成果は新年サトちゃんとドゥラメンテが各一枚でした。
それと、もうすぐ大学が再開する+再開直後にテスト期間なのでまた投稿頻度落ちると思います。二月になれば収まると思うので気長に待っていただけたら幸いです。
『さぁ完全に抜けました!ディクタストライカ!ディクタストライカ!!
既に二番手には五~六バ身の差を付けている!二番手にはトウショウマリオ!三番手も追って来るが!しかし、先頭は完全にディクタストライカ!!
――ディクタストライカ、ゴールイン!!九バ身差の圧勝です!!!』
一瞬の沈黙と、直後の歓声。
――余りにも強い走りだった。
――余りにも暴力的なレースだった。
空は生憎の曇天が空を覆っているけれど――関係ない。
太陽は今、地上に有るのだから。
黄色のパーカーに身を包んだその栗毛のウマ娘の走りは、太陽なんて目じゃない程鮮烈で、真夏の函館レース場を、熱狂の渦へと叩きこんでいた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「あれ、奈瀬さんじゃん」
「うん?」
「クリークさん?」
「まぁ」
八月九日。
夏も真っ盛りのその日、とある目的から合宿中の拠点としている伊達市からほど近い場所――北海道基準。実際の移動距離は約130km以上――にある函館レース場を訪れていた鳥林とメジロアルダンはそこで知っている顔に遭遇した。
「……どうも、鳥林さん」
そう彼の呼び掛けに返事をする人物の名は奈瀬文乃。150cmと小柄な身長と、上下で紫と黒に別れた割とファンキーな髪色が特徴の女性だ。
全国統一中学生テスト一位、国立大学への飛び入学、卒業後、独学でのトレーナー試験合格――名トレーナーとして有名な父が居るにも拘らず――など、あらゆる難関をストレート、且つ優秀な成績で通過。
――「天才」
奈瀬を知った凡夫はそう囁く――彼女の中で一等輝く、トレーナーとしての素質も知らずに。
「それと、そちらの君はメジロアルダン、で良かったかな?」
「はい、初めまして奈瀬トレーナー。お噂はかねがね。
まさか私の事を知っていらっしゃるとは思いませんでしたが」
「この間の新バ戦……と言うには聊か時も経ち過ぎているけれど、兎に角強い勝ち方だったから、それから注目している。
他にも、クリークが学校の話をしてくれる時に偶に名前が上がるからね。……それに――」
一瞬鳥林とメジロアルダンを見ながら逡巡するような顔をする奈瀬。
どうかしたのですか?、と問いかけるメジロアルダンに対し、彼女は意を決したような表情に口を開いた。
「――それに、鳥林さんがメジロ家のお嬢様を誑かした、なんて言う話は同期の中でそれなりに有名だ。
流石に抜け駆けで素質バを搔っ攫って行った同期への文句兼激励の類だとは思っているけれど、実際のところどうなんだい?」
飛んで来た余りにも余りな質問に、当然ながら一番焦ったのは鳥林だ。
そんな噂が仮に例の"おばアサマ"の元まで聞こえるようになればどうなるか。流石に事情聴取の猶予が付く程度の信用は稼いでいると思っているものの、それでも好き好んではあの女傑の前に出頭しに行きたくはない。
「無いからな?そんな事実は。
というか、ガチならメジロの家が動いて俺なんて今頃笠松行きだ。
ほら、アルダンからも正しい事実を教えてやってくれ」
「……まぁ、そうですね。
噂は所詮噂。トレーナーさんは、何時も適切な距離感で以って指導してくれていますよ」
一瞬生まれた"間"に、何か不審なモノを感じる奈瀬。
しかし、本人であるメジロアルダンが否定している以上どうしようもない。
そうですか、と。一先ずは押し黙る事にした。
なお、これまでの発言やお休みの日に言ったお出かけの事を上げて鳥林の反応を楽しもうか、なんてことをあの一瞬で考えていたメジロアルダンであったのだが、しかしその結果として、今後二人でのお出かけが減ったり、或いは有り触れた賛辞しか言ってくれなくなったら事である。
彼女は、後先考えられるウマ娘であった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「それにしても、クリークさんは残念でしたね、先日の新バ戦。
熱を出された、と聞いていますが、お体はもう大丈夫なのでしょうか?」
スタンドにて、せっかくなので一緒に観戦しませんか?とスーパークリークの隣に着席したメジロアルダンが話題に挙げたのは、目の前に居る学友の不幸な出来事についてであった。
というのも、スーパークリークは今夏のデビューを目指し、実際こうして北海道は函館まではるばるやってきた訳なのだが、レース前日に熱発。敢え無く出走を回避する運びとなった経緯がある。
「えぇ、何とか。
診察して頂いたお医者さん曰く、慣れない長距離移動やレース前の緊張、後急な気温の変化に体が対応しきれなかったんだろう、と。
そのせいで、トレーナーさんの期待を裏切ってしまいました……学園に戻ったら、今度は精神面から鍛えなおすつもりです」
「そう気負わないでくれ、クリーク。
そもそも先日の熱発は僕のミスだ。レースに勝てるか否かだけを考えていて、その他の負担をまるで考慮に入れていなかった」
「いえ、アレは私が――」
「いいや、僕のせいだ――」
罪の所在を押し付け合うのではなく、何故か逆に奪い合おうとしだす二人。
有る種滑稽にも見えるが、しかし傍から見ている人間としては何とも不毛だ。
どうしましょうか、と問いかける教え子の視線に、鳥林は任せておけと視線を返した。
「態々片方だけが罪を被って、片方だけが今後を改めようとする必要も無いだろ。
各々改める所があると自覚したなら、両方がそれぞれに改善すれば良い筈だ。違うか?」
正直、鳥林自身としては奈瀬のミスではという思いも有った。
気温変化への耐性は担当してまだ一年目だから仕方ないにしても、メンタルコントロールは――正直そこら辺滅茶苦茶楽してる彼が言えたことでは無いけれど――トレーナーの仕事の範疇だと認識しているからだ。
――とはいえ、今ここでそんなことを言い出してもスーパークリークが気に病むのは目に見えている。故にこそ、鳥林は喧嘩両成敗で玉虫色の収め方を選んだ。
互いが互いに反省しているのであれば、そういう結末も無しでは無いだろう。
「それは…確かにその通りかもしれないが……いや、意地を張るべきところでも無いか。
分かったクリーク、君には確かに精神的に弱い面が有ったんだろう。学園に戻ったら、レースに必要な闘争心だけでじゃなくて、レースまで途切れないタフな精神も育んでいこうか」
「…分かりました、私もトレーナーさんが失敗したことを認めます。
これからは、お互いに悪かった所をよくしていきましょうね」
ホッと安堵のため息を漏らしたのはメジロアルダンだ。当然ながら自身の出した話題でクラスメイトとそのトレーナーとの関係がぎくしゃくするのは彼女の本意では無い。
丸く収まってくれて良かった、と言うのが心の内である。
それからしばらくの間、レースを見ながら前日にここで新バ戦を走っていたサクラチヨノオーの映像――無論勝ったのはチヨノオー――などを見ながら時間を潰し、そして遂に、今日のメインレースである巴賞(OP)――ではなく、第3Rは芝1200Mで争われるジュニア級の新バ戦が開催される。
――鳥林とメジロアルダンの、加えて、奈瀬とスーパークリークのお目当ての、だ。
まず最初にパドックに現れたのは一番、トウショウマリオ。
――悪くない。
と言うのがトレーナー陣二人の評価であった。物足りない部分は有るものの、それでも十分に充実したバ体。自分の担当の走るレースに出てこられたとして、負けるとは口が裂けても言わないが、とは言え直線に入って同じタイミングでヨーイドンとはさせたく無いような、リソースが余っているなら対策させておきたいような、そんなレベル。
続いて二番、レジェンドシチーから五番、ベルモントミーまで紹介されて行くが目に留まるような娘は特に居らず、そして来たりし六番。
呼ばれしその名は――ディクタストライカ。
一応言っておくと、現時点で世間からの彼女の評価が滅茶苦茶高い、なんていう事実は存在し無い。ウマ娘レースを取り扱う雑誌の隅の方で『今後が楽しみな素質バの一人』と言う評価は受けているが、それだけだ。
事実、一番人気では有るものの、応援券の購入数的には二番人気のトウショウマリオとほとんど差が無い。
しかし、トレセン学園の中だけで言えば――流石に本職のトレーナー連中や、加えてある程度の相バ眼を有しているウマ娘達は気付いている。あの娘は強い、と。
実際校内の模擬レースによく参加して、そして勝っているのだからその分析はなんら間違いでは無いと言えるだろう。
しかし、模擬レースは模擬レースだ。
本チャンのレースと比べて――それこそ比較対象が新バ戦であろうと――その強度は比べるべくもない。
――彼女の本気を知りたい。
そう思うのは当然で――そして、知られたくないと思うのも当然で。
故にこそ函館だ。本州から海1つを隔てた、おおいなる北の大地だ。
無論、それだけが理由でも無いのだが、とは言え鳥林や奈瀬の様に『地続きで行けるのなら見に行く』という連中が実際来ている以上、本州で走らなかったその判断は英断だったと言えるだろう。
なんなら、昨年凱旋門賞後にフランスから帰って来て、そのままストレートで日本のトレーナー試験に合格した――つまりは鳥林や奈瀬の同期――帰国子女、明石椿※1だってこのレース場にディクタストライカを観戦しに来ている。――彼女がサブトレーナーを務める、チームアルケスのサクラチヨノオーを伴って。
もっともこれに関しては、前日入りしていたディクタストライカの方もサクラチヨノオーの新バ戦を応援兼観戦に来ていたので或る意味フェアと言えるだろう。
なお、本気を見せ切らないようバレない程度に手を抜くよう指示すれば良いのでは?という質問に意味は無い、というか無粋だ。
日本に生まれた、ほぼほぼ全てのウマ娘が走る事を夢見るトゥインクルシリーズ。その第一歩目。
よっぽどの策略家なら兎も角、バトルジャンキーと言えるレベルで闘争心の高いディクタストライカに抑えられるわけがない。
そうして、七番、ヤエシバオーの紹介が終わった後、レース場に移ったウマ娘達が、続々とゲートへと入って行く。
最後に、少しまごついたものの二番、レジェンドシチーが収まって――
『スタートしました!好スタートを見せたのはヤエシバオー。少しファイブセツザン遅れたか!?
向こう正面、先行競り合いはヤエシバオーと、内からトウショウマリオが伸びて来る。伸びて来る!グングン行ってそのまま先頭。
二番手争いは、ヤエシバオーと、外からディクタストライカ。ディクタストライカが三番手。この三人が先頭集団を形成して、後は三~四、五バ身遅れまして――』
「……後ろはもう無いとして、ヤエシバオーのスタートが良かった。
あれでディクタストライカは内に入れてない。対してトウショウマリオは枠順の有利を利用して最内を走れている……勝てると思うか?トウショウマリオは」
鳥林からのその問いかけに対し、しかし奈瀬は首を横に振った。
「無理だ。絶対能力が違い過ぎる。
今彼女が先頭を維持しているのだって、ディクタストライカが"普通"に走っているのに対して、彼女が足を使っているからに過ぎない。
1200Mは息を吐く間もない短期決戦、拮抗が破られるのは――――直ぐだ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
最初に落ちたのは、二番手を走っていたヤエシバオーだった。
『絶対能力の違い』。それは、ディクタストライカとトウショウマリオの間にだけ有るものでは無い。トウショウマリオと、他の出走ウマ娘全ての間にも存在している。
ヤエシバオーがディクタストライカとトウショウマリオの競り合いについて行くには、圧倒的な好スタートを決めたにもかかわらずほぼ全力の足を使う必要があったのだ。
当然全力での疾走がそう長く続くはずも無く、無情にも、ズルズルと後ろへ後退していく。
ディクタストライカの内に空いた一人分のスペース。
トウショウマリオは、これまで自身に向いていた展開が徐々に相手方に向かうのを鋭敏に感じ取って――
――そして、展開などに意にも介さぬ、絶対の足音に絶望した。
関係無かったのだ。一人分、内に入れるか否かなど。
残り600Mを切ったとは言え、まだ三コーナー半ば、加えて、坂も在ると言うのに、これまで先行で走って来たと言うのに――
――関係無いとばかりに、ドンドン速度を上げていくディクタストライカ。
無論、荒い彼女のコーナリング技術では無駄に大外を回る不利を負うものの、それでもなお、彼女の足は止まらない。減速しない。
直線に入って来た時にはもう後のトウショウマリオとは三馬身の差が付いており、何とか後続に抜かされないようペースを維持するしか出来ない彼女に対し、ディクタストライカは堂々足る走りで加速を続け、そして――
『さぁ完全に抜けました!ディクタストライカ!ディクタストライカ!!
既に二番手には五~六バ身の差を付けている!二番手にはトウショウマリオ!三番手も追って来るが!しかし、先頭は完全にディクタストライカ!!
――ディクタストライカ、ゴールイン!!九バ身差の圧勝です!!!』
その虐殺とすら呼べる圧勝劇に、しかし熱狂するのがこの世界の人間だ。
新しいスターの誕生に立ち会えたその興奮のまま、彼等、彼女等は歓声を上げ、勝者を称える。
「…ディクタストライカ……強いのは分かっていたが、ここまでの相手か」
「それにあれが"底"と言う訳でも無さそうだ。此方の見たいものを見れなかった。
本当にただ強さを見せられただけで収穫が無い」
「見たいもの、ですか?」
苦々しい奈瀬の声に、スーパークリークが問いかける。
「控えての末脚。その切れ味を見たかった。
残念ながら、ただフィジカルでの横綱相撲を見せられた形になったけどね」
「だから底は見せていない、ということですか……」
「……どこで当たるかは知らんが、それまでに彼女が色々吐き出さざるを得ないようなレースが有ることを願うしか無いわな。
次に走るとしたら……こんだけここで走れるなら函館ジュニアステークスあたりか?」
「……?
トレーナーさん、函館ジュニアステークスは"先月の半ばにもう終わっていますよ?"」
教え子からの指摘に、一瞬フリーズする鳥林。
そして思い出す。
この世界では、開催されるレースの種類やその日程が微妙に令和準拠になっていることを。
「あ、あぁ、そうだったそうだった。悪いな、変なことを言って。
となると小倉ジュニアステークスとかか?重賞に挑まず洋芝をまた試したいってんならすずらん賞も有り得るが……」
「まぁその辺りだろうね。
意表を突いて他のレースに、と言うことも有るかもしれないがあの強さだ。搦め手を使う意味も薄い……というか寧ろ変な所を走らせるのは逆に隙になる。
ジュニアG1か、或いはクラシック三冠を目標に徐々に距離延長をして来るとは思うけど、さて猶予はどれだけ有るだろうか……」
自分達から見に来たとは言え、いざ難敵を前にしてみると鳥林と奈瀬の気は否応無しに重くなるのであった。
因みにウマ娘世界にはレース実況にあからさまにG180勝ジョッキーフェイスの人が居るので、今の所鳥林は彼こそが武某のウマソウルが宿った存在だと思っています。
なお、件のG180勝ジョッキーはディープインパクト産駒らしいのでウマソウルが此方の世界に飛んで来ることに何ら不思議はありません。