切りの良し悪しの都合でちょっと短いですが許してください。
「はん!あの"泥ウサギ"がマーチに届くだの届かないだの、あんたら本気でそんなこと言ってんの?」
「あん?」
馬鹿にしたような声が聞こえてきて、それに鳥林が反応して目を向けると、そこには三人のウマ娘が鉄柵によりかかるようにして立っていた。
三人の内一人は今時の若い子と言った感じの見た目であり、一人はガラが悪く、そして声を掛けて来た最後の一人はマスク(メンコ?)を被っている。
ぱっと見、田舎の悪ガキ感に溢れた三人組だ。
「あんたらここらで見ない顔だけどさ、マーチがどんだけ強いか知らないんでしょ。
言うに事欠いてあの泥ウサギが走りそう、とか。見る目無さすぎにも程が有るって」
そう続けるマスクのウマ娘、ミニーザレディの両手には『フジマサ』『マーチ♡』と書かれた二枚のうちわが握られており、彼女が誰のファンか分かりやすく示している。
「見る目が無い、か。
その是非はレースを見ればすぐに分かるからどうでも良いが、とはいえ君たちは年齢(と種族)的に笠松トレセン学園の生徒だろう?
別に小学校でもあるまいし『みんな仲良く』とは言わないが、それでもこんな場で学友の事を積極的に悪く吹聴するのはどうかと思うが?」
「ハッ、悪くも何も、別にあたしらは見た儘を言ってるだけだぜ。
実際そっちのオジョウサマも言ってたじゃねぇか。使い古したジャージを着てる、って」
「あいつ、何時もあの泥くさい格好のままで食堂に来るし、その食堂の料理は全部一人で食べ尽くすし。あんな常識無い奴、泥ウサギで十分でしょ」
ガラの悪いウマ娘、ルディレモーノに続くようにして今時のJKっぽいウマ娘、ノルンエースも不満を零す。
彼女達が五番のウマ娘、オグリキャップに対して非友好的なことは明らかだったが、とは言えそれはある程度理由あっての事だった。
例えば彼女達は――正確には彼女達のリーダー格であるノルンエースは現在進行形で本来同室の筈のオグリキャップを物置の倉庫に追いやっているのだが、それだって誰もが持つ泥まみれの服を着た奴を部屋に上げたくないという至極当たり前の感情が元になっている。
無論そこに、かなりの割合で悪意が含まれていることは確かだし、三人組の一人であるミニーザレディの悪癖、『いたずら好き』が悪い方へ作用したことも確かなのだが、とはいえそれはオグリキャップの悪目立ち――しかも明確に他に迷惑を掛ける形の――が原因である事もまた確かではあるのだ。
「料理を全部一人で、ですか…。
確かにそれが本当なのであれば、あまり良い行いとは言えませんね」
「……しかし別に太っているようには見えないが?
初のレースでもあの格好な訳だから普段からあの格好だと言うのには納得するが、しかし何時も食堂で他の人の分まで食べ尽くしているなら、多少なりとも太るのが道理だろう?少し大食いなのを誇張して俺たちに伝えているんじゃないのか?」
「あ”、私達が嘘ついてるって言うのかよ。おっさん」
「端的に言えばな」
「知る訳ないじゃんそんなの。
単にそう言う太らない体質なのか、後は無駄にトレーニング量だけは多いみたいだし、そのお陰なんでしょ」
「……へぇ。てことは彼女は食堂の在庫を食べ尽くして得たカロリーを消費するほどのトレーニングを自分に課している、と……」
「『食べることも才能』と言いますし、本当なのであれば確かに彼女は走るのかもしれませんね。…他の方の事を考えない食事は余り褒められた行いではありませんが」
再度、興味深げにオグリキャップを眺め始める二人。
幼少期の負の積み重ね故かまだまだ薄く見えるバ体だが、しかし二人の目には何故かとてつもないエネルギーを秘めている様にも見えた。
しかしこうなってくると面白く無いのはノルンエース達三人組である。
元々声を掛けたのはフジマサマーチの実力を知らないのであろう余所者二人にフジマサマーチを布教しようというのが半分、泥ウサギなんて応援する必要無いと伝えるのが半分だったのだが、しかし何故か眼前の二人は泥ウサギに更なる興味を示し、褒める様な事さえ言うのだ。
面白いはずが無いし、何より気に入らないのは二人が自分達の期待の星にもう何の興味も抱いてない様に見えた事だった。
フジマサマーチはこのレース、堂々の一番人気を背負っており、笠松の多くのウマ娘レースファンにその実力を認められている。
だと言うのに外から来た鳥林とメジロアルダンが興味を示さないのは、如何にも笠松のレベルが大したものでは無いと言われているようで。別段郷土愛と言えるほど高尚な気持ちを持っている訳でも無かったが、それでも三人は何処か苛つく気持ちに蓋が出来ず、それは絞り切られた耳にしっかりと現れていた。
――とはいえ、流石にそれだけで良家のお嬢様っぽいウマ娘と、そこそこ身なりの良いお付きの人間らしき年上の相手に何かを仕掛けようと思うほど短絡的では無かったが。
「…なぁ君達、そんな苦々しい顔でレースを見ていても楽しく無いだろう。
ここはひとつ賭け……は流石に不味いか。簡単なミニゲームでもしないか?」
「あ”、ミニゲームだぁ?」
「題して『一着予想ゲーム』。
名前の通りこのレースの一着を予想して互いに言い合い、予想が当たった方の勝ちと言う至極簡単なゲームだ」
「ふ~ん…どうせ私達はマーチを予想するだけだけどさぁ、それ勝ったらなんか良いことある訳?」
何か胡散臭い人間でも見るような眼を向けながらそう尋ねるノルンエース。
「樋口…いや、福沢諭吉の肖像画をやろう。
それで何か好きなものでも食べると良い」
「……え、マジ!?気前良すぎて怪しいぞ!
あんたが勝ったってこっち鐚一文渡さないからな!」
そう発言したのはミニーザレディであったが、他二人も何処か訝しむような、怪しむような表情をしている事には変わりない。
「ハッ、いい大人の俺が君等みたいな子供から金をせびる訳ないだろう。
ただまぁそうだな、君等の話を聞く限りあの五番は学園でもあまり友人がいないのだろうし、別に君等に彼女の友達になれとは言わないが、それでも祝勝会位は開いてあげて欲しい、この場合もまた福沢諭吉の肖像画をやるから。どうだ?」
「…どっちにしろ他人の金で飲み食い出来るってんなら否は無いけどさぁ、それあんたが損しかしてなく無い?てかお金も、持ち逃げされるとか考え無い訳?」
「良い大人として一つアドバイスしておくが、賭けごt……ゲームなんて利益を求めてやるもんじゃ無いと思うぞ。精々脳内麻薬で飛ぶためのスパイス程度の位置づけで良い」
ダメな大人の間違いだろ/でしょう、と。その場に居た"四人"のウマ娘達の思考が重なった。
「それと持ち逃げに関してはどうでも良い。
所詮は一万円の話だし、此方としても泥棒根性の染みついた相手に彼……彼女を祝って欲しいとは思わんからな」
「……そこまで言うならこっちも約束を反故にはしないがよ、そっちも後になってダサい事するんじゃねぇぞ!」
「不安なら今の内から渡しておこうか。
どうせ俺のモノでは無くなる金だからな」
凄んでみせたルディレモーノは、しかし逆に手渡された一万円に『これ本当に受け取って良いやつか?』と困惑する。
微妙に常識的な所の有る彼女では、前世からの影響でウマ娘のレースに対しては割と金銭感覚の狂っている――なんなら頭のネジが外れている――鳥林の相手は余りに荷が重かった。
考えた末自分達のリーダー的存在であるノルンエースに押し付けるものの、とはいえ彼女も知らない人から貰ったお金――それも万札――を持ち続けるのは抵抗があったようで。結局鳥林の渡した一万円は三人の中で一番悪いことに対して抵抗の少ない、ミニーザレディの財布の中に消えて行くのであった。
スポーツ学校で食堂の飯全部食べ尽くすのは普通に悪なんよ……まぁ漫画的表現も入ってそうですし態々責めようとは思いませんが、ただそれならノルンエース達三人も情緒酌量の余地は有るよねって話。
それはそれとして鳥林の金銭感覚は割と逝ってます。