投稿間隔が空いた理由ですが、バイトと引っ越し、後花粉症で死んでいました。
花粉は今も辛いし、慣れない新生活でまだまだ以前の投稿速頻度には戻せそうも有りませんが、今後も気長に待っていただけると幸いです。
ガチャン!というゲートの音と共に、十と五つの影が駆け出していく。
出走している者は全員、今年デビューしてもう既に一勝以上を上げた新進気鋭の若武者たちだ。
人生初の大舞台の為、固くなっている者もいるには居たが、それでも出遅れる者は存在しない。
『さぁ、次世代の王に名乗りを上げるのは誰になるのか。
来年に向け己を示す一戦です――朝日杯FSスタートしました!』
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向こう正面半ばに設置されたゲート、その最内から駆け出していく自身の担当、メジロアルダンの姿を見て、鳥林は一先ず安堵の息を吐いた。
発走してしまえば、レースが終わるまでトレーナーと言えど出来ることは凡百の観客と同化して担当を応援する事に限られる。
この二ヵ月程、ひたすらに気を張り、担当を壊さないよう取り組み続けたトレーナー業務から、一時とは言え解放されたが故の安堵であった。
(…何とかここ迄は持ってきた……持ってこれた。
ぶっちゃけ4㎏くらい体重落ちたけど…まぁ今は良い。後はどこまで相手を封殺してこっちの意見を通せるかだが……)
苦労の甲斐あってか、メジロアルダンの調子は間違いなく良い。バ体も、故障期間があったことを差し引きしても多少お釣りが出る程度には仕上がっており、流石に夏休みの全てを使ってコンディションを上げて行った札幌ジュニアステークスの時とは比べるべくも無いモノの、それでも余程のアクシデントが無い限り掲示板は固いと、鳥林はそう思っていた――
――否、メジロアルダンだけでなく、自身とて初のG1挑戦なのだ。
直近一週間の彼女の仕上がりを見て『あれ?これもしかしたら…もしかするんじゃないか?』なんてことを思い、掛かり気味になっても不思議はなく、だからと言って流石にアルダンに対して限界ギリギリのトレーニングを課したりはしなかったものの、それでも何とか彼女の勝ちの目を増やそうと、徹夜してレースの展開予想や対戦相手の研究に時間を費やし、またその対策を考えてきた。
そんな訳で減った体重の内、半分ほどは割と自業自得だったりするのだが、しかしその欲は、先刻行われたパドックの選手紹介にて木っ端微塵に蹴り飛ばされることとなる。
(もうちょっとくらい手心と言うか…油断してくれると嬉しかったんだがなぁ……)
丁度ターフビジョンに、栗毛尾花のウマ娘が映し出される。
勝負服として新しく支給されたが故だろう、何時も着ている゛よれた゛ものとは違う、真新しい黄色のパーカーに身を包んだそのウマ娘の肉体は、何処からどう見ても仕上がっていた。
それは素人目に見ても分かる事であったようで、事前の応援券の売り上げにおいては其処迄離されていなかったディクタストライカとメジロアルダンの人気はすっかりディクタストライカの方に傾いてしまっている。
それによって、今現在鳥林の隣で声を張り上げているお転婆メイドが常にも増して騒々しくなる被害がでたりしたのだが、元々レース場とは騒々しい場所である。気にしなくても良いことだろう。
(まぁ、良い……地力で劣るかもしれない、なんてことは分かっていた。つまり想定内だ。
サクラチヨノオーがいないだけ想定よりだいぶマシとすら言える)
そう、ディクタストライカが(面子的に)アウェー感を味わってくれることなどを期待して朝日杯FSに出走することを決定した鳥林とメジロアルダンであったが、しかしその選択は゛鳥林からすれば゛鬼門でもあった。
言うまでも無く、サクラチヨノオーが原因である。
今年、彼女の親戚であるサクラスターオーが獲得した大量のサクラ冠ファンや、同じく彼女の親戚であるマルゼンスキーを称える往年のファンのせいで大分下駄を履かされた評価を付けられることが多いサクラチヨノオーではあるのだが、とはいえそれらの評価は全くの的外れと言う訳では無い。
直近のレースであるサウジアラビアロイヤルカップこそ不良バ場や前壁と言った不幸が原因で二着に敗れてしまったものの、それでも鳥林は、自身の記憶云々を抜きにしても確かな脅威を感じ取っていた。
故に不必要にぶつかるような状況は避けるか――
――或いは゛脅威だからこそ゛この大一番で一当てしてみるかと考えていたのだが、しかし蓋を開けてみれば重賞を連敗すれば世間からの評価が厳しくなると見た陣営の判断により、ディクタストライカもメジロアルダンも出走しない、つまるところメンバー的に薄くなると見られている阪神JFへの出走を表明。
無論ディクタストライカと同様殴り込みに来たと見られ、どうしたってある程度はマークされる事が目に見えている訳だが、それでもチヨノオーを擁するチームアルケスはディクタストライカと、そして割合は下がるもののメジロアルダンとのレースを回避することを選択をした。
――なおホープフルステークスはどうなんだという意見があるかもしれないが、ホープフルステークスが開催される中山レース場は、現在゛とある理由゛により担当を走らせる価値を感じていないトレーナーが多く――特にジュニア級のウマ娘を担当を持つ者ほどその傾向は強い――、チームアルケスの主任トレーナーである明石梧郎もそれは同じであった。
以上、複数の思惑が混ざり合った結果として、サクラチヨノオーとの対決は次回以降へと持ち越されたわけだが、それにより鳥林は安心したような、それでいて肩透かしを食らったような微妙な気分を味わうことになった。
(対抗バが消えたと嘆くべきか、或いは三つ巴を回避できたと喜ぶべきか……。
まぁとは言え、結局の所ディクタストライカがいる以上楽なレースは望めない。さて、ここから彼我の差をどれだけ埋められるか……)
再びターフビジョンに目をやれば、そこには何時もの体操服とは違う、美しいドレスに身を包んだメジロアルダンの姿が映っている。
何時もの意志の強そうなその横顔が、しかし今日だけはどうにも大人びて見えて。不覚にもドキリとした鳥林は、しかし次の瞬間、隣に居た天利サキが黄色い歓声によりその意識を現実に引き戻される。
『――先団の四番手には七番、エイコクライヒ…掛かっている様にも見えますがこれは作戦でしょうか?其処から一バ身離れて、さぁ二番人気はここに居ました、一番メジロアルダン。掛かっている様には見えませんが、しかし果敢に先行集団へと取りついて行きます――』
「……頑張れよ、アルダン」
なんて、呟いたその一言はレース場の喧騒に掻き消された。
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(ディクタさんは……流石にこの大一番で出遅れてくれる訳も有りませんか)
レース開始直後、最内のレーンから遥か遠くの大外の様子を窺ったメジロアルダンは、自分も含めて他と同じようなタイミングでゲートから飛び出したディクタストライカを視界に収めそんなことを考えた。
というのも、ディクタストライカがスタートがあまり得意でないというのは、まだまだ少ない彼女のレース映像から何とか捻り出した数少ない彼女の弱点であったためだ。
無論、そんな運任せで御祈りの要素を搦めてレース展開を考えるメジロアルダンでは無いものの、それでもレース前の肉体の仕上がりで既に圧倒されている。故に、彼我の天秤が少しでも水平に戻る可能性が有るならと確認したのだ。
加えて、今回彼女は最内からの発走だ。
左に首を振るだけで他の出走者の動向も全て視界に収められるとなれば、しない理由が無いだろう。
(抜きん出てスタートを決めた者はいないようですが……とは言え出遅れた方も居なさそうですね。
となると序盤は割と落ち着いた立ち上がりになるのでしょうか――)
「ちょっ!?いきなり寄って来んなよ!」
アルダンの思考を途中で遮って来たその声に目線だけ向けてみれば、そこには左からコースを被せられたせいで進路を失い、減速を余儀なくされた三番、オクシデントフォーの姿があった。
――本来、ここ阪神芝1,600М で熾烈位置取り争いと言うものは中々起こらない。スタートから最初のコーナーまで長々と続く約444Мの直線と、3コーナー手前で外に膨らむような形で設計されているコースが原因だ。
それでも
初のG1の舞台、これまでとは比較にならない程の重圧、観客、熱量、着慣れない勝負服の重さはまだ学生に過ぎない少女たちから正気を奪い、舞い上がらせるには十分すぎる代物であり、案の定オクシデントフォーの走路に走りこんで来た四番、シイナフレジュスは顔を真っ赤にさせ、明らかに掛かった様子を見せている。
G1で?と思うかもしれないが、なんせジュニアG1である。
出走している中には重賞は当然として未だオープンにすら手が届いていない、一勝クラスのウマ娘も普通に存在し、故にこそ、掛かって暴走とは言わずとも、早急に好位を確保しようと無理気味な進路を取ろうとする者や、その被害を受けてカッとなる者、奪われた不利分を取り戻そうと我武者羅に動く者などがごく当たり前に存在していた。
(ふむ…序盤から随分荒れそうなレース展開になりましたね。
枠順のお陰で片側の状況だけに気を配っていれば良いのは有難いですが、とは言えそれは隣が一人しかいないディクタさんにしたって似た様なものでしょう。……と言うか他の方々が冷静であれば、寮杯に殴りこんできて、且つ一番人気も搔っ攫っていった彼女は真っ先にマークされる身。寧ろ状況は彼女に利しているような……?)
と、そこまで考えてメジロアルダンは自身の弱気を否定する。
(いえ、レースが安穏に進めば、コースの特性上、結局序盤は楽をさせることになったはずです。
であるならば、多少なりとも集中力を使って常に状況を把握していなければ今の状況の方が゛削れる゛はず――)
「――そうですね、ここは楽をさせずに行きましょうか」
ディクタストライカにとっての楽とは、やはりスロー展開からの瞬発力勝負他ならない。
体力に余裕がある状態からのヨーイドン、そういう状況になってしまえば絶対に勝てないと、そう言っていた鳥林の言葉をメジロアルダンは思い出した。
多少先行して距離をとっていても、最終直線が450М以上あるこの阪神1600Мのコースでは追い付かれる、とも。
であるならば、狙うのは当然ハイペースのレース展開。
足を削りに削り、且つ息を吐かせぬままに最終直線を迎えさせる――それが理想。
すでに出走者の内複数人が掛かる、或いは視野狭窄に陥っている今の現状。真面に機能している体内時計を有しているウマ娘の人数を考えれば、それは不可能ではないように思えた。
(スタートから300М…混乱は有りますが、そろそろ隊列が決定する頃ですね)
徐々に左から内へと寄って来るウマ娘達を見て、メジロアルダンも動き出す。
レースのペースをある程度コントロール出来る先団に付けるため加速し、更に内に閉じ込められない様進路を僅かに外へと修正して幅の有る走路を確保する。
隣の二番、ツシマクランドが事前情報からの予想していた通り後方からのレースを選択したことやにより、バ群の隊列が決定される頃にはメジロアルダンは先行集団、その五番手という比較的好位を確保していた。
(さて、後は前の方々が素直にペースメーカーを譲ってくれるかですが……)
先頭を逃げているウマ娘を含め、メジロアルダン以外の先行集団は四名。
その内四番、シイナフレジュスと七番、エイコクライヒの二人は明らかに掛かっている様子で暴走気味であり、逃げ故にハナを主張し続けたい十二番、ドリコスランナーは諸にその煽りを喰らってかなりのハイペースで走らされている。
(この三人は放っておいても勝手にレースを高速化してくれそうですね。問題なのは……)
メジロアルダンは自分の一つ前、三番手を走っている十三番、シロガネレンワに目を向ける。
掛かっているシイナフレジェフとエイコクライヒに前後を挟まれながら走っている彼女はどうやら現状を歓迎している訳では無いようで、そこには後ろに居るエイコクライヒの進路を潰すようなコース取りをすることで強引に先行集団のペースを落としにかかっているシロガネレンワの姿があった。
(…エイコクライヒさんも行かせて良い様な気もしますが……いえ、確かエイコクライヒさんは上位人気でしたね。万が一にもそのまま逃げ切られることを警戒している、と言った所でしょうか)
加えて、上位人気を抑えておくことで自身がペースメーカーとしてレースの主導権を握る事まで考えていたのだが、しかし当然メジロアルダンからすればそんな構想は許容できるモノでは無い。
エイコクライヒが再び前に行こうとして、しかしシロガネレンワが再度進路を潰して控えさせた次の瞬間、後ろからエイコクライヒに並びかける゛ふり゛をすることにより、闘争心を煽り、シロガネレンワが休む隙を与えず仕掛けさせる。
次第にキャパオーバーに、そして゛熱く゛なっていくシロガネレンワ。
気付けば彼女は前を走るドリコスランナーやシイナフレジェフに迫らんとする速度で走っており、ソレに引っ張られる様にハイペースのレースが展開されていく。
(後は後ろがどれだけついて来ているかですが…)
コーナーを利用して後方へ目を向けるメジロアルダン。
隊列が伸びてきている様子が目に入るものの、そこは当然想定内。しかし――
(――本命のディクタさんは…あら?)
最後の直線が473Мある阪神1600Мのコースは差し切りが決まりやすく、後方からの差し追い込みを狙うウマ娘の割合が多い。瞬発力に強みを持つディクタストライカも当然そうして来るものだとメジロアルダンと、そして鳥林は予想していたのだが――
『八番手には十一番ステイシャーリーン。前走は逃げで勝ちましたが今日はまだバ群の中。
その外には九番、エルダンエックスがいて――おっと、十四番のディクタストライカがここで動いた。伸びたバ群の外を通って、一番人気のディクタストライカが中団まで上がってまいりました――』
朝日杯に関しては一応大枠は出来ていて、後は文字として出力するだけなので、何とか今週の土日には投稿したい(願望)