「とにかく、シンヨコの変態吸血鬼どもを捕まえなければ!
早くしないとこれ以上の大惨事が巻き起こるぞ、マジで!!」
復活したドラルクがレミリアに叫ぶ。
レミリアは吸血鬼バカに力をを咲夜に預け、悲鳴響き渡る幻想郷を見やった。
「こ、これ以上…?」
「ウチの変態どもをなめるんじゃない!!
やることなすことおポンチ極まりないが、その害は宇宙規模だぞ!?
この程度で済んでること自体が奇跡だ!!」
嘘は言ってない。
ただ、「吸血鬼君がエッチなことを考えると星を降らせるおじさん」などという、宇宙に大迷惑をかける変態がいるというだけだ。
が、そんなことを知らないレミリアは感涙に咽せた。
「あ、あんなにクソザコだったクソガキが、こんな立派になって…」
「急がねば…。
数分後にレミリア姉様が変態にもみくちゃにされるのが目に見えてる…」
ずびっ、と鼻をかむレミリアに聞こえないよう、ドラルクは焦燥を吐き出す。
いとこの居た堪れない姿を見る気はない。
父が路上でY談を叫んだ時のような恥辱の再来は避けたい。
どうせ無理だろうな、と思いつつ、ドラルクは「よよいのよい!」とやけに聞き覚えのある声のした方向へと目を向けた。
「まずはあそこだ。今頃、クソダサTシャツ軍団が出来上がってることだろう」
「なに?へカーティアでもいるの?」
会話を横で聞いていた霊夢が、ドラルクに問いかける。
へカーティア・ラピスラズリ。
絶対的な力を持つものの、とある失礼の塊みたいな巫女により、その壊滅的なTシャツのダサさが有名になってしまった悲しき女神である。
無論、そのことを知らないドラルクは「あの変態よりかはマシだろう」と高を括っていた。
「それよりも厄介な存在ってことは確かだ」
「…変態的な意味で?」
「変態的な意味で」
行きたくない。
だがしかし、博麗の巫女という立場上、行かないという選択肢は選べない。
そう諦めた霊夢は、2人の後に続いた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「くっそぉおっ!!
だ、誰かッ!誰か止めてくれェ!!」
猛烈に帰りたい。
見知った男の焦り声が響く中、2人は目に毒としか思えない絵面を前に閉口した。
「アウト!セーフ!よよいのよいっ!!」
「ぐっ…。もう褌しかない…っ!」
「いいぞー!脱げ脱げー!」
「いい体してるねぇ、霖之助さん!!」
おばちゃん軍団に囲まれ、着物を脱ぎ捨てる青年…森近霖之助。
一方、対峙する男はニマニマとうざったらしい笑みを浮かべ、珍妙な歌と共に踊り始めた。
「……何あれ?」
「吸血鬼野球拳大好き。
見ての通りの吸血鬼だ」
「また変なのが来たわね…」
「よよいのよいっ!!」
「あ゛ぁーーーっ!!
最後の一枚がぁああーーーッ!!」
無情にも最後の牙城を落とされた霖之助がその場に崩れ落ち、恥部をあらわにする。
一瞬見えたモツを前に、沸き立つおばちゃん軍団。
勝利の余韻に浸る野球拳大好き。
なんとも異様な光景である。
すってんてんにされて半泣きになる霖之助に、野球拳大好きが慈悲として「野球拳大好き」と書かれたクソダサTシャツを差し出した。
「共に野球拳をした同志よ。
せめてもの慈悲だ。これを着るといい」
「嫌だーーーーッ!!」
「めちゃくちゃ見慣れた流れだな」
更なる恥辱に咽ぶ霖之助。
新横浜ではそこらへんで見られる、珍しくもない光景である。
野球拳大好きは渋々Tシャツに袖を通す霖之助を横に、視線を霊夢に向ける。
「さあ、そこのお嬢さん!!
野球拳の素晴らしさを知りなさい!!」
「誰が…」
「アウト!セーフ!よよいのよいっ!!」
つられて霊夢がグーを出す。
野球拳大好きが出した手はパー。
敗北した霊夢は、心底嫌そうに伸ばしたもみあげを纏めた布を持ち上げた。
「……もみあげのこれ、着衣に入る?」
「何つられてんのよ霊夢!?」
「野球拳大好きの催眠術だ!
強制的に野球拳させられるぞ!!」
「そんなトンチキなことに能力使ってんじゃないわよタコ!!」
早く止めねば、クールで恐ろしい吸血鬼のイメージが瓦解する。
レミリアが叫びながら槍を構築し、野球拳大好き目掛けて投げる。
が。その槍は野球拳大好きが展開した結界により弾かれた。
「無駄なこと…。我が野球拳結界は無粋なものを通さない」
「なんで結界と催眠術の同時使用とか言う高等技術をこんなしょーもないことに使ってんだイカれポンチ!!」
「性癖に決まってんだろバーーーカ!!」
「最低か!!」
「コイツじゃんけん強いわね」
「ノースリーブにされてんのよ!?
もっと焦りなさいよ!?」
そうこうしているうちに、霊夢がノースリーブ巫女になってしまった。
ツッコミに奔走するレミリアを横に、ドラルクが声を張り上げる。
「巫女の人!!
そいつは結界内の直接的な暴力に弱い!
普通に殴ったら倒せるぞ!!」
「いや、ちょっと楽しくて…」
「絵面的にダメだって言ってんだアホ!!
女の子すってんてんにしたらギャグからエロに転向しなきゃならんだろうが!!」
「むしろそっちのが数字伸びそうだし、見てる方も嬉しいだろうが」
「黙れイカれポンチ!!
お前がボッコボコにされたら要らない心配なんじゃタコ!!」
「どんな作品だろうがサービスシーンは必要だろ。
よよいのよい!!」
ドラルクが在らん限りの声量で叫ぶも、テンションの上がってきた霊夢と野球拳大好きにより続行される野球拳。
このままでは霊夢がすってんてんにされてしまう。
眼福ではあるが、霖之助やロナルドのようにヨゴレとして処理できないのはまずい。
ドラルクがそんな危惧を抱くも、止められるはずもなく。
期待と焦燥を抱きながら、2人の野球拳を見守った。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「じゃんけん強ぉ…っ!?」
「勝った」
「あ、そういうオチね」
残念。野球拳大好きが卓越した直感力を誇る霊夢に勝てる道理はなかった。
野球拳大好き…道行く人に辻斬りのように野球拳を仕掛ける変態。当初は魔理沙の目の前で魔理沙の親父と野球拳する予定だった。
ノースリーブ霊夢…リボンももみあげの飾りも袖も脱いだ脇巫女。これでも服で霊夢ってわかりそうなのすごい。