『ARMORED CORE™ VI FIRES OF RUBICON™』
画面にはそう書かれていた。背景にいる機体には見覚えがある。
私が機体を確認する前に彼女がボタンを押してしまい、画面が切り替わってしまった。幾度も見てきた輸送ヘリの中だ。彼女はスティックを操作し、アセンブル画面を開いた。
「さ、機体を作っていこうか」
彼女は私を見ながら言った。私は生返事で返した。
今画面にあるのは私がさっきまで乗っていた機体だ。武器も一緒だが、光の大剣は表示こそされているものの装備名はエラーと出ていた。
「どういうコンセプトがいい? 防御力重視? スピード重視? 近距離戦? 遠距離戦?」
「えっと……どうしよう。どうすればいいかな?」
「うーん、彼女はショットガンを持ってるわけでしょ? じゃあ近づいたら危ないし遠距離戦主体で行ってみるとか?」
「じゃあそれで」
「おっけーおっけー。じゃあそれに合いそうなアセンを選んでみよう」
彼女は武器から選び始めた。右腕にリニアライフルを選ぶのは早かったが、他の武器を選ぶのは苦戦しているようだ。
「何積めばいいんだろうね。ミサイルもなんかさー面白くないっていうか、微妙っていうか、どうせならあまり使ったことがないやつを使ってみたいんだけど」
私にはどうでもいいことだし、助けてくれればそれでいいのだが、彼女が楽しそうに選んでいるので言い出しにくかった。
武器一覧をうろうろ選択しながら数分間、彼女は悩み続けていた。悩み続けた末に左手に着剣バズーカ、両肩にSONGBIRDSをつけた。
「武器はこれでいいし……機体はどうしよっかなあ。見た目にも拘りたい。この武器に合う機体構成ってどんなのがいいかな」
「カタログスペックと見合いながらやったら?」
「うーん、足……足どうしよう。逆足使いたいな。あいつと同じ種類は嫌なんだけど、見た目的にもオールマインドの逆足がいいしなあ……もうこれでいっか」
私の言葉を聞いてか聞かずか、足は決まったらしい。そんな調子でくみ上げた機体を彼女は早速テストした。
アリーナとか教習でよくみたステージに来ると、彼女は設定画面からトレーナーACを呼んだ。すぐに画面にはACが一機現れ、自機を攻撃し始めた。彼女も距離を取り、ライフルで攻撃するがトレーナーACはことごとく回避する。チャージして撃ってみるが、一瞬動きが止まるので余計に回避される。
「あ、あれ。全然当たんない?」
何度撃っても当たらない。代わりに同じリニアライフルを持つトレーナーACの攻撃はよく当たるし、時々チャージ攻撃時の警告音に反応しきれず被弾している。
「いてっ!? なんで敵の攻撃は当たるのに私の攻撃は当たらないんだ」
彼女はヤケでも起こしたのかボタンを連打し始めた。ほとんど避けられるが、たまに当たる。しかしトレーナーACの攻撃に比べるとスズメの涙ほどしか当たってない。
着剣バズーカやSONGBIRDSも撃つが、リニアライフルより隙が大きいのにあたるはずが無かった。逆にその隙の大きさを利用されてスタッガーを取られてしまった。
「ああ、駄目だ! 駄目だこれ使えない!」
彼女はそう言って設定画面を開いてテストを止めてしまった。そしてまたすぐにアセンを変え始めた。
「なんで私の攻撃は当たらないんだよお」
「そういう時よくあるよね。リニアライフルは私もあまり使わなかったな」
「う、まあ私も使わなかったけどね。使いにくかったし。どうしよ、何がいいかな……一から組み立てるのが難しいならすでに作ったやつを組み替えればいいか」
一個画面を戻し、下にあった『AC DATE』を開くと、そこには十機ほどの機体データが登録されていた。そこには色こそ違うものの、私が昔使っていた機体や別の時間軸の私が乗っていた機体も登録されていた。
「この機体から選んだらいいのでは?」
「それじゃ面白くないじゃん。見た目も微妙だし、もっとかっこいい奴がいい」
「助けるんなら見た目より実用性を重視してほしいんだけど」
「大丈夫、ちゃんと実用性も加味するから。えっと、どれを素体にしようかな。ハンドガンはかっこいいけど正直当たらないし、またこれっていうのも……いやまあ、これでいいか」
結局彼女が選んだ素体と言うのはRaD製の機体で構成された両腕ハンドガンに、タレットとブレードを背負った機体だった。見た目は正直ちょっとずんぐりむっくりしててかっこいいとは言えない。
「これで見た目が良ければなあ、防御高いし接近して殴り合うのには向いてるんだけど。とりあえず頭から変えるか」
「何にするの?」
「うーんと、初期のじゃなくて……どれがいいかな。頭ってぶっちゃけどれでもいい気がするし、完全に見た目で選んで……これがいいや」
彼女が選んだのは本物のレイヴンが使っていた頭部パーツだ。型番的に初期の頭と同じらしいが、見た目は全然違う。それとRaD製だったことも初めて知った。
他のパーツはカタログスペックとにらめっこしながら選んだ。彼女はひたすらにかっこよさを追い求めていった。結果、機体のほとんどがシュナイダー製となった。確かに見た目はかっこいいが、装甲が無い。それに、頭と足が違うだけで実質ラスティみたいだ。
「出来た! どうよ」
「ラスティみたいな見た目になったね」
「あ、ほんとだ。待ってこれ頭以外シュナイダーじゃん。シュナイダー製のACみたいになっちゃった。もっとごちゃごちゃさせたかったんだけど……かっこいいからいっか」
「いいんだ」
「武器どうしよっかな。あまり重たいの乗せれないし、ブレードに頼りっきりも面白くないし、ハンドガンはそのままでいいや。かっこいいし」
今度は両腕にハンドガン、両肩に小型の三連対ミサイルが乗せられた。彼女は早速テストでトレーナーAC相手に戦ってみたが、今度は順調に攻撃が当たってる。彼女も機嫌がよさそうだ。ただ問題点はすぐに見つかった。
「よく見たらハンドガンあまり当たってないし、ミサイルも近すぎたら後ろに通り過ぎちゃうな」
「このトレーナーACってよく避けるよね」
「回避に重点を置いたACなのかもしれない。トレーナーAC相手に楽勝に勝てるからってあの私に快勝できるとは限らないんだよね。多分私のことだからあまり回避しないだろうし」
「それじゃ意味なくない?」
「使い勝手を調べるのには丁度いいさ。とりあえず、機体構成はこれでよさそうだし武器を弄ってみよう」
彼女はその後もいろいろな武器を試してみたが、思った通りの動きが出来なかったり、使い慣れた武器は面白くないと言って敬遠したりして、結局武器は決まらなかった。
気づけば部屋の中は手元も見えないほどに真っ暗になっていた。
「うわっ、もうこんな時間か。今日はこの辺にしようか」
そう言って彼女はゲーム機の電源を落とした。
「今日はって、明日もやるの?」
「当たり前でしょ。まだ全然機体出来てないじゃん」
「でも私今外で死にかけてるんだけど。悠長にやられても」
「言ったじゃん。時間が止まってるようなものって。ここでどれだけ過ごしても現実の一瞬にも満たない時間なの。それにあなたも絶対まだ落ち着いて戦える精神状態じゃないし」
「もう結構落ち着いたけど」
「機体がまだできてない。助けに行けないよ。それにさ、折角歩けるんだしもうちょっと歩いてみたくない? D.U.をある程度再現できたから、町を歩き回れるよ」
恐らく私が今後どれだけキヴォトスにいようと歩けるようにはならないだろう。強化人間と言う概念が無いのだから、強化人間手術によって失われた機能を取り戻すことなど不可能だ。ならば、たとえ偽りであっても歩けるこの世界をもうちょっと体験してみてもいいんじゃないか。私はそんなふうに思った。
「歩ける……そっか、歩けるのか……なら、まあ。もうちょっといてもいいかも?」
「よし、じゃあそうしよう! 早速明日どっか行ってみようね!」
小声でつぶやいたつもりだが、彼女にすっかり拾われてしまった。おかげで半ば強制的にこの世界への滞在が決まってしまった。
翌日、寝ていた私は彼女に叩き起こされた。軽くうめきながら目を開けると、彼女の顔が私の顔からほど近い場所にあった。
「おはよう」
「おはよう?」
「起きて、ほら行くよ」
「どこに」
「靴を買いにだよ。昨日言ったでしょ。ほら早く早く」
昨日の出来事を思い出しているうちに、私は引き起こされて服を着ていた。彼女が着ているものと同じ学生服だった。
彼女が玄関のドアを開けると、外ではなくACもどきのコックピットに繋がっていた。
「あれ、ここ。機体の中? なんで直接ここにつながってるの」
「夢みたいなものだから。空間を捻じ曲げることぐらいできるよ」
「じゃあ最初から空間を捻じ曲げて移動すればよかったのに」
「それじゃリアリティがないじゃない」
「これは?」
「細かな移動はいいでしょ。もうここが虚像だって知らせたんだし」
私は生返事をした。彼女は私の返事を無視して操縦席に座った。
「どこまで行くの?」
「D.U.の中心街まで」
それだけ言って彼女は機体を動かした。一定間隔に揺れながら機体は動き出す。
「そういえば昨日先生にまた明日って言われなかったっけ?」
「いいんだよ。どうせこの世界は私が作った偽物だから、シナリオぐらいすぐに変えられる」
「リアリティがどうのこうの言ってた割には適当だね」
「あなたが楽しんでくれることが一番なの」
「そりゃどうも」
D.U.の中心街は流石に人が多かった。機体は道路の真ん中を堂々と歩いているが、住民は誰も気にしてないし、車に乗っている人も文句の一つも言わず機体を避けていく。
彼女が止めたのはいくつも立つビルの前の一つだった。機体から降りると、目の前にはショーケースに靴を並べた店が立っていた。
「ここにしよう」
彼女はそう言って店に入った。私も黙って後ろをついて行った。中はいたって普通の靴屋だ。お洒落なものもあればスニーカーのような一般的な靴も置いてある。
「どれにする? 好きなもの選んでいいよ」
「好きな物って言ったって分からないな。別に何でもいいんだけど」
「あなたが履くものだから、自分の気に入ったものにすればいいんだよ。分からなくても分からないなりに気に入るものはあるはず」
私は彼女を信じて店内を物色した。とりあえずお洒落なものは選ばないようにした。ハイヒールだとか一目見て歩きにくそうと思った。とあるスニーカーの前で足を止めた。何の変哲もないスニーカーだ。が、多分こういう奴が一番無難だと思った。
「これにする」
「え、もう決めたの? 早くない? もっと選んでもいいのに」
「これが気に入ったから」
「じゃそれにしようか」
彼女は靴を履くように促した。私は言われるがままに靴を履いた。奇跡的にサイズがぴったりだった。そのまま彼女は私を連れて店を後にしようとした。
「お金は?」
「いいよそんなの。めんどくさい。スキップした」
私はもはや何も言わなかった。
私たちは機体に乗らずに町を歩いた。靴を履くと裸足の時よりもずっと歩きやすかった。
「何処に行くの?」
「どっか。何も決めてない」
町の人通りは多く、歩道は隙間が無くなるほどに人が居た。油断すれば彼女を見失ってしまいそうだ。だというのに彼女は私を気にすることなくどんどん進む。だからやがて私は彼女を見失った。
彼女とはぐれたと分かった私は大通りから路地へと抜けた。さっきまであれだけいた人は大通りから道一本外れるだけで全くいなくなってしまった。
「さて、どうしようかな」
彼女とはぐれてしまった以上、私は彼女を探すべきなのだろうけどその方法が分からない。既にはぐれてから数十秒経っているので彼女とはそこそこ離れているだろうし、再びあの人の流れに入る自信が無い。
「何やってるんだろうな私」
私は空を見つめながら呟いた。外の私は死にかけているのに、今の私は真反対に楽しんでいる。本当にこんなことしてていいんだろうか。早く先生を助けに行かないと。外は今大変なことになっているのに、時間が止まっているとはいえこんなことしてていいのだろうか。
「いいでしょ、別に」
突然声をかけられ振り返ると、彼女がいた。
「なんでここに」
「後ろ見たらいなくなってたから探したの」
「というか心読んだ?」
「私の世界だし、あなたもわたしだからそれぐらいできるよ。もしかしてあんまり楽しくなかった?」
「楽しいけど、なんか罪悪感がある」
「時間止まってるんだからいくらでも遊んでていいのに」
「外の状況と真反対過ぎて情緒が風邪ひきそう」
「何その表現。まあいいや。あなたがそう願うなら、さっさと機体を作ってしまおうか。目閉じて」
彼女は私に手を伸ばして目を閉じさせた。次に目を開けると、そこは彼女の家の中だった。私は昨日座っていた場所に立っていた。夕暮れの光が差し込み、テレビにはゲームの画面が映っていた。
「あなたがそう願うのであれば無視するわけにはいかないものね」
彼女はそう言いながらコントローラーを弄っていた。私はその場に座った。
「でもやっぱり機体は拘りたいわ。折角キヴォトスに呼ぶんだから最高の一体を仕上げたい」
彼女は昨日作った機体で、ゲームを進めていた。画面には見覚えのある場所が映っていた。グリッド135、私がルビコンに密航した時に降り立った場所だ。そのグリッド135の掃討のミッション。密航して初めて受けた依頼だ。
彼女は手際よくミッションを進めている。まるで敵が出てくる場所が分かっているかのような動きだ。十分もしないうちに全ての敵を倒してしまった。
「すごい。まるで分かってるみたい」
「まあ分かってるからね。これやるの四回目だから」
「四回目?」
「あなたにはあまり関係のない話だよ。気にしないで。機体はある程度決まったし、実際に使いながら細かく修正することにするよ。もう少し時間がかかるだろうけど待ってて」
「うん。待ってる」
私はそれ以上何も言わずに、彼女がゲームを進めるのを見ていた。恐らくこれが終わったら彼女はすぐに助けてくれるだろう。それを信じて私は彼女の調整が終わるのを待っていた。
実際シュナイダーのパーツを使うとスタイリッシュになってかっこいい。