シャーレ所属傭兵レイヴン   作:猫又提督

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第60話

 出口前で足止めを喰らっているが、このままでは後ろから増援が来て挟み撃ちにされてしまう。早く突破しなければならないのだが、パワードスーツの前にのこのこ出て行くわけにもいかない。

 

「ミヤコ! 残ってる煙幕弾と閃光弾を渡せ!」

 

 数秒間のにらみ合いの末、サキが叫んだ。一体何をするつもりなのか私には分からなかったが、ミヤコは何の疑問も持たずにグレネードを全て投げ渡した。

 

 サキは何度かちらちらパワードスーツを見ると、グレネードのピンを全て抜いて投げた。閃光が走り、直後大量の煙幕が張られた。咄嗟に柱に隠れたので、閃光で目がやられることはなかった。再び柱から顔を出すと、隠れているはずのサキの姿が見えなかった。その代わりに煙幕の中から銃声と、マズルフラッシュが見えた。数秒間撃ちっぱなしの末、何かが倒れた音がした。

 

「いくぞ!」

 

 サキの声が聞こえた。ミヤコはすぐに柱を出たが、他は理解できず柱から出るのを躊躇った。

 

「皆さん、早く! 追いつかれてしまいます!」

 

 ミヤコの声でようやく他の皆も柱から飛び出した。未だ残る煙幕の中を突っ切る際に、一瞬だけだが操縦席付近に大穴が開いたまま倒れているパワードスーツが見えた。

 

 大量に張った煙幕のおかげか、建物の中から私を追ってくる敵の姿は無かった。ミヤコとサキは一直線にヴァルキューレの出口に向かった。当然それを阻止すべく、PMCが襲い掛かてくる。しかし恐らくモエの支援なのだろうが、大量のミサイルが降ってきて、襲い掛かるPMCを返り討ちにした。

 

 私たちはそのままヴァルキューレを脱出し、子ウサギ公園へと向かった。

 

 

 一夜明け、カンナを除いた全員が集まった。そこで先生からPMCに拉致された経緯とD.U.の現状を話した。

 

「なるほど、先生も巻き込まれた、と。カンナ局長がいなければ危なかったですね」

「あの狂犬が自分を犠牲にして助けるとか……先生はどうやってあの狂犬を手なずけたんだ?」

「す、すごい怪我でした」

「一応テントの中で寝かせてるけど、ほっといたら勝手に起きてくるんじゃない? 公安局長だし大丈夫でしょ」

「とにかく今は、お互いに情報を共有するほかないでしょう。何を考えるべきか、何をすべきかを把握するべきです」

 

 先生は昨夜アロナから聞いたサンクトゥムタワーの現状を話した。

 

 D.U.に敷かれた戒厳令を撤回するには行政官の指示が必要だが、現在行政官は不信任決議案を議決されておりその権限が無い。不信任決議案を解消するには不信任決議案に同意した六人の室長が同意を撤回するか、再信任可決を行う必要がある。しかしカイザーがサンクトゥムタワーを掌握しているためにどちらも不可能である。

 

「つまり今の連邦生徒会は何もできない役立たずってことだね」

「連邦生徒会が今まで役に立ったことなんてあったか?」

「行政権限を一企業に奪われるなんて……SRTを維持していればこのようなことは避けられたはずです」

「てことはサンクトゥムタワーは今もカイザーに掌握されたままなんだよね。一体どうすれば」

「方法はまだ残ってる……シャーレだよ」

「シャーレ、ですか? 確かにシャーレは超法規的組織ですが、一体どのようにして」

「厳密にはシャーレの地下にあるクラフトチェンバー、そこがサンクトゥムタワーの行政指揮権を掌握してるみたい。どうやらリンちゃんもそこに監禁されているみたいだし」

「なるほど……理解しました。要はPMCからシャーレを奪還すればいいのですね」

「みたいって、誰かから聞いたような口ぶりだな。誰から聞いたんだ?」

「え、あ、い、いや、まあそのとある情報筋から」

「ふーん? ま、いいや。一度でいいからシャーレを吹き飛ばしてみたいと思っていたんだ。丁度いい」

「え」

「で、でもここにいる人たちだけでやるの? シャーレまでカイザーが制圧してるってことはつまり」

 

 ミユが私を見た。それにつられて他の人たちも私を見ている。RABBIT小隊の四人はどういうことなのか分かっているようだ。先生も同様に曇った顔をしている。私は他の人が言う前に、その理由を自分で言った。

 

『ACもカイザーの手に落ちている可能性が高いね』

「あ、あれだけ戦闘能力が高いんだ。特定の人しか乗れないような構造だろ。な?」

『そんなことはない。ルビコンじゃACは一般的な機体だし、操縦するのは慣れが必要だけど起動するぐらいなら誰でもできるよ』

「最悪ACが敵になるってこと? ほんとに最悪なんだけど。ACに傷すらつけれたことないのに」

『ダメージくらいすぐ受けるよ。あれとか』

 

 私は公園の中に置かれていた一つの大きなミサイルを指さした。

 

「あれ、ですか」

「モエが駄々こねて仕方なく買い戻したミサイルか」

「人聞きの悪い言い方しないでよ」

「で、でもあのミサイルは一つしかないし……あれだけでACを止められるとは思えません」

『まあガトリングでも攻撃は通るよ。ヘリについているものなら。微々たるものだけどね』

「それなら……まあ何とかなるか。でもいいのか。私たちが言うのもなんだけど、今お前の機体を壊そうとしているんだぞ。その、なんていうのか……いいのか、壊しちまっても」

『できれば壊さないでほしいなあ。それしか方法が無いなら仕方が無いけど。まあ、最悪エンジニア部に何とかしてもらうよ』

 

 そういえば、エンジニア部にはあのMTもどきがあった。あれさえあればなんとかなるだろう。素人のACよりかは熟練のMTの方が強いはずだ。私は早速ウタハにMTもどきを持ってきてもらおうとしてすぐに気づいた。そうだった、通信も遮断されているんだった。モモトークは全く繋がらなかった。

 

「分かりました。本官も頑張ります!」

「でもさあ、本当に行けんの? そのAC? もそうだけど、相手はキヴォトス屈指の大企業、カイザーだよ? 先生がいたとしてもそう簡単に行くと思えないけど。第一、私たちがシャーレに来ること分かってるでしょ」

「う、うう、だれにも止められないロボットを相手しながら幽閉された行政官を助けるだなんて……わ、私に出来るかな」

「ミユ、できる出来ないの話ではありません。やらなければ」

「そうです。キヴォトスの平和は私たちの手に掛かっているんですよ」

「う、うん……分かった。私も頑張るね」

 

 キリノの言い方は随分重圧をかけるような言い方だった。でもそれが事実だった。キヴォトスの危機を把握し、かつ解決できる力を持っているのは私たちだけなのだから。ミユはよく前向きになれたと思う。

 

「ああもう、全く。これが終わったら二十九泊三十日の休暇を貰ってやるんだから!」

「PMCごとき、キヴォトスのトップエリートである私たちSRT特殊学園の前には雑魚も当然だ!」

「まあ、私たちは実戦経験のない新入生なのですが」

「学校は閉鎖されて無くなっちゃったし」

「野宿中だし」

『ACに負けてるし』

「うっせえなあ! 関係ねえだろ。てか最後! それはノーカンだろ! あんな装備で誰がACに勝てるんだよ!? 軍隊じゃなきゃ無理だ!」

「よし、RABBIT小隊、生活安全局の皆……始めようか」

 

 先生の言葉に全員が頷いた。サキがミヤコを見る。

 

「ミヤコ、作戦名を決めてくれ」

「そ、そうですね……では、これよりシャーレ奪還のパセリ作戦を――」

「ちょっと待って、なんでパセリなの。もっとかっこいい名前ないの? いやほんとなんでパセリ?」

「う、うさぎが好きな食べ物なので」

「それならニンジンでしょう! ニンジン作戦です!」

「それは前に使っちゃって」

「ならドーナツ作戦は? グレーズド・ドーナツ作戦」

「なんかクリスマスに放映されそうな映画のタイトルみたいだな……レイヴンはなんかあるか?」

 

 急に振られた。私はしばらく考えてみたが、妙案が思いついた。私はその作戦名をスマホに書き込み、自信満々に見せた。

 

『カイザー越えと行こうじゃないか、戦友』

「シャーレ奪還作戦にします」

 

 私の案はバッサリ切り捨てられてしまった。

 

「ええ、普通じゃん」

「よ、よしじゃあ行こう!」

 

 一同は子ウサギ公園を出て、シャーレを目指した。私は公園で留守番になった。まあ、自分で歩けもしないのに、戦場に出たって邪魔になるだけだし当然だろう。

 

 

 先生たちが公園を出てしばらくしてから、モエはドローンを飛ばした。その小型のドローンは先生たちが向かった方向に飛んでいき、モエの肩越しにドローンのカメラの映像らしきものが見えた。

 

 モエはドローンの操縦に集中していた。私は椅子に座ったまま何もできなかった。声が出ないので、スマホで話しかけても気づいてもらえないし、歩けないのでモエの隣まで行くこともできない。自分だけ何もできなかった。

 

「敵の巡航戦車、中隊規模を確認。攻撃ヘリからバリケードまで、徹底的に準備してるよ」

 

 モエの声が聞こえた。それに答える声は聞こえなかった。なんで誰も答えないのだろうと思ったが、ヘッドセットをつけているのでモエにしか聞こえていないのだ。それに気づくのに一分ほどかかった。

 

 遠くから爆発が聞こえた。音のする方を見ると、僅かにヘリが見えた。しかし、そのヘリはすぐに落ちてしまった。あっちは確かシャーレの方だ。

 

「後方から更に戦車が四両来てる。東からも増援が中隊規模。西側が手薄だからそっちに一度退避した方がいいかも」

 

 モエの指示が激しくなった。あの爆発は先生たちがカイザーと衝突した影響なのかもしれない。

 

 公園は静かだった。遠くから爆発が聞こえるとはいえ、それ以外は日常と何ら変わりはなく、少し遠くではスズメが地面の上で羽を休めていた。私は背もたれに背中を預け、スズメとモエを交互に見ていた。じっと地面に座り続けるスズメと、忙しそうに腕を動かしているモエは対照的でなんだかおもしろかった。

 

 空がきれいだった。雲一つなくてきれいな青空だった。ここ最近下を向いてばかりだったのを思い出した。いい天気だなあ、と私は率直に思った。昼寝をするのには丁度いい天気なのかもしれない。

 

「ん? あれってAC?」

 

 モエのつぶやきが聞こえた。ACと言う単語に、私は視線をモエに向けた。

 

「シャーレに置きっぱなし……周りのPMCもACに手を付けようとしてない……ミヤコ、カイザーはACに手を付けてない。あの無敵ロボットが私たちの前に立ちはだかることはないみたい……さあ。何か知らないけど動かせなかったんじゃない……そうだね、分かった。今から連れて行くよ」

 

 モエは振り向いて、立ち上がった。そのまま私に向かって言った。

 

「カイザーがACに手を付けてない」

『それはラッキーだね』

「今からレイヴンをシャーレまで送るから、向こうで先生たちの支援をしてくれる?」

『まあ、構わないけど』

「よし、じゃあヘリの準備してくる!」

 

 モエは走ってヘリに向かった。

 

 ACに手が付けられてないと言っていた。起動すらしてないのだろうか。動かすならともかく起動ぐらいなら出来ると思うが、まあいいか。私だけ何もせずに傍観するほかないのはいささか罪悪感があった。

 

 ヘリの準備はすぐ終わったようでモエが迎えに来た。私が腕を差し出すと「ああ、動けないんだっけ」と言いながら私を抱き上げた。

 

「うわ、軽っ!? え、ちゃんと食べてる? 先生から制限されてたりしない」

 

 そんなのされてるわけがない。先生にも同じようなことをよく言われるが、仕方ないだろう。小食なのだ。それよりも私は、自分の胸に当たっているものの方がずっと気になっている。初めて見た時から思っていたが、でかい。別に何がとは言わないがでかい。抱き上げられた私は軽くくの字になっている。多少押し付けた程度では形が崩れないのだ。声が出なくてよかったと思った。もし声が出ていたら、抱き上げられた瞬間に、やわらか、と言っていただろう。先生だったら撃たれてたな。

 

 ヘリの座席に座らされた。その際ヘッドセットをつけてもらった。RABBIT小隊らしく兎の耳がついていた。固定されると、モエも操縦席に座った。

 

「今からシャーレに向かう。対空火器には注意するけどもしもの時は援護よろしく。レイヴンも、結構揺れるかもしれないから注意してね」

 

 そう言ってモエはヘリを離陸させた。ヘリに乗るのは一日ぶりだ。まあ昨日は拉致られたわけだが。そういえばルビコンじゃあほぼ毎日ヘリに乗っていたな。ACが乗る輸送ヘリだったので中も随分広かった。歩き回れるほどだ。私は歩き回ったことなんてないけども。

 

 向かいにあった窓からは、空しか見えなかった。下では戦闘が繰り広げられているのだろうが、ヘリの音で全て掻き消えた。時折、操縦席の方から警告音らしき音が聞こえた。そのたびにモエは「あぶなー」だの「狙わないでよ」などと言っていた。そして機体も揺れた。こんだけ大きいのに、よく避けれるものだ。

 

 

 何度も実は命の危機に瀕していると、モエから「着いたよ!」と報せが来た。モエは操縦席から立つと、私を固定していたシートベルトを外しにかかった。操縦席から離れて大丈夫なのだろうかと思いながら見ていると、モエは私をちらりと見て思っていることが分かったのか「ホバリングぐらいなら別に大丈夫だから」と言った。

 

 席から移動された私は、そのままハーネスをつけられた。

 

「下ではすでにシャーレを奪還しかかってる。サキが今真下で待機してるから、サキにACまで連れてもらって、いい?」

 

 私は頷いた。モエはヘリのドアを開けた。より一層騒がしい音が聞こえ、風も入り込んだ。少し寒かった。

 

 モエは私のヘッドセットを回収した。そして肩をポンポンと二回叩くとドアから私を下した。ゆっくりと降りていくと、だんだんヘリのローター以外の音がした。銃声や爆発音、叫び声なども聞こえた。ACもすぐ近くに置いてあった。昨日置いた体制のまま何も変わっていなかった。

 

 下ではモエの言う通り、サキが待機してきた。降りてきた私の体を掴むと、素早くハーネスを外し、二回引っ張った。それが合図だったのかハーネスはまた上に上がっていく。

 

「よし、いくぞ。あのリフトに乗れば大丈夫だよな」

 

 私は頷いた。シャーレの周りにはヴァルキューレの生徒たちがいた。カイザーの姿は見えないがまだ臨戦態勢だ。

 

『シャーレはもう確保できたの?』

「外にいるやつらはな。中はまだだし、これからもう一度奪取しようと増援が来る」

 

 だから急いで私をここまで運んできたのか。

 

 サキは手慣れた手つきでリフトを操作した。流石エンジニア部、初心者でも分かりやすいボタン配置をしている。リフトが上がり切るのを待っていると、後ろから「増援が来たぞー!」と叫ぶ声がした。私もサキもその声につられて振り返った。

 

 大勢のPMCに戦車やヘリもいる。何両かの戦車の内一両の主砲が動いた。心なしか私たちの方を向いている気がした。

 

「おいおい、まさかここに向かって撃つつもりじゃないよな!?」

 

 サキが心配して間もなく、戦車の主砲は火を噴いた。




今日の夕飯はチャーハンなんです。


  ∧,,∧
 (;`・ω・)  。・゚・⌒) チャーハン作るよ!!
 /   o━ヽニニフ))
 しー-J


古いですかね。
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