クズの惑星   作:聖成 家康

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五話 良い子

 

 

 目の前に聳え立つ《ブレイヴ》は、その緑に染まった眼光をギラリと相手に突き刺した。

 

『貴様もディヴィか……? おのれザラ社め! 我らを差し置き二機もディヴィを……』

 

 先手を打ったのはセンジャー。

 轟音を轟かせ、榴弾砲を発射。放たれた榴弾は熱気を帯びつつ直進。

 

 《ブレイヴ》はシールドでそれを防ぎ、砂埃を舞い散らせながら大きく後退した。

 

『センジャーの火力と持久力を侮るなよディヴィども!! 私のような完璧なパイロットが繰れば、ディヴィに匹敵する機体となる!!』

 

 自画自賛も甚だしい台詞を吐きながらも、相手のセンジャーはまだまだやる気のようだ。

 

 対する《プライド》の左腕は、もう既に限界であった。出力状況を確認しても、いつ電力供給が遮断されてもおかしくない損傷具合だ。

 

『リアは下がっていいよ―』

 

 彼女の発言に、リアは眉をひそめる。

 

 もう無茶はできないのは事実ではあった。

 だけれど、ここで引いていいのか――リアの中には、そんな疑惑が浮かび上がる。

 

 そうこうしているうちに、光学モニターに映る《ブレイヴ》に動きが見られた。

 

 鍾乳石を彷彿とさせる対装甲ランスを振るって威嚇し、スラスターを吹かして猛進。

 敵の装甲を穿つように突き出したランスを、センジャーはいとも容易く回避した。

 

 再び振るわれる斬撃も避け、次の手を打つ間を突かれ、榴弾砲を至近距離で叩き込まれる。

 

 ガードに成功したものの、機体は蹌踉めいて急後退。バランスを保つのがやっとのように思えた。

 

(あの機体で近距離戦なんて……)

 

 《ブレイヴ》は見た目こそ《プライド》そっくりだが、装甲は厚く、そこそこの重量があるように見える。

 恐らくは遠距離特化の機体――近距離戦など想定されていないだろう。

 

「何か策は――」

 

 リアは視線を目まぐるしく移動させ、機体の出力状況を表示するモニターに集中させた。

 装着中のビームサーベルは、左右それぞれで電力供給システムが分かれており、任意で遮断することも可能だ。

 

 先程は勢いに任せ、右腕部サーベルの出力を高めたが――最大ではない。

 これ以上サーベル出力を上げ、火力の底上げをすることも可能だった……()()()()()()()()()()()()

 

 

 腕が飛べば減給間違いなし――けれども、リアはそれ以上に嫌なことがあった。

 

 

「もう……私は無様に生きたくなんかない!!」

 

 

 夢に敗れ、敗者のレッテルを貼られた。

 そんな人間が負け続けるのは当然の事。

 

 ――その悪循環を断ち切ってやる。

 

 そう決心した。だから、ここで引き下がりたくないのだ。

 

「斬って、引き裂いて……殺す!! そして……私が生き残る!!」

 

 出力レーバーを力任せに下げる。

 

 アラートと共に、警告表示がモニターを埋め尽くした。

 

 《プライド》の左腕が力無く垂れ下がり、それに呼応するよう、猛る焔のようなビームサーベルが、更に勢いを増す。

 

 機体の半分に達する、巨大なビームサーベルを構え、満身創痍の《プライド》は誇りを胸に猛進した。

 

 

『っ…!?』

『な、なんだとぉっ!? まだそんなに動け……』

 

 アッシュと、敵パイロットが無線越しに驚愕する。傷つき、衰退したかと思われた戦士の未だ尽きぬ勇ましさを目の当たりして。

 

「うあぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 叫びを漏らし、操縦桿を押し倒す。

 

 《プライド》により振るわれる巨大なビームサーベルが、大慌てで回避したセンジャーの顔面を掠めた。

 

 片方の複眼が割れ、色味を失う。

 

『おのれ……!!』

 

 センジャーは有り余るエネルギーを持ってして、スラスターを吹かし後退。

 

 逃さない――

 

 その一心で近づこうとした彼女の目前に、どこからともなく、二対のレーザーが迫りくる。

 

 真紅に染まりしレーザーは、高出力のエネルギーを孕み、逃げようとするセンジャーの右腕を焼き払った。

 

「……アッシュ……?」

 

 ちらりと一瞥すれば、離れた位置で二丁のビームライフルを構える《ブレイヴ》の姿が。

 

 敵の動きが、完全に静止した。

 腕を飛ばされた反動は根強いらしい。

 

 

「これで決めるっっ!!」

 

 

 緑の複眼をギラつかせる《プライド》。

 さながらオーロラかのような光の剣を振りかぶり、スラスターの推進力を機体に孕んで、それを大地にぶつける。

 

『バッ、バカなァァァッッ!?』

 

 迫りくる赤き戦士。

 敵機は回避の(いとま)も与えられず、紅蓮の焔を宿した光の剣を真に受けた。

 

 

 凄まじい轟音と熱、衝撃波を空気中に轟かせ、胴体と下半身を泣き別れにする。

 

 ワイヤーを撒き散らし横たわった鉄屑。

 それと同時に、《プライド》のアダマン反応炉が過稼働によって急停止した。

 

 光を失い、聳え立つ鉄の塊と化す。

 

 

「……勝った……」

 

 

 荒く息をするリア。

 パイロットスーツの中は汗でぐっしょり。鼓動もあり得ないくらい高まっている。

 

『リア、平気?』

 

 アッシュに通信で呼びかけられ、ぼんやりとした意識が安定した。

 

「……機体が動かない。……運んでくれる?」

 

 ダメ元で頼んでみる。

 クソほど信用していなかったのだが――。

 

『うん、任せて! 《ブレイヴ》は力持ちだからね!』

 

 アッシュは弾むような声で快く承諾した。

 

 

 ◇

 

 

 離陸した輸送船に運び込まれた《プライド》は、満身創痍の姿であった。

 内部から溢れ出た、アダマン鉱石の有害物質に汚染され汚れた装甲。 

 腹部装甲が展開されれば、稼働を止めたアダマン反応炉から膨大な量の熱と煙が放出される。

 

 コックピットのハッチが開き、疲れ切った様子のリアが出てくる。

 降下用ワイヤーを垂らし下へ降りると、彼女の身体に凄まじい倦怠感が降り掛かった。

 

(無茶しすぎた……)

 

 いくらストライフという鉄の鎧を纏っていようと、あれ程激しい駆動をすれば人体に多少たりとも影響は出る。

 事実、今のリアに降り掛かっているのは吐き気と頭痛と目眩というトリプルパンチであった。

 

 リアが《プライド》の装甲に手をつき、立ち止まっていた所、容赦なく《ブレイヴ》が帰投し、彼女に激しい突風を浴びさせる。

 

「リア―!! お疲れ様ー!!」

 

 ヘルメットを脱ぎながら、コックピットから降りてきたアッシュ。

 跳ねる赤い髪と豊満な胸によって放出される甘い匂いが、リアの気分を多少和らげた。

 

「リア、凄かったね! あたし近づけなかったよ!」

 

 ふふん、と胸を張ったアッシュ。

 その背後に聳え立つ、蒼き鉄巨人の姿をリアは捉えた。

 

「……まさか君だったなんて」

 

 ヘルメットを脱ぎ、吐き気を抑えながらリアはそう呟く。

 《ブレイヴ・ディヴィ》――リアの繰る《プライド》と同系統の機体のように見えた。

 

「あたし、結構パイロットとして優秀なんだから」

 

 また、彼女はえっへん、と胸を張る。

 

 疲れ果てているリアとは、あまりにも対照的であった。

 

「……前にも聞いたっけ。リアはさ、どうしてゲヘナになんか来たの?」

 

 二度その問いをされ、リアは眉をひそめる。

 弱々しく拳を握り、怒りを顕にした。

 

「――リア、すごく必死だった。戦いというより、()()()()()のほうに」

「……え?」

 

 予想外の言葉が返ってきて、リアは呆気にとられる。

 彼女の細々しい掌が、リアの胸に触れる。

 微かな鼓動と熱を、リアも感じた。

 

「……熱い。一生懸命生きてる証拠ね」

「――一生懸命……か」

 

 リアはそう言われ、唇を噛んだ。

 

「今まで一生懸命に生きてきたつもりだった。……夢を叶えるために、必死に勉強して大学入って……なのに――」

 

 今はこのざまだ、と言おうとしたが、アッシュの優しい笑みを目の当たりにしそれが押し殺された。

 

「リア、良い子ね」

 

 

 あまりに優しい、どこか懐かしさまで感じる言葉。

 

 リアは暫く、彼女の手を離すことが、名残惜しくてたまらなかった。

 

 

 

 ◇

 

 

 仄かな珈琲の香り漂う社長室。薬品臭くない、正規の珈琲の香りはやはり格別であった。

 

 社長室で珈琲を嗜むアキラはちらりと、デスクの前に立つ人影のほうを一瞥し、微笑みを浮かべる。

 

「戦闘データを見させてもらったよ。《プライド》と《ブレイヴ》、私の想定していた運用ができそうだ」

 

 アキラの前に立つリアとアッシュ。

 リアの方はガチガチに緊張していたが、アッシュはまるでやる気の無い運動部のように立っていた。

 

「私は決めたよ。君達には"バディ"になってもらう、とね」

 

 コーヒーカップを置きそう言い放ったアキラ。

 暫く間をおいてから、リアが目を丸くした。

 

「ば、バディ!? こ、この子とですか!?」

「なんか失礼ね」

 

 アッシュのじとっ、とした視線を貰ってからリアは静かになる。

 

 彼が投影させたホログラム映像に、二人の意識は集中した。

 

「《プライド・ディヴィ》。無人戦闘機を用いた次世代の換装システム〈ヴァードシステム〉を採用した、近距離特化の機体だ。四つの武装を使いこなし、敵を圧倒できるポテンシャルを持っている。その分、中遠距離への対応に劣る」

 

 映像に映る赤き戦士《プライド》。

 まだ動きが初々しい。乗り始めた頃の映像だろう。

 

「そして《ブレイヴ・ディヴィ》。プライドと同じ内部フレームを用いた機体だ。〈ヴァードシステム〉の使用は想定されておらず、両肩部のレーザー砲と高周波ランスで戦う幅広い戦略が可能な機体だ」

 

 切り替わった映像では、センジャーに対しランスを振るう《ブレイヴ》の姿が。

 姉妹機にも関わらず盾を携えて、プライドとは真逆のコンセプトの機体だった。

 

「この二機が組み合わされば、私はどんな戦場も支配できると思っている。それこそ、この星の頂点に立てるほどにね」

 

 アキラは映像を切ってから、にやり、と笑った。

 彼の目的は金稼ぎ、なのだろうが実のところよくわからなかった。

 

「次回の任務から、君達は共に出陣してもらう。これから忙しくなるよ」

 

 翡翠の双眸が、まるで未来でも見据えるかのように鋭く輝いた。

 

 次回からの任務。これまで以上に過酷か、それとも楽になるのか。

 リアは不安で仕方がなかった。

 

 

 ◇

 

 

 格納ベースにドッキングされた《プライド》を包み込むのは、無数の火花。

 作業用クレーンに囲まれた《プライド》。その様は、ヒーローのような見た目をしておきながらその実態は兵器であることを実感させられた。

 

「バディか……」

 

 リアは機体の修理を眺めながら、パックのカフェオレを飲んでいた。

 隣に佇む《ブレイヴ》の蒼き装甲は傷一つついておらず、艷やかな輝きを保っている。

 一体いつ製造され、この格納庫に運ばれてきたのか。いずれにせよ、ディヴィを保持する会社も製造する会社も限られてくる。

 

「赤いのが姉で、青いのが妹か……」

 

 近接特化の《プライド》を援護できるよう、"バランスに優れた攻防"をコンセプトに後から製造されたのが《ブレイヴ》らしい。

 高周波ランスと対ビームシールド、そして肩部の八十ミリ高出力ビーム砲。

 設計上、〈ヴァード〉で後から武装を装着できるようだが、必要無いラインナップである。

 

「……《プライド》。私やっていけるかな」

 

 ずっと一人で戦ってきた彼女にとって、戦場のパートナーは機体だけだ。

 暇があると、こうして彼に語りかける。

 

 当然、返事が返ってくる事は無いのだが。

 

「そうだよね……私と君は、戦って、戦って、生き残るしかないんだよね……」

 

 少し微笑み、ぼそり、ぼそりと呟いていた。

 

 

「へぇー、ストライフとお話できるの?」

 

 

 いつの間にか隣に居たアッシュの気配に気づかぬまま。

 ようやく察知した頃には、独り言を彼女に大方聞かれてしまっていた。

 

「あ……」

「ふふん」

 

 

 アッシュの挑発的な笑みを見て、心臓を握り潰されるような気持ちになる。

 

 

  

 二人の"クズ"。

 相容れない二人は、否が応でも戦場を共にしなければならない"バディ"となってしまったのだった。

 

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