シャーレ所属傭兵レイヴン   作:猫又提督

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お久しぶりです……結局一週間お休みしてしまいましたね。今日からまた再開します。そして今回でパヴァーヌ編二章最終回です。どうせならパヴァーヌ編を終わらせてから休めばよかったですね。


第56話

 状況は有利に動き出した。勝機が見えてきた私たちは、調子づいて果敢に攻撃を仕掛けた。チヒロの言う通り、アビ・エシェフの機能が落ちている。相変わらずチートのように弾丸を撃ち落とすが、片方は壊れ、近距離、特にネルの射撃に追いついていない。撃ち落とせないと悟ったトキは迎撃を防御に切り替えた。大きな腕がネルの射撃を受け止めるが、そんなに大きな腕を顔の目の前に置いてしまうと、前が見えないだろう。私は拳を振るったしかし、当たる寸前にトキは後ろへ飛んだ。

 

『は? 前見えてなかったでしょ。何で避けれたの』

「視線だけで動かしているわけじゃない。ある程度は機械が察知してくれるから」

『何でもかんでも機械に……いや、私が言える義理じゃないか』

 

 振ったのは左腕だ。私は拳を地面につけたままパルスブレードを伸ばし、やや右側に傾けながら振り上げた。トキはどっちに避ける。また後ろに下がるか、それとも左に避けるか。どっちにしても私には有利になるだろう。

 

 トキは左へ避けた。勢いでトキは壁に激突し、私は右腕で殴った。トキは右に避けるが、ガトリングの銃身が避けきれずに、壁と共にひしゃげた。さらにそこへカリンの狙撃が命中する。アビ・エシェフの右腕に命中した。装甲の一部がへこんだのみで、そこまでダメージは無いように見える。

 

 私の後ろからアスナが飛び出し、トキに銃口を向けた。ガトリングは両方とも使えない。トキは腕で防御せずにす避けることを選んだ。しかし避けた先でアスナの銃撃に被弾してしまう。まるで弾に自分から当たりに行ったみたいだった。

 

「ラッキー、当たった!」

 

 狙撃でへこむ程度の装甲に、アサルトライフルの弾が太刀打ちできるはずがないが、幸運にもアスナの銃撃はトキ本人に命中した。ここまで来てようやくトキ本人にダメージを与えることが出来た。トキは防御もせずにまともに喰らったために、私からは表情が見えないが、相当な痛みを感じているはずだろう。数秒だけ動きが止まった。それをネルは見逃さない。ここぞとばかりに追撃を仕掛けた。流石にネル相手ではトキも防御を必ず選ぶ。しかしトキが腕を動かそうとすると、カリンが狙撃でゴーグルを打ち抜いた。トキは大きくのけ反り、動かしていた腕も止まった。そのままネルの猛攻をまともに受けた。ネルの射撃が終わると同時に、トキのヘイローが消え、アビ・エシェフから崩れ落ちた。

 

『死んだ?』

「まさか。キヴォトスの生徒が、ましてやC&Cの奴がこれぐらいで死ぬわけねえよ」

「トキちゃん強かったねー」

「ああ、レイヴンが助太刀してくれなければ勝てなかっただろう」

「先生に言われてこっちの手助けをしに来たのに、あまり役に立たなかったな」

『チヒロの言葉でおかげで突破口が見つかったんだから十分役に立ったよ』

「ならいいか」

「ところで先生たちはどうなりましたか?」

『屋上に近いところまでは送ったけど、ユニットを投げつけてそのまま落ちてきたからそのあとは分かんない。無事にたどり着けてるといいけど』

「先生たちなら大丈夫だろ」

「リーダーは先生たちを信頼しているんだな」

「ばっ!? そ、そんなんじゃねえよ!」

「えー、別にいいと思うけどなあ?」

「トキはどうしましょう。とりあえず、事態が落ち着くまで拘束しておきましょうか」

 

 アカネはどこからともなくロープを取り出した。明らかに忍ばせられる量ではないのだが、今まで一体どこにいれていたのだろう。アカネは手際よくトキを拘束した。そして念のためか、アビ・エシェフから離れたところにトキを座らせた。

 

「はあー、少し休憩させてくれ。あたしはもう疲れたよ」

「お疲れ様。リーダーがあそこまで苦労する敵は初めてだったな」

「もうボロボロー。帰ったら着替えないと」

「その前に医務室に行く必要がありそうですけどね」

「レイヴンはどうすんだ。このまま先生とこに行くのか?」

『いや、私もここで待つよ。アリスが何処にいるのか分からないし、私は建物の中に入れないから』

「私は先生たちのサポートに回らせてもらう。そっちの方が役に立てそうだし」

 

 

 ネル達と先生たちを待っていると、突然都市から轟音が響いた。

 

「なんださっきの音」

「さあ?」

「部長と別れた時の音に似てるかな?」

「隔壁が作動した時ですか? なぜこんな時に」

 

 顔を見合わせていると、いつの間にか建物の陰から人影が近づいていた。車椅子に乗った生徒と、かなりきわどい服装をしている生徒だ。

 

「どうやら、始まってしまったようですね」

『え、誰』

「ああ、レイヴンさんとは初めましてでしたでしょうか。明星ヒマリと申します。こちらは和泉元エイミ」エイミと紹介された生徒は軽く会釈をした。「せっかくですからもう少し交流を深めたいところなのですが、生憎今は火急の用事がありますので、私は代わりに失礼します。エイミ、よろしくお願いしますよ」

「分かった。部長も気を付けて」

 

 ヒマリはエイミを置いていき、一人タワーの中に入っていった。

 

 いまいち状況を理解できない私たちは、残されたエイミに説明を求めた。

 

「あまり詳しく説明している暇はない。部長曰く無名の司祭のオーパーツが起動してしまったから、やがてここに配下が大挙して押し寄せてくる。私たちはここでそれらをとどめればいい」

『はあ、なんだかあまり良く分からないな』

「つまりここで敵を迎え撃てってことだろ。簡単なことだ」

『ああ、なるほど。確かに簡単なことだね』

 

 ネルは立ち上がった。しかし、途中でふらつき、隣にいたアカネに体を支えてもらった。

 

「部長は休んでてください。その傷ではこれ以上の戦闘は危険です」

「何言ってんだ。お前らが戦ってるのを横目に一人だけ休んでられるかっての。大丈夫だ、あたしはまだ戦える」

 

 ネルが闘争を求めるのはアカネたちの方が良く分かっているのだろう。それ以上に何かを言うことは無かった。

 

「それなら私も狙撃位置についておかないと」

『狙撃……高いところがいい?』

「まあ、そうだな」

『ちょっと待ってね』

 

 私は立ちあがり、ほっぽり出していたハンドガンを拾った。そしてタワーの適当な高さに照準をつけると、引き金を引いた。轟音と共に発射された弾丸はタワーの壁を易々と崩し、恐らく反対側まで貫通した。

 

 私はカリンの前に手を差し出した。カリンは首をかしげている。

 

『乗って』

「あ、ああ」

 

 カリンは少し困惑しながらも私の掌に乗った。その場で飛び上がり、あけた穴の前で機体を止めた。穴に手を差し込むと、今度は意図を理解してくれたようで、すぐに降りた。カリンが完全に降りると、私は地上へと降りた。

 

『他に移動したい人はいる?』

「便利だね。部長もああいうので移動してくれたらもっと早く着くのに」

『エンジニア部に言ってみればいい。喜んで作ってくれるよ。というか今一機あるからもらってくれば』

「暇があったら行ってみよう」

 

 初対面の割にはこのエイミと言う少女とはよく話してるなと思った。多分身元が分かっているからだろう。ネル達が警戒している様子ではないし、リオみたいに私の敵にはならないと思ったからだろう。

 

 結局他に移動する人はいなかった。私たちはそれぞれの場所で、その押し寄せてくるらしい敵を待ち構えていた。敵が来たのはそれからすぐだった。

 

 建物の陰からやって来たのは、今朝ヴェリタスで見たあのロボットだった。エイミが言っていた無名の司祭のオーパーツと言うのはあのロボットのことだったのか。あの時は車椅子に乗っていたせいで何もできなかった。だがしかし、私は今ACに乗っている。あの時ただ見ていることしかできなかった屈辱を今晴らす。

 

 先制は私が貰った。ロボットなど、私の前ではどうという事はなかった。車椅子に乗っていた時の無力感が嘘のように簡単に壊れた。私の攻撃を皮切りに、ネル達もロボットに攻撃を始めた。やってくるロボットの数は膨大で、私がいなければネル達は数的暴力によって押し切られていただろう。これはつまり、このタワーの中にアリスがいるという事の裏付けになっているのだろうか。

 

 不規則的な列を為しているロボットたちは、私が引き金を引くたびに一直線の穴が開く。しかしその穴はすぐに埋まってしまう。一発ずつ撃つハンドガンでは分が悪かった。前に出てブレードで薙ぎ払うが、クールダウンの時間を考えると、それほど効果的でも無かった。殴ったり蹴ったりしても隙間からロボットが流れ出てしまう。ネル達のおかげで何とか取り逃がしたロボットも処理できているが、いつタワー内部まで押し切られるか分からない。

 

「こんだけの奴らが一体どこに潜んでいやがったんだ!?」

「この数、私たちだけでは」

「捌ききれないよ!?」

『数が多すぎる』

 

 私たちがロボット相手に悪戦苦闘していると、遠くから何かが走ってくる音がした。まさかロボットの増援が来たのだろうか。もしそうであれば今度こそタワー内部まで侵入を許すことになる。

 

 建物の陰から現れたのは、ロボットをなぎ倒しながら道路を爆走する一体のロボットだった。私と同程度の大きさを持ち、左手には歪に裂かれた盾の代わりにランチャーらしきもの、そして胴体には応急修理された袈裟切りの跡があった。あの微妙にダサい顔は、アバンギャルド君だ。なぜアバンギャルド君がここにいるのだろうか。あの時、完全に止まったのを確認したはずだ。それがどういう訳か、私たちの前でロボットと戦っている。そして微妙に装飾が追加されていた。

 

 よく見ればアバンギャルド君の肩にエンジニア部の三人が乗っていた。アバンギャルド君は私の横につき、ガトリングで押し寄せてくるロボットと戦いだした。多数の敵に対しては、アバンギャルド君のガトリングは非常に相性が良かった。ウタハが私の方を向き、話しかけてきた。

 

「助けに来たぞ、レイヴン」

『どうしてアバンギャルド君が』

「直したからに決まっているだろう。エンジニア部をなめてもらっては困る。ACならまだしも、これぐらいなら修理して、さらにパワーアップすることだって簡単だ。まあ、今回はスピードを重視したから修理するだけに収まったが」

『名前は?』

「名付けてアバンギャルド君Mk.2だ。レイヴンが名前を気にするとは珍しいな」

『少しね、話題に上がったものだから』

「ウタハ先輩! 数が多すぎます!」

「弾切れもそうだけど、銃身がもたない」

「あまり悠長に話している暇はないみたいだ。私たちも戦おう」

 

 アバンギャルド君Mk.2とエンジニア部の助太刀により、状況は持ち直した。アバンギャル君はヒビキが言ったように銃身が赤く灼けていた。アバンギャルド君はガトリングの代わりに左腕を差し出した。そしてその武器から放たれた砲弾は地面に着弾するや否や爆発した。やはりランチャーだった。

 

 前線が少しずつ上がっていった。しかし相変わらず数は衰えない。ハンドガンは射撃間隔が短いがためにこれだけ時間が経っていてもまだ残弾に余裕がある。だが制圧力が足らない。私は両腕を下げ、光の大剣を突き出した。青い光球は大きくなり、機体の四分の一を飲み込むほどになると、私はトリガーから指を離した。光球は極太なレーザーとなりロボット群の大部分を飲み込んだ。

 

 数秒の照射後には、ロボットは消滅し、射線上にあったビルにも大きな穴が開いていた。突然差し込まれた青い光に、全員が攻撃を止めた。そしてロボットもまた同じようにその場でとどまった。ロボットにも感情と言うものがあるのか、仲間が大量に消し去られて呆気にとられたのだろうか。いや、様子がおかしい。触手を全て下ろしているが、次の瞬間先頭にいたロボットから順に地面に落ちた。金属と地面が激突する音が鳴り響き、視界にあった全てのロボットが落ちると、そこにはACとアバンギャルド君の稼働音だけが残った。

 

「止まった?」

「一応警戒はしておけ、まだどこかに潜んでいるかもしれない」

 

 ネルの言葉に私を含め全員が武器を構えなおした。ロボットが押し寄せる音がしなくなった後は、コックピット内の空調に似た耳鳴りの音だけが聞こえている。

 

「いや、もう大丈夫。完全に止まった」

 

 エイミが声を上げた。彼女を見ると耳に何かを当てている。目線はその耳に当てているものに向けられており、まだ何か聞いているようだ。

 

「アリスも無事に救出出来たって」

 

 その言葉に私は安堵の息を漏らした。安心したのは私だけではない。ウタハたちもほほ笑んでいる。ネルだけは真顔でエイミの言葉を聞いていた。そしてそのまま地面に寝ころんだ。アカネたちが慌ててネルの元へ駆け寄った。

 

「はー、全く心配かけさせやがってよ。帰ったらまたゲーセンに付き合ってもらわねえと割に合わねえぜ」

 

 私は先生たちを回収するために飛び上がった。先生からはすでにユニットに乗り込んでいると、メッセージが来ていた。引きずり下ろすようにユニットを回収し、再び地面に下りた。私はついでに怪我だらけのネルを一緒にミレニアムまで送ろうとした。先生もそれに賛同したがネルには断られた。仕方なく、私は先生とゲーム開発部だけを乗せて先にミレニアムまで帰った。

 

 

 エリドゥでの騒ぎから幾ばくが日にちが経った。あの日のことは数日経っても色あせることはない。なにせ、あれだけのことがたった一日で起こったのだから……いや、今までも一日で起こった大事件が沢山あったな。エデン条約にアツコの救出。あれも慌ただしい一日だった。

 

 そして私は今、ミレニアムにいる。理由はネルの退院祝いに招待されたからだ。あれだけ余裕そうな素振りを見せていたのに、いざ医務室に行くと入院レベルの怪我を負っていたそうで、即刻入院させられたとか。それでも数日で治ってしまうのは流石ネルと言ったところか。

 

 私の目の前には美味しそうなお菓子がたくさん置いてある。そしてそのわきにはなぜか妖怪MAXとかいうお菓子とは明らかに合わないだろうエナジードリンクが置いてあった。私がお菓子に目移りしている間に、先生とネル達の会話はおかしな方向へ進んでいた。

 

「それなら今度バニー姿で手伝いに行ってあげようか」

「い、いや、遠慮するよ。変な目で見られるから」

 

 一体どういう経緯でバニー服の話になったのだろうか。

 

「なるほど打ち上げすらもバニー姿で……これがC&Cのやり方なのですね。また一つ賢くなりました」

 

 そしてなぜかトキがここにいる。飼い主であるリオがいなくなったらしい。いきなり現れたことにネルは詰め寄っていたが、一言二言交わすうちに険悪な空気も無くなった。同じC&Cだから、そこまで敵対心は無かったのだろう。

 

 その後、先生はモモイに呼ばれゲーム開発部へ、私はウタハに呼ばれてエンジニア部の元へ向かった。にわかに奪われた日常は、いろいろな人の頑張りがあって、無事に取り戻された。




次回から遂に最終章、あまねく奇跡の始発点編に入ります。最終章は全四章……長丁場になりそうですが頑張って書いていきます!
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