考えすぎなのかも知れない。
過剰に妄想しすぎなのかも知れない。
中学校のイジメにより「現在こうなってしまった」ではなく、「現在進行形で何か彼女を苦しめている要因がある」と……何度も頭をよぎった。
浅い睡眠と1時間毎の覚醒を繰り返し、朝を迎えた。
またかよ…と思ったが、ある程度寝れたため頭の中は随分マシになっていた。
ベットから起き上がり、ポキポキと背伸びにより骨が鳴る。窓を見る。スマホに内蔵された天気予報では今日1日は曇りだそうだ。
……。ひとまず、学校に行こう。
午前6時58分
7時のアラームを取り消し僕は、朝食を摂りにリビングに向かった。
◇◇◇◇
まぁなんというか。大きく空回ったと言うべきか。
僕の恋人の長瀬 結衣は今日も普通に登校してきた。いや、『してきた』では無く『登校した』が正しい。
朝食の際に『朝、一緒に登校しよう?』と結衣からの連絡もあり、昨日の静けさは何だったのか、と思わず驚愕した。
流石に「昨日のアレは…」などど掘り返す訳にもいかず、結衣と他愛も無い話をした。途中、妹も合流し急遽開かれた『僕の中二病暴露会』により、5月の中旬というのに汗を垂らした。まーじで心臓に悪い。
学校に到着し、ホームルームを終え、授業時間も特に問題は無かった。
昼休みに入りお弁当を4人で食べ、午後の授業も過ごし、火曜日の学業が終わった。
本当にも無かった。
たしかに何も無いのが一番いいのだけど…
厚い雲に覆われ、窓の外は薄暗かった。
結衣の方に視線を向けた。あまり調子の良くない顔だったが、その原因を僕は知っている。
先に行われた週間テストの結果が良くなかった。特に実験室で授業が行われる『化学基礎』の項目が一番ダメだったらしい。
そして僕に抱き着き「このままじゃ先輩に殺される」と泣いている恭介もまた、理科が苦手らしく点数が悪かったらしい。
なんでも、週間テストでの赤点の科目が一定以上あると部活動の制限が掛かる、という。バスケ部の副キャプテンがこのザマとは…
「じゃあ、勉強会をしましょうよ。自習室は沢山空いているから」
そんな僕らに提案したのは委員長である榎本だった。
「丁度、章文くんとも文化祭の出し物について話したかったし」と、彼女は続けて言った。
そうして僕らは誰もいない自習室を借り、鍵を開けて入室した。
スマホで琉生にも連絡を取ったが「俺は問題ない。筋肉が俺を待っているからな!!」と拒否された。
後日知ったのだが琉生は、現代文の科目はトップ5に入る程で、しかもかなりの読書家だった。
僕と同じ文芸作家が好きなようで、1日中語り尽くしたのは後の話であった。
◇◇◇◇
「やべぇ、元素が1周回って分からなくなってきたぞ…」
「嘘でも冗談は辞めてくれ」
化学の問題用紙に対し手が止まる恭介は、震えながら僕に言った。
この学校は進学校を売りにしているのか、謎に自習室が多い。成績トップの榎本が先生に頼めば自習室の鍵など簡単に手に入る。
人気があまりない
「だってふみぃさぁ!元素、原子、電子、陽子?中性子?、イオンってさ!無理だろ!?マイナスイオンを浴びれば元気になる…でいいじゃんか!!」
「そもそも恭介が言う『マイナスイオン』なるものは存在しない…。僕は余り詳しくは無いが『マイナスイオン』の元ネタは『大気イオン』らしい。マイナスの電荷を持つ『負イオン』を悪意を持って解釈した
「ハッ…!!陰イオンを浴びれば元気になる…!?」
「どうしよう委員長。僕、コイツに殺意が湧いてきた」
「抑えなさい…。千里の道も一歩から…よ」
「千里って…日本横断できんじゃんか…。無理ゲーだろ」
はぁ、とため息を漏らし参考書を手にする。そして眺めるようにペラペラとページを捲った。
別にモル濃度や気体定数など、少し複雑な計算は無いハズなんだけどな…。まずは、興味を持たせることが重要だよな……
親父がやっていたように、TRPGで少しだけ遊ぶか…?
「化学を応用したシミュレーションで遊ぶか?よくあるテンプレの…異世界もので」
「じゃあ聖剣貰って魔王を倒すわ」
「展開が早いな…。つうか化学すら出る幕無いじゃん…!?」
「じゃあ、ふみぃはどうなのさ?異世界に転生して、何か持っていけるとしたらよ?」
「今現在までのあらゆる法則を脳にインプットして貰う。そして数学と科学で無双する」
「クソつまんな」
「いやいやいや恭介、よく考えてみろよ?異世界に行っても即座に頼れる人なんていないんだぜ?身分も無いから、街には簡単に入れないだろう?そこで数学と科学が役に立つんだよ。文明の発達は、数学と科学の両立によって成り立つんだ。城壁や城の石レンガの積み方は建築物理学だし、医療品なんて科学の集大成だ。必ず知識を欲しがる者が出るハズだ。…聖剣を入手して魔王を討伐した後はどうするんだ?なにも無いだろう?だが、数学と科学の知識は今後の文明の発展に必ず必要になるんだ。沢山ちやほやされたかったり、ハーレムを形成したかったら、数学と科学は最重要だ」
「そう言われれば、そうなんだけどさ……」
恭介は問題用紙にシャーペンで、グルグルと円を書きながら言った。
「大変そうじゃん。俺はスグに効果が出るモノが欲しいんだよな~」
……。確かにそうである。僕自身、恭介の言葉に賛同してしまった。
例えば『コレを飲めば女の子から好かれるよ』というドリンクが有れば、僕は手を伸ばすだろう。『過程が面倒で無く簡単で、結果が良好なもの』なんて誰もが欲するだろう。
ネットの広告でアピールされる商品などは正にそうであり、嫌悪感は感じるがそれと同時に、その効能を欲する人が居ると思うと切なくなる。
だがここは学校である以上、学生たちはテストの点数という怪物に、立ち向かわなければいけない。
だからこそ僕は、恭介に言った。
「恭介ってバスケ上手いよな」
「?そりゃそうだ。バスケの推薦で高校に受かったモンだしな」
「でも僕の記憶が正しければ、小学生の頃の恭介は……言葉は悪いがそこまで強い印象は無かったぞ」
「いうねぇ。まぁ事実だからしょうがねぇな。…小学校の時に、バスケのクラブに入っていたのは知っているよな?」
「あぁ」
と、応えた。
たしか月、水、金曜日。その日は「クラブがあるから」と言って恭介は居なかった。
「そのクラブの先輩にな、ドヤされたんだ。『ヘタクソは帰れ』ってな。小4の頃だ。そこからはその先輩を見返す為に努力した。そんで中学の時、その先輩の席を奪ってやったんだ」
「へぇー、奇遇だな。僕と同じだ」
「ほぉ?何がダメだったんだ?」
「勉強」
「「「えっ!?」」」
うぉお…びっくりした。横で静かに復習をしている榎本と結衣まで反応しやがった。
よく勉強しながら話を聞けるな。マルチタスクですか?羨ましい。
「はぁ!?オマエ、転校早々に受けた週間テスト、5位だったじゃんか!?」
「それでいて、よく人の間違いにマウント取れるわね?章文くん???」
「え…ふみぃって、小学校の時、頭良かったじゃん…!!」
おうおうおう……。一人だけ別角度で僕を殴ってきたが…なんとか致命傷ですんだ。
恭介の為もある。ここは少しだけ、昔話を話そうか。
僕は、骨折していた左腕を摩りながら言った。
「小3の冬に転校して……新しい学校に登校するようになった。最初は緊張と期待で胸を膨らませていたが……実際はそうじゃ無かった。僕のクラスの担任の先生。ソイツが──」
ゴミだった──。そう断言した。
「算数の時間、指名され黒板で問題を解いたよ。だがアイツは『詳しい途中式が無い』と罵倒し、国語の時間では『漢字のバランスが歪。やり直し』と言われ、満点のテスト用紙も『名前が書いてないから0点』と、僕の名前を消した痕跡が残る用紙を…返された」
「最低ね」
「だろ?委員長。しかもな、アイツは成績が良い奴しか狙わなかったんだ。コンプレックスを拗らせたのか知らないけど。…他の人には、めっぽう優しかった…。成績が良い奴なんてクラスに僕を含め2人しかいなかった。たった2人、小学生だった僕らは、成すすべは無かった。それで僕は…勉強が嫌いになった」
「…おいふみぃ。その『もう一人』はどうなったんだ?」
恭介の問いかけに応える為、僕は息を吐き語った。
「僕は小5の夏から学校に行かなくなったし、中学校はアイツが居なかったから登校出来たが……もう一人は、最後まで登校しなかった。高校は別々だ。だから、わからないんだ」
「そうか…」
「僕も恭介と同じで、見返したくて勉強を頑張った。でも、ある時を境に勉強する事自体、面白さを感じたんだ」
「あ、ソレ。分かるかも知れない。だって俺、今はさぁ、あの先輩の事なんて忘れてるもん」
うんうん、と僕は頷いた。
見返すという復讐が、いつの間にか自分のアイデンティティになっている。
多分きっと、僕の親父もこのように変化していって、ミステリ小説家になったんだろう。なお配信稼業はマジで意味不明。
「まぁ強引に話を戻すけどさ、誰だって最初は上手くいかないよ。運動系なら実感してるんじゃ無い?気が延びる程の練習の果てに掴み取ったコツ…どか」
「そうだなー。俺が尊敬するマイケル・ジョーダンも『目標を達成するには、全力で取り組む以外に方法はない。そこに近道はない』って言ってたしなー」
「そうそう、勉強もそうだ。一気に飲みこもうとするから嫌になる。コツコツと、一歩ずつ理解していこうぜ」
「そうだなふみぃ。目が覚めたぜ。さぁ、化学の勉強だ!!」
「よし!!まずは化学の基本!元素からだ!!!」
「うおおおお!!!!」
僕は恭介とともに参考書と教科書を開き、進めていった。
そんな中、週間テスト1位の榎本から声が掛かった。
「ところで…ホントにやる気がある中、申し訳ないんだけど…今週の理科のテスト……『生物基礎』よ?」
は???
「ふ…ふみぃは転校したばっかで分からないと思うんだけど…理科のテスト内容は、1週間ごとに変わるの…。化学→生物→化学→生物…って…」
ほぉ???
「え、え、え…じゃあさ……僕が今、恭介に教えても……」
僕は恭介の方に振り返った。
「1週間も空けば、忘れるかも知れん☆」
僕は荷物を纏まとめて自習室を後にした。
後ろから結衣の「まってよー」と声が響いたが、僕は止まる事は無かった。
恥ずかしすぎる。なんだったんだよ、この2時間は。
帰って寝る。もう寝る。眠い。寝て忘れたい。何もかもすべて!!
◇◇◇◇
今日一日を振り返ると、この出会いは運命すら感じた。
シンクロニシティ、虫の知らせ、第6感などのある種、哲学的で科学的に説明できないそれらは、僕にとって余り好きな言葉ではない。
星座占い、干支占い、おみくじに至るまで『所詮はただの気休め』と考えている僕には、この出来事には多大なるショックを食らった。
だって……そうだろう…。こんなの…あまりにも出来過ぎている。
「ふみぃ…!!はぁ…はぁ……。一緒に帰ろう…よぉ…!」
僕の背後で結衣が息を荒げていた。僕を追い、自習室から走って来たのだろう。
とても嬉しい。とても嬉しい……だが、今はそんな事が出来る状況ではない。
校門の手前。学校の敷地の外で、笑顔で僕に手を振る青年が居た──
「おーい!アキフミ!忘れちまったのかー?オレだよオレー!」
曇天の下。その雲と同じような灰色の髪を揺らしている。
「ふみぃのお友達?…いいなぁ、髪染めてる……」
「そう、僕の…ずっと昔の…友達。自習室で話をしていた『もう一人』だよ…」
「え……この人が…?」
僕は彼の元に歩んだ。
間違いない。その顔の傷……右目の下の切り傷は彼しか居ない。
「久しぶり…。どうしたんだ一体……」
「観光さ。それと、お前を一目見たくてな。…この街はいいなぁ、アイツの影は何処にもなくてさ」
と、彼は言った。<
小学3年の冬。僕と共に『担任を打ち負かす同盟』を組み、見事大敗を喫した友達であり、親友であり、戦友の彼は、ニッコリ笑って続けた。
「それはそれとして、美味しいラーメン屋。知ってる?」
その呆気ない問いに困惑したが、僕は岸波に答えた。
「悪いが…僕は引っ越してばっかりで……チェーン店しか分からない」
「マジかよ、
『ありえねぇ』。それは彼の口癖だ。
本当に岸波なんだな、と再度思い僕は、スマホをいじる彼に言った。
「僕は構わないが…。結衣はどうする?用事が有れば断ってもいいぞ?」
「出来れば戦友の。いやアキフミの昔話でも、し合いたいと思うんだが…。どうかね?」
「行きます!…でも、ママに連絡しなきゃだから」
「ああゴメン!そうだよな!アキフミも家に連絡を入れた方が」
「そうするよ。ちょっと待っててな」
校門を出、大通りを3人で行く。
結衣と僕は家に電話をし『今晩は友達と食事をする』と伝えた。
このまま道なりに行くとファミレスがある、と結衣に道案内されながら進んだ。その間、岸波は、鼻歌を歌っていた。少し古い洋楽だ。
僕は彼の姿が随分と、もの寂しい様に見えた。
◇◇◇◇
ファミレスでの食事は……いや、訂正しよう。
僕には当時の記憶が無いが、その時に恰好つけていた台詞や、好きだった物などの情報の交換会が始まっていた。
「おい岸波。いい加減に食えよ。冷めるぞ…」
「いやいや無理だ!!アキフミ、お前ってよ…!!小1からその性格だったんだな…!!」
爆笑を堪えながら岸波は言った。
余りにも結衣からの情報が面白かったのか、岸波の顔は赤くなっていて少し涙が出ていた。
「そうなの。ふみぃはね自分で『図書館は僕の庭』って言ってたの」
「図書館は…!!僕の…!!庭ぁあ……!?ぎゃははは!!」
そんな事言いましたかね僕は。確かに図書委員会に所属していた記憶は有るが…
つうかさぁ……
「僕も笑える会話にしない?」
「ん?なんだ?ネタを提供してくれるのか?」
横腹を押さえる岸波は、震える声でそう言った。
なんだよネタって。一つも無いわ。……。あ、そういえば気になっていた事がある…
「なぁ岸波。オマエはどうして結衣の名前を知ってるんだ?」
「あー、なに。オレ、今ここで暴露していい感じ?」
「と、いいますと?」
「だってアキフミさぁ、オレの学校に移ってからも『ユイちゃんに告白すれば良かった』って五月蠅かったからな」
「ふみぃが…!?」
だあぁああぁあああ!!!!
思い出した。岸波の一声によって思い出した。言ってたわ僕。確実に言ってた!!
「ち、違うだろ岸波。僕はな『告白』じゃなくて『プレゼントのお返し』って言ったんだ」
「おいおい戦友。嘘つくの辞めようぜぇ~。オレの記憶力は完璧だから、ありえねぇよ」
「またその口癖ぇ…。結衣もコイツになんとか言ってくれないか……あ」
僕は横に座る結衣に視線を動かした。
その彼女は顔を赤く染め、両手を扇子のように動かし風を顔に送っていた。
「あっ…!!ふみ…!!ちょっと化粧を見て来る…!!」
と、嵐の如く早々に去っていった。化粧…?どういうこと?
「可愛らしい彼女さんだな」
「そうだろう。自慢の彼女だからな」
「…だからアキフミ。そういうクサい言葉はなぁ、一般人はそうそう言わないんだよ。自ら地雷を作ってるぞ」
「地雷なら飛び越えればいいさ」
「そういう問題じゃなーい」
カランとグラスの中の氷が音を立てた。
ジュースを飲もうとしたが、もう空のようだ。つぎは何を飲もうか。無難にコーラーだな。
「そういえばアキフミ。オレたちさ、意味わからない問題で喧嘩してたな」
「ん?…あー、そうだな。『理科』と『算数』だったね。僕が算数で、岸波が理科。…今思えば、可愛い論争だった」
「あぁ、特に『お化け論争』は傑作だった。オレは『科学的に考えて、お化けを構成する物質など存在しない。だから居ない』と言ったな」
「それに対し僕は…『背中を押された、場が冷たいなどの証言がある。押された、冷たいの原因は数字で表せるハズだ。だから完全な否定はありえない』。今思えば、無茶苦茶だ」
「お互い、図書館の本。それもうんと難しい本を読み漁り、間違った知識で言い争っていた。オレにとっても、中々な黒歴史だ」
「まぁ、その頃の探求心もあって今は、何かといい成績を保っているよ」
「そうか。そりゃあ良い事だ」
そう言って岸波は、半分ほど残った味の薄いメロンソーダーを飲み干した。
「とりに行こうぜ?」とグラスを持ったまま立ち上がり、僕もまた、コーラーを注ぎに彼の後ろに着いた。
ドリンクサーバーの前には誰も居らず、目的のジュースの項目を押すなり、悠々自適に炭酸の弾ける音を堪能した。コロンと鳴る四角の氷。
グラスの表面に水滴が出来初め、机に置いた際に雫となって流れ落ちた。
「ところでさ」
岸波が話始めた。
「あの、結衣ちゃん。やけど跡を髪と化粧で隠してるね。コンプレックスなんだろうね。その原因はきかないけど」
「助かるよ」
チューと彼は、ジンジャーエールをストローで飲み始めた。どうやら岸波には、結衣の状態は筒抜けらしい。
中学時代では、岸波は登校していなかったのでテストの順位は僕が総なめしていた。だが、彼がもし居れば結果は変わっていたのかも知れない。勉強以前に普通にコイツは、頭のキレが異常なのだ。
きっと委員長…榎本とも話は合うハズである。そういう風景が、僕には浮かぶのだ。
「?…オレの顔に何かついてるのか?戦友」
「いや。冷めてるのに美味しそうに食べるな、と」
「お前と食べてるから美味しんだよ」
「嬉しい事を言ってくれるじゃないの」
数度小さな笑いが浮かぶ。その数十秒後に結衣が合流した。
耳の赤みはもう、落ち着いたようだ。
「もう時間だし、キミたちは学生だし…お開きにしようか」
「ごちそうさま。美味しかった、ありがとな岸波」
「ふみぃの事、いっぱい聞けて楽しかった…!!ごちそうになりました。ありがとう」
あの氷を思わせるような結衣も、岸波の前では普通の女子高生だった。
これも彼の聞き上手の一面のお陰なのかもしれない。どうであれ、結衣に笑顔が浮かべば僕は嬉しい。
それも含めて僕は、今回のご飯代を奢ってくれた岸波にお礼を言った。
「いいんだ。オレこそ、突然押しかけて悪かったな。…じゃあ次、飯食う時はアキフミの奢りな!!」
「なんでだよ!?」
そうして僕らの夜は終わっていった。
美味しいご飯に、苦い思い出。懐かしい話に心を躍らせながら。
そしてその翌日。
僕は7時のアラームによって起こされ、支度を済まし、リビングに向かった。今日はパンであった。ならばコーヒーだ。
新聞紙を読む親父に声を掛け、いつもの要領で2つ、濃度の違うコーヒーを作った。
「ほら」
「……」
今日は珍しく何も親父は言わなかった。そんなにも新聞に面白い記事でも書いてあったのだろうか。
そんなこんなで、僕は椅子に腰かけテーブルにマグカップを置いた。近くのリモコンでテレビのチャンネルを変える。
天気予報が終わり、いつものニュースコーナーに移った。
「は!?」
声が出た。そして、戦慄した。
忘れるわけが無い。その名前は僕のトラウマと共に刻み込まれてるから。
あぁ、今も鮮明に覚えている。小太りで白髪交じりの短髪。野太い声に、歪な手の形。
そう。僕が勉強を嫌いになった元凶。<酒井
後頭部に硬いモノで殴られたのが死因だと言っている。2日前に亡くなり、未だ犯人は不明だと──
「酒井が死んだ……。誰かに殺された……」
思い当たる節は一つだけあった。
岸波 和平の存在である。
まさか。そんな。脳内に否定の言葉が渦巻いた。
そして──
「ありえねぇ……」
僕は無意識に、岸波の口癖を言っていた。
メッセージなど確認できない程、僕は困惑していた――