クズの惑星   作:聖成 家康

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三話 仕事の時間

 いつしか見た赤髪の少女。

 薄暗闇に包まれる床へ三角座りをしている彼女は、膝の間に埋めた顔を少しばかり上げた。

 

 散り散りになった赤髪の隙間から、真っ赤な瞳がちらりと覗く。

 

「……あなたは」

 

 リアの顔を目視するや否や、その少女は顔を上げてまじまじとリアを凝視した。

 

 そして立ち上がり、ゆっくり、ゆっくりと歩み寄ってくる。

 レースのあしらわれた黒のカットソーに紺色のロングスカート。パイロットスーツ姿とは一風変わった、大人びた風貌だ。

 

「やっぱり。あの時ぶつかった子だ」

「……え……」

「ごめんね、痛かったでしょ」

 

 少し首を傾げて、少女は困ったような笑みを浮かべた。

 どうしてか、リアは胸がふつふつと熱くなるのを感じる。

 

「あなた、お名前は?」

「……リア、だけど」

「あたしはアッシュ。ここの会社に最近雇われたの」

「……最近……か」

 

 格納庫で出会った時の、あの違和感を思い出してリアは納得する。

 どうりで見覚えの無い顔だ。

 

「あなたも地球から来たの?」

「……え……う、うん」

「あたしも一緒。今って地球連邦軍一強の時代だからさ、火星や月も住みにくいかな、って思って。まぁ、ここ以外行く宛なんてないけど」

 

 早く部屋に戻りたいのに、彼女は圧倒的な話術でリアをそこに引き留めてくる。

  

 地球連邦軍とは、地球の国々によって組織された同盟軍だ。その力は強大で、火星政府や月政府などのいかなる勢力も連邦軍に敵わないとされている。

 

 地球の人間たちの横暴が原因で、火星や月の住民は大変な思いをしているのだ。

 

 もちろん――ここ(ゲヘナ)も。

 

「地球は、今度はこの星のアダマン鉱石を狙ってる。最近になってゲヘナ政府、とかいうのが出来たのもそのせいよ」

 

 アッシュはつらつらと、地球に関する情報を口にし続けた。

 地球連邦軍は、その横暴の数々から、宇宙に住む人間から大いに嫌われている。

 

「……地球が嫌いなんだね」

「あら、よく分かったね」

 

 アッシュは目を丸くして答えた。

 言動からしてバレバレである。

 

「連邦軍なんて嫌いよ。苦しい人を誰も助けないくせに、正義の味方気取りしてるもの」

 

 的を得た発言だ。

 連邦軍の横暴には、地球にいたころから辟易している。

 故に、リアもその考えには大いに同意できた。

 

(……あれ)

 

 早く帰りたい、"クズ"とはなしなんてしたくない、と先程まで考えていたリア。

 

 しかし、その考えがとうの前に消えて、目の前の彼女に共感までしようとしていた事に気がついた。

 

「……あなたはどうしてゲヘナに?」

 

 アッシュに尋ねられ、リアは肩を竦めた。

 

 

「――言いたくない」

 

 

 考える事もせず、リアは断る。

 認めたくなかった。自分が"クズ"だということを。

 そんな事をしたって、事実が消えるわけでもないのに、だ。

 

「……ふぅん。じゃあ、あたしも言わないでいいや」

 

 アッシュは特に詮索する事無く、リアに背中を向けた。

 

「じゃあ、またどこか出会おうね。リア」

 

 優しい微笑みを浮かべながら、手を振るアッシュ。

 そんな彼女の華奢な腕には、酷く乱雑に、包帯がぐるぐる巻きにされていた。

 

 去っていく彼女の背中を見ながら、リアは考える。

 

 やらしい魂胆が見え見えな整備班の男と、アッシュ。

 ここ(ゲヘナ)にいるという事はどちらとも"クズ"だ。

 

 なのに、嫌悪感無く話すことができたのはどうしてなのだろうか、と。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 基地中にアラートが鳴り響き、ディヴィパイロットが格納庫へ呼び集められた。

 

 自室で眠りかけていたリアだったが、そのアラートを聞き入れると、電気ショックでも喰らったように飛び上がった。

 

 服を脱ぎ捨てて、萎れたパイロットスーツを纏い、首筋のボタンを押し曲線美へと密着させる。

 

 急いで部屋を飛び出たリアは、猛スピードで格納庫まで駆け抜けていく。

 

 

「早く乗れ〈プライド〉!!」

「す、すいません……!!」

 

 格納庫で整備班の男達がイライラした様子で並び、修理の終わった〈プライド〉を見上げていた。

 

 上層へのエレベーターに乗り込む寸前まで、「壊すなよ」という圧のかかった視線を背後に感じた。

 

 上層の鉄板に降り立ち、小さくなった整備班を見下ろしながら、既に開いている〈プライド〉のコックピットへと飛び乗る。

 

『パイロット、搭乗確認。格納ベースの移動を開始します』

 

 女性の声と共に、機内が大きく揺れた。

 格納ベースが接続されたレールに沿って、機体が輸送船へと運ばれている証拠だ。

 再び揺れ、その作業が終了した事が分かると同時にモニターへ光学映像が映し出された。

 

 それは、薄暗い空間にいる女性の姿。

 スーツを纏った、化粧を施した黒髪の大人っぽい女性だ。

 

『作戦本部より〈プライド〉へ。本作戦の概要をお伝えします』

「……お願いします」

 

 彼女はアジン。オペレーターを務めていて、度々接する機会がある。

 一言で言えば、堅苦しい人だ。

 

 別の光学映像が、アジンの顔を覆い隠すようにして映された。

 そこは、荒野に佇む巨大な掘削施設を投影した物だった。

 

『今回の依頼は、掘削会社 アスハ からの依頼です。彼らの保有する掘削地点を、他の会社から護衛して欲しい……とのことです』

「……また似たような」

『何か言いましたか』

「い、いいえ……」

 

 ここ最近の仕事は、鉱石の護衛やら奪還やら似たりよったりなものばかり。

 しかし、それは仕方のない事と言える。

 地球や火星の人間は、この星のアダマン鉱石を求めてやってくる。それを巡った争いが巻き起こるのは必然だ。

 

『それでは、作戦区域の座標を送ります。輸送船はこれより発艦、到着予定時間は十分程度です』

「分かりました」

 

 光学映像が消え、冷たい色の壁が全面に映し出される。

 

 リアはヘルメットを白く曇らせながら、コックピットの背もたれへ身体を預けた。

 来る日も来る日も戦って、戦って。それでも減らない借金地獄。

 いつになったら終わるのか、誰に聞いても分からない。

 

「……私って、ほんと"クズ"」

 

 

 ◇

 

 

『艦長より〈プライド〉へ。現在、作戦区域上空に到着した。直ちに発進せよ』

 

 到着までの道のりは、短いようで長かった。

 

 憂鬱な気分を押し殺し、戦場へ立つ気持ちへと切り替える。

 

 機体のメインシステムを立ち上げ、アダマン融合炉の正常性を確認。

 モニターの表示を見て、〈プライド〉の調子を即座に汲み取った。

 

 操縦桿を固く握り、リアは深く息を吸い、吐いた。

 

 

 

「リア・レガリア、〈プライド〉行きます!」

 

 

 

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