる中、彼女は逆に誇らしく顔を上げて、私たちの前に現れた。だから一瞬、彼女の登場に反応が遅れた。

 

「お姉ちゃん!?」

「も、モモイ!? 体は、怪我は大丈夫なの!?」

「体なら大丈夫! ぐっすり寝たから体力も全快! いわば今の私は棚からポーションを取得して次ステージの推奨レベルにまで強化された戦士……怖い物なんてない、超強化女子生徒状態だよ!」

 

 なんとも、アリスみたいな言い回しをするな。いや、アリスがモモイの口調を真似した結果なのだろうか。それよりも、今の私たちに渦巻いていた負の感情は、モモイの高テンションによって少しだけ払拭された。

 

『一人でここまで来たの?』

「うん。目が覚めたらトリニティの人が居たんだけど、まさかシャーレにいるとは思わなかったよ。とりあえずミレニアムにもどってきたんだけど」

『いつ起きたの?』

「うーん、多分先生たちがミレニアムに向かってすぐだよ。トリニティの人からそれを聞いて私も追いかけてきたの」

『その割には遅かったね』

「レイヴンが早すぎるんだよ! シャーレからミレニアムまでどれだけかかると思ってるの。ACみたいに飛んでまっすぐ行けるわけじゃないんだから!」

『ん……ああ、そうか。そうだね。普通は電車とか乗り継いでくるんだっけ。すっかり感覚が鈍っちゃったよ』

「おねえちゃん……アリスちゃんが……アリスちゃんが!」

 

 ミドリは私と会話しているのにも関わらず、途中でモモイに抱き着いた。モモイは突然のことに驚きながらもなんとかミドリを受け止めた。

 

「わわっ、一体どうしたの!? ミドリがアンチコメントを呼んだ翌日の一日限定甘えん坊モードに入ってるけど、どうしたの!?」

 

 モモイはミドリの様子に困惑している。アリスが連れ去られたことを知らないようだ。ミドリは「アリスちゃんが」と繰り返すばかりで説明できる気配がない。

 

「モモイ、アリスちゃんが――」 

 

 代わりにユズが事の顛末を話した。

 

「このおバカさんが!」

 

 モモイはユズの説明を聞き終わるや否や、大声で叫んだ。広場にいた他の生徒の注目を集めてしまった。

 

「お、お姉ちゃん?」

「モモイ?」

「正直、難しいことは分からない。皆の話を聞いてたら胸がギュッとしちゃって、うまく言葉がまとまらないけど……一つだけ確かなことが有る!」

「確かなこと?」

「皆が納得してないことだよ! 私はこのままアリスとお別れなんて嫌だよ! アリスの最後の言葉、別れの挨拶でも何でもないじゃん! てか、レイヴンの話って何!? 私だって聞きたいんだけど! こんなのまともなエンディングじゃない! だから私はアリスを連れ戻したい、連れ戻してレイヴンからどんな話を聞いたのか教えてもらうの!」

『それなら私が話すけど』

「アリスともう一度聞くから!」

「モモイ……」

「おい、チビ」

 

 ネルが声をかけた。それにしてもネルって人のことよくチビと言うが、身長的にはそれほど変わらないだろうに。むしろモモイの方が若干背が高いんじゃなかろうか。しかし、私はそれを決して口にしない。きっと言えば殺されてしまうだろう。

 

「わっ、ネル先輩?」

「あんた、いいこと言うじゃねえか。そうだ、ごちゃごちゃ考える必要はねえ。殴られたら殴ればいい。奪われたもんがあるなら奪い返せばいい」

『お、いいこと言うねえ』

「だろ? 簡単なことだったんだ。いじいじしている暇があるなら行動に移すべきだったんだ」

「先生、どうか私たちに力を貸して」

「モモイ、皆……よし、アリスを取り返す方法を探してみようか」

 

 先生はまずユウカに連絡を取った。そういえばユウカもセミナーか。だったらリオのことも知っているはずだ。

 

 先生がユウカを呼び出すと、更にもう一人後ろに誰かいた。私の知らない人だ。先生は知っていた。ノアだそうだ。先生はユウカに事の顛末を話した。

 

「会長がアリスを誘拐?」

「最近何か裏で進めているような気はしていましたが、まさかこんなことになってるなんて……少しショックです」

「会長は一体何を企んでいるのかしら。アリスを誘拐して、その上ヘイローを破壊する? 全く意味が分からないわ!?」

「普段から突飛な行動をされる方でしたが」

「ノア、これはそんな次元の話じゃないわ! 何を企んでいるのか分からないけど、アリスを……生徒を誘拐……いくら会長でもやっていいことと悪いことがあるわ!」

「仮にも自分の先輩なのに、容赦ないね」

「でしょ。それがユウカのいいところなんだよ!」

『いくら先輩でもそれぐらいは言うでしょ。やってること犯罪だし、人殺しをしようって言ってんだから。本人もいないし、個人的にはもっと貶してもいいと思うけどね』

「私怨が大きいね」

『ん、それはごめん』

「別に悪いとは言ってないよ」ハレは肩をすくめた。

「ユウカ、ノアお願い。リオがアリスを連れて行った場所を探してほしいんだ」

「分かりました。セミナー内部の情報を確認してみます。会長が残した痕跡があるはずです。任せてください、全力で協力します!」

 

 そう言って、ユウカは一度連絡を切った。

 

「ねえ、レイヴン。アリスとどんな話をしてたの?」

『え、それ今聞く? アリスと一緒に聞くとか言ってなかった?』

「えー、だってユウカが何か見つけてくるまで何にもできないんだし、暇つぶしで」

『暇つぶしで聞くような話でもないんだけどなあ。今話すと皆の士気を下げかねない』

「え、そんな話をアリスにしたの?」

『アイデアが欲しいっていうものだから、ちょっと好奇心で傭兵時代の話をしたの。最悪先生に拒否されてたね』

「え、ええ」

『聞く? 多分私の方が魔王なことした』

「え」

「え」

 

 モモイだけでなく先生も声を出した。

 

「え、なんで先生も驚いてんの? 先生、話聞いたんじゃ」

「聞いたけど、そこまでのことは、いや、聞いた話も随分あれだったけど、それ以上のこと?」

『うんまあ、でも今話すと私、リオに何も言えないからやめておきたいんだけど』

「え、えっと……それじゃあ、別にいいかな」

『助かるよ』

 

 私は顔を反らした。アリスと先生に話したことなら別に構わないが、私のやったことの行きついた先は今の状況では洒落にならないことだし、リオにばれたら殺されるのは私だろう。流石にこればかりは好奇心で話せない。いや、ミレニアムでは話せないかもしれない。私自身この話はあまりしたくないので、モモイが諦めてくれてよかった。墓場まで持っていきたい話だが、いつか話さないといけない日が来るだろうな。

 

 私たちの間に気まずい空気が流れた。恐らく、若干私は引かれているだろう。私としても居心地が悪いので、ユウカには早く手掛かりを見つけてほしいところだ。そう思っていると、タイミングよくユウカから着信があった。思っていたより早くて助かった。

 

「リオ会長がアリスを連れて行った先が分かりました! 先生の話を聞いて、まさかとは思ったのですが、本当にセミナーの予算を横領していたなんて」

「本当にショックです……そんなことをされる方だったなんて」

 

 いまいち話の展開が分からない。アリスが連れていかれた先とリオの横領の発覚に何の関係があるのだろうか。

 

「え、えっと、どういう事?」

 

 先生は少し困惑した様子でユウカに尋ねた。

 

「その……セミナーのデータベースに削除された、意図的に隠蔽されたような痕跡を発見しました」

「その痕跡を調べたところ、予算の不透明な流れを発見しました」

「そしてその流れの先がここです。今画面に映します!」

 

 先生のスマホに一枚の画像が映し出された。私を含め、全員がそれを見ようと集まった。総勢十二名が小さい画面を覗こうとした。背の小さいネルや、ゲーム開発部、そして車椅子に座っている私は、背の高い他の生徒に押し出されてみることができない。

 

「わ、わわ!? み、見えないー!」

「あ、ごめんごめん。ちょっと下げるよ」

 

 先生は中腰になって私にも見えるようにスマホを掲げてくれた。そこに映っていたのは一つの都市だった。近未来的で、最近できたような印象を受けた。

 

「これは、都市?」

「はい。データベース上から削除されたデータを復元したところ、一つの都市のデータを見つけたんです。コードネームエリドゥ。リオ会長が秘密裏に建設していた、終焉に備えるための要塞都市だそうです」

 

 まるでザイレムだ。中央に立つタワーなんか、ザイレムにも同じようなものが建っていた。あのタワーはなんだったか……今はもう忘れてしまった。未来に備えて建設したというのもザイレムと一緒だ。つまりエリドゥはザイレムだ。

 

「一体、いつの間にこんな都市を……お金の流れを隠すのだって困難でしょうに」

『これ飛ぶ?』

「え、飛ぶの?」

『飛ばないの?』

「いや、飛ばないでしょ。あなたの中じゃ都市も飛ぶの?」

『じゃあザイレムじゃないか』

「ルビコンって不思議なところだね」

「あ」突然アカネが声を上げた。「もしかして先日のコユキさんの一件が絡んでいるのでは?」

「あっ! コーユーキー!」

 

 ユウカはその一件とやらを知っているようだ。私には皆目見当もつかない。

 

「どうして要塞都市を作ったんだろう」先生が素朴な疑問を挙げた。

「リオ会長は、ご自身がやると決めたことに決して迷いません。合理的な判断を、時には重要な判断をした場合には、強引にも、まるでブルドーザーのように押し進めます。そうして危機を排除し、キヴォトスの終焉を防ぐべく奔走した結果が、あの要塞都市エリドゥなのでしょう」

「アリスはエリドゥの中央にあるタワーに連れて行かれた可能性が高いわ」

「あそこに、アリスが」

「エリドゥの座標を送ります。立場上、お手伝いできるのはここまでです」

「お願いします、先生。リオ会長を止めて、アリスを連れて帰ってください!」

「うん、任せて」

 

 先生はユウカとの着信を切った。

 

「よし、今からエリドゥに向かおう!」

「待って、お姉ちゃん」

「な、なんで止めるの!? 場所も分かってるんだよ。早く助けに行こうよ」

「要塞都市だよ。普通に行って入れるわけがないよ」

「それならレイヴンに連れて行ってもらえばいいじゃん。なんか乗り物つけたんでしょ?」

『あれ最大でも五人乗りだから、ここにいる全員は乗せられないよ』

「それなら、別ルートを見つける必要がありますね」

「あたしたちはそんなもん知らねえし、あったとして誰がそんなものを知ってるんだ?」

 

 ネルの言葉に皆は考えた。リオ会長が秘密裏に建設していた都市。今まで誰も知らなかったのだからそれを知っている人、と言うか別ルートの予想ができる人を探すべきだ。都市を建設するうえでのルートに見当が付きそうな人物……建設……あ――

 

『エンジニア部だ』

「エンジニア部、かな」

 

 私と先生は、同時に同じ名前を出した。




エリドゥはザイレムだった……!?
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