自室──
カーテンの向こうから淡い光が差し込んだ。スズメの鳴き声。アスファルトを駆ける足音。
結局僕は、あの日から一睡もできず翌日を迎えてしまった。興奮していたからでは無い。全くもってその逆である。
僕の彼女となった長瀬
これは中学時代、友達がおらず暇を持て余した僕が書店にて買った、心理学の本だったり、人類史その生い立ちと成り行きを考察した本であったり、歴史の到底教科書では扱わない人物の解説書などだ。
その頃は、この本たちが僕の理解者であり、友人であり、先生でもあった。だが今回の場合、結衣を救う手立ては見られなかった。
勿論、ネットでの情報収集もした。それらもまた抽象的な内容で、最終的には「お困りの際は、お近くの病院へ」とアナウンスされていた。なめんな
「もう6時か…コーヒーでも貰いに行こう……」
レバーハンドルに手を掛けドアを開く。そのまま階段を降り、洗面台で顔を洗う。登校時間まで時間は沢山あるので、パジャマのままリビングに入った。
キッチンでは義母が音楽を聴きながら料理をしていて、親父はテーブルに座りコーヒーを片手に新聞を見ていた。そしてただ流れるテレビ。誰も見てねぇのなら消すぞ…
「あら、あーくん早いのね。彼女が出来て眠れなかったりして~」
「ははは、そんな感じです…。おい親父、コーヒー作るけど要るか?」
「おぉサンキュー。…ちょっとまて。今、飲み干すから」
グイとマグカップをあおり僕に差し出した。その後新しいカップを取り出し、インスタントコーヒーの瓶を傾け、茶色の粒状がカップの底を埋め尽くす。
僕は記載させている通りの量。親父はその2倍の量。この手のコーヒーは自分の好きな味を調整できるので気に入っている。まぁ、喫茶店などの本格マシンとは見劣りするが……
親父にカップを差し出し、その対面の席に座る。ゴールデンウイーク明け。その経済状況について詳しく語るテレビを見ながら一口、飲んだ。
「あーそういや章文。お前、結衣ちゃんと付き合う事になったんだってな?
「そうだね…。僕も驚いたよ」
「お前の性格は、俺が良く知ってる。その様子じゃあ、あまりいい成果は無かったらしいな?」
「……ご明察。流石はあの『人間の闇を巧みに表現したミステリ作家』だこと。いや、今は『美少女の皮を被った人気
「辞めろ辞めろ辞めろ……。息子からの指摘が一番精神にくる」
「全部公表すれば良いのに……。読者のファンも配信に行くと思うんだが」
「いやダメだな。アナリティクス、アンケートから双方が真逆の存在と解釈出来た。やるだけ損失だ。読者、視聴者には楽しんで貰いたいからな」
「そうか~」
僕はリモコンを手に取り、チャンネルを変える。どの番組でも先週の大型連休について語っていた。親父曰く、その連日は「大いに稼げたぜ」と言っていた。しかし、編集者からは「まだ書きあがりませんか?」と地獄の電話が鳴りやまなかったらしい。
その所為もあって、親父の目の下には隈がべったりと付いていた。もう時期死ぬんじゃねぇの?この親父。
「脱線したな。話を戻すぞ…」
親父はドロドロのコーヒーを飲み、話した。それは何度も、耳が痛くなるほど聞いた話だ。
「俺はな、唯一の親友を交通事故で失い、お前を産んだ美由紀を癌で失った」
「よく再婚相手の眼前で、前の女の話が出来るよな?」
「ソレはソレ、コレはコレ。まぁ聞いておけよ若造」
キッチンでジュワァと音がした。卵焼きでも作っているのだろうか?
「新卒で入った同僚が自殺し、俺を可愛がっていた上司は山から転げ落ちて死んだ。……4度だ。4度も俺に近い人間が亡くなった。そこから学んだ事は『案外人間はすぐ死ぬ事』と『ある日唐突に人間は死ぬ』こと」
新聞を畳み親父は腕を組んだ。
「俺はな…別に親友を殺した居眠り運転手も、同僚を殺した会社も、上司を殺した雄大な自然も、美由紀を殺した病気も、別に…怨んじゃいのさ。短い期間、長い期間でもお互い、全力で生きたからな…。後悔は無いんだ。でも…寂しさには時々襲われる」
「……」
初耳だった。ここまで踏み込んで語った事は今が初めてだ。
「まぁ、お前が『結衣ちゃんを救いたい』っう気持ちはある程度分かる。そんなお前に言葉を授けよう~」
手を開き、指を細かく動かす。演出の一環なのだろうけど…古すぎる……
「明日死んでも良い様に生きるんだ。……といっても、俺自身それを意識して過ごせて無いんだけどな。時々思い出して、自分を奮い立てている。そうすると、誰かが背中を押してくれる気がするんだ。そうやって俺は生きてきた」
「はっ…くだらねぇ…」
本当にくだらないと思った。この親父の言葉で、僕の心の重荷が少し緩んだ気がしたからだ。
「それを取り入れる入れないは、お前の自由だ。人生の主役はいつだって自分自身だし、最強のカードは己自身だからよ」
「カッコ付けすぎだろ?…流石は映画化させた本を出す人間の言葉だな」
「いつだって厨二心を忘れない。それが俺の生き方だ。文句あるか?」
「全く浮かばねぇや」
7時になった。番組が変わり元気な挨拶が聞こえた。その後も流れる様にテレビを見る。どうやら今日も快晴らしい。
「そうだ。少し待て」
親父はリビングを後にした。その後、ドタドタと音をたて戻って来た。手には包装された小さい四角の箱らしき物があった。
「これやるよ」
そう言って僕に手渡した。何が入っているのだろうか?
包装紙を解き、箱のパッケージを確認した。
『日本産の0.01ミリ!!薄さを越えろ!!3枚入り』
新品だった。これでどうしろと????最早、特級呪物だろコレ。
「…………」
「いやー。
「そうね~。朱音ちゃんが泣いて言うんだもの。私だってまだまだ現役だわ~♡ あーくん、ちゃんと彼女さんを
「……部屋に戻ります」
今日は土曜日。
進学校である僕らの高校は、土曜日には週間テストがある。しかし僕らは「引っ越したばかり」とあり、特別に免除されている。まぁ僕は行くが…
その為、妹である千蒼は起きてこない。アイツは大の睡眠好きだから。タイミングが本当に良かった…
階段を上がり、自室に戻った。部屋に隠すとしても妹の存在が気になる。だが……
「……。ちょっと1枚だけ開けてみるか……」
男子たるもの、この魅力には逆らえなかった。ただ鑑賞。へー、こうなっているんだ…初めて触れた……。
「じゃねぇわ!!支度しないと…!!」
僕は観察した1つを丁重に紙に包み捨てた。そしてこの呪物を学校用のカバンに入れ、制服に着替えた。週間テストは午前中に終わる。その帰りでも行きでもいいから、コンビニで捨てるのが吉と考えた。それと、結衣の顔を見たいから……
支度を終え再度リビングに戻る。
「ん?千蒼は「休みだぁ!」って昨日言っていたが…?」
「今の僕の学力を計りたい。それと結衣の件もある」
「クソ真面目だな…」
親父と簡単に会話を済まし、3人で朝食を食べる。我が家の天使、朱音はまだ寝ているらしい。出る前に寝顔を見ようか?
「あなた…今日は執筆?」
「そう。何とか今週末までに3万文字…。アイディアが浮かばない」
「もう今週末じゃねぇか…」
「そうなんだよ。助けてくれよ」
「ん~。毒殺どかはどう?あなた?」
「それはもうやり尽くしたんだ…。もう少し捻って下さいって言われていてな…」
「もう無理だろ親父。あのとき見たいに全裸で謝ってこいよ?」
「もう使ったからダメだ。2度目は無い」
「詰んでんじゃねーか……」
とほほ、と泣く親父に冷たい目線を送り、僕は食事を進めた。
その時、僕に天啓が舞い降りた。なぜ結衣では無くクソ親父なんかに、と思ったが僕は口にした。
「配信でさ…視聴者に募ればいい。思考実験だのなんだの偽って、ネタを仕入れれば良い」
「お前頭良いな…。確かに…使えるネタを拾い上げて…しかし、それを使うと後々パクリだなんだで五月蠅いから…。あぁ、面白くないネタで配信を進行しつつ、使えるネタを集めればいいのか!!!!」
「最低だな…これを知れば視聴者は泣くぞ?」
「大丈夫だ。俺の作品は映画化されてる。俺のIQは53万だ。ドジは踏まん」
「あっそ」
食事が終わり、食器を洗い場に置き、スポンジと洗剤を取る。
いつも食器洗いは義母に任せてしまっている。今日は自分でやろう。
「えーゴホンゴホン…。このテンション…このテンション…。章文、このテンションでの導入はどうだ?聞いてくれ…」
「えっ…イヤなんだけど……」
「『きゃるる~ん!!迷える子羊の皆ァ~!!おはよォ~!!みぃたんダヨ~!!今日も元気に配信するヨォ~!!』」
「ぎゃははははは!!ww!!可笑しい!あぁ可笑しい!!いい年したオッサンがww!!」
僕には毒だが、義母には良薬の様だ。どうしてそんなに笑えるんだ?何が面白いんだろう???
「ボイスチェンジャーを使うから…もうちょいテンション上げた方がいいか……?」
「僕はもう学校に行く。じゃあな」
歯を磨き、洗面台で髪を少し整え、カバンを持つ。玄関で靴を履き替えドアを開けた。
あの朝の親父は何処に行ってしまったんだ……
「……。明日死んでも良い様に生きる…か。…そうだな…そうかもな…。うん…そうしよう」
通学路を進む。
土曜日ともあって、小学生や中学生などはおらず、僕と同じ高校の制服ばかり目立った。
大通りに出る。少し遠くでバスが止まると、その学生が降りてきた。高校前でもバス停は有るが、ここで降りる生徒は健康志向だったり、部活動の生徒が主だろう。でなければ、こんなメンドクサイ事はしない。
「あっ!!ふみぃ!!おーい!!」
そのバス停から、爽やかなイケメンが手を振りコチラに走って来た。
「おはよう、
「あぁオハヨ!ふみぃ!昨日のアレには痺れたぜ!一躍、有名人だな!」
「ははは…。ホントは余り目立ちたく無かったんだけど…。しょうがないよな…」
「はははは!まぁ元気だせって!!…お前に良いモン見せてやるぜ」
そう言って恭介はスマホをスクロールし、僕に画面を見せつけた。
「今、配信中なんだけど…この『みぃたん』っつう配信者!!男心を分かってるっつうか、なんつうか…!!一度見てみろよ!人気配信者だぜ!?」
それ親父なんですが。と、言いたかったが恭介の夢の為、僕は歯を食いしばった。
「男心がわかる」?…そりゃあ当たり前だ。その配信者、男だもん。
「しかもよ!あのミステリ作家の『
その草秋郎は、僕の親父のペンネームだ。なんだアイツ…ファン同士が喧嘩するって言ってなかったっけ?僕の空耳か?
「なんでも今よ、TRPG作りをしてるんだよ。それがまた…面白くて!!」
ほぉー。小説のネタ収集にTRPGで偽装しているとは……小賢しいな。ミステリ小説家の本領発揮だな。そこまで切羽詰まってんだな、あの親父は…
「いまどんな感じなんだ?」
「えっとな…人狼みたいな感じで犯人をさがすストーリーでよ。初めに金持ちの男が殺されて、そこに…………」
恭介の解説はテストが始まる前まで続いた。
スポーツマンと思っていた恭介だが、案外そういうものが好きという一面が知れた。
でもその所為で、結衣と会話が出来なかった。恨むぞ親父。
あ、呪物を捨てるの忘れた。まぁ、帰りの時に捨てよう。
◇◇◇◇
週間テストの出来は胸を張って上出来と言えよう。
しかし流石は進学校。解けない問題が3問あった。
教科書の互換性による減点だろうか。こうなると分かっているならば、事前に貰った教科書を見ておけば良かった、と少し後悔した。
けどまぁ…いいや。今日学校に来たのは結衣が目的だ。テストの点数など最早どうでもいい。
12時30分。放課後を知らせる鐘がなる。今日はこれで学校は終わりだ。
結衣と会話をしたい。しかし、昨日の事もあり教室はやけに静かだった。目線が気になる。……。このヘタレ!!動け僕の足!!いつまで固まっているんだよ!?!?
そんな四苦八苦する僕に声が掛かった。
「ね、ねぇ…ふみぃ。いっ…一緒に……か、帰らない……?」
結衣であった。
クラスが少しざわついた。それは無理も無い。恭介から話は聞いていたが、結衣は今まで自ら率先して、話し掛けた事が無い。
その行動は異常であった。故にざわめいたのである。
「あっ、結衣。うん、いいよ。でもチョット待ってね。支度するから」
と、平然を装って結衣に返したがその実、僕の足は震えていた。
僕の足の状況を見た恭介は、一人声を殺して爆笑していた。あとで殺す。
ワザと教科書を選定したり、筆箱の中身を何度も確認したりして時間を稼いだ。そのお陰で、足の震えも止まり僕は立ち上がった。
「よし行こう結衣。テストはどうだった?」
「だめかも…。でも…ふみぃと帰れるからいいの」
「こらこら…。勉強を疎かにしちゃあダメだぞ?」と結衣の頭に手をやりたいが、そこまでやれる度胸は無かった。無理だろう!?どうやるんだよ!?そんなマンガみたいな事をさ!!
でも、僕と帰れる事を嬉しがる結衣は現実だ。かわいい(IQ3億)
そうして僕らは教室を後にした。
勿論、僕のバックに入っている呪物こと、ドムコンの存在は忘れていない。
「ねぇ…ふみぃ…?顔色、悪いよ…だ、ダイジョブ?」
クラスメイトが居なくなったのか、先程より饒舌になった。あらかわいいこと。
片目を隠している為、彼女の右側の目が僕を覗く。身長差もあり、小動物のような可愛さがこみ上がる。
「……少し寒いな……。な、なんでだろうな…」
「じゃあ…コレはどう?……あったかい?」
僕の左手を取り、結衣はその小さい両手で包んでくれた。
「温かいよ…ありあがとう」
「うん!キミが喜んでくれて嬉しい」
「そうか。僕も嬉しいよ」
なーんか闇を感じる。気のせいか?まあいい。問題は山積みだからな。
一番の山は、このバックに入るドムコンを何処で捨てるか問題だ。家には妹が居る。だから無理。やはり帰りの道中で捨てるしか無い。
いつの間にか昇降口まで来ていた様だ。
靴を履き替え、僕らは帰路に着く。
結衣の家は今でも覚えている。それを加味すると……公園前のコンビニが安全だ。そこで捨てよう。
校門を過ぎ大通りに出た。
「ねぇふみぃ?…れ、連絡先をさ…交換…し、しない…?テストの勉強をさ…教わりたい…から」
「え…いいんすか。勿論!!ちょっと待ってて、スマホ取り出すわ……あ”」
カバンの中にスマホがあることを思い出す。
いつもならポケットに入れているが、今日はテストの関係上カバンに仕舞わざる負えなかった。
許さんぞ私立能生高校。一生恨むことにする。
「えっ…もしかして、学校に置き忘れたの?」
スマホを取り出している結衣がそういった。一瞬、QR画面が見えた。失望させる訳には行かない──
「カバンの中にあることを思い出した~。…しばし待て」
「うん…!」
カバンのチャックを少し解き、そこに手を入れる。
スマホの大きさはこの身を以て熟知している。なんせ毎晩、暗い部屋の中お世話になっているからな。
あぁそうそう。この大きさ、この手にフィトするサイズ。間違いない、100%僕のスマホである。
「よし!じゃあ交換しよう。僕が読み取れば良いんだな?」
それを抜き取り結衣に見せた。
「え!?あっ……ん…!?…えぇっと…たぶん、違うと思う、な…ソレ」
結衣は赤面し細くそう言った。
多分、恐らく、確実に、やらかしてしまったらしい。恐る恐る顔を下げる。
『日本産の0.01ミリ!!薄さを越えろ!!3枚入り』
眩暈がした。一瞬振らついた。その動きに合わせ、中身が地面に落ちた。
あぁこの状況こそ、泣きっ面に蜂なのだろう、と思った。1つ欠けたソレが、結衣の足元に落ちたのだ。それを結衣が拾い上げ、箱の中に黙って戻した。
「え…ちょっと待って……
今や赤面した結衣は居らず、壁に追い込まれ、彼女は僕のネクタイを握っていた。
「いえ違います、結衣さん?冷静になってください、誤解です。キミは何か重大な勘違いをしているようだ」
「なにがなの?今すぐ教えて欲しいな?」
「ええっと……。まず……」
「早くして?」
「1つ欠けているからと言って、それが使用目的に使われたとは言えない。現に僕は童貞だ」
「言葉だけじゃ証明にならないよ」
「それは昨日買ったんだ。恥ずかしさのあまりレシートは捨てた。その1個は練習の為に着けたんだ。童貞が使い慣れないモノを本番で使おうとしても失敗するだけだ。僕は予行演習を欠かさずやるタイプだ。結衣、見てくれこの隈を。一晩中、興奮して眠れなかった証だ」
脳をフル回転させた100点満点の答えだ。濃い隈を指差して僕は言い切った。
想いが届いたのか結衣は、僕のネクタイを放し、それにより出来上がった皺を伸ばした。その後、ゆっくりとブレザーの中に仕舞った。
「ごめんね…少し試す様な事を言っちゃって……キミがそんな事を絶対やらないって……分かっていたのに……」
「いやトンデモ無い。そんな疑惑を生んだのは僕の責任だ。本当にすまない」
僕は結衣に深々と頭を下げた。
そんな僕に対し結衣は、許すように抱きしめた。まるで聖母の様に。神々しさすら感じた。
僕の頭に柔らかい胸が当たる。この感触を僕は、永遠に忘れないだろう。
「ふみぃが一晩中、私を想っててくれて嬉しいよ…。でも、しっかり寝なきゃダメだよ……」
「大丈夫さ。今回のテストはほぼ満点だから……あっ…」
テストで思い出した。
以前、恭介が言っていた。結衣はトラウマがあり実験室には入った事が無いと。
この状況、上手く使えるのではないか?
僕は結衣の腕を優しく解き、手を握った。
「なぁ結衣、もし可能ならなんだけど…月曜日、1次限目に科学の授業で実験室を使うらしいんだ」
「……うん」
「僕と一緒に出ないか?僕は結衣と一緒が良い」
「うっ…う、ん……。私も…ふみぃと一緒なら……頑張れる…気が、する……」
「そうか!ありがとう。じゃあ一緒に授業に参加しような」
「うん。…そうしよう」
明日死んでも良い様に生きる。それはとても大変な心掛けだと思った。
だが僕らには明日は沢山ある。少しずつ、出来る範囲で進めばいい。そう僕は感じた。
◇◇◇◇
結衣と別れ、僕は家に到着した。
僕にはやらねば為らない事がある。
玄関の扉を開けリビングで義母に僕の帰還を知らせ、すかさずに自室に戻った。
パソコンを起動し、大手動画配信サイトを立ち上げる。
「親父ぃ…まだ配信しているのか……」
『みぃたん』のライブに参加する。恐ろしい事に3万人も人を集めていた。
僕はキーボードを打ち込み、コメントを流す。
『4ね4ね4ね4ね4ね4ね4ね……』
その僕のコメントを見えたのか親父は言った。
『皆ぁ~!私のコメント欄を荒らすヒトがいるよぉ~。こわぁ~い!!一緒に成敗しよォ~!!』
その後、僕のアカウント名を名指しして「雑魚乙」だの「可愛い」だの「キミはみぃたんの素晴らしさを知らない」だの「新手の信者だろwwww」などのコメントが流れる。
「はぁ!?調子乗ってんじゃねぇよクソ親父が!!!!粘着してやる!!!てか早く原稿書けや!!!おい編集者!!仕事しろや!!!電話掛けろや!!!優雅に配信してんぞコイツ!!!」
僕の思いは虚しく、3分後にアカウントの一時凍結が運営より下された。
椅子にもたれ掛かり、深い深いため息を漏らした。
「もう寝よう。そういえば僕…眠かったんだ……」
制服を脱ぎ部屋着に着替えベットに横たわる。
結衣とは連絡先を交換できた。もう…万々歳だろう。
睡魔が一気に押し寄せる。……明日は書店で…参考書でも買いに行こう……もう今日は疲れた……
そうして僕の、世界一長い一日が幕を閉じた。
損と恥しか晒していない…最悪な一日だった……
午後11時48分――
『章文に届いたメッセージ』
ゆい 『ねぇ…起きてるかな?』
ゆい 『おーい!』
ゆい 『お風呂?』
ゆい 『10分後にまた連絡するね』
◇ ◇
ゆい 『居ますか?』
ゆい 『起きてますか?』
ゆい 『連絡できますか?』
ゆい 『生きてますか?』
ゆい 『ふみーーー!!!』
ゆい 『寝てるんだね…。明日連絡下さい。待ってます』
◇◇
人物紹介
・長瀬 結衣。17歳。私立能生高校、2年生。
・身長157。中学時代のイジメにより左顔に火傷跡が残った。そのため髪で隠している。
・現在、母と住んでいる、父とは幼少期に離婚した。
・病んでいる為、少し痩せている。
・章文曰く、胸が大きい。
・軽度の妄想症。イジメが原因。軽度の依存癖。イジメが原因。
・甘いモノが好き。カフェラテなどミルク系が好み。
・成績は中の下。理科が特に低い(実験室にトラウマがあり、授業に出れていない為。1年の頃は追試を沢山受けた)