彼女は順調にミッションを進めた。そのミッションは一部違うものの、ほぼ私がルビコンで過ごしてきた日々に近いものだった。私が時間をかけてこなしていった依頼を、彼女はものの数分でこなしていく。私が時折驚きを示すと、彼女は「四回目だから」としか言わなかった。
時々武器を変えながら『未踏領域探査』というミッションを始めた時のこと。彼女は開始してすぐに飛び降り、洞窟へと足を進めた。洞窟はルビコニアンフツウワームでいっぱいで、画面から見ると気持ち悪い。当時はメインカメラの映像しか見えなかったので数はいないように見えたかが、第三者視点から見るとこんなにうじゃうじゃといたらしい。そしてでかい。このサイズのワームを養育していたなんて昔のルビコニアンはいかれているな。
技研都市の入口の入口の前に立つと画面が暗転し、ムービーが流れた。あの時と同じラスティが私を始末しに来たのだ。彼女はムービーが終わるとすぐにラスティと戦闘に入った。当時の私は困惑があったのだが、彼女には何もなかった。とはいうものの、私は一度これを経験しているので驚きはしなかった。彼女が言う四回目とは、ルビコンで行った一連の仕事が四回目という事か。なぜ彼女は同じことを四回もやっているのだろう。いや、と言うよりはなぜ今までに三回も繰り返しているのだろう。
彼女は意外にも苦戦した。見た目で武器を選んだので今まで使ったことが無いような武器を使っている。だから攻撃が当たらない。加えてシュナイダーのパーツを使っているのでAPも低かった。ラスティも動きが早く、近づけばレーザースライサーが襲ってくる。
「やば、捕まった」
彼女はボタンを連打して逃れようとするが中々動けない。最後の攻撃の隙を見て何とか逃げることが出来た。APはあっという間に三十パーセントを切っていた。
『リペアキット残数二』
「幸先悪いな。ラスティってこんなに強かったかな」
ようやく半分APを減らしたころ、突然誰かの声が聞こえた。私がラスティと戦った時は無かった展開だ。
「誰だろう」
「ミドル・フラットウェルだよ」
「誰だっけ」
「あなたはあまり関わりなかったんだっけ。解放戦線の指導者の一人だよ」
「へえ……なんで解放戦線の指導者がラスティと戦う訳?」
「ラスティの協力者が解放戦線だったから。コーラル燃やそうとした時にラスティが止めに来たでしょ? そういうことだよ」
「あー……そうだったんだ。もし私がザイレムを落とすことを選んでたら」
「ラスティは協力しただろうね。でも今更だ。もう何も変えられない」
「分かってる。それよりヤバくない?」
「え?」
『残念だ戦友。今になって君の背景がかすかに見えた』
ラスティのセリフと共にゲームオーバーになってしまった。彼女が顔を顰めている。
「うそー、ここ負けたことなかったはずなんだけどなあ」
「思ったよりラスティって強いよね」
「というより数的不利がヤバすぎる。はあ、しょうがない。もう一回やるか」
彼女はチェックポイントからやり直した。さっきと比べて善戦するが、フラットウェルが現れると一気に不利になる。ラスティを狙っているうちにフラットウェルの攻撃が当たってスタッガーになるとレーザースライサーに削り取られた。
『残念だ戦友――』
彼女はチェックポイントからやり直した。
『今になって君の背景が――』
「また背景見られてるよ」
「ラスティに見えた私の背景って何よ。そんなことよりラスティが強すぎる。はあ……このアセンで行けると思ったのに。ちょっと変えるか」
彼女はアセンを変えだした。左腕と左肩を選択するとすぐに近接武器を選び始めた。
「やっぱり近接武器がいるなあ。どれにしよ。とっつきは重すぎるし、ブレードは使い倒したし……あ、そうだ。これなら少し射程があるや」
そういって彼女が選んだのは弧の形をしたブレードだった。
「見たことない奴だ」
「んふふ。これいいよ。導きの月光~」
彼女はそれだけ変えてまた再戦を選んだ。
始まってすぐに近接武器を作動させた。その弧の形をしたブレードからは水色の様な緑色をした光波が飛んでいった。
「すごい」
「ね、綺麗でしょ。もう一個は真っ赤な奴が出てくるの」
ラスティとの一対一は武器が変わっても順調に行った。リペアキットを一つも使わずに半分まで削ったところで問題のフラットウェルが参戦してくる。彼女は変わらずラスティに集中攻撃してるが途端に被弾するようになった。リペアキットを一つ使ったと思うとまたすぐに連撃を喰らってAPが真っ赤になり、ぎりぎりで回復できた。だがしかし、あっという間にまた削られてリペアキットをすべて使ってしまった。
「痛い痛い!? なんで一気に削られるのよ。こんちくしょ!」
彼女はやけくそでブレードを二つも振ったが、ラスティは易々と避けた。逆にその隙を駆られてAPを削り取られてしまった。
「ぬわー!? 折角変えたのになんで勝てないの!?」
「フラットウェルから先に倒したら? AP最初から半分しかないし」
「うーん……そうするかあ」
私の言葉通り彼女はフラットウェルから先に対処した。すると苦戦もせずにフラットウェルは落ちた。一対一になるとさっきまでの苦戦が嘘のように善戦できた。とはいえそこそこギリギリの戦いになったが無事にラスティに勝つことが出来た。
「はーやっと勝った。ラスティ強かったな」
「相手が軽量級だと案外苦労するもんだね」
「んー、あのアセン使えば案外勝てるかも」
彼女はそう言ってAC DATEを開いた。そこに保存されているACの内一番上の物を選んだ。私がルビコンで最後まで使い続けたアセンだ。
「結局これが一番使いやすいと思う」
「私が使ってたやつ? でもあなたが作ったほうがもっと洗練されたものが出来るんじゃない?」
「機体構成と言うより武器構成が丁度いいのよ。重量あるから飛べないし半強制的に地上戦になって操作に集中できる」
それは右手にライフル、左手にショットガン、両肩に十連ミサイルを積んだものだ。彼女はそのアセンを選択し、もう一度ラスティとフラットウェルに挑んだ。結果として快勝まではいかなかったが、ラスティから倒すことが出来た。
「うーん、使いやすい。これでもいいんだよなあ。でもあっちの方がかっこいいし……どっちにしようかなあ」
「どっちでもいいよ。ていうか二機とも持ってこれないの?」
彼女は私を見て固まった。私が首をかしげていると彼女は「その手があったか」と呟いた。
「そうか。そうだね。なにも一機だけに絞らなくてもいいか」
「試しに言ってみただけなんだけど、そもそも複数機を一人で操れるの?」
「集中して動かすなら二、三機。一部援護に回すなら五機が限界かな」
「結構いけるね」
「流石に五機も動かすと棒立ちさせることが多いけどミサイル流すぐらいならいけそうだ。おっけおっけ。いいこと教えてもらったよ。あとはメイン機をもう少しだけ調整させたらすぐ向かう」
「もういいの?」
「うん。決めた。あなたももう落ち着いたかな?」
「昨日の時点でもう落ち着いてるよ」
「泣いたりしない?」
「泣いたりしないよ。ウォルターが私にどう思ってたのかは知らないけど、一先ず集中することにする」
「私は別に犬でいいと思うけどな。ウォルターがどう思ってたかは知らないし、ウォルターはあなたが生きていればそれでいいと思うよ?」
「そっか、ならよかった」
「じゃあ、あなたを戻すね。少し時間がかかるけど耐えて。すぐ向かうから」
彼女は私の目に手をかぶせて目を閉じるよう促した。私は大人しく目を閉じた。
「十数えたらあなたの意識は戻る。一ついいことを教えてあげる。起きて三つ数えたらどっちにでもいいから回避しなさい」
「ねえ、最後に一つ聞いてもいい?」
「何?」
「私は人間でいるべきだったのかな。それとも犬でよかったのかな」
「どっちでもいいわ。犬だろうと人間だろうと私やあなたは生きていればいいもの」
誰かに体を引っ張られた。その瞬間音が変わった。音質の悪い銃撃音、機体から聞こえる悲鳴が聞こえた。目を開けばそこはもう彼女の家の中ではない。アトラ・ハシースの方舟の中である。久しぶりに戻った感覚だが、現実では一秒も立っていない。別の時間軸の私がショットガンを向けながら歩いてきている。それと同時に腹の痛みも戻ってきた。地上に戻ったら腹に埋まった破片を取り除いて貰わないといけないな。
彼女の言葉通り、三秒数えてその場から回避した。結果、奴が撃ったショットガンが私に当たることは無かった。
「ちっ、避けたか」
『あなたのことビジターって呼ぶわ。いちいち別の時間軸の私なんて言ってられないもの。ビジターって呼び名いいと思うの。私たちから見ればあなた達はまさにビジターだもの』
「何を突然。そんなの好きに呼べばいい。なら私はお前のことを裏切り者と呼ぶ」
『好きに呼べばいい』
「開き直りやがって、さっさと死ね!」
私の回答はビジターを挑発したらしい。ビジターの攻撃は苛烈になった。撃って撃って蹴る。撃って撃って蹴る。そんなデスコンボが繰り返された。私は回避に専念した。彼女の救援が来るまであと数分。ダメージを受け、駆動系が鈍くなったこの機体で避け続けるのは大変だろう。今の機体状況じゃアサルトブーストで逃げられるかも怪しい。
ふと先生達の方を見た。対策委員会以外にも多くの生徒が集まり、別の時間軸のシロコと戦っている。そのすぐ後ろにプレナパテスが立っていてシッテムの箱をいじっている。先生達もついに決戦に入ったらしい。ビジターとの戦闘で先生達に横槍を入れるわけにはいかない。やはり上に逃げなければ。
「避けてばかりいずに少しは反撃すれば? それとも人間様にビビったかこの駄犬が!」
ビジターが挑発するが、そんなものは私の耳にも入らない。ただ、私は疑問に思う。なぜビジターはあそこまで感情的なのだろうと。再手術をして人間としての機能を取り戻したと言っていたが、感情をほぼ無くしていた反動なのだろうか。あれが私だと言われてもいまいち理解ができない。でもエアがいるんだし正真正銘私なのだろう。
アサルトブーストを点火させてみたが、うんともすんとも言わない。懸念してた通り、駆動系がボロボロになっている。幸いそれ以外はなんとか稼働するため、ブースターとクイックブーストで登り切らなければならない。ただそんなに悠長に登っていたら誰だってその隙を見逃さない。
「どうしたそんなにちまちまと上りやがって。的になりたいのか? いいだろう、お望み通り的にしてやるよ」
ビジターはわざと立ち止まり、ショットガンで私に狙いを定めた。じっくり狙いを定めている。いつ撃って来るのかわからない。まるで射的をしているみたいだ。もしくは狩猟だろうか。私は今、彼女から獲物のように見られている。
ショットガンじゃ警告音が鳴らないので攻撃のタイミングを計るのは不可能に近い。距離がある分見てから反応できるが、放射状に広がるショットガンをすべて避けるのは無理だ。チクチクと少しずつダメージが蓄積される。ほんの少しずつだが、それでも致命傷になり得る。コアの穴の開いた部分を手で隠しながら上へ上へと上がる。
「レイヴン。あまり時間をかけすぎては」
「分かってるよ。でもAP差は歴然。少しぐらい遊んだって負けはしないよ」
「ですが彼女はまた上に逃げようとしています」
「分かってる分かってる。エア、もう一度あれ試してみてよ」
「しかし、前に一度失敗していますし」
「あれだけボロボロになったんだし、セキュリティもボロボロでしょ」
「分かりました。やってみます」
遊ばれているのは癪に障るが、おかげで外に逃げられそうだ。だが外に出ようとしたその瞬間、機体の制御ができなくなった。ブースターが止まり、落ちていく。どれだけ操縦桿を倒そうともなにも反応しない。
『どうして、動かない!?』
「レイヴン、彼女の機体の制御権を奪いました」
「よくやった」
なぜエアが機体の制御権を……と、そこで思い出したのは封鎖ステーションでの出来事。エアはコーラル技術を用いた機体を動かすことが出来た。つまり同じコーラルジェネレータを持つ私の機体を乗っ取ることも可能だった。
今思い出したところで何の意味も無いし、何の対策のしようも無かった。むしろなぜ今まで乗っ取られなかったのかが不思議なほどだ。それはきっと彼女のおかげなのだろう。彼女が機体の中にいない今、エアのハッキングを防ぐことはできない。
ビジターが落ちてくる私めがけて引き金を引いた。全弾命中し、一部は背中の装甲を突き抜け、私の体も突き抜けた。幸いわき腹がほんの少し抉れた程度で済んだ。それでも激痛が襲い、私は上げられない悲鳴を上げる。痛みで涙があふれてきた。
機体は背中から落下した。強い衝撃がコックピット内にも響き、腹の傷が酷く痛む。私は操縦桿を離し、腹を押さえた。包帯に血が滲み、傷口を押さえた手から溢れた血が流れ出る。
「お前の借り物の翼は地に落ちたな。大体飼い主に盲目的に従うだけのお前にレイヴンの名は合わない。奴隷が自由意志の象徴を名乗るな」
『あなたも同じだったくせに』
「何?」
『あなただって最初は私と同じ脳を焼かれた強化人間だったくせに。ウォルターを大切に思い、ウォルターの目的なんか目もくれずに従ってたくせに。最後の最後でちょっと仲良くなった友人に目が移って恩人を捨てたくせに。ちょっと人間に近づけたからって私に説教垂れるわけ?』
「お、おまえ、おまえ、お前お前お前!」
『そんなに私を嫌うのってつまり、過去の自分が嫌いなんだ。再手術して新しく生まれ変わったつもりなんだ』
「殺す! 今すぐ殺す! 機体の残骸すら残すものか! 私の手で殺す! 確実に死んだと分かるまで殺す! コックピットに何発もぶち込んでやる!」
やってしまった。つい挑発してしまった。いや、これは本心だ。私が実際に思ったこと。押さえることが出来なかった。理性が働かなかったのだ。でも正直言って後悔している。ただ相手を怒らせて死期を近づけただけだ。今の私はなんの抵抗もできないというのに。
いつ死ぬ? 今すぐにでも殺されそうだ。メインカメラはビジターの姿を映していない。でもすぐ近くにいる事だけは確かだ。
「死ね!」
「レイヴン! 気を付けてください、船外からコーラル反応が!」
恐らく引き金を引く直前だった。突然エアが警告した。それで引き金を引くのも止めたのだろう。首の皮一枚つながった。
「コーラル反応? どういうこと」
「特異なコーラル反応を検出しました。これは……コーラルジェネレータです」
「私たちみたいな機体が近づいてるってこと?」
「はい、一つではありません。二つ、三つ……五つも――!?」
「一体どういう事。キヴォトスには元々一機しかACはいない。時間軸が変わってもそれは変わらないはず」
「ですが現に……レイヴン、反応がすぐそばまで来ています。明らかに向かっているのは私たち元です。もう箱舟の真上に、来ます!」
脇腹抉れるとかすごく痛そう(小並感)
レイヴンが挑発と言うか毒を吐くのは多分本能的なあれです。