「気になっていたんですが、レミリアさんってなんで幻想郷に来たんですか?」
「んぐっ」
忘れ去られた者たちの楽園、幻想郷。
その一角に位置する「博麗神社」で開催された宴会にて。
緑髪の少女の問いに、コウモリの翼を腰から生やした少女が軽く咽せた。
「な、なんでって…、そりゃあ、力を維持できなくなったからで…」
「え?吸血鬼って、妖怪とかじゃなくて普通の生物ですよね?」
緑髪の少女…東風谷 早苗の指摘が吸血鬼の心臓を杭の如く穿つ。
吸血鬼の少女…レミリア・スカーレットは思わず口から漏れそうになった呻き声を飲み込み、言い訳を展開した。
「…いや、私は真祖に近い血筋だから、割とダイレクトに影響出るっていうか…」
「高等吸血鬼とか、普通に人間社会で生活してるじゃないですか」
「あ、いや、えと…」
残念。レミリアの語彙では、正論で殴ってくる系女子高生に勝てなかった。
しかし、早苗が疑問に思うのも無理はない。
この世界において、吸血鬼は一種族して社会に溶け込んでいる。
中には人間に友好的な吸血鬼も存在し、そこらのゲーセンでバイトしてる姿すら見るほどだ。
そんな中、「吸血鬼を怖がる人間が少なくなったから幻想郷に行きたい」と主張した吸血鬼はスカーレット家のみ。
外の世界での生活を経験してる早苗であれば、至極当然に浮かび上がる疑問である。
レミリアがどう言い訳したものか、と悩んでいると、その隣でちびちびと酒を飲んでいた少女…パチュリー・ノーレッジが口を開く。
「親戚の集まりが嫌すぎて逃げたのよ」
「ちょっと、パチェ!!」
情けないことこの上ない理由である。
早苗はおろか、周囲で聞いていた少女らも軽く咽せ、レミリアを見やる。
その瞳には、揃って困惑と侮蔑が込められていた。
そんな目で私を見るな。
そもそも味方のお前が言うな。
レミリアが抗議を込めた視線をパチュリーに送るも、彼女は気にせず続けた。
「もういい加減に話してもいいじゃないの。
遅かれ早かれ、突っ込まれる話題だったんだし」
「そ、それは、そうだけど…。
私のイメージが…」
「あってないようなもの気にしても、サイクロンジジイから逃げてるって事実は変わらないわよ」
「ぐっ…」
サイクロンジジイってなんだ。
少女らが疑問を込め、一斉にレミリアに視線を向ける。
凄まじい圧である。
最初こそは誤魔化そうと考えていたレミリアだったが、無理だと悟り、肩を落とした。
「私、『竜の一族』っていう吸血鬼の真祖に近い血筋なのよ」
「っていうか、真祖の孫ね」
「へぇ。あんた、由緒正しい血筋なのはマジだったのね」
「ヴラド・ツェペシュは嘘だけどね。
あまり言いふらしたくないから、お祖父様とは違う有名どころ持ってきただけだし」
言いふらしたくない理由としては、祖父の名前の下に好き勝手やってると思われたくなかったというのがほとんどである。
あの祖父のことだ。
孫が己の名を使ってブイブイ言わせていると知れば、必ずちょっかいをかけにくる。
ちょっかいと表現したが、こちらからすれば破滅的災害以外の何者でもない。
心に刻まれたトラウマを流すように酒を呷り、レミリアは続けた。
「問題は、そのお祖父様なのよ」
「お前が逃げるって、相当だよな。
どんな吸血鬼なんだ?」
「最強よ。あらゆる吸血鬼の能力をデコピン感覚で使うし、なんなら吸血鬼の弱点も効かないし。
そんなアホアホスペックの最強吸血鬼が、チルノ並みのクソガキ発想力と、魔理沙並みの飽くなき好奇心と、守矢並みの即断即決の行動力を持ち合わせているの」
「逃げても無理ないわね」
苦労が滲み出たレミリアの顔に、珍しく同情を向ける巫女服の少女…博麗 霊夢。
レミリアは「まだまだこんなもんじゃないわよ」と付け足し、酒を注いだ。
「お祖父様ってば、そんなバカみたいな強さしてるくせに加減を知らなくてね。
私が4歳の頃の話なんだけど…。
その日は両親が休みで、高い高いしてーって2人にせがんだのよ」
500年近く経った今でも、鮮明に思い出せる。
城の庭で両親に抱え上げられた時の高揚感。
そして、それを木っ端微塵にぶち壊す圧倒的な恐怖。
レミリアは震える手を押さえ、注いだばかりの酒を一気に呷った。
「で、両親に遊んでもらってたんだけど、そこにお祖父様が通りがかってね。
『私もやっていい?』って聞いてきたの」
「なんかフランクだな、お前のじいちゃん」
「勿論、断るわけにもいかず。
私はお祖父様の高い高いを受けることになったわ」
想起するのは、線になる景色。
いつの間にか突き抜けた雲の上。
触れそうなほど…、いや。叩きつけられそうなほどに近づいた月。
後に、両親が語った。
あれは高い高いではない。「他界他界」だと。
「お祖父様の高い高いは、私が一瞬のうちに雲を突き抜けるほどに凄まじかったわ。
月に叩きつけられるんじゃないか。
そんな不安がよぎるくらいに勢いよく、空高く投げ飛ばされたの。
お祖父様がきちんとキャッチしてくれたから怪我はなかったけど、その時のトラウマで25年くらい空を飛べなかったわ」
「誰か怒れよ」
「怒っても聞かないのよ。
本を盗む誰かさんと同じで」
魔法使いのような服装の少女…霧雨 魔理沙のツッコミに、パチュリーが冷ややかな視線と言葉を向ける。
が。そこは都合の悪いことは聞き流すタイプである魔理沙。
彼女はパチュリーの視線を無視するように、ツマミを頬張った。
「何より怖いのが、思いつきでやる余興よ。
アレは幻想郷に来る一年前の新年会…。
『羽つきをやろう』って言って、バカみたいにデカい羽子板と、火薬がアホほど詰まったデカい玉を用意してたの」
「…羽つき?」
「羽つきの名を借りたデスゲームよ。
私もフランも3回くらい死にかけたわ。
これがほぼ毎年よ」
「誰かやめようって言いなさいよ…」
「それで止まらないから逃げてきたのよ」
話を聞いている側としても、関わりたくない人物である。
レミリアたちが幻想郷に逃げてきたのも納得の暴れっぷりだ。
そんなことを思いつつ、霊夢が空になった盃に酒を注ごうとする。
と。霊夢が瓶を手に取るよりも先に、その盃に誰かが日本酒を注ぎ入れた。
「人の子よ、このくらいでいい?」
「ありがと。気が利くわね」
口髭をたくわえた老父に、霊夢が礼を述べ、盃に口をつける。
…待てよ?今、誰が注いだ?
そんな疑問に、霊夢が横目で隣を見やる。
白く染まった髪と髭。シワはあるものの、荘厳かつ整った顔。
この宴会に老父を呼んだ覚えはない。
霊夢がその事実に気づくや否や、遮るようにレミリアが素っ頓狂な声を上げた。
「お祖父様!?!?」
「お久。元気してる?」
そう。この男こそ、最強の吸血鬼。
あらゆる吸血鬼の能力を自在に操り、日光すら克服した超越者。
「気力体力無限の小5のウルトラマン」こと、御真祖様である。
その声は一瞬にして伝播し、全員が戦慄に身を震わせた。
「お、お祖父様…。どうやってここに…?」
「飛んで」
「……いや、そりゃそうでしょうけど…」
「これお土産。死ぬほど高騰してるブロマイド。メ○カリで28万円」
「ジャンケンで負けてパンイチで泣いてる男のブロマイドが流行ってんですか外!?」
渡されたブロマイドには、ジャンケンのチョキを出しながら、パンイチで泣く銀髪の青年が映っている。
その右上には、おそらくは直筆サインであろう、「字が下手だけど、できるだけ必死に綺麗に書きました」感が溢れ出る字で「ロナルド」と書かれていた。
「ところで、フランドールは何処?
あの子にもお土産持ってきたんだけど。
これ。新横浜で買ったコゼンラニウムのぬいぐるみ」
「あ、えと…、いや何これ!?!?」
ゼラニウムにケツが生えているクリーチャーのぬいぐるみを前に、素っ頓狂な声をあげるレミリア。
外で何が起きているのだろうか。
マニアックの範疇を凌駕した品々にレミリアが戦慄いていると。
それに抗議するように、勢いよく障子が開いた。
「もう!お姉様ってばうるさ……」
姿を見せたのは、レミリアの妹…フランドール・スカーレット。
彼女は怒鳴り声をあげるも、老父を視界に入れた途端、その声を窄める。
徐々に現状を理解したのだろう。
フランドールは滝のように冷や汗を流し、慌てて障子を閉めようとする。
が。御真祖様はそれよりも早くフランドールに詰め寄り、手に持ったケツを顔面に向けた。
「お久。これ、お土産」
「い、いらないっ、いらないから!!
こんなケツいらないから!!」
「今なら本物コゼンラニウム付き」
「実在してんのそれ!?!?」
要らないと言ってるのに、余計なオマケまで付いてきた。
ワキワキと動くケツ花から目を逸らし、フランドールは助けを求めるように宴会場に視線を向ける。
が。全員が関わり合いになりたくないといわんばかりに視線を逸らした。
もう少し助けてくれてもいいのではないか。
そんなことを思いつつ、フランドールはとりあえず目についた魔理沙へと手を伸ばした。
「ま、魔理沙、助けて…っ!」
「おまっ!?私の名前出すんじゃ…」
「フランドールの友人かな?」
ぬっ、と、魔理沙に詰め寄る御真祖様。
距離の詰めかたが完全に子供である。
御真祖様はマジマジと魔理沙を見つめ、なにか納得したかのように頷く。
品定めでもしているのだろうか。
魔理沙がそんな不安を浮かべると、御真祖様は彼女の方に手を置いた。
「魔を行使する人の子よ。
どう?一緒に新しい魔法作らない?」
「絶対に『うん』って言っちゃダメだよ魔理沙!」
「発動するだけで太陽系滅ぶ魔法とか飯炊く感覚で作るわよこの人!!」
フランドールとレミリアの叫びに応え、魔理沙は激しく首を横に振る。
興味はそそられる。だが、その先に待つのが破滅と分かれば話は別。
御真祖様は「そう」と淡白に返すと、今度は霊夢に詰め寄った。
「一緒にオリジナルチャーハン作らない?」
「っ、具は…!?具は何…!?」
「やめときなさい!魔界のおじやみたいなグロテスクチャーハンになるわよ!!」
食欲に折れかけた霊夢に、レミリアが叫ぶ。
興味を抱いたと判断されたなら最後、悪魔召喚の儀式みたいなチャーハン作りが始まってしまう。
霊夢はそれでも食への興味が捨てきれないのか、詳細を問おうと口を開いた。
瞬間。その頭上に空間の切れ目が走り、そこから拳骨が落とされる。
「だっ!?」
「ごめんなさいね。
この子は後片付けとかもあるから」
立ちはだかったのは、妖怪の賢者こと八雲 紫。
飄々とした態度で御真祖様に断りを入れ、彼女は飲み直そうと盃を手に取る。
と。その瞬間だった。
「レミリア。この少し『かぐわしい』お嬢さんはどちらさんで?」
「ゔっ」
御真祖様が紫の地雷を踏み抜いたのは。
何を隠そう、彼女は本来、この時期は冬眠している身なのである。
しかし、今年は宴会が冬眠の時期と重なってしまい、ハブられるのが嫌だった紫は無理矢理に起きて参加したのだ。
ここで考えてほしいのは、冬眠中の彼女の生活である。
布団で三ヶ月近く眠る都合上、食事はもちろん、トイレにも風呂にも行かない。
無論、妖怪とはいえ、老廃物は多少なりとも分泌されるわけで。
起きがけに風呂に行く余裕などあるはずもなく、紫はそのまま宴会に参加したのである。
結果。紫の体臭は御真祖様のいう通り、多少なりともキツくなっていたのだ。
事実を突きつけられた紫がフリーズしていると、レミリアが顔を真っ赤にして御真祖様を怒鳴りつけた。
「お祖父様!!
『臭い』はないでしょ!『臭い』は!!」
「ドゥンッ」
「お姉様。トドメ刺してる」
自覚があった紫は、レミリアのストレートな追い討ちに倒れ、メソメソと泣き始める。
かつて霊夢の横腹を突き、「ちょっと太ったんじゃない?」と指摘してガチギレされた時よりも遥かに凹んでいる。
火種となった御真祖様は、それを前に首を傾げた。
「打ち上げられた魚の真似?」
「違います、お祖父様。ただただショックで寝込んでるだけです」
あまり友好的とはいえない関係だが、それでもコレには同情する。
自分の一言がトドメになったことを棚に上げてそんなことを思っていると。
ぴりり、と、御真祖様の懐から特徴的な音が響いた。
御真祖様は懐から薄い板…スマホを取り出すと、その画面に触り、耳に当てた。
「失礼。もしもしドラウス?
…今?今はレミリアと一緒にいるよ。
…ああ。そっちでも忘年会あったっけ。私は不参加ってことで。
レミリアのとこの忘年会楽しんでるから、よろ」
言って、通話を切る御真祖様。
今、なんと言った?
レミリアとフランドールが固まり、表情を引き攣らせる。
周囲の皆も、先ほどまでの暴れっぷりで戦慄を覚えたのだろう。
全員が青ざめ、御真祖様を見やった。
「あっちの余興で使う予定だったベーゴマあるけど、やる?
わかりやすく言うと、『リアルベイ○レード』」
御真祖様がベーゴマというにはあまりにも殺意が高い、禍々しいオーラを垂れ流す危険物を掲げる。
ベイ○レードってなんだ。
そんな疑問を覚えるのも束の間、一瞬にして全員の手に危険物が行き渡った。
戦慄の宴は、まだ始まったばかり。
御真祖様…レミリアのおじいちゃん且つドラルクのおじいちゃん。原作において「気力体力無限の小5のウルトラマン」、「小さめのゴジラ」とか言われてた人。そのあだ名が誇張にならないレベルで強い上に周りを振り回す、激烈に面倒臭いおじいちゃん。この後、リアルベイ○レードで博麗神社を半壊させた。
スカーレット姉妹…御真祖様の孫。両親がめちゃくちゃ早く結婚、出産を経たから、ドラルクとは年齢差がかなり開いてる。このクロスオーバーで、「お祖父様の余興に付き合うのが嫌すぎて幻想郷に引越した」という情けない吸血鬼になってしまった。もちろん、フランが引きこもった理由もシリアスではなく、「お祖父様が怖いから」というギャグ全開な理由。マジロを使い魔にするのが夢。
ドラルク…レミリアたちのいとこにあたるクソザコ吸血鬼。紅魔館組とは深い交流があった。変態終末都市新横浜にて今日もゴリラと言い合ってる。
ジョン…スカーレット姉妹から憧れを向けられているマジロ。レミリアたちとよく遊んでた。2人の記憶よりも大きく、丸くなってる。