D.U.シラトリ区は無残な姿に変わってしまった。かつての賑わいある都市の面影は無くなり、ミレニアムにある廃墟のような様相を呈していた。瓦礫が多く、道を塞ぐ物もあり、カンナは道を迂回しながら目的地へと向かった。
機体のある場所は案外近かったものの、瓦礫のせいで時間を要した。車を二十分ほど走らると、壊れかけのビルに深く座り込むACの姿があった。
車から降り、先生は私を抱き上げて機体を登った。コックピットの扉は昨日からずっと開けっぱなしだった。先生は私をコックピットに座らせて閉めた。中は真っ暗になった。
『メインシステム起動』
COMの声が響き、機体の中が明るくなった。スクリーンにはメインカメラの映像が流れる。先生が機体から下りようとしていた。
立ち上がってすぐに、私はユニットを下した。そこへ先生たちが入っていく。先生は最後にカンナに礼を言って入っていった。三人がユニットに入ると私はそれを回収する。
えっと、アビドスはどっちだ。私はスマホの地図アプリを開いてアビドスと入力した。数秒後に、現在地からアビドス自治区まで画面が飛んだ。ピンチアウトして現在地からの距離を測ってみれば、相当な距離があるみたいだ。
私はカンナの方を向き、礼をこめて右手を上げた。カンナもそれに答えてくれた。私はカンナに背を向けて、飛び上がった。
小一時間ほど移動すると、地平線に砂漠が見えだした。手前には町が見えるから、先生の言う通り本当に町の隣に砂漠があった。というより、境目が曖昧だ。町と言えそうな部分にも普通に砂が入り込んでいるし、隣接と言うよりは町が砂漠に飲み込まれかけているというのが正しそうだが。
目的地はアビドス自治区にある学校らしいが、多分あれだろう。町の中に一つだけ様子が違う、まさに学校と言うような建物があった。ただ学校にしては狭いな。校舎が一つしかない。周りも住宅街だ。というか校舎も砂漠に呑まれていないか。
高度を落としてみて気づいたが、この自治区、あまり活気が無い。道路を歩く住民の姿も全然無かった。町や学校が砂漠に呑まれ、町自体に活気も無い。大丈夫かこの自治区。
私は学校のグラウンドに機体を下した。その際多大な砂埃が舞い、視界は一気に悪くなった。私は砂埃が収まるのを待ってからユニットを下した。
私が機体から降り、車椅子に乗って地面に下りるころにはすでに先生たちはユニットから降りて、私たちを待っていたらしい生徒に話しかけていた。彼女はそういえばシャーレで一緒に会議に出ていたな。
「あ、レイヴンも降りて来たみたいだ」
「お久しぶりですね、レイヴンさん」
『初めまして』
「あれ? 話したことないっけ? 前にシャーレの会議で一緒になったと思うんだけど」
『話すの初めての気がするけど』
「あはは、一応以前トリニティの古聖堂で会ったんですけど、あの時は通信機越しでしたし、バタバタしていたので覚えてないかもしれませんね」
古聖堂――古聖堂、古聖堂、あ、なんかいたな。そういえばそうか、あそこにいた四人はアビドスだったっけか。
「改めて、奥空アヤネです。よろしくおねがいしますね。レイヴンさん」
『ん、よろしく』
「では皆さんこちらへ」
アヤネは私たちを校舎の中へと案内した。中に入った時の第一印象はぼろい、だった。窓は全て閉まっているものの、いくつか割れている。さっき私が下りた時に舞った砂が入ってしまったのか、車椅子や先生たちが歩くたびに、じゃりじゃり鳴った。
どの教室も使われていない雰囲気があった。教室名を表す札もボロボロだ。そして誰ともすれ違わない。今まで学園に入ればすぐに他の生徒とすれ違っていたのに、ここでは誰ともすれ違わない。それどころか人の姿すらなかった。寂れた校舎と関係があるのかもしれない。
アヤネに案内されたのはとある教室で、札には上から被せるように『アビドス廃校対策委員会』という紙が張り付けられていた。廃校とは……穏やかじゃないな。
中に入ると、見覚えのある面々がそこにいた。
「やあやあ、先生。お久しぶりだねえ」
「お久しぶりです、先生」
「久しぶり」
「皆、元気そうでよかった」
「話は聞いてるよ。アビドスに古代の遺物があるんだって?」
「カイザーがわざわざ土地を買い上げてまで探すので何かあるとは思っていましたが」
「まさか本当にお宝があるとはね」
「お宝かあ」
「先輩、何か知ってるんですか?」
「いや、なんでもないよ。ちょっと若い時のことを思い出してただけ」
「若い時って、今も十分若いでしょ」
「それで、場所の見当はついてるのでしょうか?」
「あ、はい。ここから――」
不意にスマホへ通知が飛んできた。見てみればモモトークだ。一体誰からだろうと開いてみると、送り主はヒマリらしい。
『レイヴンさん。いまよろしいでしょうか』
『別にいいけど』
『レイヴンさんは今アビドスにいるとお聞きしました。そしてそこにある古代の遺物を探しているとも』
『そうだけど、何。要件は?』
『単刀直入に言えば、私もアビドスに連れて行ってほしいのです』
『なんで?』
『その古代の遺物について興味がある、とだけ言っても駄目でしょうか?』
『そのために往復するの面倒なんだけど』
一度スマホに意識を集中していたが、いったん目の前の話に意識を戻すと、ホシノたちが私に乗ってその遺物の場所まで行く話になっていた。
『遺物が見つかってからでもいい? 忙しくなりそう』
『分かりました。ではまた後でご連絡ください』
「レイヴン、お願いできるかな」
『ん、いいよ』
スマホを閉じると同時に先生に確認を取られた。話半分で聞いていたが、まあ概要は分かったし大丈夫だろう。善は急げとでもいうのか、やることが決まればすぐに行動に移った。
入ったばかりの学校を出て、先生とホシノたち三人は、砂漠にあるカイザーの拠点を目指すためユニットに搭乗した。
「これに乗ればすぐにつくってわけね」
「どれぐらい速いんでしょうね」
「おじさんは砂漠を歩かずに楽できるなら別にそれでいいんだけどねえ」
先生達を乗せると、スマホに座標が送られた。これが指定の場所か。地図にペーストしてみると、どうやら砂漠のど真ん中みたいだが、果たして本当にこんな場所にあるのだろうか。しかし、指定された場所がここなので行くしかないだろう。
学校のグラウンドを旅立ち、座標の場所へと向かった。砂漠になじんだ町はあっという間に呑まれかけ、更に行けばすっかり呑まれた様子が見れた。広大すぎる砂漠には時折文明の破片ともいえる、建物の残骸が見えた。あ、あれは駅だろうか。一両だけ車両が見える。
広大で遮蔽物がほとんどない砂漠は地平線までしっかり見通せて、おかげで座標の地点に何かがあるのが遠くからでも良く分かった。砂漠の真ん中にポツンと建てられた壁。町の雰囲気とも合わないし、用途も想像できない。一応マップで確認してみるが、やっぱり目的地はあのあたりだ。
『見えてきた。あそこかな』
「多分そうだ。近くまで来たら降ろしてくれる?」
『分かった。ところであそこはなんなの?』
「えっと、カイザーの拠点、かな」
『そこにあるわけ?』
「まあ、カイザーが土地を買い取って、拠点を作ってまで探してるんだ。きっとそこにあるんだろうね」
『もしかしてまだカイザーがいたり?』
「分からない。すでにカイザーPMCは撤退してるから無人のはずだけど、戻ってくるかもしれないって」
『警戒するに越したことはないか』
ACが飛んでくる時点で奇襲など無理だから、かなり手前で降ろそう。降りている間に攻撃されてはたまったもんじゃない。
拠点の数百メートル手前に着陸し、ユニットを下した。中から先生となぜか覆面をしたホシノたちが出てきた。予想外の者が出てきて、私は一瞬誰が降りてきたのか分からなかった。別人にすり替わったのかとも思った。先生は苦笑いしていた。
『何を、しているの?』
一応数秒だけ考えてみたが、目的がさっぱりだったので直接聞くことにした。
「いやぁ、カイザーの拠点に強襲するわけだしシロコちゃんスタイルで行こうかと」
「でももう撤退していないんでしょ? わざわざ覆面被る意味なんてないじゃない」
「でもセリカちゃんノリノリで被りましたよね」
「まあ、いないなら別にいっか」
一同は行軍を開始した。先生たちを機体の手に乗せて、残り数百メートルを移動する。もしカイザーが残っているならそろそろ攻撃してきそうなものだが。
「あ、あそこ」
「いるわね」
「カイザーPMCです」
『いるんじゃん』
「サンクトゥムが壊れたから戻って来たのかもしれないね」
『このまま中に侵入する。飛ぶから掴まってて』
宣言した数秒後、私が拠点の壁を飛び越えるよりも先にPMCが攻撃してきた。弾が当たらないよう、先生たちを手で覆い隠し、壁を飛び越えた。
着地してすぐに、ホシノたちは降りて近くのPMCと戦闘を始めた。私も先生を抱えながらハンドガンで応戦する。ホシノたちの邪魔にならないよう、援護に駆け付けようとする戦力を中心に削いでいった。シャーレ奪還作戦時ほどではないものの、僅かに装甲車も見える。PMCが乗り込む前に破壊した。
戦闘はすぐに終わった。思っていたよりもずっと敵の数は少なかった。
「あまりいなかったね。まだ混乱が多いからあまり戻ってきてなかったのかも」
「でも、元々ここは私たちの土地ですから」
「そうよ、戻ってくるも何も不法占拠よ!」
『ここカイザーに買い取られたんじゃなかったっけ。侵入してるのは私たちのはずなんだけど』
「ま、まあ。今はいいんじゃないかな」
『ま、カイザーは私もあまり好きじゃないし別にいいんだけど』
私たちは遺物につながる入口を探し始めた。しかし、物陰から突然ロボットが現れた。こいつらはDivi:Sionの……なぜこんな場所に。
「うわっ、こいつらまだいたの?」
「このロボットが出たってことは、ここにあるってことだね。よ~し。気合入れていくよ~」
ロボットはPMCよりも数が多かった。なぜこいつらカイザーの拠点にいるのだろう。協力関係にあったのか。いやでも、カイザーとDivi:Sionは敵対していたような……いや、私が勝手に思い込んでいるだけか。明確にカイザーとDivi:Sionが戦っているところを見たことはない。
一体一体丁寧につぶしていった。際限なく出てくるものかと思ったが、潰しているうちにいつの間にか数は減っていった。一度殲滅してから追加で来ないか身構えていたが、結局それ以上に現れることは無かった。
それからもう少し行くと、一つのテントに行きついた。どうやら座標は丁度このテントを指しているようだ。セリカが中に入った。
「地下への入口があるわ!」
その言葉に釣られてノノミも中に入った。
「はい。結構深そうです」
「うへ~。じゃあ行ってみようか」
先生もついていくと言うので下した。残念ながら私は入ることが出来ないので、ここでお留守番だ。いや、このうちにヒマリを迎えに行くか。
『じゃ、後は頼んだよ。私はミレニアムに行く』
「え、どうしたの突然」
『ヒマリに頼まれたの。アビドスまで送ってほしいって』
「それは……お疲れ様」
『うん。じゃ、また後で』
先生のねぎらいの言葉を受け取って私はミレニアムへと向かった。
集合場所に向かうとヒマリのほかにユウカとチヒロ、そしてエンジニア部の姿があった。
『なんか増えてるんだけど?』
「ええ、皆さん遺物に興味があるようで」
「部長に頼まれて仕方なく」
「わ、私はその……まあ、なんとなく?」
「宇宙戦艦が眠ってるなんて聞けばいかずにはいられないだろう!」
「私たちの夢が」
「すぐそこに眠っているんです!」
『ミレニアムからアビドスまで結構あるけどね』
「実在してるだけですぐそばなんです!」
『あ、そう。まあ別にいいけど。それより宇宙戦艦だなんて聞いてないよ。あの砂漠に戦艦が眠ってるの?』
「ええ、あそこに眠っている遺物は宇宙戦艦と言って差し支えません」
『なんだか含みがある言い方だな。ところでユニットは四人乗りなんだけど』
この場にいるのは六人。どうしても二往復することになる。面倒くさい。
「ではまず誰から向かいましょうか?」
「私は別に後でいいけど」
「私もどっちでも構わないわ」
「エンジニア部としては今すぐにでも向かいたいところなんだが」
「何分声をかけられたのが急で」
「まだ準備が出来てないんです!」
『誰でもいいからさっさと乗ってくれるとありがたいんだけど』
話し合いの結果、第一便でヒマリ、チヒロ、ユウカ、ウタハの四人が乗ることになった。
「すまない。私だけ先に行ってしまうことになって」
「大丈夫。機材はこっちで準備するから」
「はい! ウタハ先輩は先に宇宙戦艦を楽しんでください!」
「ありがとう、感謝する」
「うふふ、こうして乗ってみるとまるで飛行機みたいですね」
『ふむ……本日はルビコン航空をご利用いただきありがとうございます。当機体はミレニアム・アビドス間を飛行いたします。途中アーレア海を横断いたしますのでコーラルの汚染には重々お気を付けください』
「れ、レイヴン? どうしたんだい」
『いや、飛行機みたいって言うからつい……なんかごめん』
「レイヴンさんって案外面白い方ですね」
『それじゃいくよ』
私はヒマリたちを乗せてアビドスに向かった。道中何事もなく、やっとのことでアビドスに到着すると、四人を下してすぐにまたミレニアムに向かった。ミレニアムに戻る道中、頭の中は面倒くさいでいっぱいだった。
ミレニアムに戻るとヒビキとコトリが大きなリュックを背負っているほかに、なぜかゲーム開発部とヴェリタスの姿もあった。
『なんかまた増えてるんだけど?』
「宇宙戦艦について質問されたことがあったから」
「なんとなく声をかけたら食いつかれてしまって」
「本当に宇宙戦艦があるの!?」
「アリス、宇宙勇者になれるんですね!」
「キヴォトスに宇宙戦艦が眠ってたなんて」
「本当に宇宙まで行けるのかな」
「部長から来るように連絡があったので」
「よろしくね、レイヴン!」
『待って、何人いるの。八人? え、あと二往復確定?』
「そういうことになるね」
「よろしくお願いします!」
頭を抱えたくなったが、私が運ばねば時間が何倍もかかる上、実は時間があまりないというこの状況で仕事を放り出すわけにはいかなかった。結局無理やりやる気を出して、私はミレニアムとアビドスを二往復した。
なぜこんなにもさりげなく人が増えるんでしょうね(メインストーリーを確認しながら)
改めてキヴォトスの地理が知りたい……確か一章を見る感じアビドスとゲヘナは隣接してて、そのゲヘナはトリニティと隣接してて……?