ガラスの小鳥は轍を刻む   作:昭和のパンサラッサ

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新友人サポカが全然出ないので初投稿です。

誰だよ二月になったら投稿間隔元に戻るとか言ってた馬鹿は。
スーツ代、引っ越し代、アパートの賃料及び敷金礼金と、四月からの新生活に向けて糞程お金が要るのを失念してました。お陰で現在はバイト漬けの日々です。

ちょくちょく更新できるようには頑張りますが生活が落ち着くまでは気長に待っていてください。


二十三話

『姉様をレースに出ないよう説得してくれ、ですか?』

 

 かつて姉に引き合わせる為レース場まで連れて行った男性、河平トレーナーの言っていることが、最初私には理解できませんでした。

 

 なにせその頃の姉様と言えばメイクデビューの約一か月後に走った初の重賞、京王杯ジュニアステークス京成杯3歳Sで他の走者と接触を起こしてレース後の検査で骨膜炎ソエが発覚、さらに疝痛腹部臓器の異常まで併発していたからです。

 

 言うまでも無くレースへ出走するなんて以ての外。トレーニングすら控えるべき状態であり、『クラシック期は体作りに専念したいからレースの出走を我慢するよう説得してくれ』と言うのであれば理解できる話でしたが、『一月以内にプレオープン条件戦を走ろうとしているから出ないよう説得してくれ』なんていう話はあまりに荒唐無稽で、当時の私からすれば『有り得ない』想定の話でした。

 

 失礼ながら、私は姉のトレーナーである彼が担当を故障させてしまったショックで妄想と現実の区別が付かなくなっているのではないかと心配したほどです。

 

 ――無論、私とて姉様の妄執とも言えるレースへの想いを知らないわけではありません。

 レース観戦の折、度々見せる熱に充てられた様な表情を思い出せば『若しかして…?』という気持ちが湧いて来なくも有りませんでいたが、それでも想いで現実を超えられるなら私達は幼い頃にあれだけ我慢を強いられる必要は無かったはずです。

 

 『有り得ない』、と。

 何度考えてもその結論に行きつきました。

 

 果たして、十一月の少し肌寒く感じる学園のグランドには、そこには他のウマ娘達に紛れて力強くターフを蹴る一人の青鹿毛のウマ娘の姿が。

 

 ――姉様はまだ走れるのだという安堵

 

 ――記憶にあるモノより幾分か痩せた姿への心配

 

 ――足を止めず先を行く者への嫉妬

 

 ――いつか自分もという憧憬

 

 他にも一言で纏めるには余りに雑多な感情が私の中に生まれては消えて行き、気付けば私は"何がそこまで駆り立てるのですか?"という至極面白みのない質問を口から零していました。

 

『阪神JF…ジュニア世代のウマ娘達が、己の全てを賭して最強を証明しようとするあのレースで、私は私の愛を証明する――そのためよ』 

 

 返って来た言葉はプレオープン戦どころの話では無く、それを足掛け賞金加算とみなしてのジュニアG1へ挑戦しようという野心的な意気込み。

 

 故障があろうと欠片もへこたれた様子の無い姉様の姿を何処か嬉しく思いつつ、しかし私の頭の冷静な部分は言います。

 

 ――無理だ、と。

 

 聞く限り姉様は復帰は十一月末の白菊賞を考えており、仮にそこを突破できたとしても阪神JFはその二週間後。

 故障が無くても中々に過密で厳しいそのスケジュールを、故障から治ったばかり――本当に治ったかすら疑わしい状況でしたが、信じられないことに河平トレーナーが言うには走る分には問題ないとのこと――の姉様が無事に完走できるとはとても思いませんでした。

 

 当然それは"走るだけなら問題ない"と言っていた河平トレーナーも同様で、彼は気持ちは理解できる故諫めるべきか迷っていた私とは反対に強硬に姉様のレース計画を否定し続けていました。

 しかしその反発も、日に日に力が漲って行く姉様のバ体を前に陥落。

 

 曰く『一歩ずつ歩を進める彼女を間近で見ていたせいで、それが無駄になって欲しくないと思ってしまった』とのことですが、結局姉様は阪神JFを優勝。

 

 クラシック期以降に重賞を五勝する事になるダイナフェアリーさんを下し、キャリア四戦目にして重賞制覇、G1優勝を成し遂げました。

 

 後に、どうしてあの困難な道のりを踏破する事が出来たのか気になって姉様に聞いてみると、あの人は別段特別なことをした訳では無いと言います。

 

『途中で躓く可能性は確かにあった。

けれどだからと言って収得賞金を積まずトレーニングも休んでいるようでは阪神JFで勝つ可能性は、なんなら出走できる可能性だって0%のままよ。

だから私はその確率が少しでも上がるように行動して、し続けて、結果阪神JFで勝つことが出来た。アレは本当にただそれだけの話。

良いこと、たとえどれだけ進む道が困難でも、歩き続ければその分だけゴールに近づくことが出来るの。逆に一歩も歩かないなら距離はそのままで、絶対にゴールにたどり着くことは無い……他の娘に先を越されることでしょうね。

――だからねアルダン。案ずるより、先ず最初に歩き出しなさい。

失敗する可能性を考えるより先に一歩前に出てみて、失敗した後の事を考えるより先に二歩目を踏み出しなさい』

 

 ――゛出来ない゛なんて言葉は、歩いてみて初めて言って良い言葉よ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 10月半ばに行われた中京レース場でのドリームリーグレース。

 そこで走っている姉の姿を見て、メジロアルダンは過日の姉の言葉を思い出していた。

 

 別段目の前で繰り広げられるレースでメジロラモーヌが何か印象的な走りをしたわけではない。

 

 ただ、昔から変わらぬ熱量を示しながら今は大舞台で走っている姉に、それでも自分と同じくジュニア期があった事を思い出して、そしてジュニアG1を出るに当たっては自分より困難な状況だったことに気が付いたのだ。

 

 出ようと思えば余程何か問題が無い限りは出して貰えるであろう自分と、プレオープンを獲っても若干怪しかった姉。

 リハビリ期間が取れず、尚且つ連戦を熟さなければならなかった姉と、リハビリどころか十分に体作りの期間すら考慮できる自分。

 

 無論、出れたところで勝てるかどうかは別の話なのだが、それでも゛歩き始めるための勇気゛は、メジロアルダンの方が圧倒的に少なくて済むはずだ。

 

(――なのに何故、こんな所で私は足踏みしているのでしょう)

 

 メジロアルダンは鳥林がトレーニング中に故障させてしまうかもしれないと言ったことを思い出す。

 

 恐らくそれは正しいのだろう。

 彼女自身、幾ら覚悟を決めていてもソレ骨折を忌避する感情自体はちゃんとある。

 

 しかしそれが起こり得るのは、あくまでディクタストライカを相手どるための体作りをすればの話だ。

 

 ――であれば足が限界を迎えない程度の、余裕を見た調整をして貰えれば良い。

 

(分かっていた筈です。

レースはいつでも自分の思い描いた状態で走れるわけではない、なんてことは)

 

 別段トレーニング自体を禁止されている訳では無い。

 特別危険な道を封鎖されて、その上で他の道も困難が伴うから無理する必要は無いんじゃないかと、そう言われただけだ。

 

 ――確かに無理をする必要は無いのかもしれない。

 それでも、その先の景色を見たいと願ったのであれば――そして彼方への道が足元から伸びているのであれば――やはり足を止めることは出来そうに無いと、メジロアルダンはそう思った。  

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

『先ずは一日でも早くリハビリを終わらせます。

その後期間に余裕があるようならディクタさんに力で勝つための体作りをして、余裕が無いならG1に出るための最低限の体作りと、後は並行してディクタさんに全力を出させない為の策を考えます』

 

 中京から帰って来た自身の担当の口から発せられたその言葉に、この頃よく物憂げな顔する担当の気晴らしになればと思って送り出した鳥林は、気晴らしの成功と、そして成功し過ぎたことを察した。

 

 とはいえやる気になってる所を止める訳にもいかないし、また止める必要が有る程無茶をしている訳でも無い。

 

 そんな中聞こえて来る目下最大の仮想敵であるディクタストライカがオープン戦を突破したという情報。

 ライバル躍進の報を耳にして何時もより機嫌がよくなるメジロアルダンを前に、鳥林は現在のリハビリ状況と合わせてジュニアG1への出走が不可避の未来になる事を渋々ながらも理解せざるを得なかった。

 

「――それで仮に走るとして、どっちで闘り合うつもりなんだ?」

 

 走ることが半ば決まっているなら当然早い内から対策を練っておいた方が良い訳だが、三つのジュニアG1の内二つは距離と、そして開催場所が同じだ。

 

 故に阪神JFと朝日杯FSが開催される阪神レース場と、ホープフルステークスが開催される中山レース場、何方で闘うのかを聞いた――訳では無い。

 1800Mで罅が入った足をその復帰戦で距離延長――且つG1挑戦――させるなんて認められるはずも無く、仮想敵として認識しているディクタストライカの適距離がマイルなことは分かっていても出走するレースは阪神JFか朝日杯FSが既定路線だった。

 

 因みに、遠い世界では牝馬限定戦になっていた阪神JFだが、しかし言うまでも無く同レースに出るようなウマ娘は例外なく『若いジュブナイル女性フィリーズ』だ。

 

 故にこそ、朝日杯FSと阪神JFはその前身となった阪神ジュニアSや朝日杯ジュニアSの伝統を受け継いで、未だ『寮杯』の気質が色濃く残っているのだが、生憎とメジロアルダンとディクタストライカは別々の寮に属している。

 無論、別に栗東のウマ娘が朝日杯FSに出走することを止める規定は無いし、それは阪神JFに美浦寮のメジロアルダンが出走することも同様なのだが、とはいえそんなことをすればメンバー的にアウェー感を味わうだけでなく、仮に高人気を背負おうものなら『寮杯』に割って入って来る外敵扱いされることは避けられないだろう。

 

(まぁそれだって考え方次第なんだが……)

 

 警戒されているというのは、それだけ注目されている事でもある。上手くやればペースメーカーになる事も出来なくは無いだろう。

 

(まぁ前走の終始自分の主張を通し続けた札幌ジュニアステークスを見て、そう簡単にアルダンに主導権を渡してくれるとも思わんがな……)

 

 鳥林がそんなことを考える中、メジロアルダンが口を開いた。

 

「私の出たいと思っているレースは――」

 




因みにメジロラモーヌが疝痛+骨膜炎から十一月末のオープン戦に勝利してそこから二週間後に重賞を制覇したのは史実です。

当時は阪神JFが無いのでそこに勝ったというのは盛りましたが、この姉ちょっと規格外過ぎる……。

なお阪神JFと朝日杯FSの伝統に関しては前身の朝日杯3歳Sと阪神3歳Sがそれぞれ東西の3歳(2歳)チャンピオン決定戦だったらしいのでそこから。
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