あれから数日経った日のこと、先生にモモイからメッセージがあったという。どうやら手伝ってほしいらしい。当初先生だけで行こうとしていたが、私もついて行こうとすると「いいよ。ちょっと手伝ってくるだけだから」と遠慮した。
『一応、私はシャーレ所属ということになっててそこのボスである先生を護衛するのは当たり前のことだと思うけど』
「ボスだなんて大げさな。別に危険はないよ」
『本当に? ここ数日呼ばれた場所のほとんどで先生は危険がないと言って銃撃戦に巻き込まれてたのに?』
「うっ、そ、それは」
『私はあなたを護衛する。猟犬が飼い主を守るのも当たり前だから』
「か、飼い主ってそんな。別にレイヴンとそういう上下関係を築くつもりはないよ」
『そこは重要じゃない。いや私にとっては重要だけど……とにかく、私のあずかり知らないところで飼い主が死ぬのはもう嫌だから』
私がそういうと先生は「分かった」と言って私が同行することを了承した。しかし私が行くとなると当然ACに乗るということで、そうなるとほぼ必然的に先生もACに乗せていくことになるわけだ。シャーレからミレニアムまであの遠い道のりをブースト移動だけで向かうのは、電車を乗り継ぐよりも早いが私が疲れる。私は何とかアサルトブーストを使えないかとACに乗り込みながら考えた結果一つの妙案が思いついた。
『先生、車持ってる?』
「車? 何台かあるけど」
『一番小柄なやつ乗ってきて』
先生は言った通り小柄な車に乗って来た。私はそれをおもむろに掴むとアサルトブーストを使ってミレニアム学園へと出発した。先生は車の中で悲鳴を上げている。時速百キロは出ているだろうが二百も三百も出ているわけではないと思うので車が壊れることは無いだろう。ENギリギリまで飛んで着地して、回復したらまた飛んでいく。外の景色はとても早く移り変わっていく。景色を見ているような余裕はない。見てたらぶつかってしまうかもしれないから。
ミレニアムからシャーレにやってくるよりも断然早く来れた。六日ぶりのミレニアムは記憶の中と寸分違いなかったが以前よりも活気に満ちているような気がした。いや、実際そうなのだろう。生徒があちらこちらに走り回っているのが見える。前はあれほど興味を持っていたACにも一瞥するかもしくは気にも留めていない。
私は持っていた車を下したが先生は降りてこなかった。
『先生?』
返事がない。窓を覗いてみると先生は起きているが呆然としている。
『先生』
今度は窓を叩いてみた。先生はそれでやっと我を返したようで一度体がはねてからこちらを向いた。
「え、あ、な、なに?」
『ついたよ』
「え、も、もう?」
先生は周りをキョロキョロとしてそれから「本当だ」とつぶやいた。もう一度車を下すと今度こそ先生は車から降りてきた。なんだか足がおぼつかない様子だが大丈夫だろうか。
「う、うん。大丈夫。ちょっとねまだ足が」
先生は近くの壁に手をついている。まあ多分大丈夫だろう。
『それじゃ私も降りてくるから』
「何処に行くの?」
『エンジニア部の所。あそこじゃないと降りれない』
「リフトは持ってきてないの?」
『連絡したら向こうで用意してくれるって』
「じゃあ車椅子も用意してくれてるんだね」
『え?』
「え?」
車椅子……しまった。向こうに置いて来てしまった。ミレニアムに早く行く方法ばかり考えていた。リフトを向こうで準備してくれると聞いてなぜか車椅子も用意してくれてくれると勘違いしてしまった。これでは彼に付き添うことができない。
『ごめん置いて来た。付き添えない』
「大丈夫だよ。ここまでくればモモイたちがいるから」
まあ学園にまで付いたのなら……あの四人なら大丈夫か。
「何かあったら連絡するからさ」
『ごめん』
私はもう一度謝った。先生はもう一度「大丈夫」と言ってさっきよりはマシでも、やはりまだおぼつかない足取りでゲーム開発部の元に向かって行った。私は彼が建物の角を曲がって見えなくなるまで見送った。
エンジニア部のところまで行くと三人が快く出迎えてくれた。部室には前もって知らされていた通り前回くれたリフトと似たようなものが用意してあった。
「やあレイヴン久しぶりだね」
「元気にしてた?」
「お久しぶりです!」
『久しぶり。用意してもらって悪いんだけど車椅子を忘れちゃって降りれないの』
「ん、そうなのか? あの車椅子は試作品だったから予備は無いんだ」
「それなら機体を調べてもいいですか? 前は私参加できなかったので調べたいことがたくさんあるんです!」
「うん。前回は途中で止められちゃったし。レイヴンさえよければ調査の続き、やってもいいかな」
『うん。いいよ。ごめんね、わざわざリフト用意してくれたのに』
「いや、構わないさ。レイヴンに言うのはあれだが私たちにとっては棚ぼただ。さあ準備するぞ!」
ウタハが声をかけると二人は手際よくリフトを片付け始めた。その間私は部室を観察していた。以前よりも散らかっているような気がする。外の活気の良さと何か関係があるのだろうか。私はほぼ無意識的にウタハに聞いていた。
「なんか今日は騒がしいね」
「ああ、今日はミレニアムプライスの応募締め切り日だからな」
『ミレニアムプライス?』
「ミレニアム中の生徒がこぞって参加するイベントだよ。部活動の中で制作された作品が集まって一度に審査を受けるんだ。いわば博覧会みたいなものさ」
博覧会か、しまった博覧会が何なのか私は知らない。
「ん? 博覧会を知らないのか。まあいろんな作品が集まるイベントなのさ」
『ウタハたちは何か出すの?』
「ああ、出したよ。透ける下着だ」
『透ける下着……つまり下着が透けるってこと?』
私は困惑のあまり同じことを聞き返していた。もしかしたら聞き間違いという可能性もあるからだ。しかしその希望はウタハの自信満々の返事によって早々に打ち砕かれた。
透ける下着ってどうなんだ。いやどうも何も駄目だろう。何のための下着だ。透けてては意味が無いだろう。何故下着を透けさせようなどと思ったのか、理由が気になる。
「理由? 理由はな……とある学園のとある生徒の話を小耳に挟んだのが始まりでな——」
ウタハは長々と開発した経緯を熱弁していた。要約すると別の学園に出没する露出狂をヒントにして作ったらしい。下着が透けるメカニズムは良く分からなかった。私は多分引いていた。それが文字でも伝わったていたのだろう。
「レイヴン、引いているようだが君の格好もなかなかだと思うぞ」
確かに私は全身包帯だが、露出しているよりかはマシだと思う。
『ヒビキとコトリは何か出すの?』
私は話題を変えようと二人に同じことを聞いた。
「私は何も出してないよ。今回は出さなくても実績は十分あるし。コトリもミレニアムプライスで司会やるから何も出さないよ」
『実績? 何かに必要なの?』
「生徒会の方針が変わってね、部の予算が下りるのに一定の実績が必要になったんだ。これはつまり極論を言えば実績が無ければ廃部になってしまうということだよ。だから今回のミレニアムプライスでどの部も実績を残そうと必死なんだろうね。特に今まで碌に実績を残してなかった部活はね。今回のゲーム開発部の行動もそういう背景があるんだろう」
あの日はキヴォトスにやって来た日でまだ右も左も分かってないのに急に仕事を頼まれて言うがままに動いたから、ゲーム開発部の事情がどうかなんて全く考えていなかった。今考えればあれだけの騒動を起こしたということは相当切羽詰まってたということだが。
『ゲーム開発部ってそんなに切羽詰まってたの?』
「さあ、私はアリスがやってくるまでゲーム開発部とは接点がなかったから良く分からないよ。でも以前にゲーム開発部が作ったゲームはミレニアムで話題になっていたかな」
『へえ、結構いいもの作るんだね。それなら実績とかたくさんありそうだけど』
「悪い方でな。私は実際にプレイしていないが聞いた話だと相当アレなものだったらしい」
その言葉で私は一気に不安になった。果たしてそんな状態で出展しても大丈夫なのだろうか、と思わず他人の心配をしているとヒビキがウタハに話しかけているのが見えた。
「レイヴン、準備ができたみたいだから外に出てくれないか」
『外? 中で調べるんじゃないの?』
「今回調べたいのは駆動系だからな。外じゃないと調べれない」
『いいの? ユウカにはまだACの整備は認められてないんじゃなかったっけ』
「今からやるのは整備じゃなくて調査だ。それに君がいいと言ったんだから別に構わないだろう」
果たしてそれでいいのだろうかという考えは置いておくことにした。まあ向こうがいいならそれでいいか。
外に出るとそこには見慣れない機械が置いてあった。
『これは?』
「速度測定器だよ。これであなたの機体が出せる速度を測定するの」
「歩く速度、ブースト移動の速度、それと今日君が使っただろう特別な移動法もね」
『アサルトブーストのこと?』
「多分それだ。シャーレからここまで短時間で来れるそのアサルトブースト、どれくらい速度が出るのか楽しみだよ」
私はウタハたちに言われるがまま速度測定器の前を何度も行き来させられた。まずは歩きからだった。測定器から百メートル離れたところから歩くように言われた。私は指示通り、測定器を通り過ぎるまで歩いた。その後引き返すように言われて、引き返した。二往復したところで一度止まった。
「ロボットでこれぐらい早く歩けるものはないよ。ほとんど人間をそのまま巨大化させたような速度だ」
ような速度だ」
『キヴォトスのロボットって早く動けないの?』
「人サイズとかドローンは発展してるけど巨大ロボットはそこまでだね。コストがかかる割には強靭性とか俊敏性とか、とにかく扱いにくいからね」
そういうものか。確かにロボット自体はよく見るがACのような機体は見ていない。ACが巨大だと言ってるぐらいだからそういうものなのだろう。
巨大だと言ってるぐらいだからそういうものなのだろう。
その後、ブースト移動を測定した次、いよいよウタハたちが一番楽しみにしていたというアサルトブーストの速度測定が始まった。同じく百メートル離れた場所で待機する。
「それじゃ始めてくれ」
ウタハの合図とともに私はアサルトブーストを起動させた。景色はモザイクのように移り変わり、百メートルという距離は僅か数秒で過ぎ去ってしまった。測定器を過ぎたと認識してから止まっても数十メートルは余分に進んでいた。さっきは通り過ぎてからすぐに引き返すように言われたのだが、今回は何も言ってこない。
『引き返す?』
私が聞き返すとウタハは声に詰まったかのように息を吐いてから言った。
「すごいなレイヴン。三百キロ近く、いや三百キロを超えてるぞ」
『え、そんなに早かった?』
てっきり百キロちょっと程度だと思っていたのでまさかこれほど速度が出ているとは思わなかった。いや、実際ブースト移動の時に車と遜色ないスピードを記録していたのでその時点で怪しいとは思っていた。
アサルトブーストを気に入ったウタハたちはその後の調査をアサルトブーストをメインに行った。移動速度はもちろん持続時間や、上昇速度、ひいてはブースター本体やジェネレーターを調べたいとまで言ってきた。あれもこれも調べているうちに日は沈んでいった。
暗くなってきたのでサーチライトを取ってこようかという話になっていたころ、突然一発の銃声が鳴り響いた。大音量で重厚な、ここ数日聞き続けた銃声よりも重い音はなんだか聞き覚えのあるものだった。
「おや、これは狙撃銃かな?」
ウタハがそうつぶやいた直後、先生から通信が入った。
「レイヴン、た、助けてくれ!」
『どうしたの先生?』
「め、メイド部と生徒会に襲われてるんだ!」
『え、なに、何かやらかしたの?』
「わからない、けど襲われてるのは確かなんだ! うわっ!?」
通信先から先生の悲鳴と一緒に銃声が聞こえた。それは同時にこちらでも聞こえてきた。どうやら本当に襲われているらしい。
『場所は?』
「場所? えっと……ここって今どこ? え、えーっと、きゅ、旧校舎に向かう道だって!」
旧校舎ってどこだ。私はミレニアム学園の構造を把握しているわけじゃない。それなのに今初めて聞いた場所の位置が分かるはずがない。
「レイヴン? 何かあったのか」
私がウタハに対してずっと黙っていたせいかウタハが私に何があったのか聞いて来た。
『先生がメイド部と生徒会に襲われてるみたい』
「それはまた……すごい面々に襲われているね」
『旧校舎ってどこ?』
「旧校舎? えっと……あっちだ」
ウタハが指さしたところを見た。かすかに周りの建物より古びた建物群が見える。
『ありがとう。ごめん、ちょっと離れないといけなくなった』
「いいよ。一大事なんだろう? また後で調べさせてくれたらいいからさ」
私はすぐに飛び立った。暗くて少し見えにくいが近づくにつれ生徒会と思しき人たちが移動しているのが見えた。その先に向かえば先生たちがいるはずだ。その時突然校舎を巨大な光が突き抜けていった。危うく直撃しそうになったが、間一髪避けることができた。一体何があったのだろうと、その先を見るとそこに先生たちの姿を見つけた。私は急いでそこまで飛んでいく。
「レイヴン!」
『大丈夫?』
私はその場に駆け付けた時戦闘が起こっていたようだが、当人たちは私を見て固まっている。
「お、お前あんときのでっけえロボット!?」
叫んだのは前回生徒会を襲撃した際遠目から見えた生徒だ。相変わらずガラの悪い目つきと服装をしている。
『先生、とりあえず今のうちに逃げて』
「う、うん。アリス! 逃げるよ!」
先生の掛け声に全員踵を返して逃げ出した。
「あ、おい待て!」
ガラ悪少女が追いかけようとしたので私はそれをルビコン神拳で阻止しようとした。
キヴォトスの人は丈夫らしいしルビコン神拳を食らっても多分大丈夫だろう。それに殴るんじゃなくて壁に押し付けるだけだから威力は高くない。しかしガラ悪少女は素早く反応し、後ろに飛びのいた。私のルビコン神拳は不発に終わったが結果的に道を防ぐことに成功した。彼女は私の腕に銃撃をかましたがそんな豆鉄砲ではかすり傷もつかない。
先生たちが十分逃げ切ったと認識すると、私は腕を抜いて先生の所へ先回りしに行った。
ルビコン神拳って通常プレイだとベイラム部隊迎撃ぐらいでしか使わなさそうですよね。初見時はルビコン神拳自体知らなくて右手武器も両肩ミサイルも尽きてから残党をショットガンで殲滅してました。