先生はエンジニア部に訳を話して、広場にまで来てもらった。私たちの元にやって来たエンジニア部に、早速先生はユウカから教えてもらった座標を、ウタハに知らせた。
「うん、座標は確認した。問題は潜入方法だね。会長ならきっと、潜入者用の防御プログラムを実行しているだろうから」
「レイヴンに乗っていけば大丈夫じゃないの?」
「ふむ……私は実際にエリドゥの建設に加わったわけでもなければ、ロボットを譲ったわけでもない。防御プログラムの威力がどれくらいなのか分からないけど、会長のことだ。レイヴンでも通用するような火器を用意しているだろう」
『別にACは無敵じゃないからね。大型兵器だったら普通にダメージ入るよ。巡航ミサイルとか』
「巡航ミサイルは設置されてないだろうけど、それに準ずる物はあるだろうね。どちらにせよ、全員がレイヴンに乗れるわけじゃない。私たちが何の策も考えずに生身で接近すれば、なぜ要塞都市と呼ばれるのか身をもって知ることになるだろう」
「じゃ、じゃあどうすればいいの?」
「接近することすら難しいだなんて」
「それは、あくまで普通に接近した時の話だよ。私たちエンジニア部は別のルートを知っている」
「別のルート?」
「都市建設の人手だけならリオ会長が所有しているドローンだけで事足りる」
『あれだけの都市を建設できるだけのドローンを持ってるんだ。どんだけ持ってるの』
「予算を横領していたんだろう? じゃあ法外な数のドローンくらいどこかで入手したんだろう」
『なるほど』
「話を戻そう……だが、資材となると話は変わってくる。無から有は作れないからね」
「ミレニアム近郊には、多数の無人列車がある」ヒビキが説明を付け足した。
「都市建設の資材をミレニアム近郊から調達していたとすれば、それをエリドゥ内に運ぶための路線があるはずだ」
「じゃ、じゃあその路線を見つければ!?」
「ああ、エリドゥに行けるだろう」
「で、でも路線と言っても沢山ありますよね。どうやって探せば」
「ああ、だからその路線探しはエンジニア部がサポートしよう」
「え、で、でもリオと戦うことになるんだよ?」
「先生が私たちを呼んだんじゃないか。それは私たちに一緒に戦ってほしかったからじゃないのか?」
「僕は助言を貰おうと……ウタハたちを巻き込もうとは思っていなかったよ」
「巻き込むだなんて今更だ。それに理由はちゃんとある。今回もレイヴンは動くのだろう?」
『もちろん』
「それなら実戦データを取るのに最適な機会じゃないか。私たちのAC再現計画はまだまだ実現が遠い。こういったチャンスはつかみ取らなくては。そして何よりも、リオ会長はエンジニア部の最高傑作を奪っていったからね」
「もしかして、アリスのスーパーノヴァ?」
「ご名答。うちのデータの実測を邪魔をするなんて、それは越権行為に他ならない。事実上これはエンジニア部に向けた宣戦布告だ。エンジニア部の部長として、これを無視するわけにはいかなくてだな――」
「全く……部長の恥ずかしがり屋」
なんだか、やけに饒舌だなと思っていると、ヒビキがウタハにそう声をかけた。
「え、え、一体どういう話なの?」
モモイはウタハの話を理解できていないらしい。そこに意気揚々とコトリが寄って来た。
「ではこの私がウタハ先輩の論理を説明しましょう! 友達を助けに行きたいけど、自分から口にするのは恥ずかしい。それにレイヴンが助けに行くのを手伝いけど、それを口にするのも恥ずかしい……そうだ、それぞれものを奪われたことと、データの測定ができることを口実にしてしまおう!」
「ちょっと、コトリ」
饒舌にウタハの心情を暴露するコトリの後ろから、真顔になったウタハが近づいて来た。そして素早くコトリの口を手で塞いだ。
「うっ、うう!?」
「しーっ」
ウタハはもう片方の手でジェスチャーをした。そしてコトリは必死に頷いていた。どうやら図星っぽかった。
「よし、これで秘密は守られた」
「ごめん、何一つ守れてないと思うけど」
『むしろ自ら情報の確実性を証明してしまったのでは?』
どや顔で宣言するウタハに私と先生は冷酷にも現実を見せるような言葉を投げかけた。
「守られたんだよ」
ウタハの顔は再び真顔に戻った。先生は「う、うん」と頷くほかなく、私は一言、ごり押しだ、と思った。
「コホン……と言うわけで、私たちエンジニア部も手伝うよ」
「うん」
「えへん! お手伝いいたします!」
「さて……手段も方法も見つかった。後はどうやってアリスを連れ戻すかだね」
「ええ、要塞都市と呼ぶくらいですから、リオ会長には万全の準備があるでしょう」
「都市のセキュリティもそうだけど防御システムも中々の物だと思うよ」
『防御システムは私が壊して回るよ。そっちの方が得意だし』
「そういえば、レイヴンでもちゃんとエリドゥに入れるのかな? なんかレイヴンでも難しいみたいな話してなかったっけ」
『全部避ければいいんだよ。安心して、そういう侵入したことあるから』
「じゃあ……大丈夫か」
「まあ、要塞都市の方はレイヴンのおかげで簡単に攻略できそうだけど、問題はまた別にある」
「そうだね……要塞都市はおまけに過ぎない」
「話を聞く限り、リオ会長の護衛をしているメイドが一番厄介ですね」
「トキさん……でしたよね。あの時の……彼女の動き……まるで」ミドリはユズに目配せをした。ユズはその目配せを受け取った。
「うん、チートプレイヤーみたいだった」
「あたしたちには作戦が必要だ」
ネルは静かに言った。その場にいた全員が、厳密にいえば私以外がネルを凝視している。私はその意味が分からずきょろきょろと皆の顔を見ていた。
「ネルが作戦ていった!?」
先生は言った。なるほど、柄でもない発言をしたという事か。確かにネルは破天荒だし作戦とかあまり考えなさそうだ。
「ね、ネル先輩。大丈夫? 熱とかない?」
「もしかして大けがをした時の反動で?」
『そこまで柄に無いの?』
「任務モードの部長だ」
カリンの発言により、注目の的はC&Cの三人に移った。
「そうそう! 仕事モードになった部長はとーっても真面目なんだから!」
「ふふっ、実はそうなんです」
「な、なるほど」
「うーん、ネル先輩……どういう意味か聞いてもいいかな」とハレは尋ねた。
「無事要塞都市についたとしても、だ。そこがリオの領域である以上、あたしらの行動は常に監視されてるはずだ。誰が何と言おうとあいつはビックシスターだからよお」
「どういう意味?」先生はさらに尋ねた。
「単純な話だ。あれこれ浅知恵をこねくり回す暇があるなら、初っ端から突っ込んだ方がいい」
「ですが部長、それではリオ会長の思うつぼでは?」
「だから作戦が必要なんだ。いや、詳しく言えば陽動作戦か」
「陽動作戦?」
「このゲームの勝利条件は単純だ。あたしらがやられる前にあのチビを助け出す。あたしらC&C、そしてレイヴンが騒ぎを起こす。そうすればリオとトキはあたしらを相手するしかなくなるだろ? その隙にお前たちがアリスを救え。単純な話だろ?」
『いいね。その作戦気に入った』
「アリスを救ったら――」
「私たちの勝利!」
「で、でも大丈夫ですか、ネル先輩? 相手はあのチートプレイヤーですよ?」
「あ? この私を誰だと思ってやがる。あいつには一杯食わされたからな。次会った時はやり返してやるって決めてんだよ。後はそれを実行するだけだ」ネルは不敵な笑みを浮かべた。
「分かった、従おう」
「うんうん! 私たちに任せて」
「ふふっ、精いっぱい頑張りますね。それでは正面は私たちC&Cとレイヴンさんが担当します」
「後方から潜入するのはその他、ゲーム開発部と私たち……それと先生かな」
「私たちヴェリタスは遠隔から支援するね」
「防御システムのハッキングは私たちに任せて!」
「完ぺきにこなしてみせます」
「よし、じゃあこれで行こっか」
「うん……作戦開始!」
全員はその場で解散した。とはいってもヴェリタス以外は一度エンジニア部の部室に向かうことになった。
「C&Cがレイヴンと一緒に動くならユニットに搭乗するのはこの四人だね」
「にしても。なんかロボット多いなここ。あたしたちが乗るのはどれだ?」
『あれだよ』私は機体を指さした。
「なんか……初めて見た時と違くないか?」
『ああ、ネルと初めて会った時の機体はアレだよ』
私はボロボロになり、天井からつるされた状態の機体を指さした。
「派手に壊れているな。一体何があったんだ。ちょっとやそっとじゃ壊れる耐久じゃないだろう」
『エデン条約の時に巡航ミサイルが直撃したんだよ』
「ああ、あの時の」
『もしエリドゥに巡航ミサイルがあったらああなるね』
「おいおい不吉なこと言うなよ……侵入するまではお前が頼りなんだから」
「よし、じゃあ私たちは先に行くよ。多分それでもレイヴンの方が先に着くだろうけど。私たちが到着するまでは防御システムに探知されないところで待機しててくれ」
『分かった』
ウタハたちは一足先に部室を去っていった。五人だけになった部室の中、私は機体に向かった。
「あたしたちはここで待ってればいいのか?」
『ああ、この先をまっすぐ行くとバンカーから外に出られるからそこで待ってて』
「分かった。よし、行くぞ」
ネルは他の三人を連れて外に出ようとした。私は外に向かうネルたちの背中を見ながらあることを思い出し、ネルを呼び止めた。
「なんだ、まだなんかあったか?」
『うん。ちょっとスマホ貸して』
ネルは首をかしげながらも私にスマホを差し出した。私はそれを受け取り、車椅子からコードを一本伸ばしてネルのスマホに挿した。画面には『接続中』という文字が現れ、それはすぐに『接続完了』に戻った。
『はい、返す』
「一体何したんだ?」ネルは帰って来たスマホを弄りながら尋ねた。
『これで機体に乗っても私と会話ができるよ。マイクはつけててね』
「あ? ああ」
ネルは生返事をしてスマホを仕舞った。「用はこれだけか?」と聞いたので、私は『うん』と答えた。
『メインシステム起動』
機体の電源を入れた私は、すぐにネルたちが出た所と同じ場所から外に出ると、待機してた彼女たちの前にユニットを下した。
『じゃあ、この中入って』
「ん? スマホから通知が……ああ、なるほど。こういう事か」
「どれどれ? どゆこと?」
アスナがネルの横からスマホを覗き込んだ。それに倣って、二人もスマホを覗き込む。
「なるほど、こうやって会話するのだな」
「私たちの声は聞こえているのでしょうか」
『スマホからも聞こえるし、機体にマイクついてるからそっちからも聞こえてるよ。中入ったらちゃんとベルトも締めてね。結構激しく動くよ』
「分かった」
私は四人がユニットの中に入るのを眺めていた。中に入ったカリンから「武器はどこに置いておけばいい」と尋ねられた。
『あー……持ってて』
確か、掛けるところは無かったはずだ。カリンみたいなライフルを持った人は全然乗せたことが無かったし、そこは考えていなかった。
「全員座ったぞ」
『分かった。最初にちょっと揺れるけど、すぐに慣れるから』
私は飛び立つ前に、もう一度エリドゥの座標を確認した。場所が遠い。暴れても騒ぎにはならんだろう。マーカーが映し出された。私はそちらを向き、飛び上がると、適当な高さでアサルトブーストを焚いた。
エリドゥの近くまで来るのに、そう時間はかからなかった。ただ、ACでも十分以上はかかったし、先生たちが来るのは、さらに時間がかかるだろう。
『着いたよ』
「も、もう着いたのか?」
「はやーい! どれだけ速かったのか分からなかったけどとにかく速かったことは分かったよ!」
「エリドゥまで結構距離があったのに、こんなに早く着くなんて」
「まるで飛行機だったな」
『飛行機よりかは遅いよ。AC重いし。先生たちは多分まだ来てないからしばらくここで待機かな』
「なあ、近くにエリドゥがあるんだろ?」
『あるね。高い壁が見えるよ』
一、二キロ先には巨大な壁が立っている。マーカーはこの壁の向こうにあり、この壁がエリドゥ全体を囲っているのだと予想できる。ACと比べてもその壁は高い。
「降りて見てもいいか?」
『まあ、大丈夫じゃないかな。ちょっと待って、下ろすから』
私はユニットを下した。そこからネルが降りてきた。
「あれが……たっけえなあ」
「この高さだと、通常の方法で壁を越えて侵入する方法はないでしょうね」
「レイヴンはこの高さでも飛び越えられるのか?」
『これぐらいなら……まあ、行けるかな』
「なら安心だね! じゃあ先生たちが着くまで何してよっか」
「何もするこたあねえ。作戦も決まってるんだ。その時が来るまで待ってりゃいいだろ」
作戦と言っても、私たちが暴れてその隙に先生たちがアリスを助け出すという、簡素なものだが、今振り返るとあれは作戦なのだろうか? まあいいか。やることが決まってるなら私はそれでいい。
三十分ほど待っていると、ウタハからモモトークが来た。
『そろそろ私たちもエリドゥに着く。頼むよ』
『分かった。存分に暴れさせてもらうよ』
『頼む。期待してるよ』
『ネル、連絡が来た。やるよ』
「おう、準備は出来てるぜ」
『それじゃあ、壁越えと行こうか』
『メインシステム、戦闘モードを起動』
アサルトブーストで壁を一気に登った。飛んでいる私を撃退しようとするミサイルは無い。外の壁に兵器は設置されてないようだ。割とぎりぎりになったが、無事に壁の上に立つことができた。そこには見事な近未来都市が広がっていた。しかし、のんびりと眺めている暇はない。下から大量のミサイルが飛んできた。
『ミサイル! 回避する』
クイックブーストで回避すると、ミサイルは私の横をすり抜けたが、きっと回って帰ってくるだろう。私はミサイルが戻ってこないうちに、壁から飛び降りた。
都市内に侵入してきた私を迎撃しようと、四方八方からミサイルが飛んでくる。これを全て回避するのは無理だ。流石要塞都市と呼ばれているだけある。だが少し被弾した程度では、私は止まらない。
ミサイルを回避しつつ、地面に下りると、遠くからAMASが集結しつつあった。私がユニットを下すと、中からネルたちが飛び出した。
「よっしゃあ! 作戦開始だ!」
壁越えと行こうじゃないか戦友。とはいってもすぐに壁超えちゃいましたけど