じゃあ私に話して──
転校し、担任の先生に違和感を持ち、岸波と『担任を打ち負かす同盟』を組み、僕と岸波の怪我が起因して学校を休み始めた事。
その全てを……
「ふぅん……。じゃあ章文くんは当初、担任の
「あぁそうだ。他の子には優しい先生だったし、最初はエスカレートしていなかったからな。黒板に解答を書き行った時も『あぁ、この先生はテストの内容を僕にだけ教えてくれているのかな』と勘違いしていたよ。なんせそういう嫌がらせは、勉強の時にしか起きなかったからな」
「んー。あえて授業に関わる事だけに集中させて、他の生徒さんからの目を欺いていたのかもね。だって授業中なら、先生の教える事と指導する事は『絶対』でしょ?」
「……」
榎本が言う『絶対』と言う単語。僕はそれに激しく同意した。
特に小学生のぼくにとって先生とは、『正義』そのものだった。
「給食は残してはいけません。食べられないと思ったら量を減らしましょう」「時間はしっかり守りましょう」「チャイムが鳴る前に席に着きましょう」「掃除はしっかり丁寧にやりましょう」などなど…
それらは正しく正論だ。少なくとも僕は、小学1年生から先生の言いつけを絶対視していた。
高校生の今だからこそ思うが所詮、先生は僕と同じ人間なのだ。だからこそ、案外フラットな関係を築く事が出来ている。
脱線してしまうのだが、中学時代は正にそうであり、僕は同じ学年の生徒よりも先生たちの方が仲良かった。僕の趣味が古臭かった事が原因なのだろうけど……
現に中学から「アリストテレスが好き」と言う人物は聞いたことが無い。たまたま中2の頃、「アレキサンダー大王が好き」と言う歴史の教員が始まりで、そこからは横繋がりで、色んな先生の色んな趣味を昼休みの空いた時間に教わった。挙句の果てに、車好きな先生から「馬力」から始まり「エンジンの仕組み」まで教わったが、遂に完全に理解する事は無く、僕に涙を流しながら異動していった。悔しかったんだろうな…
「つまり章文くんは、小学校の低学年の頃は担任の先生の事を神聖視していた──。けれどもそれは、章文くんが転校し、その思想は徐々に曇っていった。そして小学校の高学年、小5の夏に完全に挫かれた」
榎本は僕の語った事を箇条書きにされている黒板に向かい、『小5の夏休み明け。章文くんが骨折。岸波くんが
その左側。つまり、その後の事に『小5の夏。章文くんが学校に行かなくなる』と書いてある。
榎本は分かっていながらも、僕を案じてオブラートに今まで進めてきたのだろう。だがそれは、今この瞬間に破られた。
「ここが──章文くんと岸波くんを隔てた
「高校生になった今ですら……
「そう。きっと彼が示した問題、その解答には、この証明が必要だと思うの。だから、その事について詳しく教えて」
「……。分かった」
そこからは一方的だった。
榎本は何も話さず、僕が言い終わるまで口を紡いだ。
そう、そうれは──小5の夏休みが明けた、ある放課後の話であった。
◇◇◇◇
僕と岸波はよく、誰も来ない階段を独占して、酒井にやられた行為に愚痴を言っていた。
校門とは真逆に位置し、教職員の駐車場と、それを囲むように木々が窓から見える。窓と言っても、階段の踊り場、その2メートル上にある一般的な採光窓で、当然だが身長が足りない僕らは、窓からの景色はある程度上がらないと見えなかった。
この日は風がよくふく日だった。台風により昨日、臨時休校となった次の日の事だ。
そんな採光窓からの、どんよりとした光に照らされた階段で、僕らは、いつもの様に愚痴が終わると遊びに移行した。
「アキフミ!進法って知ってるか!?」
「なにそれ?」
「オレ達が扱う数字どか、時計どか、距離どか、重さどか!」
「???」
当時の僕には当たり前だが、進法と言う概念が無かった。
だってほら、数字は0から始まって9。それに1を足して10に繰り上がる。時間だって、59分に1分足して60分。つまり1時間になる。
僕にとってソレらは普通の事で、特に疑問にすら浮かばなかった。そんな所に、岸波はメスを入れたのだ。
「階段を使ってオレが教えてやんよ!アキフミ!降りて降りて!!」
そういって彼は、2段、3段飛ばしで階段を下って行った。そういう僕も、算数が好きと言う事と、新しい事を教えてくれる岸波に胸を躍らせ同様に階段を下った。
一階。つまり階段の段数で言えば『0段』となる所で、岸波は進法について語った。
「1時間を60等分したのが1分だろ。1キログラムを1000等分にしたのが1グラム。ここまでオッケー?」
「全然オッケー」
「よし。じゃあ、オレたちが使っている数字。『0』から『9』までの10個の数字だろ?で、『9』に『1』を加えると『10』になる。十の位の数字が出て来るよな?」
「あ…あぁ。あ、当たり前だよな…」
「そう!オレ達が何気なく使っているのは『10進法』と言うやつらしい。時計は60分で1時間になる『60進法』らしい」
「進法…」
「そうそう!オレがアキフミに一番簡単な5進法を階段を使って教えてやる!!」
そう意気込んで彼は「0」と言った。
階段を使って教える。つまり今いる階段で言うところ0段目が『0』なのだろう、と僕は思った。
そして──
「1」
と言って岸波は、階段を一段上がった。
そしてその後も、「2」「3」「4」と4段目までカウントしながら登った。
「アキフミ~。次は何だと思う?」
「ん~。5?」
「いや~、5進法では違うんだな~。次はな──」
ジャンプをして次に駆け上がった岸波は、僕の方に振り返り満面の笑みを浮かべて口を開けた。
「10」
階段の5段目を彼は、10と言った。そしてその解説が始まった。
「オレ達が使っている10進法の一の位は…『0』『1』『2』『3』『4』『5』『6』『7』『8』『9』の
「ほぉー」
「アキフミもここまで登ってさ!一緒に5進法で数えようぜ!!」
「いいね」
そう返して僕は、岸波が居る5段目──5進法では『10』の位置に着いた。
「いくぞ~」と彼は言い、一段ずつ数字をお互いで確かめ合う。
6段目は『11』、7段目は『12』、8段目は『13』、9段目は『14』。そして鬼門の10段目が現れた。
岸波は数秒黙り込み、僕に視線を移した。「もう答えは出たか?」と言う眼差しだ。「あぁ勿論だとも」と答えるかのように僕は俯いた。
そして──
「せーの!!」
岸波の合図と共に10段目にジャンプして飛び上がり僕らは口をそろえて言った。
「「20!!」」
その解は正解であった。
お互いの答えが一致し僕らは、ガッツポーズをとった。それだけ嬉しかったことを僕は、今でも覚えている。
「次!進もう!」
「おう!」
この学校の階段は折り返し階段というよく見るもので、踊り場を中間に設置し180°の方向転換がある。段数は全て統一されていて、12段の後に踊り場があり、最後に12段ある。
つまり、この計である24段を5進法で進み、遂に僕らは間違える事無く2階に上がった。
24段目を5進法で「44」と答えるや否や階段を降り始めた。また新しい進法で階段を上がる為だ。
「岸波ぃー、僕さ、今、思ったんだけど。11進法のときの『9』の次の数字ってさ……『10』じゃダメだよな…」
「んん?どうしてさ?」
「だって…、10って十の位の数字だろう?11進法のとき、9の次は『一の位』じゃなきゃダメじゃないのかな…?」
「たしかに…!!」
階段を下がり切った僕らは、11進法。その9の次なる数字について語った。語ると言っても、この話し合いは簡単に済んだ。
11進法。その9の次なるモノは『A』で良くないか、と。それならば例え14進法でも、9の次は『A(10)』『B(11)』『C(12)』『D(13)』で表せられる。
ふと僕は時計を見た。昼休みが終わるまで15分ほどの時間がある。「まだ岸波と遊べる」と思い、ほっとした。
そして岸波は「2進法で階段を上がろうぜ!!」と言った。簡単じゃないか、と思った僕は二つ返事で岸波に返し、先程の5進法とよろしく、再度「0!」と声を出した。
だが2進法は僕にとって、かなりの関門であった。0と1の2種類しか数字が無い為、ケタの繰り上がりが多い。最初の数段は簡単だった。しかし、7段目を過ぎてからと云うものの、脳内の変換が困難になってきた。
8段目……2進法では『1000』となる。今までの学校での算数、そのケタ数は精々3ケタだ。その為僕は、岸波に追い付けるよう脳内の回転を最高にして臨んだ。
9段目を「1001」と言い、10段目を「1010」。11段目を「1011」。12段目、踊り場に上がった僕らは「1100」と答えた。
本当に不思議な感覚だった。10段目を「1002」、12段目を「1111」と言い間違えそうになった。本当に危なかった…
踊り場で少しの休憩をはさんだ。さっきまで元気だった岸波は笑顔を失くし、残りの2階までの階段──12段をただ見つめていた。
僕はそんな岸波に声を掛けようとしたが、先に彼が口を開け提案した。
「なあアキフミ。こっから先は各々で行って…授業5分前のチャイムに合わせて答え合わせしようぜ!!」
「いいけど…。……」
「どうしたんだよアキフミ。負けるのが怖いのか?」
「ちゃうわい!…いいぜ、やってやるよ。一応言っとくけど、僕の算数のテストの点数は僕方が高いから、岸波なんかに負ける気はさらさら無いぜ」
そういって僕たちは、踊り場から2階までの階段を何度も往復して、24を2進法に直した数字を求め始めた。
一段ずつ登るにつれ、ケタ数がとんでもない事になっていった。紙もペンも無い。頼れるのは自分の脳内に書いた『12段目は1100』というセーブポイントだ。
何度も狂い踊り場からやり直した。岸波もまた、僕同様に「あぁ…」と感嘆の声を漏らし階段を下りていく。それを数回繰り返し遂に、予鈴が鳴った。答え合わせの時間である。
そして僕らは──
「「110000!!」」
お互い同じ数字を口にした。それは大変喜ばしい事であった。
僕らはお互いに助けを求めずに、自身の力でここまで到達出来た事に。
高校生の今だからこそ思う。進法の計算など簡単に出来るが、それを力技で突破した当時は、本当に嬉しかったのだ。
「アキフミ!!授業に行く前にさ!一段ずつ確信しようぜ!!」
「オッケー!」
そうして2人は、13段目から「1101」と言いながら登って行った。
……。……。
……。
確か…18~20段目の事だったと記憶している。
突如として、後方の窓ガラスが割れた。野球ボールが窓を割り、校内に入って来たのだ。
その大きなガラスが割れる音に驚き僕は、バランスを崩して転げ落ちた。その際、左腕を骨折した。
岸波は僕を助けようとして腕を伸ばしたが、ダメだった。しかも、その行動が原因で岸波は右目の下あたりを、降りかかったガラス片によって大きく切った。
階段から転げ落ち、キラキラと降りかかるガラス片から顔を守る為、腕で覆い隠した。パラパラと降る音が止む。
腕の痛みが、現実だと告げる。心臓が痛い程跳ね上がり、現実だと突きつけた。顔を上げ、岸波を見た僕は…血の気が引いた。彼は、頬あたりから血を流し手で押さえていたから。
岸波の肩を支え階段を降り、先生を呼ぼうと辺りを見回すと…そこに奴は居た。
僕らにとって憎き担当。憎き存在。酒井 新が顔を青白くさせて立っていた。
次の授業に使用する教科書を床に落とし「大丈夫かッ!?」と声を荒げて駆け寄って来た。
その後、僕たちは保健室で応急処置をしてもらい救急車で運ばれた。
◇◇◇◇
「病院で治療をして貰って、登校できたのが2日後だった。色んな先生から怒られたよ。『学校内で
僕の方に向いて座る榎本は、ただ「うん…うん」と小さく首を縦に動かしていた。
それから僕は、濁りに濁った濁流のような勢いで、その後の話をした。
「勿論、僕らは言ってやったさ。『階段で進法について学んでいた』って。だけど先生にしてみれば相手は小5の
「岸波には弟が居るんだが…そいつは野球クラブに入っていて、それつながりで岸波への疑惑はより深くなった。岸波の疑惑を深めたのは、酒井の一言だった。酒井は野球クラブのコーチでもあったんだ。ヤツは言ったよ。『
「酒井の評判は他の先生にも知れ渡っていて、僕らの声は……誰の元にも届かなかったんだ。完全に詰んでいた。僕らは、自らの潔白が出来なかった。だから僕は……」
正義の象徴と言う存在に裏切られた気分だったし…それと同じぐらい勉強も嫌いになった──
「そうね…」と榎本は立ち上がり、黒板に書かれた文字を消していった。
その全てが消し終わるとチョークを手に取った。そして水平、直角、四角、放物線を書き始め、カクカクと2つの階段状の線を付け足した。
榎本が書いた図は、僕が中学生の頃に何度も書いたことがあった図であった。あの時に起きた事故、その現場を再現した側面図である。
「よし…じゃあ、章文くん」
榎本はクルリと身を返し、僕に目を合わせた。
「ここからは
まるで彼のように……僕に算数と理科を教える岸波のように、榎本は言ったのだ。
◇◇◇◇
「へー。階段の1段の高さは15センチ以下。天井までの高さは3メートル以上…って決まっているんだね」
と、榎本はスマホをスクロールしながら言った。
黒板に描いた側面図。それをより具体的にするため、事細かく数字を書き上げて行った。
僕は椅子に座りながら眺めているのだが、その様子は圧巻で、まるで建物の設計図の出来方を見ている感覚に襲われた。きっと、本物の図面はもっと美しいのだろうな。
あらかた書き終わったのだろう。榎本は時計を見た。17時04分。家から高校まで20分なので、こうやって話し合えるのは、残り35分程度だ。
その事を理解している榎本だったが、「質問いい?」と僕に言った。どうやら、この問題が解けるまで僕を返す気が無いらしい。
だから僕は「なんでもいいよ」と、榎本に返した。そして委員長との問答が始まった。
「章文くんは…前日の放課後に言っていたよね。『見返す為に勉強を頑張った』って。つまりは…章文くんも
「……。あぁそうだ。でも…酒井が原因だという結論は出来ていないんだ」
「それは何故?」
「酒井が幾ら少年野球のコーチだとしても、2階の窓…しかも風が吹くなか『1球』で的中できるわけが無い。後にも先にも、僕たちは1球しか野球ボールを見ていない。もし、酒井が誤って壁にボールが当たったのなら、僕たちは音で気づいている」
「へー。じゃあ、この案はどう?」
榎本は学校の教職員の駐車場、そこに一つの長方形を書き文字を付け足した。ピッチングマシーンと。
その後、ピッチングマシンから放たれるボールの放物線。ガラスに当たった時の数値をスラスラと黒板に足していく。
「当時のやつでも、車の中に仕舞えるほどの小さいマシーンもあるし、速度も結構出るやつも有るらしいわね。なんなら野球クラブの酒井さんは、マシーンを持ち歩いていても怪しまれないよね?夏休み中…野球クラブだって、他校と練習試合をしたり、運動公園で練習どかするものね」
「だとしても…どうやって一発で……」
「マシーンの角度も、一度調整が済んでしまえば簡単だと思うの。で、その調整は夏休み…野球クラブの練習中にでも行えるでしょう?酒井さんはその学校の先生でもあるから、その調整の痕跡は綺麗に消せるでしょうし」
「風はどうなんだ」
「章文くんは最初に言ったよね?『教師の駐車場は木で囲まれている』って。それはある種、防風林の機能を果たしたんでしょうね。でも、実際に小学校に行かないと、どのぐらい風を防げるかは……わからないけどね」
「酒井が顔ざめた理由は?意図的にやるならば、もう少し下手な演技をしていても良かったはずだ。だがアイツの行動には演技の欠片も無かった」
「それはね。
優等生──。僕は小さく呟いた。
「小学生のキミは少なからず、先生を神聖視していた。だけどその日は、いつもとは違う行動を起こしたの。それが酒井さんの計画を狂わせた」
もう黒板への記入が必要なくなった、と判断した榎本は僕の前の席に座った。
「キミは優等生だったから、授業の予鈴が鳴る前に着席していた。だけど、その日は違かった。章文くんと岸波くんは、2進法に熱中するがあまり、予鈴が鳴ってもあの階段に居た。それは酒井さんにとって、思わぬ誤算だった」
「……」
「酒井さんは
「……」
「だけど現実は違った。予想を裏切った。その2人は、その階段で予鈴が鳴ったにも関わらず遊んで居た。結果、章文くんは骨折を、岸波くんは
「……」
「ねぇ章文くん、キミは最初から…この回答までの途中式が出来上がっていたんじゃないの?キミは言ったよね?『酒井が原因だという結論は出来ていない』と」
「……」
「キミは、その途中式が出来上がっているのに、結論を出さなかった。いや…出せなかった。先生という正義の存在に、心の底から絶望したくなたっかたら」
「……。そうだよ、僕は……」
榎本が言う様に、先生と言う存在に絶望したくなかったから…その結論を忘却したんだ──
僕は、その後の中学時代や高校の生活に対し、希望を持つために過去の出来事を捨てた。
これも愛読する本に書かれている、
「だが岸波は……僕と違って忘却はしなかった。だから先生と言う存在に絶望し、中学授業に最後まで参加しなかった……」
「そうかも知れないわね……。その出来事を『忘れた章文くん』と『受け入れた岸波くん』。これが…2人の袂を分かつ
はぁ、と榎本はため息を吐いた。
彼女にとって僕の過去は、そうとう重く後味の悪いモノだったのだろう。
17時29分──
もう時間だ。帰る支度と…心を立て直さなければ……
「ありがとう委員長。岸波が…僕に顔を見せた理由が分かった様な気がするよ。アイツは、酒井から逃亡した僕が…憎かったんだろう。現実から逃亡した僕を…とてもとても…」
「あぁ…、……どうだろうね…」
榎本の返しを耳に入れつつ、僕はカバンを背負った。18時から刑事の
親父も五十鈴に合うのだろうか?確か古い友達と言っていた。
あの朝の親父からのメール。きっと前日の夜に五十鈴は、親父に連絡を取ったのだろうな。……
「ん?」
「…? どうしたの?章文くん…」
「いや……朝の…親父の行動が…妙に気になって……」
「章文くんのお父さんの事だよね?…どうして?」
榎本は、黒板消しに付着したチョークの粉を吸引機にかけはじめた。ウイィィィインと自習室に音が響いた。
18時に我が家に刑事が来る事を知っている榎本は、僕の代わりに自習室の掃除を進めた。
「朝、親父から『18時に刑事が来る』と連絡が来たんだ。つまりは…親父は僕がニュースを見て岸波に疑問を持つ以前から…刑事からの情報で、
「ん~……そうよね。その刑事さんと章文くんのお父さんは、昔から仲が良かったんだもんね」
「そうなんだよ。それでも五十鈴は刑事だ。いくら親友でも親父は一般人。容疑者の候補を言うワケが無い」
「えっ…んん?…それはつまり…?」
困惑する榎本に、スマホを取り出して朝のメッセージを見せた。
「……。うわー、なんか…意味深……」と、ゆっくりスクロールして言った。まるで警察…いや、ミステリー小説を見ているみたい、と付け足して。
「え、なんで章文くんは目を反らすのよ?」
「……。その親父…小説書いてお金を貰っているんだ…」
「へぇ~。まさかあの『
「違いますよ。……。ホラー小説を書いているんだ」
「何、その間は?」
「なんなんでしょうね…」
ここまで来たら、違和感と言う違和感は全て潰しておきたい。勿論それが身内の……親父への疑問でも同様に。
ならば、この違和感は何だろうか?朝僕は、親父にコーヒーを差し出して……否。それよりも前か…?だとしたら…今日の新聞…???
「なあ榎本。本当に付き合ってくれて嬉しいんだけど……」
「なにその言い方。場合によっては結衣さんに殺されるわよ?」
「茶化さないでくれ…今は大マジな話なんだ」
「あぁそう?ごめん」
「でさ、話は戻すけど……今日の新聞って、この学校に置いてるか?図書館どか…」
「???置いてますけど…。…案内しようか?」
「頼む。大至急で」
◇◇◇◇
進学校の図書館はとても広く、何台も並べられた大きな机には、チラホラと勉強をする生徒が目立った。
僕と榎本は、図書委員が在中するカウンターに行き「今日の新聞はありませんか」と聞いた。その解答は図書委員が指し示した棚にあり、複数の新聞が置いてあった。
「えっと…僕の家は…コレだ」
その中の1つを手に取り、近くの台の上で広げた。
親父が見ていた
「お悔やみ欄?どうしてこのページなの?」
「分からない。親父の思考回路は……滅茶苦茶なんだよ…」
本当に分からない。なぜ親父は…お悔やみ欄を眺めていたんだ…??だが──
「もう時間だ…。委員長、僕はもう帰るよ…。今日は本当に…ありがとう。僕の過去を暴いてくれて…。そのお陰で僕は、その過去を直視出来るようになった。もう逃げない。岸波は犯人だと…今はっきりと分かった…」
「…そうね。…ねぇ、一緒に帰らない?まだ…もう少し考えたいの」
「分かった」
その後、委員長は自習室の鍵を先生に渡し、僕と榎本は並んで帰路に着く。
結衣にも連絡をとったが、もう家に帰っているらしく『今日は化学の時間。一人で頑張ったんだよ!凄いでしょう!?』と心安らぐメッセージが届き、たくさん結衣を褒めてやった。なお今現在、委員長と帰っている事は伝えていない。……あれ?化学の時間、同じ机に恭介が居たはずだが……無視されてるんかアイツ…
この大通りは塾が多い。その為、窓から差し照らす灯り、道行く車、街灯のお陰で足元がハッキリと分かる。
その先の…十字路が委員長との別れ道だ。ここまでで目立った話はしていない。
「委員長。もう時期、お別れだ。本当に今日は…ありがとう」
「いえ……。貴方のお父さんは……
「は???」
意味が分からない。
あの親父が……今回の酒井殺人事件の全貌を解明したとでもいうのか?
「ねぇ章文くん。明日、学校をさぼらない?」
榎本の提案に僕は…逆らうことなく了承した。
まだ岸波には、僕に隠している過去があるのか──
18時からは刑事の五十鈴との話し合いだ。気を引き締めて挑もう。
人物紹介
・岸波 和平。現在17歳。
・身長172。灰色に髪を染めている。細身。右目の下、頬あたりに傷跡がある。
・章文曰く「天才」
・小3の頃、章文が転校し岸波と仲良くなった。
・担任の教師、酒井の嫌がらせが徐々にエスカレートし、章文と共に同盟を組む。この頃からお互いを『戦友』と呼ぶことに。
・馴れ合いが嫌い。章文を真の友達と思っている。
・弟が居る。弟は野球クラブに属していた。家庭環境が起因し親が離婚。今や別々に暮らしている。