ごめんなさい。二日で投稿できませんでした。そういえば前回出てきた別の時間軸のレイヴンの機体構成を書くのを忘れてましたね。以下に記しておきます。
頭:IB-C03H: HAL 826
胴:IB-C03C: HAL 826
腕:EL-TA-10 FIRMEZA
脚:06-042 MIND BETA
両腕武器:SG-027 ZIMMERMAN(重ショットガン)
肩武器:SG-026 HALDEMAN(軽ショットガン)
私は暗闇の中で膝を抱えて座って、何もない空間をただ見つめていた。静寂の中で脳裏に浮かぶのは、彼女との会話ばかりだった。思い出すたびに私がウォルターを裏切っていたことに自責の念が生まれて涙が流れた。それが悪意無く、むしろ善行だと思ってやった悪行であると意識してさらに涙が溢れてきた。胸が苦しくなり、口から息が漏れた。涙を隠すように顔を膝に埋めた。鼻を啜る音が暗闇に響いた。
何度か悲哀の波で涙が溢れた頃、突然大きな何かを引きずる音が暗闇に響き渡る。顔を上げると暗闇だと思っていた空間に一つの光の筋が入り込んでいた。さらにそこには一つの人影もあった。
「やっと見つけた。こんな所にいたのか」
人影の主は逆光で見えなかったが、私はその声に聞き覚えがあった。彼女は真っ直ぐ私の元に来て顔を覗き込んだ。
「うわっ、ひどい顔。大丈夫?」
そう言って彼女はハンカチを取り出して私の顔を拭いてくれた。
「外に出よう。暗い場所に居続けても気が滅入るだけだよ」
でも私は歩けない。
「ん? 足が動かないの? 大丈夫、今だけは歩けるから」
足の動かし方なんて分からない。
「あれ、忘れちゃった? 前は歩けたのに。しょうがない、私が支えてあげるから。ほらいくよ、一、二の三」
彼女に引っ張られて強制的に立たされた。しかしどうしても足に力が入らず、すぐ前に倒れそうになった。だが、彼女が咄嗟に私を抱いてくれたおかげで倒れることはなかった。
「大丈夫大丈夫。すぐに思い出すから。ほら右足から立ってみて。こうやって足裏を地面につけるの」
彼女は右足で地面を何度か踏んだ。私は手探りで足に意識を集中させた。すると少しだけ右足が動いた。そのまま震えながらも、なんとか足裏を接地させることが出来た。
「うまいうまい。左足も同じように」
彼女に言われるまま、同じように左足も接地させた。両足が自重に耐えきれずプルプルしている。
「その場で歩いてみて、足を交互に動かすの。はい一、二、一、二」
彼女の合図に合わせて両足を上げてみる。最初はぎこちなかったが、数を重ねていくとだんだんスムーズになった。足の震えも止まった。
「うん、大丈夫そう。じゃ手離すよ」
そう言うと私が彼女の腕をつかみ返す前に手を放してしまった。私は途端にバランスを崩しグラグラと揺れたが、倒れまいと腕を伸ばしてバランスを取った。十秒ほどバランスを取り続けてようやく私は一人で立てるようになった。
「ほら、立てた。じゃあ行くよ」
彼女は手を差し出した。手を取ると彼女は私を光の筋まで引っ張った。少しよろめきながらも彼女に連れられて光の筋から出ると、刹那の眩しさを感じた。目を手で覆って陰から見ると、目の前には青い海と青い空がが広がっていた。とても綺麗だった。
ここは一体どこだろう。その思いながら私は周りを見渡した。後ろはさっきまで私がいたらしい古びた倉庫があった。そしてその時に私を引っ張った彼女の顔も見た。彼女は私と同じ顔をしていた。でも格好は全然違う。私みたいに全身包帯ではなく、学生服のようなものを着ていた。
陸地から突き出した岸壁に波が打ち付ける音が聞こえる。とても心地いい音だった。
「こっち」
彼女は尚も私を引っ張った。一体どこまで引っ張るのか、彼女の為すがままに私は歩いた。私がいたのは倉庫群の中だったようで、同じ造りをした倉庫が並んでいた。
倉庫群の角を曲がると一機の機体が跪いていた。ACじゃない。エンジニア部が作ったACもどきだった。
「さ、乗って乗って」
機体は片腕を地面につけて、そこからコックピットまで登れるようになっていた。彼女と一緒に中に入ると、二つある席の片方に座るように言われた。私がそこに座ると、彼女は操縦席になってる隣に座った。手際よく何かのボタンを押したり操縦桿を弄ると、機体が立ち上がりながらコックピットが閉まった。一瞬の暗闇の後、電気が付いてスクリーンにはメインカメラの映像が映った。
彼女は機体を操作して歩き出した。海からどんどん離れていた。ずっとここが何処か分からなかったがコンテナ群まで移動したとき、ここがD.U.の港であることに気づいた。
彼女はまっすぐ港の出口を目指し、誰にも会わずに港を出た。しかし人が居ないわけでは無く、港を出れば町中を人が歩いていた。誰も機体を見て驚かない。まるで当たり前の存在のように無視している。
彼女はまだ歩き続けた。どこまで行くのか私は黙って見守っていた。
歩き続けて何十分か経った頃、私がぼーっとスクリーンを眺めていると突然彼女が機体を止めた。
「着いたよ」
我に返った私は慌ててここが何処なのか把握しようとした。そしてスクリーンを見てすぐにわかった。ここはシャーレの前だった。
彼女と一緒に機体を下りると、そのままシャーレの中まで案内された。エレベーターに乗り、先生がいつも業務をしているオフィスがある階のボタンを押した。階に着くと一緒に降りて、一緒にオフィスに入った。
「ただいま、先生」
「おかえり、レイヴン」
中では先生が書類相手にボールペンを走らせていた。
「探していた人は見つかった?」
「うん、見つかった」
そう言って私は先生の前に差し出された。先生は手を止めて私に近づいて来た。腰を下ろし、彼女と私の顔を何度も見比べた。
「本当にそっくりだ。初めまして」
先生は笑顔で言った。咄嗟に挨拶を返そうとしたが、私の口はパクパク動くだけで声が出ない。
「あれ、声の出し方も忘れちゃったの? ほら、あ~って言ってごらん。あー」
彼女は口を開けた。私も見様見真似で声を出してみたが、出てくるのは息ばかりだった。
「喉を震わせるんだよ。ほら、あー」
「――ぁ、ぁ」
僅かにかすれた声が出た。彼女の口元が緩んだ。
「そのまま、そのままもう一回出してみて」
「ぁぁあー。あー、あー」
「うまいうまい。出たじゃん。そのまま先生に挨拶してみて」
「ぁあ……は、はじめまして」
「うん、初めまして。名前はなんて言うのかな?」
私は自分の名前を思い返した。私も彼女と同じレイヴンと言う名前があるけどもそれは彼女がすでに使っている。
「この子はね、私と同じだから同じレイヴンっていう名前を持ってるの。でもそれじゃ私と混同してしまうね」
「そうだね。他に何か名前は持ってるのかな」
「えっと、たくさん」
「621でいいんじゃないかな」
621か。ウォルターがずっと呼んでた名前だ。ウォルターは私を人間として扱ってて、それを私は裏切って犬として振舞ってて――。思い出して私はまた泣き出してしまった。それを見て先生は慌ててしまった。
「わ、わわ。大丈夫? どこか痛いの?」
「ああ、まだ気にしてたのかな。ごめんね。じゃあ何がいいかな……コールサインはアレだし、ご友人は変態が湧きそうだから……ビジター、ビジターならどう?」
「ぅん」
私は震えた声で了承した。私の名前はビジターに決定した。
「じゃあ、早速先生の手伝いをしよう」
「え?」
「だって先生、いつも仕事に忙殺してるから。ほら今さっきまであんなに大量の書類と格闘してた」
彼女が指さす先生の机の上にはそれはそれは大量の、山のように積み重なった書類があった。指摘された先生は頭の後ろを掻きながら苦笑した。
「頑張ってはいるんだけど、どうしても減らなくてね」
「でも私、先生の手伝いなんて」
「大丈夫。私たちがやるのは簡単なことだけだからあなたにも出来るよ。ほら座って座って」
彼女に押されてオフィスの真ん中までやってくると、都合よく先生の席の隣に二つの席が空いていた。私は先生の隣の隣の席に座らされた。何をやらされるのか不安に思っていると、彼女が一束の紙を私の前に置いた。
「これ先生が記入した書類ね。私がチェックしたから後は承認の判子を押すだけ。あなたがやるのはそれだけよ。簡単でしょ?」
「うん、まあ」
思ってたよりもずっと簡単なことで安心した。最初の一枚、二枚を彼女に教えてもらうと残りは私一人でやるように言われた。彼女は私と先生の間に座って書類のチェックを始めた。
私はそれから数時間ほど判子を押し続けた。彼女はこの仕事をやり慣れているのか、すぐに私に書類を渡してきた。それでも判子を押すだけの方が早かった。私はたびたび暇をした。
少し日が暮れたころ、先生が「終わった!」と叫んだ。見れば先生の机に積み重なっていた書類の山は消え、代わりに私の机に同じ山が積み重なっていた。
「お疲れ様。チェックしておくからそこに置いてて。後は私たちでやっておくから先生は先に休んでていいよ」
「そう? じゃ、お言葉に甘えて」
先生は席を立ち、前のソファに深く座った。情けない声を上げていた。その姿に見とれているとレイヴンから紙の束を渡された。私はその書類に判子を押し始めた。
先生が先に終わってから三十分後、私たちもようやく仕事から解放された。彼女は大きく背伸びをしてから「疲れた」と一言呟いた。
「お疲れ様」先生がマグカップを二つ持って近づいて来た。「ココアでよかったかな?」
「うん。全然いいよ」
「ビジターもココアでよかった?」
「うん」
私は先生からマグカップを受け取り口に近づけた。淹れたばかりでまだ熱かった。思わず「あつっ」と呟きながらマグカップを口から離してしまった。
「はは、淹れたばかりだからね。少し冷ますと良いよ」
それを聞いた私は今飲むのを諦めて机に置いておいた。一方で彼女は熱そうにしながらも何度も口をつけたり離したりしながら飲んでいた。
会話なく時間が進む。先生はスマホを見ながら何か飲んでいるし、彼女はココアと格闘している。壁掛け時計の針の音だけが部屋に響いていた。静かだなと思いながらまだ熱いココアに手を伸ばした。
数分後、ココアを飲み干した彼女が帰ると言い出した。
「ああ、うん。分かった。お疲れ様。ビジターはどうするの? どこか泊まるあてでもあるの?」
「ビジターは私の家に泊めるから大丈夫だよ」
「そっか、なら安心だね」
彼女は私の手を引っ張って来た。だが、マグカップにはまだ半分ココアが残っている。急いで残りを飲み干して、マグカップを置きながら私は彼女に引っ張られて席を立った。そのまま出口まで引っ張られた。
「それじゃまたね、先生」
「うん、また明日」
「あ、さ、さよなら」
私の挨拶にも先生は手を振って応えてくれた。
シャーレから出た私はまたACもどきに乗らされて、彼女の操縦の元どこかに連れていかれた。私はずっとスクリーンの映像を見ていた。
「ここはね、私が作ったキヴォトス」
唐突に彼女はそう言った。
「へえ?」
「覚えてるでしょ。ここに来る直前のこと」
「あ、うん。別の時間軸の私に殺されそうになって……私は今どうなってるの?」
「どうにもなってない。向こうは時間が止まってる。厳密にいえば少し違うんだけど。まあ、そんなことはどうでもいい。あのままじゃあなたが死んじゃいそうだったから助けたの」
「どうして私だったの? 向こうだってもう一人のあなたでしょ。あ、いや向こうにも別の時間軸のあなたがいるのか」
「いや、あっちには私は居ないよ。私にだってまだ人間の心は残ってるから。世界を滅ぼそうとする奴より守ろうとするあなたを守りたくなるよ」
「ふーん。私をここに呼んで一体何をするの? 死ぬ前に楽しい日常でも味合わせてあげようって?」
「まさか。守るためって言ったじゃない」
「どうやって?」
「それは家に帰ってからのお楽しみ」
「家ねえ」
「そこまで遠くないよ」
「あなたはシャーレに住んでないんだね」
「そっちの方が面白そうだったから」
「あっそう」
機体は等間隔で揺れている。ACよりも速度は遅いのに、揺れはそれ以上だった。
「これってエンジニア部が作ったやつだよね」
私は彼女にそう聞いた。
「うん。便利だったからね。二人乗れる」
「ACの方が早く移動できるはずだったけど?」
「たまにはゆっくり移動するのも大切だよ。あなたが落ち着けるようにね」
「落ち着くように?」
「外のあなたはまともに戦えるような精神状態じゃないでしょ」
私は何も答えなかった。
「少し落ち着いたほうがいいよ。あんな言葉気にしないの。どうせ主観的な意見だ。客観的に見てあなたが非難される立場とは限らない」
私は思い出しそうになってまた涙が溢れそうになった。私は顔を反らして彼女に涙を見せないようにした。
涙が収まったころ、機体も止まった。
「着いたよ」
そこは普通のアパートだった。一階は何かの事務所が入っていた。彼女が機体を降りていったので、私もあとに続いた。
二階に登って七番目の部屋の前に立つと鍵を開けた。
「さ、入って入って」
彼女に言われるがまま中に入ると、至って普通の内装が見えた。私が玄関から上がろうとすると彼女に止められた。
「あ、待って。裸足だったよね」
「ん、まあそうだね」
「ちょっと待って。拭くもの持ってくる」
彼女はそう言って風呂場に消えた。彼女が戻ってくるまでの間、私は玄関に立っていた。そこからは部屋の内装が良く見えた。廊下代わりのキッチンの奥には広めのリビングが見えた。家具は机しか見えなかった。
「お待たせ。はいこれ」
彼女は絞り固めた雑巾を渡した。その雑巾は湿っていた。雑巾を受け取り片足を拭くと、それだけで雑巾は真っ黒に汚れた。面を変えてもう片足を拭くと、雑巾は両面とも真っ黒になってしまった。
「明日靴買いに行かないとね。そういえば服も着ないと。それじゃ裸と一緒だし」
「でも私傷が」
「だからここじゃあなたは普通の女の子なの。服は着替えがあるから貸してあげる。私が今着てるのと全く同じだけどいいよね」
「なんでもいいよ」
「うん。じゃ、ほら上がって上がって」
今度こそ私は部屋に上がった。リビングに通されると、そこは思っていたよりも広かった。家具はあまりないが、それが部屋の広さを助長しているように思えた。
「適当なところ座っていいよ」
そういうので私は机の側に座った。
「座椅子に座っていいのに。お尻痛くない?」
「大丈夫」
「うーん、せめて座布団の上に座ろう」
彼女はクローゼットを開けると一つの座布団を取り出し、渡した。私はそれを受け取ってお尻に敷いた。幾分か楽になった。
彼女はテレビに近づくと、ゲーム機の電源を入れた。
「何か始めるの?」
「うん。あなたを救う方法を見つけるの」
しばらくこの世界観にお付き合いください。