第9話
トリニティはミレニアムに比べると少し古風な建物が多かった。そして今私たちがいる場所はさらに古風な場所であった。目の前にある大きなテーブルには様々な見たこともないお菓子が並べられており、見るからに高級そうなティーカップが私の前に置かれている。
目の前にいる二人は今回先生を呼び出した張本人だ。最初は先生だけを招待したかったらしいが、私がどうしてもついて行こうとしたため、ついでに私も招待してもらった。それにしても招待という形式が少し引っかかった。
れにしても招待という形式が少し引っかかった。
「初めまして、先生。私はトリニティの生徒会長の桐藤ナギサと申します。こちらは同じく生徒会長の聖園ミカです」
ミカと紹介された少女はこちらに手を振った。第一印象だとナギサとは対極にあるような性格だったが多分実際にそうなのだろう。
「あなたが噂の先生ね。それであなたは……全く知らない人だね。ヘイローがないし、あなたも先生と一緒にキヴォトスの外から来た人? 名前は? あのでっかいロボットは?」
『私はC4-621。旧型の強化人間。みんなはレイヴンって呼んでる。あれはAC』
私はミカの質問に一つ一つ答えた。するとミカはさらに私に興味を持ったようだ。
「じゃあ、私もレイヴンって呼ぶ。621って囚人番号みたいでいやじゃん? ACって何の略? そういえばなんで全身包帯だけなの? 怪我?」
「ミカさん、気になる事がたくさんあるのは分かりますが初対面の方にそのような態度は礼儀がなっていませんよ」
止まらない質問の波にナギサがすかさずストップを入れた。ミカは「う、確かに……ごめんね?」と言って私の元から離れた。正直助かった。
「さて、トリニティの外の方がティーパーティに招待されるのは私の記憶が正しければ、先生とレイヴンさんのお二人が最初です」
「あ、ナギちゃんもレイヴンって呼ぶんだね」
「ミカさん?」
ナギサの顔は穏やかなままだったが、その内側から怒りの感情がにじみ出ていた。私はすぐにナギサが怒らせたら怖い人だと直感した。先生もそれを察したのか苦笑している。ミカは「ごめん。静かにしてる、できるだけ」とおおよそ守れそうにはない約束をして一歩下がった。
「今回先生をご招待したのはお願いがあるからです」
「お願い?」
「あ、もう本題行っちゃう感じ? 折角だからもうちょっとお話しようよ。ほら、まだあのでっかいロボット、ACだっけ? あれのこととかさ。私すっごい気になってるの。ティーパーティって社交界でしょ? ならもっとコミュニケーション取らなきゃ」
「ミカさん。今回は私がホストです。そう言ったことはあなたがホストになった時に追及してください」
ミカが黙った。呼応してナギサも黙った。どう話を進めたらいいか分からない先生も黙った。声が出ない私は最初からずっと黙っていた。ミカも流石に少しやばいと思ったのか「あー……ごめん、黙ってる。できるだけ」とおおよそ守れそうにない約束をしていた。
ナギサは咳払いを一つして話を続けた。
「すみません、先生。まあ、ですがそうですね。少し話の方向を変えるというのもいいでしょうか」
「トリニティは生徒会長が複数いるんだね」
「はい、これはその昔、トリニティがまだ分割された学園だったころの名残があるんです」
「ナギちゃん、話は手短にね。社交界と言っても長すぎるお話はダメだよ?」
「当時トリニティには、パデル、フィリウス、サンクトゥスの三つの派閥がありました」
「あれ? 無視? 私の話無視されたの?」
「その派閥の間では長く紛争が起こっていました。その紛争を解決するために各派閥の代表たちが集まったことがティーパーティの歴史の始まりなのです」
「どうしようレイヴン。私ナギちゃんに無視されちゃった! 十年来の幼馴染なのに! 私そんなナギちゃんに無視されるようなことしちゃったかな?」
なぜかミカは私に助けを求めてきた。なぜ初対面の私に助けを求めてくる。というか無視される原因は正に今の言動だろうに。いい加減ちょっと大人しくしてほしい。こうもナギサの話の間に口を挟むとまた彼女の怒りが爆発しそうで恐ろしい。先生も顔は笑顔だが変な汗が流れている。
「こうして始まったティーパーティですが今も各派閥の代表がホストを——」
「レイヴン——」
「ああもう五月蠅いですね!?」
ナギサは何の脈絡もなく突然切れた。笑顔だった顔は完全に目が吊り上がっている。流石にミカも「ひぇっ」と小さく悲鳴を上げた。無論私もびっくりしたし、先生も肩を跳ね上がらせた。
「今私が話してるんですよ!? それなのによこからぐちぐちぐちぐち……おまけに初対面のレイヴンさんにだる絡み……その小さな口にロールケーキをぶち込みますよっ!?」
私たちの間に沈黙が流れた。全員がナギサの方を向いている。ナギサだけが唯一静かに肩を揺らしていた。数秒間その状態が続いただろうか。やがてナギサの顔は元に戻っていた。
「あら……すみません。私ったらなんて言葉遣いを」
「あ、あーうん。大丈夫気にしないで」
先生は笑って言ったが私はその顔が引きつっているのを見逃さなかった。
「さて、それでは今度こそ本題に入らせていただきますね。先生には補習授業部の顧問になってほしいのです」
「補習授業部?」
「はい。補習授業部、その顧問になってほしいとお願いしましたがどちらかと言うと担任の先生と言うのが正しいでしょうか。要は落第寸前の生徒を救ってほしいのです」
「はあ、まあそれぐらいなら全然かまわないけど」
「そう? よかった~。実は今の時期は忙しくってそこまで手が回せなかったんだよね~」
「何かあるの?」
「ちょっとエデン条約の件でね。どうしようかと思ってたんだけどちょうどシャーレの活躍を新聞で見てね。いろんな仕事をこなしているみたいだから丁度いいと思って!」
普段の活躍……ゴミ掃除やら、探し物やら、不良の制圧やら。果たしてそこに担任の先生につながるような活躍はあっただろうか。
「お願いできますでしょうか」
「うん、いいよ。僕にできる事ならなんでも」
「それではこちらが補習授業部の名簿になります」
ナギサは一冊のファイルを差し出した。先生はそれを受け取り中身を確認していた。ぺらぺらと一枚ずつめくっていたがあるページで手を止めた。
「あれ……この子って」
「どなたか知り合いでもいましたか?」
「いや、何でもないよ」
「そうですか。それでは最後に何か聞きたいことはございますか?」
「エデン条約って何?」
先生がその質問をするとナギサとミカの顔はこわばり互いに顔を見合わせた。
「すみません。エデン条約については先生にも知っていただいたほうがいいのですが、一応機密条項なので」
「またあとで教えてあげるよ」
「そっか。分かった。じゃあ僕たちはこれで失礼するよ。レイヴン行こうか」
『うん』
先生が椅子から立ち上がり、歩き出した。私もそれに続いて後ろからついて行く。あれから車椅子を一人で動かす練習をしたので、細かな動きはまだ難しいが日常生活においてはそれほど苦にはならなかった。
私は先生と移動している途中に気になったことを聞いた。
『さっきファイル見てるときに手が止まってたけどやっぱり知り合いがいたんじゃない?』
「まあね。レイヴンと出会う前に少しだけ一緒に行動してたことがあるんだ。でも落第しそうになる子じゃなかったはずなんだけどな」
先生はもう一度ファイルを開き、その知り合いと思われるページを開いたまま首をかしげていた。先生がそう言うなら恐らくそんな問題がある生徒ではないのだろう。
「とりあえず会ってみようか」
トリニティもまた広い学園だ。ACで移動するのが丁度いい。
補習授業部の一人がいるという教室に着いたらしいので、私はそこで先生を下した。私はいちいち車椅子とリフトを下すのが面倒だったので機体に乗ったまま先生を待つことにした。
あれから何度かエンジニア部の所に通ってできる範囲で機体を改修してもらった。現時点ではとりあえずライトをつけたのと、肩の部分にリフトと車椅子をまとめた箱を繋げられるようにしてもらった。誰かの手伝いが必要だがこれでいつでもどこでも乗り換えられる。あとマイクもつけてもらった。こちらから話せるのはまだ先生やウタハたちの他にはいないがこれで特定の人物以外の声も聞こえるようになる。ただその分派手な戦闘ができなくなったのは残念だ。まあ、武器を未だに廃墟に置いてきているのでそもそもできないわけだが。
しばらく待っていると教室から先生と一人の少女が出てきた。あれが先生の言っていた知り合いの生徒か。彼女は私の機体を見上げ、口をぽかんと開けていた。
「大きなロボット……ですね」
「彼女はレイヴンだよ」
「か、彼女? このロボット女の子なんですか?」
「ああいや、そういう訳じゃなくて。中に乗ってる子のことだよ」
「あ、ああ。そういうことでしたか。中に人が乗ってるんですね。初めまして阿慈谷ヒフミと言います」
丁寧に頭を下げて自己紹介をしてくれたので私も手を振って応えた。
「レイヴン。次の生徒の場所まで連れて行ってほしいんだ」
『どこ?』
「えっと正義実現委員会っていう所の教室なんだけど」
先生とヒフミの案内の元向かった場所は相も変わらず少し古風な建物だ。ここが正義実現委員会か。名前がなんか物騒だ。正義と言う言葉がきな臭い。
私は先生とヒフミを下ろしてまた近くで待機することにした。
「そこのロボット。もし中に人が居るようならすぐに外に出てきなさい」
待機しだしてからすぐにどこからともなくそんな声が聞こえてきた。ただ正面には人の姿が見えなかったので一体どこにいるのだろうと探すと、どうやらすぐ後ろにいたようだ。そこには三人の少女がいたが、うち二人は黒い制服を着ており直感的にこの二人は仲間であると察した。もう一人の少女は全体的に白、と言った印象があったがなぜかガスマスクを着けていた。
「あら、あのマークはシャーレの? と言うことは先生も近くにいるのでしょうか」
黒い制服を着た少女は警戒した顔をしていたが機体の胸に書かれたマークをみて警戒を緩めたようだ。シャーレに所属するようになってからいろいろと便利だからと機体にシャーレのロゴを入れたが実際にこれが楽だ。ACで赴くと驚かれたり警戒されたり、おまけに私がしゃべれないせいで話が全く進まないがシャーレだと分かると途端に話が進みだす。
「先生が何処にいるのか知っていますか?」
私は目の前の建物を指さした。
「教室に? 分かりました。ありがとうございます」
少女はお礼を言って建物に入っていった。それにしてもなぜあの白い少女はガスマスクをしているのだろう。
それからもうしばらくして、先生とヒフミは新たに三人ほどつれてきた。その三人はさっきのガスマスクの少女に水着の少女と、あとなんか……小さい少女だ。前者二人の印象が強すぎて特徴が思い浮かばなかった。ああ、そういえばさっき見た二人と同じような制服を着ている。ならあの制服は正義実現委員会のものなのだろう。その三人もやはり思った通りの反応を示したが、もう慣れたというかこの展開も飽きた。早々に五人を乗せて補習授業部の部室に向かうことにした。
部室に着くと流石に私も一緒に降りることにした。ヒフミたちには先に行ってもらい、先生に降りるのを手伝ってもらいたい。毎回毎回手伝ってもらうのも申し訳なくなってくる。
部室と言う名の教室に入るとヒフミ以外の三人はやはり個性が強かった。なにか変なことをおっぱじめそうな水着少女に、あと一か月は立て籠れるとかいうガスマスクの少女、あとは死にたいと呟き続ける正義実現委員会の少女だ。
彼女たちは先生と私が入室すると一斉にこちらを向いた。
「あ、先生と……どなたですか?」
『C4-621。レイヴンだよ』
「あ、あなたがあのロボットのパイロットさんですか?」
『そうだよ』
「ま、まさか、もっと大人の方かと」
「な、なによその格好! エッチなのは駄目! 死刑!」
突然ヒフミとの会話にキンキンと甲高い声で乱入する声があった。正義実現委員会の少女だった。
「あら、あらあら。もしかして私と同じような方でしょうか」
「ふむ。あなたがあのロボットの操縦者か。その全身の包帯、相当の戦士と見受けられる」
一人からは死刑宣告をされ、もう一人からは同類と言われ、そして最後になぜか尊敬された。全く収拾がつかない状況と言っていいだろう。私は打ち込むキーボードに手が動かなかった。
ヒフミが自己紹介をしましょうと言わなければこの混とんとした空間はずっと続いただろう。おかげで私も全員について把握できた。特にハナコに関してはデジャヴを感じた。ついでにこの部活についても詳しい説明を受けた。どうやらこの四人がこれから行われる三回の特別学力試験の一つに同時に合格できればこの部活から解放されるそうだ。
ハナコやアズサはともかくコハルが一番足を引っ張るだろうなと私は思った。そもそもの理由も変なプライドから来ているようだし、一応先輩であるハナコやアズサを先輩扱いしたくないと駄々をこねる姿が本当に子供っぽかった。
「先生はスケジュール調整や、補習を行っていただければと。レイヴンさんは」
『私はただの護衛だから。あとは先生の足』
「せっかくだからレイヴンも勉強していく?」
『え』
私は別に関係ないと思うのだが。ヒフミが「仲間が増えますね! あまり喜んじゃいけないかもしれないですけど」といって何か期待のまなざし的なものを向けてきたので断りにくくなってしまった。
「せっかくだから、ね」
先生にまで念押しされてしまったのでとうとう断れなくなってしまった。まあ、別に私は試験を受けるわけじゃないから別にいいか。
それから毎日放課後に私と先生はトリニティで補習授業を行うことになった。
ストーリーの文章そのまま使いまくったら利用規約に引っかかりそうなので話の流れは変えずに表現を変えまくりました。今後もそうなります。