シャーレ所属傭兵レイヴン   作:猫又提督

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第68話

 翌日、朝早くから私は動き始めた。主に人の輸送だった。昨夜自治区に戻った人たちをもう一度アビドスまで送る必要があった。幸い、人が少なかったので往復する必要は無かったが、ユニットを取り外してしまったのでアサルトブーストは使えなかった。両手で覆えば行けないだろうかと考えたが、もし万が一ミンチになってしまっては困るのでやめておいた。

 

 ハナコとアコをカイザーの拠点に置き、今度はアビドスの校舎内にいる先生たちを送った。朝早くから疲れた。

 

 作戦開始時刻の一時間前に準備が終わり、私は僅かであるが休憩の時間を得ることが出来た。昨日ウタハから教えてもらった地点に立ち、操縦桿から手を離した。スマホを開くとヒフミやアズサから激励のメッセージが届いていた。なぜ私がこの作戦に参加することを知っているのだろうと思ったが、おおよそハナコが話したのだろう。適当に返事をしておいた。

 

 

 残りの一時間は妙にソワソワしてあまり落ち着かなかった。先生からは随時作戦の確認事項が送られており、私はそれをずっと読んでいた。ついでに艦橋の写真も送られた。そこにいる約十名の衣装は朝見ていたものと違っていた。昨日言っていユニフォームらしい。ヒビキが一晩でやってくれたそうだ。リンだけちょっと不服そうだった。

 

 作戦開始時刻になった。飛び乗るタイミングを掴むため、先生と通話状態になった。

 

「メインパワーの起動を確認しました!」

「メインコントロールのシステム起動、完了!」

「各エリアの通信システム、演算装置の起動も完了……ここまではマニュアル通りだね」

「メインエンジンシステム、クリア」

「多次元解釈システムのチェック、クリア。オールクリアです!」

「管制システムチェック、オールクリア。よし、これで全部使えるわよ」

「発進準備完了! 命令待機に移ります!」

「先生、発進の号令をお願いします!」

「うん……宇宙戦艦ウトナピシュティム発進!」

 

 先生の号令の数秒後、地面が揺れだした。亀裂が入ったかと思うと、次の瞬間地面から巨大な船が飛び出した。それは想定よりも高く飛び出した。私は慌てて飛び、なおも高度を上げようとするウトナピシュティムの甲板に飛び移った。

 

「レイヴンさんの乗艦を確認しました!」

 

 私は忘れずに昨日渡されたUSBをコンソールにつなげた。

 

『不明なユニットが接続されました。ダウンロードを開始しますか? Y/N』

 

 なんだこれ。こんな表記見たことない。とりあえず、私は知っているユニットなので『Y』を選んだ。直後スクリーンには何かのダウンロード表記が現れ、完了するとミレニアムのロゴが現れた。

 

「レイヴンさんとの接続を確認しました!」

「多次元解釈システムの起動は今でいいのよね?」

「計算は終わりました。ハナコさん起動をお願いします」

「多次元解釈システム起動!」

 

 多次元解釈システムとやらを恐らく起動してから数秒経ったが、何も変化が無いように感じる。

 

「せ、先生? 顔色が悪くありませんか?」

「すごい震えてるよ。大丈夫?」

 

 私はその声に振り向いた。環境にはリンたちの姿が見え、中央ではアユムとモモカが言っているように先生が苦しそうに手すりを掴んでいる。

 

「だ、大丈夫。ちょっと乗り物酔いがね」

「もう少しの辛抱です。これよりアトラ・ハシースの箱舟に向けて急加速します」

「しっかり掴まってて! マニュアル通りならとんでもない速度が出るはずだから!」

「最大出力……加速します」

 

 宣言通り、船は急加速した。アサルトブーストよりもずっと早い。機体内でも衝撃とGを感じた。私はしゃがんで、艦橋に手をかけて加速に耐えた。手を離すと振り落とされてしまいそうだ。

 

「う、うひゃあ!?」

「大丈夫ですかユウカさん?」

「え、ええ。何とか」

「すごいスピード」

 

 艦橋内にいる彼女たちは楽観的だ。こっちは割ときついのに。

 

「た、多次元解釈システムの波動値が不安定です! 予想をはるかに上回ってます!」

「大丈夫です。これぐらいならまだ臨界点は超えません」

 

 なんだか穏やかでない声も聞こえる。もしもの場合は量子レベルで分解だが、果たして大丈夫だろうか。

 

『私とあなたは大丈夫だよ』彼女が話しかけてきた。『元々別世界の住民で最初から曖昧だから』

『じゃあ最悪の場合でも私だけは助かるってこと?』

『そうだよ。コーラルを弄れば別次元の解釈ぐらいできる』

『便利だね、コーラルは』

『企業達が欲しがるのも、ウォルターが焼き払いたがってたのも良く分かるでしょ』

『本当に』

『あなたは他の心配でもしておけばいいよ』

『他の心配って?』

『心配は心配、つまり他の人を心配しておけってこと』

『はあ』

 

 急加速を楽しむ余裕もなく、スマホから流れる緊迫した会話を聞き続けた。

 

 スクリーンにエラー表示が出た。私は驚いてその内容を読んだが、エラーが出たのはAC内部ではなく、多次元解釈システムの方らしい。とはいえ、私は冷静になった。さっきの彼女との会話で私にはこのエラーが何の障害にもならないことが分かった。

 

「次元が一致しなくなった今、このままではバリアに衝突してしまうわ! 今すぐ速度を落として頂戴!」

「い、今から減速しても衝突は避けられません!」

『ちょっと疑問。バリアを通り抜ける話しかしてないけど、あのバリアって破壊できないの?』

「あれはそんな簡単な構造ではないの。もはや科学すら超越した概念なの。物理的な干渉は不可能に近いわ。ただ一つを除いて」

『その一つとは?』

「あれがアトラ・ハシースの箱舟と言う概念をコピーしたものなら、あれに介入できるのは同じ箱舟だけでしょうね」

「同じ箱舟……まさか!」ヒマリが何かに気づいた様子で叫んだ。「いけません! それだけは! あなたは、ビックシスターと言う人は本当に!」

 

 ヒマリは珍しく感情的だ。しかも声色は侮蔑に近い。

 

 はて、ヒマリは何に気が付いたいのだろうか。アトラ・ハシースと同じ概念……そういえばアトラ・ハシースって何か聞き覚えがあるな。

 

「衝突まであと六分! 喧嘩している時間なんてありませんよ!」

「一体何の話!? 箱舟なんてどこにも――」

「アリス、理解しました」

 

 アリスが静かに会話に入って来た。喧騒が引き、皆がアリスに注目する。

 

「リオ会長、こんなところにいたんですね。会えて嬉しいです」

「アリスちゃん」

「え、リオ会長いたの? 自分の姿は現さずにドローンだけ送ってくるってどういうこと!?」

 

 通りでリオの声はするのに姿が見えないと思った。私は彼女を乗せた記憶が無い。いつまぎれたのだろう。

 

「この状況、名もなき神々の王女である私の力が必要なのですね」

「で、でもアリス。そんなことしたらまたあんなことに」

「駄目だよアリスちゃん!」

「アリスの話を最後まで聞こう」

 

 アリスを止める三人を先生は止めた。そしてアリスの話を聞くように促した。三人は大人しくアリスの話を聞き始める。

 

「先生、先生はアリスがなりたい存在になればいいと教えてくれました。私は名もなき神々の王女であり、ゲーム開発部であり、ミレニアムの生徒であり、シャーレの生徒です。アリスは魔王で勇者です。アリスはアリスの望んだアリスです。だから、名もなき神々の王女として、ケイにお願いをします!」

 

 察しが悪い私でもやっとわかった。アリスはいつかの日の、あのDivi:Sionの力を利用しようとしてるのだ。私は慌てた。やっとモモイたちが必死でアリスを止め居ようとしている理由が分かった。私もまたあの日みたいな惨状になってほしくないので、力を使うのは止めたかったが時すでに遅し。止められるような雰囲気ではない。

 

『私の武器で何とかならないかな。光の大剣あたりで打ち壊せたり』

『無理だよ。私たちは何してもすり抜けるから。ここは大人しく彼女に任せた方がいい』

 

 私は艦橋を振り返った。アリスは私に背を向けていて詳しいことは分からない。ただじっとしていて動かないでいる。私は前方に振り返った。真っ黒な球がそこには浮いている。どれほどの大きさなのか、ここからは良く分からない。

 

 いつの間にか、アリスは艦橋を飛び出していた。そして、なんと甲板に出てきた。彼女は手すりにしがみつきながらゆっくりこちらへ近づいている。彼女の長い髪が激しくなびいていた。

 

 私はアリスを抱えた。

 

「レイヴン。レイヴンも私を手伝ってくれますか?」

 

 私は頷いた。とは言っても何をすればいいのか全く分からないが。とりあえずこんなところにいては危ないので、拾い上げた。風が当たらないよう、手で風よけも作った。

 

「ありがとうございます、レイヴン。それでは始めます!」

 

 アリスは目を閉じた。やがてもう一度目を開いた時、そこにあったのはいつもの青い瞳ではなく、何時しかの惨状を生み出したピンク色の瞳だ。

 

「AL-1Sに接続された利用可能なリソース確保のため、全体検索を実行。リソース領域を拡大。リソース名ウトナピシュティムの全体リソース、九九九九万エクサバイトのデータを確認。現時刻を以てプロトコルATRAHASISを稼働。コード名アトラ・ハシースの箱舟を実行します。王女は鍵を手に入れ、箱舟は用意された」

 

 アリスの目はピンク色から再び青色へと変わろうとしている。ただ瞳のふちにピンクのラインを残したまま。

 

「名もなき神々の王女、AL-1Sが承認します。ここに新たな聖域が舞い降りん!」

 

 アリスを中心に光が舞い上がる。彼女が背中に背負っていた光の剣が浮かび上がり、それからまばゆい光が現れているのが分かった。それはだんだん大きくなり、当初の光の剣の何倍も大きく、それは正に、光の大剣と同じであった。

 

「レイヴン、あなたをお借りします!」

『は、え?』

『不明なユニットが接続されました。直ちに使用を――』

 

 COMの音声は遮られ、代わりにまたロゴが現れた。今度はDivi:Sionだ。スクリーンでは勝手に前方のバリアがロックされた。否、それだけではない。右肩の光の大剣がチャージされている。射撃管制システムを乗っ取ったらしい。

 

「ターゲット確認。出力臨界点突破。魔力充電百パーセント、行きます! 悪を打ち砕く正義の一撃、光よ!」

 

 光の剣が発射されると同時に、光の大剣も発射された。巨大な二本のレーザーがバリアに向かって一直線に伸びていく。実質光の大剣を二発同時に撃ったがために、機体に掛かる反動はとてつもないものになった。機体は甲板を滑り、艦橋に激突した。だが、体勢だけは崩さないよう、私は必死に操縦桿を握った。

 

『なるほど、単体ではすり抜けてしまうけど、彼女が乗っ取ったなら話は別か』

 

 彼女は勝手に一人で納得していた。

 

 二本のレーザーは発射された数十秒後にバリアへと命中した。甲板上ではバリアを破壊できたのかどうか分からない。やがてレーザーは収束する。そこには変わらないバリアの姿があった。

 

「直撃です! 多次元バリア粉砕!」

 

 あれで粉砕できているのか? 私には傷一つついているように見えないが。

 

「多次元バリアが状態の共存を維持できずに崩壊していきます! 約五秒後衝撃波が来ます! 皆さん備えて!」

 

 私はアリスを守るよう両手で覆い、屈んだ。直後、アコが忠告した通り、衝撃波が私たちを襲った。スタッガーの警告が鳴り響く。ダメージはないが電気系統が一時的にマヒしたか。

 

 スタッガーが直ると、私はアリスの無事を確かめる為、覆った手を退けた。アリスは元に戻った光の剣にもたれかかっていた。動かないので私は軽くゆすってみたが、反応が無い。放り出された手を見れば、明らかに意識が無い。そしてヘイローも無い。

 

 死んだ?

 

 冷や汗が湧き出た。背筋が伸びて、周りの音が一切聞こえなくなった。思考が現実の拒絶を始めた。副作用で腕が震えだした。

 

『大丈夫、死んでない。気を失っただけ』

 

 彼女がすぐに訂正してくれた。私は安堵のため息を大きくついた。

 

「レイヴン、大丈夫? アリスは」

『大丈夫。私もアリスも平気。ただアリスは気を失ってるみたい』

「分かった。とりあえず無事みたいでよかった」

「この好機を逃すわけにはいきません。最高速度で突っ込んでください!」

「い、今ですか?」

「それで合ってる! 相手の防御が崩れているうちに先手を打たないと!」

「わ、分かりました。最高速度で突撃します!」

 

 直後、船の速度が急激に上がり、より大きなGが襲い掛かった。私はGに耐えながらアリスを大切に持っていた。

 

「間もなくバリアと衝突します! 衝撃に備えて!」

「ほ、本当に大丈夫!? 分解されない!?」

「今の状態でしたら、物理的に干渉できるはずです。このまま突撃してバリアを突破します」

 

 黒い球体がみるみる近づく。このままだと機体もバリアと衝突する。でも、彼女の話なら私はすり抜けるから安心――

 

『ああ、それならアリスが無効化しちゃったから、あれただのバリア。と言うか壁だから、あなたにも当たり判定あるよ』

『は? え、は?』

 

 私は驚きながらもすぐに光の大剣を発射しようとした。しかしクールタイムはまだ終わっていない。ペロロジラの時の様にはならないか。私は意を決して防御態勢を取った。バリアにぶつかる一秒前のことだった。

 

 バリアはまるでガラスのように砕けた。幸い、機体にダメージが入ることはなかった。

 

「バリア突破! アカネさん緊急制御を!」

「はい! 緊急制御シーケンスを作動!」

「逆推力装置を稼働。エンジンの過負荷に注意して!」

 

 途端にブレーキがかかったかのように、私はつんのめった。しかし、目の前にある外壁までに止まりそうな雰囲気はない。流石に外壁と衝突して無傷ではいられない。私は咄嗟にウトナピシュティムから飛び降りた。直後、船は外壁に衝突し、轟音が鳴り響いた。煙が立ち上り、一時的に船の姿が見えなくなった。

 

 エネルギーはそれほど長い時間持たない。船の状態が不明瞭である内に私は足場を求めて、近づいた。

 

 船は外壁に深くめり込んでおり、アトラ・ハシースの箱舟の内部にまで侵入していた。私は無事着地することが出来た。

 




オーバードウェポンってなんかかっこいいですね。使うときの音声が一番かっこいいです。AC6にもそういう音声がちょっと欲しかったですね。
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