シャーレ所属傭兵レイヴン   作:猫又提督

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おかげさまでUA数が十万を突破いたしました。まさかこれほど読んでいただけるとは思わず、感謝の念でいっぱいです。これからも頑張って書いていきます。


あまねく奇跡の始発点編二章
第62話


 会議に飽きてきた。そもそも私が参加する理由ってなんだ。サンクトゥムタワーに出現した虚妄のサンクトゥムは私が壊すと宣言したので、それについての会議であれば私も参加する意味がある。だが、他の場所は知らん。私は上でお話をするお偉いさんではなく、現場で実際に動く下っ端だ。

 

「虚妄のサンクトゥムにそれを防衛する守護者の存在が発見されました。それらは全て以前キヴォトスで確認された奇怪な現象を元にしています」

 

 ミレニアムの頂天才病弱美少女ハッカーなどと言う変な二つ名を自称したヒマリが、各自治区の守護者の名を挙げていくがどれもこれも分からない。

 

「うーん、そういう事か」

「先生はご存知の様ですね。各守護者を倒さなければ虚妄のサンクトゥムの破壊は叶いません」

『D.U.の守護者は?』

 

 D.U.の中心に落ちて来た虚妄のサンクトゥムだけ名前が挙がらなかったので尋ねてみた。

 

「そちらについては不明です。まだ攻撃を仕掛けておりませんので守護者も現れていません」

「つまりは守護者を倒せばいいってことよね。シンプルなことに違いはないわ」

「六地点の同時攻撃ですか……連合作戦を想定する必要がありますね。すぐに準備しましょう」

「そうだね、時間も限られているし」

「ちょ、ちょっと待ってよ皆~」モモカがやる気溢れる全員に一度待ったをかけた。「やる気があるのは分かったけどさ、それ以外にもやることが沢山あるんだよ。各自治区の生徒や住民の避難場所の確保に、作戦期間中の治安確保もしなくちゃいけないんだよ。ゲヘナ、百鬼夜行、レッドウィンター、山海経、トリニティ、D.U.……いろんな場所から報告が上がってる。敵は守護者だけじゃないってこと」

「それについてはご安心を」どこからともなくナギサの声がした。「トリニティについては私たちが担当しましょう。本来は私たちの仕事ですので」

 

 ナギサがトリニティ自治区の治安維持を申し出ると、各自治区からもそれぞれ治安維持を申し出る団体が相次いだ。この会議もしかしてキヴォトス全域規模で開催しているのかもしれない。

 

「大方まとまりましたね。私たちの目標はキヴォトス各地に現れた六つの虚妄のサンクトゥムを破壊すること。それに付随して、各自治区の避難や防衛を遂行することです。全ての作戦はシャーレの先生を中心に展開されます。全自治区の避難状況の確認やサンクトゥムの攻略……全て先生の方で確認してもらわなければなりませんが大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だよ」

 

 先生は迷う様子もなく即答した。

 

「ひゃ~、先生も忙しくなるねえ」

 

 先生は前々から忙しかったが、今回はベクトルが違いそうだ。

 

「そ、それでは皆さん時間をキヴォトス標準時刻に合わせてください」

 

 皆がそれぞれ時計やスマホを弄りだした。私も慌ててスマホを開いたがキヴォトス標準時刻ってなんだ。どこで設定するんだ。時計か、時計アプリか。『キヴォトス標準時刻』という項目でもあるのか。

 

「標準時刻はD.U.基準だから、レイヴンは大丈夫だよ」

 

 私が慌ててスマホを弄っていると先生が後ろから教えてくれた。なんか、ユウカの目が怖いなあ。顔の向きは下を向いているが、視線が確実に私を見ている。そのせいが酷く睨んでいるように見えた。

 

 プロジェクターに虚妄のサンクトゥム攻略作戦と銘打ったボードが現れ、その下には最終臨界迄予想時刻とキヴォトス標準時刻が書かれていた。

 

「わ、私たちに残された時間はあと十四日と二十三時間五十九分五十九秒です」

「この時間内に虚妄のサンクトゥムを攻略しないといけないってわけね」

「は、はい。この時間内に作戦を立て、攻略を完了しなければなりません」

「分かりました。それではこれより、虚妄のサンクトゥム攻略作戦を開始します」

 

 一同は解散した。先生も立ち上がり、部屋を出た。私はこれからどうすればいい、と先生に聞こうと思ったが、いろいろな生徒が先生に話しかけてきた。どれもこれも虚妄のサンクトゥム攻略作戦の相談ばかりだった。私はお姫様抱っこをされながら聞こえてくる話を右から左へ聞き流していた。そろそろ突き刺すような目線にも慣れてきた。

 

 先生のオフィスに来てようやく質問をする生徒は居なくなった。私はようやく自分のしたい質問をすることが出来た。

 

『私はどうすればいい? このまま虚妄のサンクトゥムに攻撃する?』

「いや、D.U.の中心にある虚妄のサンクトゥムはまだ攻撃しないでおこう。当初の目的通りまず他の五つの虚妄のサンクトゥムを破壊してから。下手に攻撃して守護者を出してしまうと戦況がおかしくなるかもしれない。他の五つの守護者を聞いた感じ、ここの守護者も強力なものになると思う」

『じゃあそれまで私は何をすればいい?』

「レイヴンにはここの防衛をお願いしたい。守護者は出ていないけど、敵は出続けてるからね」

『分かった』

「でもそれよりも、車椅子を手配してもらおう。いつまでも僕が抱いてばかりだとレイヴンも不便でしょ」

『ま、そうだね。他の人の視線も怖いし』

「あ、もしかして恥ずかしかった? ごめんね」

『いや別にそういう訳じゃ。まあ、うん、そうだね。恥ずかしかったね』

 

 あれは少なくとも奇異の目ではなかったな。何か恨みのようなものを感じた。このまま先生にお姫様抱っこされ続ける限り、そういう風に見られてしまうだろうから、私としても早く自分の意思で動けるようにしたい。

 

 先生は私をソファに座らせてオフィスを出て行った。部屋の中一人になった。外から騒ぎが聞こえる。多分シャーレを防衛する準備でもしているのだろう。今の時刻は昼過ぎであるのに、外が真っ赤に染まっているせいか夕方のように感じた。

 

 先生は車椅子を押しながらすぐに戻って来た。意外と早かったので、どこから持ってきたのかと聞いたら医務室からだという。シャーレにあるなら最初から用意すればよかったのにと思ったが、急いでいたのならしょうがないか。

 

「僕はこれから色々とすることが有るけど、レイヴンはしばらく休んでていいから」

『シャーレの防衛は?』

「まだ余裕があるし、ここにいるヴァルキューレに頼む。ACだと弾薬の消費も激しいでしょ?」

『そうだね、またミレニアムまで取りに行く必要があるかもしれない』

「ひとまず今日は休むといい。二週間しかないというけど、まだ二週間ある。今日だけで解決しなきゃいけないわけじゃない」

『分かった』

 

 私はオフィスから出て行った。自分の部屋に戻ろうとしたが、興味本位で玄関まで行ってみた。いろんな人がいた。これだけの人がシャーレに集まるのを見たのは初めてだ。

 

 外に出ようとすると、一人の生徒とすれ違った。さっき会議にいた人だ。名前は知らない。

 

『初めまして』

「ん……初めまして」

 

 私は彼女に挨拶してみた。向こうは私が話しかけてくると思っていなかったのか、返すのが少し遅れた。

 

 ここで新しいコミュニケーションを試してみよう。なるべく馴れ馴れしくしないように、礼儀正しく挨拶すればいい。

 

『レイヴンです。よろしくお願いします』

「ああ、知ってる。有名だから。私は鬼方カヨコ。別にそんなあらたまなくていいよ」

 

 なんだ、折角柄にもなく礼儀正しくしたのに。

 

 勢いで話しかけてしまったので、何を話せばいいのか分からなくなった。かといってここで別れるのもなんだか気まずいので何かしら話しておきたい。

 

『カヨコはどこの学園の生徒?』

「一応ゲヘナだけど」

 

 ゲヘナか。あまりゲヘナには知り合いがいないな。

 

『ゲヘナの人とはあまり交流が無かった』

「そう? まあ、ゲヘナは変わり者が多いからね。あまり関わりを持とうとする人は少ないし。そういう人が居たらよっぽど変わり者だよ」

『じゃあ先生は変わり者になるけど』

「ああ、そうだね。確かに先生はとっても変わり者だね」カヨコは周りを軽く見ると、顔を近づけてそっと耳打ちをした。「れ、レイヴンは、その、せ、先生とはどういう関係なの?」

 

 カヨコはそう言って顔を離した。僅かに顔が紅潮していた。

 

『なんでそんなこと聞くの?』

「い、いや、そのさっき先生の膝に乗ってたから、その結構仲がいい……」

 

 最後の方はごにょごにょと言っていて聞き取れなかった。どういう関係と言われても傭兵とその雇い主でそれ以上でもそれ以下でもないのだが。

 

『犬と飼い主だけど』

「い、犬!?」カヨコは叫んだ。

 

 さっき初めて言葉を交わした時、とても静かな印象を受けた。だからカヨコが叫ぶと、他の人よりもより大きく叫んだ感じがして、私は驚きのあまり肩を跳ね上げさせた。

 

「あ、ごめん」

『まさかそんなに叫ばれるとは思っていなかった』

「い、いやでも突然犬とか飼い主とか言ったら誰も驚くと思うけど」

『それはそうだけどね。カヨコまで大声で叫ぶとは思ってなかったの』

「ああ、そう……犬、犬か……ありがとう、参考になったよ。じゃあ私はこれで。作戦頑張ってね」

『うん、そっちも頑張って』

 

 カヨコはひらひらと手を振って去っていった。参考になったと言っていたが、何か参考になるようなことを言っただろうか。犬としか言ってないのだが……考えても良く分からなかったので、私はそのまま先に向かった。

 

 外に出ると、ヴァルキューレの生徒たちが慌ただしく動いていた。その中で人だかりができていたので、その中心に何があるのか遠目に見ていた。生徒の一人が動いたので、一瞬中心にいる何かが見えた。カンナだった。子ウサギ公園で寝かせられていたはずなのに、いつの間にここまで来たのだろう。聞いてみたかったが、何か話しているようなので、終わるまで待ってみることにした。

 

 やがて、集団が解散した。カンナはどこかへ行こうとしたので、私はすかさず彼女の元まで向かった。車椅子を自分の手で動かすのは難しかった。車輪が思ったより重い。私の筋力では前に進むのも一苦労だ。

 

 カンナが何気なしに、こちらを向いた。私に気づいたのが分かった。幸い彼女はそのまま私の元まで来てくれた。

 

「レイヴンさん」

『どうしてここに? 子ウサギ公園で寝ていたんじゃ』

「はは、少し寝たらすっかり回復しました。他の公安局の奴らが頑張っているのに、局長である私が寝ているわけにはいきませんので。RABBIT小隊の奴らには礼を言って、ここまで来ました」

『カンナは頑張ったんだから、もっと休んでてもいいのに』

「ええ、この騒動がひと段落したら休みますよ。カイザーが撤退したと思ったら、また別の敵が現れたのですから、今は休むにも休めません」

『カイザーいなくなったの?』

「ええ、あの黒い塔が現れたというものの、すっかり姿を消してしまって。逃げ足の速い奴らです」

『じゃあ、ヴァルキューレにいたカイザーも?』

「ええ、撤退しましたよ」

『じゃあ、私の車椅子取ってこれる?』

「ああ、そうですね。確かに、今ならレイヴンさんの車椅子も回収できるでしょう。急ぎますか?」

『出来れば。これだと移動がしにくくて』私は今座っている車椅子のひじ掛けを、ポンポンと叩いた。

「分かりました……あ、おい。そこのお前、ちょっといいか」

 

 カンナは近くにいた公安局の生徒を一人捕まえ、手短に事を話した。その生徒は「分かりました!」と返事をすると、車両に乗り込み行ってしまった。

 

「恐らく……一時間後には届くでしょうから、それまで待っててもらえますか」

『ありがとう、助かったよ』

「いえ、レイヴンさんには恩もありますから」

『私何かしたっけ。それ先生じゃないの?』

「その先生を守っていただいてます。本来であれば警察である私たちが守るべきですが、いつも一番近くで先生を守っているのはレイヴンさんですから」

『そう。まあ、それが仕事だしね。じゃあ、私は行くね。カンナも頑張って』

「ええ、お互い頑張りましょう」

 

 

 数日後、作戦が本格的に始動しだした。シャーレには複数のトラックが運び込まれ、地面の至る所にケーブルが引かれている。トラックの荷台に乗せられたコンテナには『SHALE CONTROL』と書かれており、それぞれナンバリングされている。何の車両か聞いてみれば通信用の車両らしい。通信網は回復したものの、虚妄のサンクトゥムのせいで再び通信障害が起きたようだ。自治区を超えた通信が困難らしい。トラックは計五台。コンテナも五つ用意されていた。

 

 私はACやら、周辺機器やら、弾薬やらを全て裏手に移していた。裏ならトラックも回っていないのでケーブルも引かれていない。引っかかって転ぶ心配もない。

 

「第一から第五サンクトゥムまでの攻略準備は着々と進んでいます」

「防衛戦も順調です」

 

 スマホから連邦生徒会たちの声が聞こえる。特別に先生を通じて指揮所の音声をそのまま流してもらっている。万が一、何かしらのトラブルがあった際、私が支援に急行する手はずになっているからだ。作戦では私の支援は必要ないことになっているが、実際の戦場では何が起こるか分からない。私はこのまま全作戦が終了するまでACに乗り続ける覚悟だ。

 

 音声を聞く限り、私の支援が必要には思えない。作戦がいつ終了するかは分からないが、なるべく早く終わってほしいものだ。作戦が完了するまでACに乗り続けるとは言ったが、きついのはきつい。一体何日この狭い空間に捕らわれることになるだろう。

 

 今すぐに出動することが無いなら少し体勢を崩させてもらおうか。足を伸ばしたい、とは言っても足は動かないのだが。片足ずつ持ってなるべく伸ばせるように調整した。コックピットが狭い。エンジニア部が作ったあのMTもどきのコックピットは広かったな。あの時は広いことに無関心だったが、今思うとあの広さがうらやましい。まあ、いままで日を超えてACに乗る事なんてなかったし、広さに恩恵を受けることも少ないだろう。

 

「思ってたより順調だから、もしあれなら降りて待機しててもいいよ」

『いいの? すぐに動けるようにしておいた方がいいと思ってたけど』

「攻略はともかく、防衛戦にはそれぞれの自治区で最大数の戦力が当たっている。今からずっと待機しておくのも大変でしょ。もしもの時はすぐにお願いするし、万全の用意だけしてくれてたらいいよ」

『そう。ならお言葉に甘えて、外で待機するよ』

 

 結局私はACから降りて、外で待機することになった。




このあたりの時系列が良く分からないんですよね。順番に防衛および、攻略を行っているのか、同時にすべてのサンクトゥムに手を付けているのか、日は跨いでいるのか……
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