8年ぶりに合った彼女が病んでいた件について   作:赤い靴

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2話 世界一長い一日

 自室──

 

 カーテンの向こうから淡い光が差し込んだ。スズメの鳴き声。アスファルトを駆ける足音。

 結局僕は、あの日から一睡もできず翌日を迎えてしまった。興奮していたからでは無い。全くもってその逆である。

 僕の彼女となった長瀬 結衣(ゆい)の救済の方法を模索していたのだ。机の上にばら撒かれた本、本、本。

 これは中学時代、友達がおらず暇を持て余した僕が書店にて買った、心理学の本だったり、人類史その生い立ちと成り行きを考察した本であったり、歴史の到底教科書では扱わない人物の解説書などだ。

 

 その頃は、この本たちが僕の理解者であり、友人であり、先生でもあった。だが今回の場合、結衣を救う手立ては見られなかった。

 勿論、ネットでの情報収集もした。それらもまた抽象的な内容で、最終的には「お困りの際は、お近くの病院へ」とアナウンスされていた。なめんな

 

「もう6時か…コーヒーでも貰いに行こう……」

 

 レバーハンドルに手を掛けドアを開く。そのまま階段を降り、洗面台で顔を洗う。登校時間まで時間は沢山あるので、パジャマのままリビングに入った。

 キッチンでは義母が音楽を聴きながら料理をしていて、親父はテーブルに座りコーヒーを片手に新聞を見ていた。そしてただ流れるテレビ。誰も見てねぇのなら消すぞ…

 

「あら、あーくん早いのね。彼女が出来て眠れなかったりして~」

「ははは、そんな感じです…。おい親父、コーヒー作るけど要るか?」

「おぉサンキュー。…ちょっとまて。今、飲み干すから」

 

 グイとマグカップをあおり僕に差し出した。その後新しいカップを取り出し、インスタントコーヒーの瓶を傾け、茶色の粒状がカップの底を埋め尽くす。

 僕は記載させている通りの量。親父はその2倍の量。この手のコーヒーは自分の好きな味を調整できるので気に入っている。まぁ、喫茶店などの本格マシンとは見劣りするが……

 親父にカップを差し出し、その対面の席に座る。ゴールデンウイーク明け。その経済状況について詳しく語るテレビを見ながら一口、飲んだ。

 

「あーそういや章文。お前、結衣ちゃんと付き合う事になったんだってな?千蒼(ひちろ)から聞いたぞ。…しかしまぁ、あの太陽みたいだった結衣ちゃんが、そうなるとは…思いもしなかった」

「そうだね…。僕も驚いたよ」

「お前の性格は、俺が良く知ってる。その様子じゃあ、あまりいい成果は無かったらしいな?」

「……ご明察。流石はあの『人間の闇を巧みに表現したミステリ作家』だこと。いや、今は『美少女の皮を被った人気V(バーチャル)配信者』だっけ?」

「辞めろ辞めろ辞めろ……。息子からの指摘が一番精神にくる」

「全部公表すれば良いのに……。読者のファンも配信に行くと思うんだが」

「いやダメだな。アナリティクス、アンケートから双方が真逆の存在と解釈出来た。やるだけ損失だ。読者、視聴者には楽しんで貰いたいからな」

「そうか~」

 

 僕はリモコンを手に取り、チャンネルを変える。どの番組でも先週の大型連休について語っていた。親父曰く、その連日は「大いに稼げたぜ」と言っていた。しかし、編集者からは「まだ書きあがりませんか?」と地獄の電話が鳴りやまなかったらしい。

 その所為もあって、親父の目の下には隈がべったりと付いていた。もう時期死ぬんじゃねぇの?この親父。

 

「脱線したな。話を戻すぞ…」

 

 親父はドロドロのコーヒーを飲み、話した。それは何度も、耳が痛くなるほど聞いた話だ。

 

「俺はな、唯一の親友を交通事故で失い、お前を産んだ美由紀を癌で失った」

「よく再婚相手の眼前で、前の女の話が出来るよな?」

「ソレはソレ、コレはコレ。まぁ聞いておけよ若造」

 

 キッチンでジュワァと音がした。卵焼きでも作っているのだろうか?

 

「新卒で入った同僚が自殺し、俺を可愛がっていた上司は山から転げ落ちて死んだ。……4度だ。4度も俺に近い人間が亡くなった。そこから学んだ事は『案外人間はすぐ死ぬ事』と『ある日唐突に人間は死ぬ』こと」

 

 新聞を畳み親父は腕を組んだ。

 

「俺はな…別に親友を殺した居眠り運転手も、同僚を殺した会社も、上司を殺した雄大な自然も、美由紀を殺した病気も、別に…怨んじゃいのさ。短い期間、長い期間でもお互い、全力で生きたからな…。後悔は無いんだ。でも…寂しさには時々襲われる」

「……」

 

 初耳だった。ここまで踏み込んで語った事は今が初めてだ。

 

「まぁ、お前が『結衣ちゃんを救いたい』っう気持ちはある程度分かる。そんなお前に言葉を授けよう~」

 

 手を開き、指を細かく動かす。演出の一環なのだろうけど…古すぎる……

 

「明日死んでも良い様に生きるんだ。……といっても、俺自身それを意識して過ごせて無いんだけどな。時々思い出して、自分を奮い立てている。そうすると、誰かが背中を押してくれる気がするんだ。そうやって俺は生きてきた」

「はっ…くだらねぇ…」

 

 本当にくだらないと思った。この親父の言葉で、僕の心の重荷が少し緩んだ気がしたからだ。

 

「それを取り入れる入れないは、お前の自由だ。人生の主役はいつだって自分自身だし、最強のカードは己自身だからよ」

「カッコ付けすぎだろ?…流石は映画化させた本を出す人間の言葉だな」

「いつだって厨二心を忘れない。それが俺の生き方だ。文句あるか?」

「全く浮かばねぇや」

 

 7時になった。番組が変わり元気な挨拶が聞こえた。その後も流れる様にテレビを見る。どうやら今日も快晴らしい。

 

「そうだ。少し待て」

 

 親父はリビングを後にした。その後、ドタドタと音をたて戻って来た。手には包装された小さい四角の箱らしき物があった。

 

「これやるよ」

 

 そう言って僕に手渡した。何が入っているのだろうか?

 包装紙を解き、箱のパッケージを確認した。

 

『日本産の0.01ミリ!!薄さを越えろ!!3枚入り』

 

 新品だった。これでどうしろと????最早、特級呪物だろコレ。

 

「…………」

「いやー。朱音(あかね)がな「私にも下の子が欲しい!!」っうもんだからさ!いやー参った参った!!朱音で最後にしよう、と相談したんだがな!ね!母さん!!」

「そうね~。朱音ちゃんが泣いて言うんだもの。私だってまだまだ現役だわ~♡ あーくん、ちゃんと彼女さんを()()にしなきゃダメよ?」

「……部屋に戻ります」

 

 今日は土曜日。

 進学校である僕らの高校は、土曜日には週間テストがある。しかし僕らは「引っ越したばかり」とあり、特別に免除されている。まぁ僕は行くが…

 その為、妹である千蒼は起きてこない。アイツは大の睡眠好きだから。タイミングが本当に良かった…

 

 階段を上がり、自室に戻った。部屋に隠すとしても妹の存在が気になる。だが……

 

「……。ちょっと1枚だけ開けてみるか……」

 

 男子たるもの、この魅力には逆らえなかった。ただ鑑賞。へー、こうなっているんだ…初めて触れた……。

 

「じゃねぇわ!!支度しないと…!!」

 

 僕は観察した1つを丁重に紙に包み捨てた。そしてこの呪物を学校用のカバンに入れ、制服に着替えた。週間テストは午前中に終わる。その帰りでも行きでもいいから、コンビニで捨てるのが吉と考えた。それと、結衣の顔を見たいから……

 支度を終え再度リビングに戻る。

 

「ん?千蒼は「休みだぁ!」って昨日言っていたが…?」

「今の僕の学力を計りたい。それと結衣の件もある」

「クソ真面目だな…」

 

 親父と簡単に会話を済まし、3人で朝食を食べる。我が家の天使、朱音はまだ寝ているらしい。出る前に寝顔を見ようか?

 

「あなた…今日は執筆?」

「そう。何とか今週末までに3万文字…。アイディアが浮かばない」

「もう今週末じゃねぇか…」

「そうなんだよ。助けてくれよ」

「ん~。毒殺どかはどう?あなた?」

「それはもうやり尽くしたんだ…。もう少し捻って下さいって言われていてな…」

「もう無理だろ親父。あのとき見たいに全裸で謝ってこいよ?」

「もう使ったからダメだ。2度目は無い」

「詰んでんじゃねーか……」

 

 とほほ、と泣く親父に冷たい目線を送り、僕は食事を進めた。

 その時、僕に天啓が舞い降りた。なぜ結衣では無くクソ親父なんかに、と思ったが僕は口にした。

 

「配信でさ…視聴者に募ればいい。思考実験だのなんだの偽って、ネタを仕入れれば良い」

「お前頭良いな…。確かに…使えるネタを拾い上げて…しかし、それを使うと後々パクリだなんだで五月蠅いから…。あぁ、面白くないネタで配信を進行しつつ、使えるネタを集めればいいのか!!!!」

「最低だな…これを知れば視聴者は泣くぞ?」

「大丈夫だ。俺の作品は映画化されてる。俺のIQは53万だ。ドジは踏まん」

「あっそ」

 

 食事が終わり、食器を洗い場に置き、スポンジと洗剤を取る。

 いつも食器洗いは義母に任せてしまっている。今日は自分でやろう。

 

「えーゴホンゴホン…。このテンション…このテンション…。章文、このテンションでの導入はどうだ?聞いてくれ…」

「えっ…イヤなんだけど……」

「『きゃるる~ん!!迷える子羊の皆ァ~!!おはよォ~!!みぃたんダヨ~!!今日も元気に配信するヨォ~!!』」

「ぎゃははははは!!ww!!可笑しい!あぁ可笑しい!!いい年したオッサンがww!!」

 

 僕には毒だが、義母には良薬の様だ。どうしてそんなに笑えるんだ?何が面白いんだろう???

 

「ボイスチェンジャーを使うから…もうちょいテンション上げた方がいいか……?」

「僕はもう学校に行く。じゃあな」

 

 歯を磨き、洗面台で髪を少し整え、カバンを持つ。玄関で靴を履き替えドアを開けた。

 あの朝の親父は何処に行ってしまったんだ……

 

「……。明日死んでも良い様に生きる…か。…そうだな…そうかもな…。うん…そうしよう」

 

 通学路を進む。

 土曜日ともあって、小学生や中学生などはおらず、僕と同じ高校の制服ばかり目立った。

 大通りに出る。少し遠くでバスが止まると、その学生が降りてきた。高校前でもバス停は有るが、ここで降りる生徒は健康志向だったり、部活動の生徒が主だろう。でなければ、こんなメンドクサイ事はしない。

 

「あっ!!ふみぃ!!おーい!!」

 

 そのバス停から、爽やかなイケメンが手を振りコチラに走って来た。恭介(きょうすけ)である。

 

「おはよう、()()()()()()

「あぁオハヨ!ふみぃ!昨日のアレには痺れたぜ!一躍、有名人だな!」

「ははは…。ホントは余り目立ちたく無かったんだけど…。しょうがないよな…」

「はははは!まぁ元気だせって!!…お前に良いモン見せてやるぜ」

 

 そう言って恭介はスマホをスクロールし、僕に画面を見せつけた。

 

「今、配信中なんだけど…この『みぃたん』っつう配信者!!男心を分かってるっつうか、なんつうか…!!一度見てみろよ!人気配信者だぜ!?」

 

 それ親父なんですが。と、言いたかったが恭介の夢の為、僕は歯を食いしばった。

「男心がわかる」?…そりゃあ当たり前だ。その配信者、男だもん。

 

「しかもよ!あのミステリ作家の『南原(なんばら) 草秋郎(そうあきろう)』が好きなんだとよ!!イケてんだろ!?」

 

 その草秋郎は、僕の親父のペンネームだ。なんだアイツ…ファン同士が喧嘩するって言ってなかったっけ?僕の空耳か?

 

「なんでも今よ、TRPG作りをしてるんだよ。それがまた…面白くて!!」

 

 ほぉー。小説のネタ収集にTRPGで偽装しているとは……小賢しいな。ミステリ小説家の本領発揮だな。そこまで切羽詰まってんだな、あの親父は…

 

「いまどんな感じなんだ?」

「えっとな…人狼みたいな感じで犯人をさがすストーリーでよ。初めに金持ちの男が殺されて、そこに…………」

 

 恭介の解説はテストが始まる前まで続いた。

 スポーツマンと思っていた恭介だが、案外そういうものが好きという一面が知れた。

 でもその所為で、結衣と会話が出来なかった。恨むぞ親父。

 

 あ、呪物を捨てるの忘れた。まぁ、帰りの時に捨てよう。

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 週間テストの出来は胸を張って上出来と言えよう。

 しかし流石は進学校。解けない問題が3問あった。

 教科書の互換性による減点だろうか。こうなると分かっているならば、事前に貰った教科書を見ておけば良かった、と少し後悔した。

 けどまぁ…いいや。今日学校に来たのは結衣が目的だ。テストの点数など最早どうでもいい。

 

 12時30分。放課後を知らせる鐘がなる。今日はこれで学校は終わりだ。

 結衣と会話をしたい。しかし、昨日の事もあり教室はやけに静かだった。目線が気になる。……。このヘタレ!!動け僕の足!!いつまで固まっているんだよ!?!?

 

 そんな四苦八苦する僕に声が掛かった。

 

「ね、ねぇ…ふみぃ。いっ…一緒に……か、帰らない……?」

 

 結衣であった。

 クラスが少しざわついた。それは無理も無い。恭介から話は聞いていたが、結衣は今まで自ら率先して、話し掛けた事が無い。

 その行動は異常であった。故にざわめいたのである。

 

「あっ、結衣。うん、いいよ。でもチョット待ってね。支度するから」

 

 と、平然を装って結衣に返したがその実、僕の足は震えていた。

 僕の足の状況を見た恭介は、一人声を殺して爆笑していた。あとで殺す。

 ワザと教科書を選定したり、筆箱の中身を何度も確認したりして時間を稼いだ。そのお陰で、足の震えも止まり僕は立ち上がった。

 

「よし行こう結衣。テストはどうだった?」

「だめかも…。でも…ふみぃと帰れるからいいの」

 

「こらこら…。勉強を疎かにしちゃあダメだぞ?」と結衣の頭に手をやりたいが、そこまでやれる度胸は無かった。無理だろう!?どうやるんだよ!?そんなマンガみたいな事をさ!!

 でも、僕と帰れる事を嬉しがる結衣は現実だ。かわいい(IQ3億)

 

 そうして僕らは教室を後にした。

 勿論、僕のバックに入っている呪物こと、ドムコンの存在は忘れていない。

 

「ねぇ…ふみぃ…?顔色、悪いよ…だ、ダイジョブ?」

 

 クラスメイトが居なくなったのか、先程より饒舌になった。あらかわいいこと。

 片目を隠している為、彼女の右側の目が僕を覗く。身長差もあり、小動物のような可愛さがこみ上がる。

 

「……少し寒いな……。な、なんでだろうな…」

「じゃあ…コレはどう?……あったかい?」

 

 僕の左手を取り、結衣はその小さい両手で包んでくれた。

 

「温かいよ…ありあがとう」

「うん!キミが喜んでくれて嬉しい」

「そうか。僕も嬉しいよ」

 

 なーんか闇を感じる。気のせいか?まあいい。問題は山積みだからな。

 一番の山は、このバックに入るドムコンを何処で捨てるか問題だ。家には妹が居る。だから無理。やはり帰りの道中で捨てるしか無い。

 

 いつの間にか昇降口まで来ていた様だ。

 靴を履き替え、僕らは帰路に着く。

 結衣の家は今でも覚えている。それを加味すると……公園前のコンビニが安全だ。そこで捨てよう。

 校門を過ぎ大通りに出た。

 

「ねぇふみぃ?…れ、連絡先をさ…交換…し、しない…?テストの勉強をさ…教わりたい…から」

「え…いいんすか。勿論!!ちょっと待ってて、スマホ取り出すわ……あ”」

 

 カバンの中にスマホがあることを思い出す。

 いつもならポケットに入れているが、今日はテストの関係上カバンに仕舞わざる負えなかった。

 許さんぞ私立能生高校。一生恨むことにする。

 

「えっ…もしかして、学校に置き忘れたの?」

 

 スマホを取り出している結衣がそういった。一瞬、QR画面が見えた。失望させる訳には行かない──

 

「カバンの中にあることを思い出した~。…しばし待て」

「うん…!」

 

 カバンのチャックを少し解き、そこに手を入れる。

 スマホの大きさはこの身を以て熟知している。なんせ毎晩、暗い部屋の中お世話になっているからな。

 あぁそうそう。この大きさ、この手にフィトするサイズ。間違いない、100%僕のスマホである。

 

「よし!じゃあ交換しよう。僕が読み取れば良いんだな?」

 

 それを抜き取り結衣に見せた。

 

「え!?あっ……ん…!?…えぇっと…たぶん、違うと思う、な…ソレ」

 

 結衣は赤面し細くそう言った。

 多分、恐らく、確実に、やらかしてしまったらしい。恐る恐る顔を下げる。

 

『日本産の0.01ミリ!!薄さを越えろ!!3枚入り』

 

 眩暈がした。一瞬振らついた。その動きに合わせ、中身が地面に落ちた。

 あぁこの状況こそ、泣きっ面に蜂なのだろう、と思った。1つ欠けたソレが、結衣の足元に落ちたのだ。それを結衣が拾い上げ、箱の中に黙って戻した。

 

「え…ちょっと待って……()()()()()()()

 

 今や赤面した結衣は居らず、壁に追い込まれ、彼女は僕のネクタイを握っていた。

 

「いえ違います、結衣さん?冷静になってください、誤解です。キミは何か重大な勘違いをしているようだ」

「なにがなの?今すぐ教えて欲しいな?」

「ええっと……。まず……」

「早くして?」

「1つ欠けているからと言って、それが使用目的に使われたとは言えない。現に僕は童貞だ」

「言葉だけじゃ証明にならないよ」

「それは昨日買ったんだ。恥ずかしさのあまりレシートは捨てた。その1個は練習の為に着けたんだ。童貞が使い慣れないモノを本番で使おうとしても失敗するだけだ。僕は予行演習を欠かさずやるタイプだ。結衣、見てくれこの隈を。一晩中、興奮して眠れなかった証だ」

 

 脳をフル回転させた100点満点の答えだ。濃い隈を指差して僕は言い切った。

 想いが届いたのか結衣は、僕のネクタイを放し、それにより出来上がった皺を伸ばした。その後、ゆっくりとブレザーの中に仕舞った。

 

「ごめんね…少し試す様な事を言っちゃって……キミがそんな事を絶対やらないって……分かっていたのに……」

「いやトンデモ無い。そんな疑惑を生んだのは僕の責任だ。本当にすまない」

 

 僕は結衣に深々と頭を下げた。

 そんな僕に対し結衣は、許すように抱きしめた。まるで聖母の様に。神々しさすら感じた。

 僕の頭に柔らかい胸が当たる。この感触を僕は、永遠に忘れないだろう。

 

「ふみぃが一晩中、私を想っててくれて嬉しいよ…。でも、しっかり寝なきゃダメだよ……」

「大丈夫さ。今回のテストはほぼ満点だから……あっ…」

 

 テストで思い出した。

 以前、恭介が言っていた。結衣はトラウマがあり実験室には入った事が無いと。

 この状況、上手く使えるのではないか?

 

 僕は結衣の腕を優しく解き、手を握った。

 

「なぁ結衣、もし可能ならなんだけど…月曜日、1次限目に科学の授業で実験室を使うらしいんだ」

「……うん」

「僕と一緒に出ないか?僕は結衣と一緒が良い」

「うっ…う、ん……。私も…ふみぃと一緒なら……頑張れる…気が、する……」

「そうか!ありがとう。じゃあ一緒に授業に参加しような」

「うん。…そうしよう」

 

 明日死んでも良い様に生きる。それはとても大変な心掛けだと思った。

 だが僕らには明日は沢山ある。少しずつ、出来る範囲で進めばいい。そう僕は感じた。

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 結衣と別れ、僕は家に到着した。

 僕にはやらねば為らない事がある。

 

 玄関の扉を開けリビングで義母に僕の帰還を知らせ、すかさずに自室に戻った。

 パソコンを起動し、大手動画配信サイトを立ち上げる。

 

「親父ぃ…まだ配信しているのか……」

 

『みぃたん』のライブに参加する。恐ろしい事に3万人も人を集めていた。

 僕はキーボードを打ち込み、コメントを流す。

 

『4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね……』

 

 その僕のコメントを見えたのか親父は言った。

 

『皆ぁ~!私のコメント欄を荒らすヒトがいるよぉ~。こわぁ~い!!一緒に成敗しよォ~!!』

 

 その後、僕のアカウント名を名指しして「雑魚乙」だの「可愛い」だの「キミはみぃたんの素晴らしさを知らない」だの「新手の信者だろwwww」などのコメントが流れる。

 

「はぁ!?調子乗ってんじゃねぇよクソ親父が!!!!粘着してやる!!!てか早く原稿書けや!!!おい編集者!!仕事しろや!!!電話掛けろや!!!優雅に配信してんぞコイツ!!!」

 

 僕の思いは虚しく、3分後にアカウントの一時凍結が運営より下された。

 椅子にもたれ掛かり、深い深いため息を漏らした。

 

「もう寝よう。そういえば僕…眠かったんだ……」

 

 制服を脱ぎ部屋着に着替えベットに横たわる。

 結衣とは連絡先を交換できた。もう…万々歳だろう。

 睡魔が一気に押し寄せる。……明日は書店で…参考書でも買いに行こう……もう今日は疲れた……

 

 そうして僕の、世界一長い一日が幕を閉じた。

 損と恥しか晒していない…最悪な一日だった……

 

 

 






午後11時48分――
『章文に届いたメッセージ』

ゆい 『ねぇ…起きてるかな?』
ゆい 『おーい!』
ゆい 『お風呂?』
ゆい 『10分後にまた連絡するね』

 ◇ ◇ 

ゆい 『居ますか?』
ゆい 『起きてますか?』
ゆい 『連絡できますか?』
ゆい 『生きてますか?』
ゆい 『ふみーーー!!!』
ゆい 『寝てるんだね…。明日連絡下さい。待ってます』



◇◇



人物紹介

・長瀬 結衣。17歳。私立能生高校、2年生。
・身長157。中学時代のイジメにより左顔に火傷跡が残った。そのため髪で隠している。
・現在、母と住んでいる、父とは幼少期に離婚した。
・病んでいる為、少し痩せている。
・章文曰く、胸が大きい。
・軽度の妄想症。イジメが原因。軽度の依存癖。イジメが原因。
・甘いモノが好き。カフェラテなどミルク系が好み。
・成績は中の下。理科が特に低い(実験室にトラウマがあり、授業に出れていない為。1年の頃は追試を沢山受けた)


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