華鏡よさりは今日も悪夢を見る。
今度は空で……

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空へ

『本日は、ご登場ありがとうございます。大空へ投げ出される旅をお楽しみの皆様へ、機長のカキョウヨサリから最初で最後のご挨拶をさせていただきます』

 

 華鏡よさりは悪夢を見た。

 

 轟々と鳴り響く双発のエンジン音とご丁寧に機体中央に配置された座席シート、左右を見れば、いくつもの窓からこれでもかと言うほどに青空が覗ける。

 

 困ったことに、どういう訳かシートベルトが外れない。今すぐにでもシートベルトを外し、華鏡よさりそっくりの声をしている機長を止めなければならないのに、このままでは本当に最初で最後の挨拶とやらをされてしまう。

 

 斬新な悪夢の見せ方もあったものだと言いたいのだが、よりにもよって今回は遥か上空から悪夢が始まるなど、思っても居なかった。

 

『当機は株式会社鳥になってこい航空による、いざと言う時の予習に役立つ緊急脱出式スカイダイビング体験プログラムとなっております。脱出レバーを怖くて引けないという方向けに、機長のあちきが代わりにレバーを引かせていただき、強制的に脱出できる大変親切な設計となっておりますため、心の準備もレバーを引く勇気も必要なく、大空の旅を楽しんでいただくことが可能となっております』

 

 緊急脱出式スカイダイビング体験プログラムという世界中どこを探してもなさそうな、とんでもない言葉を聞き、一向に外れようとしないシートベルトをおもむろにガチャガチャといじりながら、真上を見上げる。そうすれば、意味深に一部だけ外れそうな天井がある。

 

 どういう結末が訪れるかなど、考えるだけ無駄だろう。

 

 スカイダイビングと言えば、飛行機の扉から飛び降りて自由落下の後、パラシュートで降下するものと決まっているのだが、この悪夢は何をとち狂っているのか、パイロットの緊急脱出よろしく、座席ごと大空へ打ち上げてやろうというのだ。

 

「お、降ろせーっ‼」

 

『……急降下いたしますか?』

 

「やめろー!」

 

 そっちの降ろせではない。

 

 一体何をどうやったらこんな状況が出来上がるというのだろうか、何が悲しくて座席ごと打ち上げ有られなければならないのか、これがわからない。

 

『まもなく、一方的にレバーを引かせていただきますので、それまで心置きなく空の旅をお楽しみください。なお、パラシュートが開く確率は映画の演出と同確立程度とお考え下さい。いざと言う際には、副機長を務めるフから始まってンで終わる全身青タイツの方が助けに入ってくれる……かもしれません』

 

「命の保証をしろー!」

 

 思わず叫んでいた。いや、叫ばずにはいられないのだ。

 

 一度装着すれば外れないのか、シートベルトがどうあっても外れる気配が一向になく、上空数千メートルで装具を必死に外そうとしている光景はシュールである。しかも、それが無駄に広い気内の中、ポツリとど真ん中に置かれた唯一のシートの上で無駄な格闘が繰り広げられているのだから、シュールを通り越して以上である。

 

『ご搭乗の本歌様へお知らせいたします。只今の天気は晴れ、風は少なく、絶好のスカイダイビング日和とな――――』

 

 打ち上げられた花火の気持ちを始めて理解した。およそ人類が体験することがないであろう気持ちを理解した数少ない立場になった彼女は、大空を舞った。

 

 座席が凄まじい破裂音と共に、空高くへと打ち上げられた。

 

「いやああああああ!」

 

 座席は畿内を飛び出し、徐々に減速してゆく。

 

 空は雲一つない快晴、今の状況が全くの別物であれば、この光景も綺麗な物であったことはまず間違いないのだが、今は、残念なことに、座席に括りつけられた合われた兎である。

 

 これが気球とか、そう言う物に乗った空の旅なら最高だったのだろう。

 

 今の状況?

 

 座席に括りつけられ、これから落下しようとしているまさにその時だ。

 

 太陽は煌々と明るく、熱い。こんなにも太陽の近くで光を浴びることも少ないだろう。空と言う空間を謳歌する玉座、一瞬でもそう思えてしまうのは、この大空があまりにも広大で、素晴らしい物だったからかもしれない。

 

 日輪の下、身一つで最高高度に鎮座する玉座に座るは鏡の付喪神である。曇りなき大空と言う海に今から潜ろうというのだ。

 

 尤も、玉座には外れないシートベルトでがっちりと固定されているのだが。いや、今は固定してもらっていないととても困ってしまう。

 

 そして華鏡よさりは思うのだ……パラシュートよ、ちゃんと開いてね? と。

 

 しばしの間、無重力を味わった華鏡よさりは重力に引っ張られ始める。まるで重力なんてものを今の今まで忘れていたように、体はゆっくりと地球に惹かれる。

 

 そして体が起き上がった。

 

 

 朝、華鏡よさりはまるでバネ仕掛けのように勢いよくベッドから跳ね上がる。

 

 

 華鏡よさりはまた悪夢を見てしまったのだ。そう、今回は本当にちゃんとした悪夢を見せられた。青い空、どや顔でサムズアップする写し身の姿が思い浮かんだのは内緒である。


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