先生たちが宇宙戦艦を調べている中、私はキヴォトス各地から人を運んでいた。宇宙戦艦を動かすために人員が必要だとかで、シャーレとして要請を出したらしい。するとキヴォトス各地からそれに応えようとする者が現れた。シャーレという事はつまり先生からの要請だから、答えようとする者は多いだろう。しかしキヴォトス全土から人を集めていてはいくらACを使っても時間がかかりすぎる。結果、少数精鋭として更に三人が選ばれた。
ゲヘナからカヨコとアコを連れてきた私は機体の中で天井を眺めていた。
疲れた。ずっと座って移動していただけなのに疲れた。気疲れと言うやつだろうか。
先生からメッセージが来た。ブリーフィングだそうだ。申し訳ないがこれ以上頭を使う余裕はない。後で私に関係ありそうなことだけ伝えてもらうよう頼んだ。先生はそれを了承してくれた。
私はスマホを持った手を下した。足でも伸ばしたい気分だったが、せまいコックピットの中ではそれも叶わない。
疲れた。私はもう一度そう思った。
モモイからモモトークが来た。通知には『写真が送信されました』と書かれている。開いてみればはしゃぐアリスと一緒に宇宙戦艦の内装らしきものが映っている。予想以上に内装は広いみたいだ。流石戦艦と銘打ってるだけはある。
『見て見て! 宇宙戦艦の中!』
『思ってたより広いね。そこはどこの部分なの?』
『えっとね……わかんない』
『何それ』
『だって良く分かんないところばっかなんだもん。多分廊下なんじゃない? 操縦席から近いし』
『ふーん。そういえば、前に宇宙戦艦が出てくるゲームの話してたでしょ。順調?』
『ジュンチョウダヨ』
『ああ、そう。まあ頑張って。本物の宇宙戦艦に乗ってるんだから資料はたっぷりあるでしょ』
『実はね、前にレイヴンがザイレム? の話してたでしょ。あれが結構面白そうでさ。そっちにしようかなって』
『あれは戦艦じゃなくて入植船だけど。ただの浮遊都市だよ』
『いやいや、宇宙に行ける浮遊都市って十分インパクト強いよ』
『でも戦艦の方がかっこいいんじゃない? 砲撃戦とかできるでしょ』
『あ、そっか。でも何も使わないのはもったいないと思うんだよね』
『そこらへんはミドリとかユズと相談しなよ。話した内容は別に使ってもらっても構わないから。というかそのために話したんだし』
『それもそうだね。アリスが呼んでるからまたね』
『またね』
モモイから返信が無くなった。私は通話履歴を遡りモモイから送られた写真をもう一度見た。改めて見ても広い廊下だ。窓が映っているが、廊下が明るいせいで外の様子は全く見えない。見えたとしても岩しか映っていないだろう。
廊下は何人ぐらい横に並べるだろう。アリスの様子を見るに……五、六人ぐらいだろうか。古代の遺物と言うには随分と近代的なデザインをしている。本当に遺物だろうか? でも誰もこの宇宙戦艦を知らなかったみたいだし、もし知っていたのならカイザー以外にもいろんな企業が手を出そうとしただろうから、やっぱり古代遺物か。
こんなに暇するならやっぱりブリーフィングに出ればよかっただろうか。いやでも、出た所で私には良く分からない話ばかりだしどっちもどっちか。
私はどうやって着いて行くんだろう。どっか機体でも乗せられる場所があればいいんだけど。もし着いて行けなかったら私は地上でお留守番だろうか。
休憩と称して暇な時間を過ごしていると、先生からメッセージが来た。ブリーフィングが終わったという連絡かと思ったが、スマホを開いてみると『どんなユニフォームがいい?』だそうだ。話の見えない私は先生に説明を求めた。先生曰く、作戦の主要メンバー専用に新しいユニフォームをヒビキが作ってくれるそうだ。私もどうかと誘われたようだが、丁重に断っておいた。今の格好が動きやすい。下手にぶかぶかになって袖口が引っ掛かったらたまったものではない。
さらに時間が経って、やっと先生からブリーフィングが終わったと連絡が来た。もう日が傾いている。
先生からは会議が終わったという報告に加えて、ブリーフィング内容の概要が送られてきた。多次元がどうのこうの状態の共存がどうのこうの書いているが少しも理解できない。もっと簡単に教えてもらえないか聞いてみると、まとめるのに時間が必要だから後で話をするそうだ。現時点で分かったのは八時間後に作戦を開始するという事だった。
やがて地下の入口からぞろぞろと人が出てきた。先生から彼女たちを学校まで送るようお願いされている。私はユニットを下して、誰がどの席に着くか待った。定員はユニットが四名、機体の両手で約八名ほど。
遠慮して徒歩で戻ると言った者もいた。近いからと自分の自治区に戻る者もいた。エンジニア部やヴェリタスは最後まで宇宙戦艦の調整をするらしい。
十分ほどの話し合いの後決まった先生を含む十二名を乗せて、私は一足先にアビドス高等学校に戻らせてもらった。
学校に戻ると、いくらでもある空き教室から好きな教室を使ってもいいと言われた。作戦の実行は八時間後、時計を見れば丁度明日の朝と言ったところだろうか。私は先生と一つの教室で二人きりになった。先生からブリーフィングの内容を教えてもらうためだ。
「で、目的は上空にあるアトラ・ハシースの箱舟を破壊すること」
『そのためにハッキングをして事前にシステムを掌握する、と。私は必要そう?』
「うん。敵の本拠地だし、抵抗は激しいだろうね。それにあれだけ大きいバリアを発生させるなら箱舟も相当な大きさになるはず。ACでも十分動けると思うよ」
『じゃあ、さっき言ってたバリアがどうのこうのは? と言うかあれどういう事。全然わからないんだけど』
「すっごく簡単に言うとね。アトラ・ハシースの箱舟を覆っているバリアは普通のバリアと違ってとても特殊なんだ。だから僕たちが乗るウトナピシュティムの本船も同じ状態にならないといけない。じゃないと僕たちは最悪量子サイズに分解されてしまうらしい」
『宇宙戦艦じゃないの?』
「あれはただの比喩だから。問題はレイヴンをどうするかなんだけど」
『恐ろしい話だね。量子サイズに分解。流石に宇宙戦艦に触ってるだけで同じ状態になるゲームみたいなご都合設定はないよね』
「まあ、でもそこはエンジニア部に考えがあるみたい。時間と体力の勝負らしいけど。レイヴンに一つお願いがあるらしくて、えっとそのまま伝えるけど、ACをハッキング出来る状態にしてほしいって」
『そんなやり方知らないんだけど』
「無理ならこれを挿してほしいって」
先生は私に一つのUSBメモリを渡してきた。表面にはミレニアムのロゴが張られている。挿してほしいらしいが、コックピットに何か挿せそうな穴はあるがUSBポートは無いぞ。そう文句を言おうとしたら、先生が「忘れてた」といってもう一つ何か渡してきた。一方にUSBポートがあり、もう片方に端子が刺さっている。
「ウタハ曰くこれで多分ACのシステムを遠隔で弄れるって」
『多分』
「多分」
私は今不確かで怪しいものを受け取ってしまった。遠隔でシステムを弄るってそれはただのコンピュータウイルスなのではなかろうか。自分の機体にウイルスまがいの物を入れるのはとても嫌なのだが。しかしこれが無ければ私は量子レベルで粉々。信頼している相手にハッキングされるのと、量子レベルで粉々になる。どちらがマシかと言われれば明白だろう。私は先生からUSBメモリとコネクターを受け取った。
先生は何処かへ行ってしまった。他の生徒と話しに行ったのだろう。私は教室の電気もつけずに、暗い教室の中で外を眺めていた。そもそもここは蛍光灯が外されていて、つけたくてもつけることができなかった。
教室から見える風景はとても陳腐だった。すぐ隣が家で綺麗な景色も、夜空すらも見えやしない。暗い教室で、静かな場にいるのに台無しだ。
明日は一日中ACに乗らなければならないだろうか。宇宙戦艦もあるし、ユニットも車椅子もいらないか。なら外してしまってもいいか。そうしたら、左肩が空くな。折角なら左肩にも何か武器を背負いたい。以前下ろしたドローンがいいな。しかし付け替えるならエンジニア部の助けが必要だ。今は宇宙戦艦で手一杯かもしれない。しかもこんな時間だ。
私はダメ元でウタハにメッセージを送ってみた。僅か数分後に返信が来た。
『そうしてあげたいのはやまやまだけど、こっちも忙しくてね。面倒なことを押し付けるけど部室から持ってきてこっちまで来てくれれば取り付けてあげよう』
『分かった。数時間後に持ってくる』
私はそう返信をしてすぐに教室を出た。玄関の前で戻って来た先生と鉢合わせた。
「どうしたのレイヴン。こんな時間に」
『ちょっとミレニアムまで行ってくる』
「こんな時間に?」
『預けてた武器をつけてもらおうと思って。明日はずっと乗ってるだろうし、少しでも武器を持っておきたいと思って』
「そっか、それじゃいってらっしゃい。あまり遅くならないようにね。明日は早いから」
『なるべく早く戻るよ』
私は右手を上げて外に出て行った。星がきれいだった。周りはとても暗くて一軒も電気が付いていない。振り返れば校舎の所々で電気が灯っていた。
ACに乗り、ミレニアムに向かった。アビドス自治区は全体的に暗かった。ぽつぽつと電気が灯っているが、町の規模にしては随分と少ない。まるでゴーストタウンだ、ここは。
ミレニアム自治区に入ると、途端に明るくなった。どこもかしこも明るく輝いている。そしてD.U.よりも高いビルが乱立していた。その中でもひときわ高いビル、セミナーのビルの近くにあったビルの屋上で、一度エネルギーを回復させた。なつかしい。あの時はまだキヴォトスに来て一日も経ってなかっただろうか。右も左も分からない状態で手伝ってくれと言われ、言われるがままにセミナーを襲撃したな。今もお願いされれば襲撃するが。
夜も遅いが人通りは多い。実はキヴォトスの終焉がすぐそこまで迫っているというのに、何も知らないかのように、すでに脅威はすぐ去ったかのように過ごしている。でも、終焉を知って過ごすよりかは、知らずに過ごす方が幸せかもしれない。私はすぐに屋上を飛び出した。
すっかり、私が飛んでも驚かれなくなった。最初は私の姿を見るとあちらこちらから人が集まって来たのに、今ではすっかり慣れられてしまった。ミレニアムだからと言うのもあるかもしれない。
エンジニア部の部室に着くと、壊れて未だ吊るされていた機体の隣に置いてあったドローンポットを手に取った。その際、ふと立てかけてあったショットガンが目に入った。明日は多分屋内戦だし、敵の数も多いだろうし、ハンドガンよりショットガンの方が役に立つんじゃなかろうか。そんな考えが頭をよぎった。そしてそれはすぐに確信へと変わり、私はついでにショットガンも持っていった。
アビドス砂漠、宇宙戦艦が眠っているカイザーの拠点に向かい、ウタハに連絡をした。間もなくウタハたち三人がテントから出てきた。
「やあやあ、それじゃ早速始めようか」
ウタハたちはスマホのライトをつけながら、拠点内にあった設置型のライトをつけた。真っ暗だった拠点内は高校と輝いた。
『頼んでおいて何だけど、どうやってつけるの? ここは機材も無いでしょ』
「いや、あれを使う」
ウタハは拠点内に建設されていたクレーンを指した。恐らく掘削用に建設されたものだろうが、詳しい用途は良く分からない。
「あそこの真下に立ってて」
「三十分から一時間程度で終わる予定です」
私は指示に従ってクレーンの真下に立った。コトリがクレーンの操縦席に座り、ヒビキとウタハは機体に取り付けられたユニットとリフトを接続するための器具を外し始めた。私はただじっとして作業が終わるのを待っていた。
機体内ではウタハたちが作業している声が聞こえていた。ウタハたちが怪我でもしないか少し心配だった。部室でもないのでただでさえ専用の設備が無いのに、クレーンで代用している。まあ、ウタハたちなら大丈夫だろう。
コトリが言っていたように一時間経とうかと言うころ、ウタハから「終わったよ」と言われた。コンソールを確認すると、ちゃんと左肩に残弾表示がされていた。
「前に言った通り、これはちゃんと再現できたし補充もしておいた。なんなら追加機能も付けておいたぞ」
『Bluetooth?』
「ご名答、良く分かったね」
『あなたたちが着ける追加機能って大体それでしょ。あとは自爆機能とか』
「あ、それもついてます」
「そういえば、レイヴンがずっとドローンと言っていたからそう思い込んでいたが、多分これどっちかと言うとタレットだな」
『え、そうだったの? ずっとドローンだと思ってた』
「展開したらその場から動かないみたいだし、タレットだと思う。だからついでに自走できるようにしておいた。Bluetooth付きで、残弾が無くなれば自爆特攻するドローンだ」
『凶悪すぎる。でもありがと』
「レイヴンももう休むと良い。明日はきっととても忙しくなる」
『ウタハたちも早く休むんだよ』
「私たちはまだやることがあるから」
「この宇宙戦艦をギリギリまで知る必要があるのです」
『疲労で明日何もできなくなっても困るよ。いざと言うときはウタハたちが戦艦を動かさないといけないんだから』
「それもそうだな。切りのいいところで私たちも寝るよ。そうだ、先生からアレは受け取ったかな」
『USBと変なコネクタのこと?』
「そうそれ、明日船に乗る前にそれを挿しておいてくれ」
『挿すのはいいけど、私どこから乗ればいいの。船は地下に埋まってるし』
「ん? ああ、どうせ飛び立つんだし、その時に飛び乗ってもらえば」
「正面にスペースがあるからそこならACも乗れると思う」
『正面ってどっち』
「えっと……ちょっと待ってください」
コトリは駆けだし、拠点の中をうろうろしだしたが、しばらくして戻ってくると、ウタハとヒビキを呼んで三人で話し始めた。多分どっちが正面なのか話し合っている。
やがて三人は顔を上げ、私を見た。
「ちょっとこっちに来てくれ」
私はウタハの誘導に従った。拠点の外に出てすぐの場所に案内されるとそこでウタハは立ち止まった。
「多分ここら辺が正面だ。この近くで待っていれば乗り遅れることはないと思う」
『そう、ありがと。じゃあ私戻るね』
「ああ、また明日」
私は外したリフトとユニットを持って学校に戻った。明日はきっと長い一日になるだろう。
久々のフル装備レイヴンですね。