クズの惑星   作:聖成 家康

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七話 コロニー落とし

「!?」

 

 リアの目が、みるみる内に丸くなった。

 

 "コロニー"……いわば、宇宙に浮かぶ人工的な惑星。この時代において珍しい物ではなく、ゲヘナの周辺にもいくつかコロニーがある。

 

 それを()()()というのは、どれほどの被害が出るか――この男は分かっているのか疑問になってくる。

 

「ホシノ――いや、ヤマト社長はゲヘナが地球連邦軍の物になることを快く思っていないらしい。君達も、このゲヘナに奴らの魔の手が迫っていることは承知しているだろう?」

「……はい」

 

 地球連邦軍とゲヘナの関係を例えるならば、炭鉱夫と採掘場だ。

 連合軍はゲヘナのアダマン鉱石を欲している。それを手にするためなら、好き放題ゲヘナを開拓する。そこに住む人間の意向も顧みず……である。

 

「今回の依頼目標は、ゲヘナ周辺に浮かぶ地球連邦軍のコロニーを落とすこと……いわば、連合軍への挑発行為だ」

「……そんな仕事……!」

 

 

 リアは顔を蒼くしながら訴えようとした。

 しかし、すぐに言葉は遮られる。

 

「できないかい?」

 

 冷徹な視線に晒され、肩が竦む。

 自分が仕事を断れないことなど分かっていた。その理由は、無論、自分がゲヘナに闊歩するクズの端くれであるから。

 

 だが、コロニーを落とすとなれば、必ずゲヘナに墜落することになる。

 そうなった時の被害を、リアは想像してしまったのだ。

 

「今回はヤマト社との合同作業になる。君たちには輸送船に乗って、ヤマト・ミリタリーとの待合場所に向かってもらうからね」

「はい! わかりました!」

 

 暗い顔のリアとは対照的に、明るく敬礼するアッシュ。

 そんな彼女へにこやかな笑みを送ってから、「頼んだよ」と残してアキラは去っていった。

 

「……アッシュ……」

「リア、仕事の前はそんな暗い顔しちゃだめだよ」

「でも――」

 

 眉をひそめたリアの手を、アッシュは躊躇いも無く握りしめる。

 また、仄かな温もりがリアを刺激した。

 

「あたし達は仕事を貰えるだけでも、良いと思わなきゃ。それがコロニー落としだろうと、何だろうとね」

 

 アッシュは意気込むように笑みを浮かべる。

 

 その言葉を聞いて、やはり彼女は”クズ”なんだと実感した。

 それでいて、他の”クズ”と明らかに何かが違うということも。

 

 

 ◇

 

 

 輸送船に乗り込んだリアは、パイロット御用達の休憩室の隅っこで息を殺していた。

 今回の任務には、他のパイロット達も参加するらしく、彼女の周りには”クズ”数人も共に点在している。

 

 リアは、彼彼女らとあからさまに距離を取っていた。

 

 以前、この部屋で襲われかけた事が、未だに根強く脳裏に残っているからだ。

 

(ほんと無理……生理的に)

 

 ”クズ”は嫌いだ。

 でもそう思う度に、自分を卑下しているような気になる。

 

 アッシュはそんな事気にせず、リアの隣でジュースを嗜んでいた。

 

「リア、なんか静かね」

「……いつも通りよ」

「ふぅん。もっと明るい子なのかと思ってた」

 

 何故か、彼女は残念そうに言った。

 勝手な期待をされるのも、リアは嫌いであった。

 

「……ねぇ、なんで平気なの」

「ん?」

 

 語気を強めて聞くリア。

 とぼけるアッシュに、彼女は容赦なく問い詰める。

 

「今からコロニーを落とすのに、なんで平気でいられるの? 人がたくさん死ぬかもしれないのに……!」

 

 

 リアがそう聞くと、依然として、アッシュはとぼけた表情のまま答えた。

 

 

「今までたくさん殺したのに、今更気になるの?」

 

 

 きょとん、としたままなんの疑いもなく答えるアッシュを見て、リアは言い淀む。

 そしてそれっきり、何も言わなくなった。

 

(私……どうしたんだろ)

 

 ――彼女の言う通り、今まで何人もの”クズ”をこの手で殺してきた。

 コロニー落としは、一度に殺す量の違いだけで、それと同じである。

 

 リアは立てた膝の間に、小さな顔を埋めた。

 

 

 ◇

 

 

 大雨が降り注ぐ、ゲヘナ東部。

 基本的に熱帯が広がる東部では、頻繁に、このゲヘナ特有の大雨が見られる。

 

 びしょ濡れのコンクリートの上に、いくつもの簡易テントが設立され、簡易的な拠点が展開されている。

 少し離れた所には、霞に隠れて佇むヤマト・ミリタリーの軍事拠点が見受けられた。

 

 輸送船から降りたリアは急いでテントの下へ駆け込む。

 

「歓迎がないね」

「まぁ、そんなもんよ」

 

 少し濡れたリアとアッシュは、がらんとした周りを見渡しながら呟いた。

 ヤマト・ミリタリーの人間がどこにも見当たらない。この雨だから理由は察せるが、客人をもてなさないのはどうなのか。

 

「君たちが、ザラ社の応援かな」

 

 雨の中、一人歩いてきた人物にリアとアッシュの視線が集まる。

 

 長い茶髪を持つ、長身なスーツ姿の男。

 傘を指し、険しい表情で歩み寄ってきた。

 

「私がホシノ・ヤマト。この会社の社長だ」

「……ど、どうも」

「お願いしまーす!」

 

 二人が挨拶を返しても、ホシノの険しい表情は変わらない。

 

「この雨だ。拠点の中に入りたまえ」

 

 ホシノはくるりと踵を返し、霞に包まれた拠点の方へ歩き始めた。

 

「……傘くれないの?」

 

 リアがそう呟いても、虚しく、雨音に掻き消されるだけであった。

 

 

 ◇

 

 

 拠点内部は簡素な造りになっており、緑色の床と支柱丸出しの鉄壁で囲われてあった。

 資料室や倉庫室が多めな所を見るに、ここは本格的な前哨基地ではないらしい。

 

 リアとアッシュ、その他パイロット達は早速、拠点内のブリーフィングルームに招かれた。

 無機質な白い壁と、均一に並べられたパイプ椅子が悪く目立つ部屋だ。

 

 ホワイトボードの前に立つホシノに、一同の視線が集まった。

 既にボードには、目まぐるしい情報が煩雑な文字で書き込まれている。まるで恨みでも籠もっているかのように。

 

「では、これよりミーティングを始めよう。作戦概要くらいは頭に入れてきているだろうから、早速、本題に入るとする」

 

 ホシノは容赦なく話を進める。

 無論、リア達は作戦概要を把握していた。

 

 惑星ゲヘナの公転軌道上に浮かぶコロニー『RP056』の撃墜――それが、本作線の最重要事項である。

 

「地球連邦軍保有のコロニー『RP056』は、ゲヘナから地球へ資源を輸送するための中継地点的な役割を果たしている。そのため、連邦軍の宇宙船が絶え間なく出入りしている」

 

 ボードに貼り付けられた写真には、真っ黒な宇宙空間へ複数のデブリと浮かぶ『RP056』の姿が。

 円柱状の物をくり抜かれたような見た目だが、他の惑星と何ら変わらぬ存在である。

 

「……連邦軍の横暴は君たちも把握済みだろう。ゲヘナに眠る資源――”アダマン鉱石”。奴らの目的は、それの独占にある」

 

 ホシノの手の甲へ微かに血管が浮かぶ。

 地球連邦軍はゲヘナのアダマン鉱石だけは高く評価している。それを地球へと輸送し、エネルギー源として有意義に活用しているという。

 

 ゲヘナに居る企業は、それを快く思ってはいない。

 自分たちは活動域を移してまで鉱石を狙っているのに、連邦軍はその力の大きさを良いことにそれを独占している。

 

 もちろん、ホシノも連邦軍に恨みを持つ人間の一人だろう。

 

 でなければ、コロニー落としなど考えない。

 

「無論、コロニーを落とすためには宇宙へ行かねばならない。それには、宇宙船射出用のマスドライバーが必要となる」

 

 マスドライバー――その用途は、宇宙船や物質などを宇宙へ放つことだ。

 企業が使えるような物はゲヘナには数個しか建設されておらず、安全も保証されてるわけではない。

 

「ここから数十キロ離れた市街地を超えた草原……そこにあるマスドライバーならば、安全性も高く、大気圏突破後はすぐ作戦に取りかかる事ができる」

 

 ホワイトボードに貼り付けられた写真。

 緑豊かな草原に根を張るように佇む、空に向けて曲線を描く巨大なレール。

 

 ひとまずの目的地はそこ、ということなのだろう。

 

「いいかな。君達にはマスドライバーを目指してもらう。その先の作戦については、無事そこへ辿り着けてからだ」

 

 ホシノは、パイプ椅子に座る”クズ”達を見据え、その瞳を細める。

 

 

「ま、100%邪魔が入ると思うがね」

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