まぁ明日から冬休みに入るので、なんとか投稿ペース上げていけるよう頑張ります。
繋ぎの話なんで短いけど許して
トレセン学園において、トレーナーと一口に纏められている職種の人間は、しかしその実、待遇に結構格差が有ったりする。
無論、基本として高給取りであることや、また寮など福利厚生が充実していることは確かなので、誰か不遇な者が居るとかそう言う話では無い。
では何の事かと言うと、トレーナー室、或いはチーム用の部室の話である。
基本のトレーナー室と言えばトレーナー寮とは別のトレーナー棟と呼ばれる校舎にある教室を利用した、トレーナー個々人専用の部屋の事を指すのだが、しかしスピカやリギル、カノープスと言ったチームを率いるトレーナーには自分の城とも呼べるプレハブ小屋が与えられ、アルケスなど昔から活躍し、且つ所属するウマ娘、そしてサブトレーナーが多いチームであれば木造とはいえ"寮もどき"が与えられている。
では、その格差は何処から来ているのかと言えば――無論担当している、或いはしたウマ娘のレース成績だ。
『Eclipse first, the rest nowhere』。
この言葉がスクールモットーである以上、強いウマ娘が登場するよう能力の高いトレーナーにより良い育成環境を整えてやるのは、まぁ当然と言えば当然の事だろう。
とはいえ、だからと言って下の人間をないがしろにしている訳では勿論ない。
具体的には、流石になんの実績も無い新人トレーナーやサブトレーナーに関しては、合同トレーニングを監督する教官や一般の学園教員が仕事をする職員室に纏めて押し込まれてしまうモノの、それでも担当したウマ娘に一勝以上させる事さえできれば、トレーナーはトレーナー棟の個人用ワークスペースを利用することが出来るようになる。
だからと言って急激に何かが変わる訳では無いのだが、個人所有のトレーニング機材の管理場所や他のウマ娘、トレーナーに聞かれないよう作戦会議が出来るとなれば十分だろう。
「ありがとう、アルダン。
君が手伝ってくれたお陰で想定より早く引っ越しの作業が終わった」
故にこそ、メジロアルダンのメイクデビュー勝利によりその条件を満たした鳥林は、当然次の日にはその権利を行使し、それから二日後、同期の新人トレーナーと比していち早くトレーナー室を手に入れた。
「いえ、今後私も利用する場所ですからこのくらいはさせて下さい。それに、荷物自体も大した量ではありませんでしたから」
「そこは研修期間含めてまだ一年と少ししか勤続していないからだな。私物も少ない。
それはそうとどうする?もう作業も終わったし帰ってくれても構わないが、お茶でも飲んでいくか?」
まぁ人様に出せる様な良い茶葉が有る訳では無いんだが、とぼやく鳥林。
「まぁ!お茶会のお誘いですか。勿論断る訳がありませんが……私の舌は肥えていますよ?」
「やめてくれ、そんな重圧かけるのは……安物のティーパックしか無いから。
というか君、分かってて言ってるだろう?」
特に返答はせず、しかしにっこりと微笑むメジロアルダンに対し、鳥林は呆れた様に溜息を吐いた。
彼女は案外ノリが良いというか、からかうのが好きというか、そう言う所があるウマ娘だと言うことを、彼は最近になって理解してきていた。
「とは言え、茶葉云々以前に来客用の諸々が揃って無いのは普通に問題か……」
折り畳み式のパイプ机とパイプ椅子。
それが現状この部屋に来た客をもてなすための設備であり、メジロアルダンは特に文句を言うでも無くパイプ椅子に座っているモノの、育ちの良さ全開の彼女とパイプ椅子のミスマッチなその組み合わせは、鳥林の購買意欲を刺激するに足るモノであった。
「まぁ今日の夜辺り、適当にネット通販で色々注文しておくから、それが届くまでは我慢してくれ」
「茶葉やお菓子であれば私が家から持ってきましょうか?余っているので」
「いやいや、流石にそれは悪いだろう。
君の家にあるのなんて、余っているものでも相応の値段しそうだし」
「まぁ強く否定はしませんが……ですが本当に余っているので気になさらなくても大丈夫ですよ。
と言うより、去年は姉様の活躍で親戚から色々と送られてきて今でも置き場に困っていまして……寧ろ助けてやると思って引き取っていただけませんか?」
「う~ん、そう言われると確かに気にしなくても良い様な気もして来るが…とはいえそれは、君のお姉さん宛に送られて来たものなんだろう?そこはかとなく罪悪感が……」
机にティーパックで淹れた紅茶とカントリーマ〇ムを置きながら、鳥林は微妙な顔する。提案自体は有難いものであったのだが、それでもやはり、教え子から何かを貰うと言うのは中々どうして良心が咎めるらしい。
「気にし過ぎですよ。
私もそうですが、姉様も殆ど家に帰らないので、こうでもしないと消費され無いんです」
「……んー、そこまで言ってくれるなら頼もうか。
正直に言えば、来客用のお菓子なんて何を選ぶのが正解とか知らんからな。助かると言えば助かる」
「ではそのように。
次に帰省した時にでも――」
ふと、不自然な所で言葉が切れ、何か思案するように虚空をぼうっと見つめるメジロアルダン
「どうかしたか?
別に、改めて考えて無理そうなら撤回してくれても構わないが?」
「いえ、そうでは無く。そう言えば後日おばあさまや使用人の方々がメイクデビューに勝利した祝勝会を開いてくれると言っていたのを思い出して」
「良いじゃないか、仲が良くて。
事前に日付を言ってくれるならその日をオフにしても構わんぞ?
(……まぁ祝ってくれる人間の中に両親が加わっていないのが、少し闇を感じないでも無いが)」
とはいえメジロアルダンと両親の確執など、鳥林にとっては今更の事であった。
先日も、一勝出来て良い記念が出来たからもう引退しても良いんじゃないか、と連絡が有ったらしい。
(気持ちは理解出来なくも無いんだがなぁ……
実際俺に病弱の子供がいたとして、エベレストに無酸素登頂したいです、とか言われても絶対反対する。どうしても止めれないなら、事あるごとに帰って来るよう提案するのも、まぁ分かる)
もっとも、だからと言って同意できるものでも無いのだが。
選抜レースのあの日、鳥林は確かに彼女の走りに魅せられたのだ。
~閑話休題~
「――それで、その祝勝会なのですが、どうせならトレーナーさんもいらっしゃいませんか?」
「……んン?
急に変な方向に話が飛んだな。なんでそうなる?」
あまりに唐突なその提案に、心底意味が分からないと疑問符を頭に浮かべる鳥林。
「そこまで変な話でしょうか?
先日の勝利はトレーナーさんの御助力有ってのモノ。私だけ祝われるのは片手落ちだと思って提案したのですが?」
「言い過ぎだ、どう考えても。
あの勝利は君がこれまで十数年しっかりと積み重ねてきたモノの結晶で、ここ半年、ちょっとトレーニングに付き添っただけの俺が及ぼした影響なんてミリに等しい」
「…卑下し過ぎでは無いでしょうか?
確かに私が幼い頃からトレーニングに勤しんでいたのは確かです。本格化してからまだ半年しか経っていない現在であれば、その影響の比率が高いと言うのも認めましょう。
ですが、この早い時期に私の足のコンディションをレースに出せる所まで持ってきたのは間違いなくトレーナーさんの功績です。違いますか?」
違う、と即座に返せなかったのは、かつての世界に居た"彼"の新馬戦が遅れに遅れ、クラシックの三月に漸く走れるようになったことを知っているが故。
無論、それすらも彼女が十数年続けて来た食事による体質改善と最高効率のトレーニングを模索によるものだと言い張る事も出来なくは無かったのだが、目の前の彼女の何処か怒ったような、悲しんでいる様な顔を見ているとそんな気持ちもしぼんでいった。
「別に卑下してる訳では無いんだがな……。
ほら、今年の一月に他ならぬ君から過去のトレーニングデータやら故障した記録やらを貰っただろう?
そこから垣間見える君の苦労を考えると、どうもここ半年程度の俺の助力を誇るなんて烏滸がましく思えてな。
それに、どうせ今回祝勝会に出て来る人って言うのは、幼いころの君をサポートしてくれた人たちが主体なんだろう?そんな人たちが居る所に『私がメジロアルダンのトレーナーです!私が彼女を勝たせました!』みたいな顔して出席するとかちょっと厚顔無恥が過ぎると言うか……なぁ?」
「……そんなことを考えていたんですか?
と言うかそこまでお考えになっているので有れば、彼等と摩擦が起きるようなことも無いと思いますけれど……」
「まだ有る。
君が知っているかは知らないが、君が入院している時に家庭訪問に行ったことが有ってな、その時対応してくれた『おばあさま』とやらと色々……本当に色々と喋ったんだ。
あの時は許されたが、ぶっちゃけ今後メジロ本邸の門を潜って無事に戻って来れる自信がない」
「それはどう考えても考え過ぎです……。
勿論家庭訪問に来たと言うのは(その会話の内容まで)知っていますが、別段おばあさまは怒っておられませんでしたよ?――癖が強そうだとは仰っていましたが」
大袈裟に怖がって見せる鳥林であったが、そんな見せかけが通用するはずも無く。結局数日後、ウマ娘に勝てるはずも無い彼はメジロアルダンに確保され、二度目のメジロ家訪問を経験することになるのであった。
有馬記念、武豊凄かったですね。勿論ドウデュースも凄かったですが、あの人何時になったら全盛期終わるんでしょうか……