シャーレ所属傭兵レイヴン   作:猫又提督

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今回で時計仕掛けの花のパヴァーヌ編一章は終わりです。


第8話

 先生たちと合流した私は全員を乗せ早々に旧校舎を離脱した。飛びながら離れると足元では上を見上げ呆然とする者、こちらを撃とうとして止められるものもいた。

 

『怪我はない?』

 

 先生に聞くと彼含めて全員怪我は無いようだった。

 

「びっくりした、急に襲われるから一体何事かと」

「お姉ちゃんがまた何かやらかしたのかと思ったよ」

「こ、怖かった」

「アリスはしばらくチビのメイド服を見たくありません」

 

 三者三様の感想があるようだが一先ず降りる場所を探さないといけない。もうエネルギーがぎりぎりだ。誰もいないグラウンドに着地し、少ししてからまた飛び上がる。どこまで逃げようか。とりあえず戻ると言ったのでエンジニア部でいいや。

 

 エンジニア部の格納庫まで戻るとスタンドライトが焚かれており、地面が照らされていた。近くで降りてからライトの中心まで歩いた。

 

「やあ、早かったね」

『ちょっと行って回収したらすぐ逃げてきたからね』

「それうちにまで追撃来ないだろうね」

『さあ、それは分かんない』

「もしうちに来たら大人しく君たちを差し出すよ」

「おっとそうなる前に戻るとするよ。レイヴンそろそろ帰ろうか」

『まだウタハたちが調べたいことがあるみたいなんだけど』

「あともう少しだけいいかい。すぐ終わるから少しだけ時間をくれないかい?」

「うん。構わないよ。僕もここで待ってるから」

 

 ゲーム開発部とはここで一度別れた。ライトで照らされる中、エンジニア部に機体を弄られること一時間ほど、やっと満足したエンジニア部は私を解放してくれた。

 

「待たせたね。ACにはまだまだ分からないことがいっぱいあるからついつい熱中してしまうんだ。だがいつまでも拘束するわけにはいかないからな。レイヴンがうちに入ってくれればいつでも触れるんだが」

 

『ごめんね。今の飼い主は先生なんだ』

「飼い主? ふーん?」

 

 ウタハは私の言った「飼い主」という言葉が気になったようだ。私と先生を見比べてなにか察したような声を先生に向けていった。自分が誤解されていると気づいた先生は慌てて弁明した。

 

「違う、違うよ? 決してそんな関係とか築いてないよ? 飼い主ってレイヴンが勝手に言ってるだけだから」

「はは。まあ先生がそう言う人じゃないって知ってるからそこまで心配しなくてもいいさ。次来るのはいつだい?」

「三日後かな」

「三日後……ミレニアムプライス当日か」

「うん。ちゃんと結果を見届けないとね」

「君の望む結果が得られることを祈っているよ。それじゃまた三日後に」

 

 エンジニア部と別れ、学園の入口まで戻って来た。駐車場に先生が乗っていた車が置かれている。

 

「帰りもあれで帰るの?」

『うん。その方が早い』

「でももう結構暗いよ? 暗い中あのスピードで帰ったらぶつかるかもしれない」

『大丈夫、暗くても何とか見えるから』

「ライトとかないの?」

『生憎ついてないんだよね。今度エンジニア部につけてもらおう』

 

 

 

 三日後のミレニアム学園の空は晴れていた。雲は幾つかあるが青の割合が多いから晴れだ。学園はにぎわっていると思っていたが意外にも部分的にそうではなかった。校舎の外には誰も歩いておらず、そのミレニアムプライスが開催されている様子はない。聞けばミレニアムプライスは専用の会場で行われているらしい。だから生徒は皆会場に行っているか、中で中継を見ているかのどちらからしい。ゲーム開発部は後者だった。

 

 機体をエンジニア部に預けに行くとコトリの姿は無かった。三日前に言っていた通りミレニアムプライスの進行役として会場に行っているらしい。ウタハとヒビキも中継を見るそうだ。

 

 ゲーム開発部の部室には初めて入った。良く分からない機械がたくさんあったがその全てが昔のゲーム機だという。少し前までそのゲーム機のいくつかで遊んでいたのか本体とコントローラー、いくつかのカセットがテレビの前に散乱していた。

 

「ねえねえアリス、見て見て~。じゃ~ん、メイド服~!」

「ひぃ!」

 

 モモイがアリスにメイド服を見せるとアリスは反射的に飛びのき私の後ろに隠れた。どうやらアリスはメイドに、特にあのガラ悪少女に相当なトラウマを植え付けられたらしい。そういやあのガラ悪少女はネルと言うらしい。あれでも三年生だそうだ。てっきり一年生かと思っていた。

 

 ユズ曰く旧校舎を壊した件はC&C、あのメイド部が処理したそうだ。私のルビコン神拳で壊した壁も含めて。

 

「あ、あとネル先輩から伝言。『また会おう』……って」

「ひぃ!」

 

 ユズの追い打ちにとうとうアリスは私の後ろからロッカーに隠れてしまった。

 

「ああっ、アリスちゃん! ロッカーの中に入っちゃダメ! ユズちゃんを見て変なこと覚えちゃったよ!」

 

 ロッカーがガタガタと揺れて上にはヘイローが浮いている。ユズも同じことをしているのか、当人は苦笑いをしていた。

 

「ふぅ……まあそれならそれでよかった。ところで」

「うん。ミレニアムプライス、始まったね」

 

 もうそんな時間か。時計を見ると確かに開始時刻が間近だ。

 

「もし受賞したらクラッカー鳴らそっか。でも、もしそうじゃなかったら」

「すぐに荷造りしないとね。私たちはさておき、ユズちゃんとアリスちゃんは」

 

 ミドリが意味ありげに言葉を濁すが、当の本人たちは何もしゃべらない。先生もその言葉の意味が分かっているのか重苦しい表情をしている、事情を理解できていないのは私だけの様だ。私は一体どんな事情があるのか聞こうとしたが、その時テレビからコトリの声が聞こえた。

 

 コトリは今回のミレニアムプライスでは史上最多の応募数であることを告げた。ウタハの予想通りだ。そのことにモモイとミドリは苦言を呈した。

 

 次にコトリは前回の優勝作品を紹介した。詩集だった。なぜサイエンススクールで詩集が優勝できたのだろう。その疑問は誰にも話さなかった。不眠治療に最適だと紹介されてその詩集がどういうものなのか予想できた。

 

 コトリは今回の応募作品をいくつか紹介した。いずれも何に使うのか良く分からない代物だった。ただその中の一つとして通り過ぎた「光学迷彩下着セット」という言葉に気が行った。多分、いや絶対にウタハの作品だ。透ける下着と言うとしょうもないが光学迷彩とつくと途端に格好良く見えるのは一体なぜだろう。その疑問も誰にも話さなかった。

 

「——そして! 今キヴォトスのインターネット上でセンセーションを巻き起こしている、スマホでマルチプレイが楽しめるレトロ風ゲーム、『テイルズ・サガ・クロニクル2』などなど!」

 

 ああ、ゲーム開発部の作品だ。前作はとてもひどい内容だったらしい。三日前に先生から話を聞いて2の方をやってみた。いろいろ言ったが私はそもそもゲームを遊んだことがないのでゲームの良し悪しは分からなかったが普通に楽しめた。

 

「今回出品された三桁の応募作品のうち、栄光の座を手にするのは、たったの七作品!」

 

 ユズが覚悟を決める顔をした。

 

「それでは七位から、受賞作品を発表します!」

 

 もう発表するのか。これから会場の中継とかを、とにかくまだ審査とか終わってないんじゃないのかと思ったが、そういえば応募締め切り日が三日前だった。だからこの三日間で審査を終わらせていたのだ。てっきり作品を紹介してくれるものだと思って少し期待していたのに残念だ。

 

「七位はエンジニア部、ウタハさんの『光学迷彩下着セット』です! これは身に着けてもその下の素肌が見えてしまうため、着ているのかそうでないのか分からないというエキセントリックな作品ですが、露出症の患者さんが合法的に趣味生活を営めるようになるという点で、大変高い評価を……その評価をした審査員が一体誰なのか、気になってしまいますね! とにかく七位!」

 

 早速ウタハの作品がランクインしていた。よくあれでランクインしたものだ。まあ他に紹介されていた作品をみればウタハの作品でもまだマシなのだろう。と言うか評価したの絶対噂の生徒だろう。

 

 七位の紹介にモモイたちはホッとしていた。どうやらもっと上の順位を期待しているそうだ。その後も六位、五位と紹介されるがゲーム開発部の作品は発表されない。

 

「私たちの名前……呼ばれないね」

 

 ミドリが不安そうな声を上げた。四位が紹介される、ゲーム開発部の名前は出てこない。モモイも早く出してほしいと言い出した。

 

「さあ、ここからはベスト三です! 三位は!」

「も、もう心臓が持たない!」

「お願い……お願い」

「僅差で二位を受賞したのは!」

「お願いします、私たちの名前を!」

「くっ、二位でもない! って言うことは!」

「最後に! 今回のミレニアムプライスで、最高の栄誉を受賞した作品です! その一位は!」

「うぅっ!」

「CMのあとで!」

 

 その瞬間全員がずっこけた。テレビを見ているとよくある手法だ。私も肩をすくめた。しかしモモイは「アリスっっ!」と名を呼んだ。アリスも「充電完了、いつでも撃てます!」と言って背負ったバカでかい兵器をテレビに向けた。私たちは慌ててアリスをなだめた。私は動けなかったので腕だけ動かしてあわあわしているだけだった。

 

「うぅっ、焦らさないでほしい」

 

 きっと私以外はCMを見ている間生きた心地がしなかっただろう。私も暇をしてたのでゲームの続きをしていた。

 

「あ、レイヴンさんもテイルズ・サガ・クロニクル2やってるんですか? お、面白いですか?」

 

 ミドリが私の画面を覗いてそういった。スマホから手を離せなかったので首で頷いておいた。ミドリはほっとしたようだ。モモイもそれに食いついてきた。「どこまで進んだ?」と画面を覗いてきた。どこまで進んだと言われても、ゲームを始めたのは三日前だし、ゲーム自体にも慣れないのでまだ序盤だ。モモイも「そこかー、そこはね」と言って先の展開を言いやがりそうになった。ミドリが「ネタバレしちゃダメでしょ!」と止めてくれたおかげで私はワクワクを逃さずに済んだ。

 

 結果的に焦れったいCMの待ち時間は過ぎていた。私は全くゲームに集中できなかったが。

 

「さあそれでは発表します!」

 

 コトリの声が聞こえてきた瞬間、私に群がっていたモモイたちは一転してテレビの前に飛んでいった。

 

「待望の一位は……新素材開発部——」

 

 瞬間テレビの画面が撃ち抜かれて何も見えなくなった。撃ったのはモモイだった。

「うえぇぇん! 今度こそおわりだぁぁぁぁぁ!」

 

 モモイの嘆く声に同調するように周りの顔も下がっていく。

 

「ここを追い出されたら、ユズちゃんとアリスちゃんは」

 

 またその話か。一体何が問題だというのだろう。

 

「心配しないで、ミドリ。わたし、寮に戻る」

「え?」

「もう私のことを、クソゲー開発者って呼ぶ人はいないと思う」

 

 なるほど、読めた。要は前回の作品のせいで寮に戻れなくなってしまったのだろう。ではユズはずっと寮に帰っていなかったということか? では一体今までどこにいたのだろう。

 

 私は自然とロッカーに目が行った。いや、まさか。まさかね。

 

 私が一人自問自答している間に先生たちの間には相変わらずしんみりムードが漂っていた。

 

「ただ、アリスちゃんは」

「うん、私に任せて。アリス、シャーレに来る?」

 

 おや、アリスがシャーレに来るのか? なぜそうなるのか分からなかったためようやく先生たちに事情を聞くことができた。

 

「アリスはもともとミレニアムの生徒じゃないんだよ。廃墟で見つけたんだ」

『へー、よく学園に入れたね』

「うん、ちょっとヴェリタスの人に手伝ってもらって」

 

 あのハッカー集団か。なんだか私と似たようなことしているな。いや、私の場合は名義を借りているだけだが。

 

「もう……もう、みんなとは……一緒に、いられないんですね」

「うっ、ごめんね……ごめんね、アリスちゃん! 私、毎日シャーレに行くから! 本当に、絶対に毎日行く!」

 

 おお、ミドリも来るのか。シャーレが賑やかになってよさそうだ。

 

「うううう……やっ、やっぱり嫌! 先生! やっぱアリスを連れていっちゃだめ!」

『えー、モモイも毎日シャーレにくればいいんだよ』

 

 私はモニターにそう打ち込んだが誰も見てくれなかった。皆アリスを囲んで、抱きしめている。その時突然部室の扉が開いた。

 

「モモイ! ミドリ! アリスちゃん! ユズ! きゃぁっ!?」

 

 部室が狭かったので私はドアの真ん前にいたのだが、そうなると当然ドアにぶち当たる。案の定、勢いよく開け放たれたドアは私の車椅子に激突した。幸い頭には当たらなかったがとても驚いた。

 

「れ、レイヴン? ごめんなさい。気づかなかったわ。あ、それよりも……おめでとうっ!」

 

 ユウカがそういうとモモイとミドリは一体何のことか分からずに硬直していた。

 

「え?」

「え、えっ?」

 

 その場にいた全員が混乱していた。

 

「え、何この反応? 結果、見てなかったの?」

「結果?」

「私たち、七位以内に入れなくて」

「はぁ? 何を言っているの、今も放送中なんだからちゃんと見てなさいよ」

「お姉ちゃんがディスプレイを吹き飛ばしちゃって」

「ほんとに何をしてるのよ……ほら、見て見て。私もスマホで見てて、途中から走ってきたの」

 

 なんだスマホで見れたのか。それなら私も最初からスマホで見ていればよかった。ユウカのスマホにみんな群がっているが車椅子の私はその輪に入りきれなさそうだったので自分のスマホで見ることにした。そこには審査員の姿が映っていた。

 

「今回は『特別賞』を設けます、その受賞作品は……ゲーム開発部の『テイルズ・サガ・クロニクル2』です」

「えぇ、嘘っ!?」

「何が起きてるの?」

 

 どうやら特別賞を受賞したらしい。審査員の言葉は私にはよくわからなかったがとりあえず高評価を推しているのは分かった。

 

「モモ、ミド!」

 

 また誰かがドアを開けた。さっきよりも強い力で開けられたので車椅子もそれより揺れた。変な悲鳴、は出なかったがこの際出た方が面白かっただろう。私はただ無言で首を強く揺らされただけだった。

 

「わっ、大丈夫?」

『びっくりした』

 

 声の主は……確かヴェリタスの誰かだった。名前は知らない。一体何をしに来たのかと思えばゲームの感想を言いに来ただけだった。

 

 ゲーム開発部は今回の特別賞で廃部を免れることになった。つまりアリスがシャーレにやってくるという件も無くなった。私はそれが少し寂しかったが、モモイたちはとても喜んでいたので言及はやめておいた。

 

 ミレニアムプライスの行方を見届けた私たちはシャーレに帰ることになった。エンジニア部に預けていたACを引き取り、アサルトブーストで以て短時間で帰る。四回目ともなるといい加減慣れたのか、先生と会話する余裕もできた。

 

「そういえば、アリスに来てほしかったの?」

 

 先生は唐突にそう聞いた。私は『なんで?』と聞き返した。

 

「だって廃部を免れた時にレイヴン少し寂しそうにしてたから」

『顔に出てた?』

「うん」

『まあ、大体一人で過ごしてるから。仲間ができるかもって思って』

「僕がいるじゃないか」

『先生はほとんど仕事で忙しくしてるじゃん。帰ってもまだ仕事あるでしょ』

「うっ、嫌なこと思い出させてくれるね」

 

 私と先生は二人、夕焼けに照らされる中爆速でシャーレに帰った。その日、先生が徹夜したのは言うまでもない。




次回ですが、当初は二章を書く予定でしたが調べると時系列では二章はかなり後みたいですね。時系列は実相順らしいのでこのお話もそれに沿うことにしました。よって次回からエデン条約編に入ります。
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