シャーレ所属傭兵レイヴン   作:猫又提督

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第61話

 私は目を瞑った。いずれ来る激痛と死に正面から向き合う勇気はなかった。直後に轟音と風を感じた。痛みはなかった。恐る恐る目を開けると、何かが私たちを戦車砲から守っていた。それが手のような物であるのが分かった。根元までたどってみると、それはACの腕だった。

 

 誰も乗っていないはずのACが動いていた。本当は誰か乗っていたのか。でもそれならどうして今動いた。今さっきようやく動かし方が分かったのか。

 

 私の疑問は止まない。サキはACが勝手に動いたことなど気にしてないのか「助かった」と呟いている。私の疑問はそれでも止まない。サキは私の困惑など意にも介さずコックピットに近づいた。そういえばコックピットが閉まっている。一昨日解放したまま降りたはずだ。閉めてしまうと少し面倒だったから。

 

 コックピットが勝手に開いた。やっぱり中には誰にも入っていない。なぜ動いた。何故勝手に開いた。そういう設定だっただろうか。いや、記憶にない。じゃあ誰が動かした。どうやって動かした。

 

 私はふと思い出した。彼女の存在。姿を見たのは夢の中で一度だけ。それから存在を感じさせることは何度かあった。存在感が薄かったせいで思い出すのに時間がかかった。

 

 カイザーに起動させなかったのも彼女の仕業か。なら納得できる。

 

「よし……これでいいか? 後は頼んだぞ」

 

 気づけばコックピットに座らされていた。私は慌てて頷いた。サキが離れてからコックピットを閉めてACを起動した。

 

『メインシステム起動。メインシステム戦闘モードを起動』

 

 やっぱり簡単に動いた。彼女の仕業か。

 

 さっさと終わらしてしまおう。戦車隊の一番前にいた一両に狙いをつけた。引き金を引けば、戦車はあっという間に主砲塔と車体が別れて飛んでいった。一両ずつ一発一発丁寧に撃っていく。一発で破壊される戦車を見ると気持ちがいい。ゲームをしている気分だ。何週もしたゲームを走ると大体こうなるな。

 

 厄介なのは戦車ぐらいか? 後は歩兵ばかりだし、なぜだかヴァルキューレの生徒がシャーレの周りにたくさんいるが、カイザーと敵対しているなら彼女たちは本物だ。

 

 ミサイルが飛んできたので、避けた。そういえばヘリもいたんだったか。お返しにハンドガンを一発撃ったらヘリは墜落してしまった。

 

 後は適当に歩兵を蹴散らせば私たちの勝利は確実だ。敗戦確実と判断したカイザーたちは勝手に撤退していった。それと同時にスマホが鳴った。また鳴った。またまた鳴った。鳴りやまない、通知が一定間隔で来ている。通知欄を見て見ると、いろいろな人からメッセージが来ていた。エンジニア部に、ゲーム開発部、ヒフミたちからもメッセージが来ていた。

 

 

 コーラルの汚染。ルビコンで何度も見てきた。赤く染まるほどのコーラルを見たのはウォッチポイントが初めてだった。コーラルの汚染が一体どのように人体を犯していくのかは知らない。せいぜい薬物に使って廃人と化す程度だ。ただ、強いて言えば、コーラルに染まった空を見るのは、美しくもあり、不気味でもある。

 

 大きく揺れた。地震だった。それに驚き一瞬地面を見て、次に前を向いたときにはすでに空は赤く染まっていた。私はその空をみてウォッチポイントで見た光景を思い出した。確かあの時もこんな赤色をしていただろうか。周りを見れば際限なく赤色が広がっている。同時に天高くそびえるタワーも見えた。細長いタワーだ。空高く伸びている。ここからでは頂点が見えなかった。

 

 ここまで来て私はようやくセイアの予言を思い出した。赤く染まった空に高くそびえる塔。私はそれをバスキュラープラントとコーラルだと思っていたが、少なくともバスキュラープラントはあんなに細くなかったな。

 

 

 先生からメッセージが来た。

 

『各自治区にいる生徒は、黒い塔に近づかず避難してください』

 

 かなり事務的なメッセージだ。黒い塔、と言うのは今まさに見えるあの塔のことだろうか。

 

 また先生からメッセージが来た。

 

『申し訳ないけど、手伝ってくれないかな』

『いったいどういう事。突然のこと過ぎて理解が追い付かない』

『ごめん、ちょっと説明が長くなるけど』

『それなら直接話を聞く。今どこにいるの』

『屋上だよ』

 

 私はすぐに飛びあがった。

 

「レイヴン!?」

 

 サキが私を呼んだが、私はそれを無視した。

 

 私は屋上に飛び上がった。その際何か黒い煙のようなものが見えた。奇妙な話だが、私はそれが人型に見えた。

 

『お待たせ。さっき誰かいた?』

「いや、誰もいないよ」

『あっそ。で、一体どういうこと』

「レイヴンもあの塔は見えるよね」

『見えるよ。あれだけ高いとね』

「今、あそこの塔の周りを中心に敵が現れているから僕たちで何とかしないといけない」

『まだシャーレには戦力が残ってるじゃん。ヴァルキューレもRABBIT小隊もいる』

「あまり生徒をあの塔に近づけないようにしないと」

『どうして?』

「突然現れた謎の物体に不用意に近づいたら危ないでしょ?」

『まあ確かにそうだね。私は接近させられるわけだけど』

「それは申し訳ない。今は避難もそうだけど、現れた敵の対処も必要だから」

『はいはい。とにかく敵を倒せばいいんだね。先生は一体どうするの。生徒は近づけないんでしょ?』

「僕は、これを使う」

 

 先生は懐から一枚のカードを取り出した。私はそれに見覚えがあった。確か大人のカードとかいう奴だ。アリウスでACが出てきたのを見た。

 

『また別のACを呼び出そうってわけね』

「い、いや別にACを呼ぶためのカードじゃないんだけどね?」

『そうだったの。まあいいや。じゃあ私は先に行くから』

 

 私はシャーレの屋上を飛び立った。アサルトブーストで以て最速であの黒い塔の根元に向かった。

 

 そこには先生の言う通り多くの敵がいた。久々に見た聖徒会に、変な色味をしたPMCといろいろだ。

 

『さて、仕事を始めようか』

 

 真っ赤に染まった空は地上の全てに赤いフィルターをかけてしまった。川の横にある土手道はまるで紫色だ。ついでに、道の端には奇妙な赤いクリスタルが生えている。

 

 現れた敵を掃討しながら前に進むと、どこからともなく増援が湧いてくる。どこかに隠れていたみたいな現れ方ではなく、その場にスポーンしたような現れ方だ。聖徒会もPMCも同じように湧いてくる。よく見ればPMCの色合いが聖徒会に似ていた。じゃあこいつらは聖徒会の仲間、同類みたいなものか。無限に湧くとかじゃなかろうな。

 

 バルバラの出現におびえながら敵を掃討していると、前方の少し離れたところで敵の大群が吹き飛んだ。おや、と思い振り返ってみると、一機のACが赤い炎を上げながら降りてきた。

 

『手伝いに来たよ』

 

 彼女はさも当たり前のように、私にメッセージを送って来た。

 

『やっぱり出てきた』

『私だってたまには戦いたいんだよ。特殊な身だけど、元はあなたと同じレイヴンだもの。先生があの力を使わない限り、私は出てこれないんだから』

『アセン変えた?』

『うん。色々試してみたかったんだ。エルカノのタンク。すっごい早いんだって』

『へえ、タンクって飛び回れないから少し苦手』

『あなたももっと色んなアセンを試してみるべきだよ』

『それ今の私に言う? ていうかあなたは一体どこから機体を持ってきてるの』

『先生が使う力と同じ原理だよ』

『だからそれってどういう――』

『ああほら、また出てきたよ』

 

 彼女は持っていたハンドミサイルで前を指した。消し飛んだはずの敵が復活している。

 

『無限湧きじゃん』

『ある程度殲滅して一時撤退かな。じゃあ私は向こう行くから』

 

 彼女は行ってしまった。なんか馴れ馴れしかったな。あ、そうか、私と一緒だからか。他人から聞けば私って馴れ馴れしく感じるのだろうか。そういえば初対面の人と、ある程度知り合った人も口調一緒だったな。次から直した方がいいかもしれない。

 

 機体がガンガン鳴った。敵が私を攻撃している。そうだった、戦闘中だった。口調のことはまた後で考えよう。

 

 

 倒しても倒しても敵が湧いてくる。なんかキヴォトスに来てから耐久戦ばかり強いられている気がするが気のせいだろうか。耐久戦ばかりが記憶に残っているせいだろうか。

 

 何度目か分からないリロードに、何度振ったか分からないブレード。流石に街を吹き飛ばすわけにはいかないので光の大剣は使えない。ドローンに変えておくべきだったな。光の大剣に浪漫を感じ続けていたが、浪漫だけでは解決できないこともあった。

 

『ん、なんだあれ』

 

 見慣れない敵が近づいて来た。色合いはミレニアムで見たディビジョンとかいう軍隊のロボットに似ている。だがあのロボットよりも、なんというか生物味を感じた。だが、あのロボットと一緒に行動しているので同類だろう。私は照準をつけて撃った。弾頭は前にいたロボットを巻き込んだ。その四本足だった謎の敵は体の前半分が消し飛んでひっくり返った。

 

『敵が変わったところで強さはそう変わらないな』

 

 メッセージが来た。先生からだ。

 

『一回シャーレに戻ろう』

『でもまだ敵が湧いてくるよ』

 

 先生と会話しているこの間にも、川沿いの土手にはどんどん敵が湧いて出ている。撃ちながら先生と会話した。

 

『黒い塔の近くにいた住民は避難できたし、シャーレでも作戦会議の準備が進んでるから』

『他の場所は? またあのACが来たのは分かったけど、結構広範囲に敵がいるんじゃ』

『ああうん。また出て来たね……他の場所もちゃんと対処できてるよ。でもそっちもそろそろ撤退させる』

『分かった。じゃあ撤退する』

 

 私はすぐ近くにいた数グループだけ殲滅してその場を後にした。飛び上がって見て確認できるが、あの塔は現れたというより、落ちて来たみたいだ。落ちた瞬間を見ていないが、塔を中心に大きなクレーターが出来ていた。

 

 シャーレに戻ると、先生が待っていた。ACから降りると、リフトで先生が迎えに来てくれた。

 

「ごめん、まだ車椅子の用意が出来てないんだ」

 

 そう言って先生は私を抱き上げようとした。私は別に構わないので、先生に大人しく抱き上げられた。

 

 シャーレの入口にはヴァルキューレの生徒が立っていた。それ以外にも、カンナの姿や武装展開している姿も見られた。まるでシャーレを防衛しているみたいだ。

 

『すごい厳重になってるね』

「まあ、いまここに色々な人が来てるからね。連邦生徒会も来てるし、ここが今のD.U.防衛の最重要拠点になってるから」

 

 先生はシャーレのとある一室に入った。そこには部屋いっぱいに人が座っていた。見たことがある人もいるし、見たことない人もいる。

 

「ごめん。遅れたね」

「いえ、それでは先生も来ましたのでこれより作戦会議をします。先生もご着席ください」

 

 残った椅子は一つだけだった。必然的に私は先生の膝の上に座ることになった。なんだか、周りの人からの視線がすごい集まっている。先生じゃなくて私を見ている。ちょっと怖いのだが。ハナコは「あらあら」と言って笑っているし、え、何。目が怖い。

 

「結論から申しますと――」

 

 リンが発現してくれたおかげで、皆の視線は彼女に集まった。

 

「あの塔を二週間以内に破壊しなければなりません。現在キヴォトスに出現している六つの塔、今からこれを虚妄のサンクトゥムと呼称します」

「つまり偽物のサンクトゥムってこと? それならこの謎の超高濃度エネルギー体にも納得いくけど」

「こちらはセイアちゃん……ティーパーティとシスターフッドが協力し、古書館から発見したデータです」

 

 ハナコが立ち上がり、全員に数枚の書類を渡した。私たちの所にも回って来た。先生がそれを持ちペラペラとめくった。細かい文字が並んでいるが、とりあえず色彩という単語が何度も出ていた。

 

「ティーパーティとシスターフッドが協力するなんて、今まで考えられなかったのですが、これも先生のおかげですね。えっとこちらのデータですが――」

 

 ハナコが書類の内容を説明しだした。全員書類に目を落とす。私も一応書類を先生と一緒に読んだがちんぷんかんぷんだ。唯一分かったのが、あの塔は人を狂わせるという事だった。

 

「色彩? 人々を狂気に陥れる? 一体どういう話?」

 

 ユウカもあまり分かってなさそうだ。

 

「ユウカちゃん、信じがたいのは分かりますが、これらはすべて事実です」

 

 突然ノアの声が聞こえた。この場にいないのに一体どこから、と思ったがユウカのスマホからだった。

 

「今、エンジニア部があの塔を分析してくれていますが、そこから人の精神を錯乱させる信号を検知しました」

 

 ユウカを含め、全員が押し黙った。セイアはスマホ越しに以前私たちも聞いた予言の内容を話した。予言の内容を疑う者はもう誰もいなかった。

 

「約三百時間、つまり約二週間後にはキヴォトス全域に色彩が広がってしまうということです。短期決着が望まれますね」

「それと色彩に触れてしまった人を戻す方法も見つけないとね」

「そうだな……私が口にできることは殆どない。しかし彼女であれば……百鬼夜行の大予言者クズノハ、彼女を探すべきかもしれない」

「にゃはははは。クズノハ、ですか?」

 

 またこの場にいない誰かが口を開いた。この場にいない人も出席しているのは分かったが、一体この会議に何人出席しているんだ。

 

「――まあ、こちらに関しては後で二人でじっくり話し合いましょ、先生。ちょ~っと込み入った事情があるので……ま、重要そうですし何とかしてみましょう」

「ありがとう、ニヤ」

 

 先生は知っているようだ。一体いつ知り合ったんだ。

 

「にゃはは。ではまた」

 

 切れてしまった。ニヤとかいう生徒は結局声しか分からなかった。

 

「まとめますと、虚妄のサンクトゥムは二週間後に臨界点を向かえます」

「そうなったら」

「世界は終焉を迎える……全てが終わりですね」

「それを防ぐために虚妄のサンクトゥムを全て破壊する。シンプルな話ですね」

「二週間以内に、ね」

「虚妄のサンクトゥムは計六つ存在します。アビドス砂漠、D.U.近郊の遊園地、ミレニアム郊外の閉鎖地域、トリニティとゲヘナと境界、ミレニアム付近の新しい都市、そしてD.U.の中心地点」

『ここのは私がやるよ』

「レイヴンさんであれば安心して任せられますね」

「それでも一応D.U.の中心にあるサンクトゥムタワーが一番エネルギーが強いので、他の五つを破壊してから最後の六つ目を破壊するのがよろしいかと――」

「そうであればよかったのですが、実際はそう簡単には行かないようです」

 

 ようやく会議が終わりに向かおうとしていたのに、また誰かが口を挟んできた。まだまだ会議は終わりそうにない。




レイヴンいけない! その座り方は戦争が勃発してしまう!

会議中ずっとレイヴンは先生の膝に座っているので事あるごとにレイヴンは嫉妬の目線を向けられるわけですね。
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