「いやっはっほほほぅ!!」
クローゼットが異世界…厳密には違うが…に繋がるという、今時のネット小説のような状況になって数日。
締め切りを乗り越えたロナルドの奇声が事務所に轟く。
今の彼は四徹というコンディションに加え、脱稿テンションが重なっている。
いつも「さっさと寝た方がいい」と諭していたドラルクも流石に慣れてきたのか、台所で料理することにより、無視を決め込んでいた。
「見て見て、ニジイロクワガタの真似」
ニジイロクワガタにこだわる必要ないだろ。クワガタとジェスチャーは一緒なんだから。
そんなことを思いつつ、ドラルクが冷蔵庫を開けようとした時。
ふと、そばにいたジョンが震えているのが見えた。
「ジョン、どうしたんだ?」
「ヌヌイ…」
「寒い?…確かに、暖房をつけてる割には少し肌寒いな…」
流石に死ぬほどではないが、少し寒い気がする。
馬鹿騒ぎしてるロナルドから視線を逸らし、暖房を強めようか、とヒーターを見やる。
と、その時だった。
唐突に、クローゼットから白いビームが放たれたのは。
「ばばばばばっ!?」
「ロナルドくーーーーんッ!?!?」
「ヌーーーーッ!?!?」
悲しきかな。コンディションとしては最悪の状態であるロナルドがそれを避けられるはずもなく、白い光が着弾する。
途端にロナルドは氷像と化し、その場にクワガタの真似をする成人男性のオブジェが出来上がった。
「な、なんだ、今のれいとうビームは!?
幻想郷にはフリーザーでもいるのか!?」
いつもの丁寧な口調をかなぐり捨て、クローゼットへと叫ぶドラルク。
正直、行く気にはなれない。
だが、この恥辱に塗れた姿で硬直したゴリラをこのままにしておくわけにもいくまい。
ドラルクは仕方なく覚悟を決め、クローゼットのスキマを通って幻想郷へと移動する。
「な、なんだこれは!?」
そこに広がっていたのは、あちこちに聳え立つ氷のオブジェ。
以前来た時に見えた紅葉は見えず、冷気が漂う冷たい空間を前に、ドラルクは「スナァ」と漏らし、ショック死した。
「ドラルク!?
大丈夫だったの、アンタ!?」
「うっわすごい厚着」
そこに駆けてきたのは、アルマジロのジョンですら驚きの丸さを誇る防寒具の塊。
よくよく見ると、そこからレミリアの顔が突き出しており、寒さに堪えているのがわかった。
「いや、それはとりあえず置いといて…。
一体、こっちで何が起きているので?」
「それが…」
「ふはははははっ!!いい、いいぞ!!
これでアタイは『さいきょー』だ!!」
知性をゴマ粒程も感じない笑い声が、夜空に轟く。
2人と一匹がそちらを見上げると、小さなおっさんを背負った少女が、これまた腹の立つ笑みを浮かべていた。
「あのいかにもバカそうな子は?」
「チルノっていう氷の妖精よ。
ここまでの力は無かったはずなんだけど…」
バカ笑いするチルノを見上げ、首を捻るレミリア。
氷の妖精、チルノ。
紅魔館の近辺に位置する霧の湖に出没する、妖精の中では規格外の力を持つ少女。
しかし、幻想郷全体で見れば弱い部類に入っていたはず。
少なくとも、こんな大惨事を引き起こす力は無かった。
レミリアがそう訝しんでいると、チルノの背に乗ったおっさんが顔を出した。
「くくく…。このお嬢さんは俺の力によって覚醒したのさ…」
胡散臭い妖精のような出立ちのおっさんが、不適な笑みを漏らす。
ドラルクはそれに見覚えがあることに気づくと、声を張り上げた。
「お前は…!吸血鬼バカに力を!!」
「吸血鬼バカに力を!?!?」
そんな吸血鬼居てたまるか。
レミリアが素っ頓狂な声を上げ、驚愕をあらわにする。
だが残念。目の前に実在する。
吸血鬼バカに力をは、その名の通りバカに力を授ける能力を持つ恐るべき吸血鬼。
その恩恵はバカであればバカであるほどに大きい。
吸血鬼バカに力をからしても、チルノは前例がないレベルのバカだったらしく、以前にも増して調子に乗りまくった彼が高らかに叫んだ。
「そう!この凄まじいバカ力を誇るお嬢さんと共に、新横浜のみならず、この世界すらも支配してやるのだ!!
どのくらい凄まじいバカかというと、金曜ロードショーで『君の名は』が地上波初放送された時に俺が受けた衝撃くらいだ!!」
「それはよくわかんないけど、そいつがすごいバカってのは知ってるわ」
「アタイのことバカにすんな!!」
「初対面でごめんだけど、唐突に現れたおっさんでパワーアップして大暴れしてる時点ですごいバカだぞ」
「武々夫に匹敵するな」と付け足し、呆れを露わにするドラルク。
チルノはその罵倒に怒りを露わにしながら、周囲に氷を作り出した。
「なんだお前!
ガリガリで弱そうなくせして、さいきょーのあたいをバカにしやがって!」
「レミリア姉様、あのバカの好きなものとか趣味はご存知で?」
「カエル凍らせて遊んでるわね、あのバカ」
「無視すんなー!!」
チルノが叫ぶと共に、巨大な氷塊を放とうと手を張り上げる。
と、それを遮るようにドラルクが叫んだ。
「おーい!あっちにめちゃくちゃ元気なカエルがいたぞ!!
凍らせなくていいのかねー!?」
「んなっ…!?」
吸血鬼バカに力をの弱点。
それは、付け入る対象がバカであること。
バカだからこそ、敵味方関係なく簡単に騙されてしまう。
ドラルクが勝利を確信したその時だった。
「そんなわけあるか!!」
「嘘ォオーーーッ!?!?」
夥しい氷塊が放たれたのは。
おかしい。このバカ力で他人を疑う脳みそをしてるわけがない。
氷塊を避けながら死ぬドラルクに、吸血鬼バカに力をが嘲笑を浮かべた。
「ふはははっ!前回のことで反省してな!
『俺以外の言うことぜーんぶ嘘』って吹き込んでいるのだ!」
「なんだその頭パッパラパーの毒親みたいな洗脳は!!」
「それを信じるチルノもチルノね…」
流石にバカすぎやしないか。
そんなことを思いつつ、ドラルクたちは今なお調子に乗りまくる2人を見上げる。
心なしか、彼女らの周囲に溢れ出るオーラの出力も上がってる気がする。
上がるテンションに反比例し、知能指数が激減しているのだろう。
このままいくと、幻想郷どころか新横浜が危ない。
更なる被害を危惧したドラルクは、レミリアに叫んだ。
「レミリア姉様!この館にアレに匹敵するバカは居るか!?」
「居たらとっくに呼んでるわよ!
うちの偏差値は幻想郷じゃ高めなのよ!」
「ふはははっ!無駄無駄無駄!
このお嬢さんに匹敵するバカは、新横浜に居たあのバカ2人くらいなもの!
もう俺を止められる奴はどこにも…」
吸血鬼バカに力をが高らかに宣言しようとしたその時だった。
凄まじい勢いで、赤と白の閃光がチルノに激突したのは。
「チぃルノォオオオーーーーッ!!」
「ぶぇええっ!?!?」
速度の乗った見事な右ストレートが、チルノの顔面を穿つ。
チルノはそのまま一直線に凍りついた湖へと突っ込み、深くまで沈んでいく。
吸血鬼バカに力をはそれに驚愕を露わにし、拳の主人を見上げた。
「あの凄まじいバカ力を誇るお嬢さんを一撃で…!?
一体どれほどのバカなんだ…!?」
「あいにくね。彼女はアンタが思うようなバカではないわ。
アンタは一つ、この幻想郷でやっちゃいけないことをやった。
ただそれだけが敗因よ」
急にカッコつけ始めた。
ドラルクが冷ややかな視線を送るのも気にせず、レミリアは続ける。
「この幻想郷における暴力装置!
歩く主人公補正!絶対的存在!
あんたのバカ力による強化なんか足元にも及ばない最強!
楽園の素敵な巫女、博麗 霊夢よ!!」
「………やめなさい、恥ずかしい」
「ロナルドくんがお兄さんの自慢してる時みたいな居た堪れなさを感じるな」
褒めちぎられた少女…博麗 霊夢が、恥ずかしそうに袖で顔を隠す。
いとこのこんな姿見たく無かった。
そんなことを思いつつ、ドラルクは霊夢にアイアンクローを決められた吸血鬼バカに力をに問いかける。
「なんで事務所のクローゼットに近づいた?」
「いや、なんかロナルドの事務所のクローゼットが異世界に繋がったって週バンで載ってたから興味本位でだだだだだっ!?
ど、同胞っ!助けてくれ!!」
「報道が悪い方向に行った典型だな…」
ドラルクがそんな呆れを見せた、まさにその時だった。
幻想郷のあちこちで悲鳴が轟いたのは。
「いやーっ!!着物からチラッと覗く胸板ーッ!!」
「よよいのよい!!」
「ち、近づくな、近づくんじゃない!
俺はお前なんかタイプじゃな…ぐわぁあああっ!?」
「………もしかして、君以外にも何人か来てる…?」
アイアンクローに悶絶する吸血鬼バカに力をに、ドラルクが詰め寄る。
吸血鬼バカに力をは痛みに絶叫しながら、こくこくと頷いた。
「…………スナァ」
ドラルクはストレスで死んだ。
吸血鬼バカに力を…原作17巻に収録されている「バカに力を地に花を」に出てくる高等吸血鬼。その名の通り、彼の能力の範囲内にいる存在を、バカならバカなほどなんかファーっと強くさせる能力を持つ。あまりのバカだと「バカ波」というエネルギー波を放つことができる。
チルノ…武々夫、ヴァミマの店長と同レベルのバカ。バカ波もちゃんと打てる。