ガラスの小鳥は轍を刻む   作:昭和のパンサラッサ

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PCの充電器が死んだので初投稿です。
スマホやっぱり描きにくいですね…ワンチャン誤字祭りになってるかもだけど許して。



二十五話

 別に、レースに負けること自体は初めてじゃ無い。

 

 例えば模擬レース。

 同年代だけならともかく、上の世代との混合戦であれば、去年まで本格化を迎えていないオレは当然負けることも都度あった。

 

 或いはちびっ子ウマ娘レース。

 出走ウマ娘の身体能力を鑑み、小学校低学年以下であれば基本的に1000M以下しか走らないあのレースでスタートの出遅れは致命的だ。

 今にも増してゲートが苦手だったオレは、ここでもそれなりに負けを経験した。

 

 当然負けた時は悔しいと感じたし、時にはモノに当たって、そこいらの壁を蹴ったりもした――

 

 ――とはいえ、だ。

 

 その悔しさは、翌日に学校の男子達とサッカーをしていれば消える程度のモノでもあったこともまた事実だ。

 

 本気じゃなかった、なんてことを言うつもりは流石に無いが、かと言って死力を尽くして走ったわけでも、何か特別に事前の準備や努力をしていたわけでも無い。

 

 せいぜいが普段使わない、本番用のお高い蹄鉄シューズを履くくらいのものなのだが、今になって考えれば履きなれない靴を履いて走るというのは、なんなら弱体化の部類だろう。

 

 だから、初めてだった。

 

 ――『必勝』の意思で臨んだレースに負けたことが。

 

 ――確かに感じたはずの栄光皮算用を取り逃がすのが。

 

 ――何時迄経っても悔恨の炎が消えないことが。

 

 敗北を『刻まれる』――これまで違和感無く使っていた、その何処か仰々しい表現の真意を、オレは初めて理解した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

(――だから、柄にも無く研究ってやつをしてみたんだ。お前のことを)

 

 前方を走る淡い青色を見て、ディクタストライカは内心でそんなことを呟く。

 

(驚いたぜ。

なんせ普段の雰囲気に似合わず、レース中は積極的に妨害しまくってやがる。

相手の精神、肉体共に削った上で自分は自分のペースで走って、あとはスタミナが足りる位置まで来たら先行抜け出しでスパート。

……『やれることは全部やる』、正にそんな走りだ)

 

 ディクタストライカは、そこまでしない。

 

 素の身体能力が抜けていることを自覚している上、自身の末脚に絶対的な自信をもっているからだ。

 

 道中変に動いて目を付けられたり、或いはちょっかいをかけていた相手が最終直線で自分のコースに垂れて来たら寧ろその方が困る。

 

 無論、道中のポジション争いは大事だが、それだってディクタストライカは自身であれば大外一気で全て抜きされると思っているため、余程囲まれたりしない限りは流れに身を任せるのが常套だ。

 

 必要なのはバ群の隙間を見落とさない観察力と、何より見つけたその道の先に勝利があると信じて踏み込んでいけるだけの度胸。

 

(――そう考えて、札幌ジュニアSでは届かなかった。

だったら今度は、最初っから射程圏で狙い続けてやるよ!)

 

 言ってしまえばマークだが、とは言え終始張り付いて回る程厳しいマークをする訳ではない。

 

 なんせ一度負けたとは言えその差は僅か。

 もう後少しだけでも最終直線が長ければひっくり返っていたような差であり、そして266Mしか無かった札幌レース場の最終直線に比べ、ここ阪神レース場の最終直線は473Mだ。

 

 加えて、容易な先行逃げ切り勝ちを許さない高低差1.8mの急坂まで配置されているともなれば、ディクタストライカの担当トレーナーである小内が『対策なんて必要ありません。普通に走れば普通に勝てます』と、彼女を諫めたのも無理からぬ話だろう。

 

 ましてや件のメジロアルダンが、今回のレースが復帰戦である――ついでにトレーナーは担当をG1に出したこともない新人トレーナー――ともなれば尚更。

 

 それでも最終的に、彼が後方待機以外の作戦を認めたのは、一つは阪神のレース場がメジロアルダンに有利に作用することを警戒して。

 なんせ相手が芝よりもダートでトレーニングしている時間の方が長いことは、情報を集めればすぐに分かるのだ。相応のパワーは持っていると見るのが無難であり、故にこそ、万が一坂までに彼女を抜かせなかった場合は『もしも』があり得てしまうかもしれない。

 

 そしてもう一つ、栗東寮所属のディクタストライカが美浦寮の寮杯の一面を持つ朝日杯FSで一番人気を背負う影響を考慮に入れた結果である。

 どこまで妨害が飛んでくるか迄は流石に読めないものの、それでも一番人気だからと言って他の出走者が垂れる時、スパートをかける時に此方の進路を気にかけてくれるとは考え辛い。

 

 『不測の事態』のことを考えるなら、多少のスタミナ消費は割り切ってでも前目に付ける選択も全く理がないとは言えなかった。

 

『――それにまぁ、今はジュニア期です……クラシックやシニアに向けて色々試してみる、それもまた必要なことでしょう――――が、そうするからには勝ってきて下さい。

対策に対策を重ねた上で負けるのは、今よりもっと堪えますよ』

 

 そんな己のトレーナーの言を思い出して、レース中にも関わらず身震いするディクタストライカ。

 

 今でさえ時折むしゃくしゃして、見苦しくも『あの時こうしていれば』なんてことを考えると言うのに、それ以上に堪えるだなんて、いったい自分はどうなってしまうのだろうか?

 

(いいや、そうはならねぇ!

そんな日々を断ち切るために今、こうして走ってるんだろうが!)

 

「――今日はオレが刻む番だ」

 

 ボソリと呟いて加速するディクタストライカ。或いはそれは、見えないナニカから逃避している様にも見えたかもしれない。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ディクタストライカさんは中団からアルダンお嬢様の出方を窺う形でしょうか?どうなんです、この展開は?」

 

 パワフルに喧しく応援していた態度から一転、何処か心配気な様子で此方に問いを投げかける天利。

 

 鳥林は少し考えるような仕草を見せてから口を開いた

 

「――予想外なことは否めませんが、だからと言って不利というほどでもない、寧ろ展開次第では此方に有利、と言ったところですかね」

 

 予想外なのにですか?と天利が不思議そうな顔をして問いかける天利。

 

「"予想外"ではあって"想定外"ではありませんからね。

…ん〜前提として、ディクタストライカはめちゃくちゃ強いです。

札幌ジュニアSではコース形態やらなんやらが味方して勝てましたが、ここ阪神レース場の最終直線は450M以上。アルダンの得意な先行は若干不利ですし、かと言って後方から一緒にヨーイドンは論外。

はやい話が真面に勝負していたんじゃまず勝てない相手です」

 

 何故既に一勝しているはずの相手がこれほど強大に見えるのか。

 

 鳥林は今回彼女の対策を練るうえで、改めてコースの恩恵というものを強く意識した。

 

「真面に勝負して勝てないなら相手の長所を封じるなりなんなり、何かしら相手に力を出し切らせない様立ち回る必要がある訳ですが、だからと言って得意な脚質が違う相手に直接何か仕掛けに行くのも難しい……いえ、アルダンの実力ならやろうと思えば中団の後方辺りまでなら下がって戦うことも出来なくはないですが、問題はそれは相手にも言えること――」

 

 ――ディクタストライカは、最悪後方二、三番手の位置まで逃げても下げても最終直線の大外一気で勝ち切ってしまうだけの実力がある。

 

「そこまでの…そこまでの相手なんですか、あの、栗毛のウマ娘は……?」

 

 その問いに、沈黙をもって答えとする鳥林。

 

 流石に言い過ぎでは?と訝しんでいた天利であったが、しかし鳥林の、冗談では無い様子に、彼女の顔は次第に険しいものになっていった。

 

(少なくとも、"彼"なら出来る。

阪神三歳Sで後続に八馬身の差をつけて、"かの馬の再来"とまで呼ばれた"彼"なら……)

 

 八馬身という差は普段と異なる脚質という不利を埋めて余りあるものであり、そしてディクタストライカは前走のオープン戦で後続に10バ身の大差をつけて勝利している。

 

 『名前が同じだからといって彼程の化け物にはならないだろう』などという楽観視が許されない相手であることは明白だった。

 

「兎に角、そういう相手ですから直接的な妨害手段を講じることは中々難しい。

なんとかして意識の外から刺す必要がある訳です」

 

 ――故にこそ、ハイペースでスタミナを削る、などという作戦は所詮見せ札でしか無い。

 

「アルダンはこれまで、新バ戦はダート、二戦目は洋芝且つコーナーからのロングスパートと、芝の直線で100%の末脚は見せていない。

だからまぁ最初はハイペースを演出して、警戒から後ろで控えてくれるなら途中でこっそり息を入れて、後は伸ばしたバ群を盾に初見の末脚で逃げ切ろうってのが当初の作戦だった訳です」

 

 『ですが、ディクタストライカさんはトレーナー様の予想に反してお嬢様との距離を詰めてきました』と不安気な様子の天利。

 

 そんな天利の様子に反して、しかし鳥林に焦った様子は見られない。

 そも鳥林とメジロアルダンがディクタストライカの後方待機を予想していたのは、それが最善手であるからだ。

 

 此方はペースの偽装やシビアなスタミナ管理が必要になる中、しかして相手には依然としてコースの利が付いている。

 はやい話件の作戦は『言うは易し行うは難し』と言った内容であり、そんな砂状の楼閣を警戒して前に上がってきてくれるのであれば、それは次善手に非ず。

 

 まごうことなき、"失着"である。

 

「上がってきてくれたなら話は簡単です。

本当にハイペースに持ち込んで、スタミナ勝負にしてしまえば良い。

末脚勝負ならともかく、消耗戦であればまだ勝ちの目もありますからね」

 

 『それにその場合、明確に此方に有利な点が幾つかあります』と続ける鳥林。

 

 一つはコース形態的にかなりの逆風を受けること。

 

 阪神1600Mは向正面がスタート地点であり、コーナーは3コーナーと4コーナーの2つだけで、俗に言うワンターンのコース設定になっている。

 更にコーナーの長さは800Mもあり実に走行距離の半分を占め、要は向正面で決まった隊列からコーナーでポジションを上げようとするともの凄く苦労するのだ。

 

 ハイペースの中でそれを行おうとすれば消耗は更に倍ドン。はっきり言って蛮勇の類ですらある。

 

 加えて、ここで活きて来るのがディクタストライカが面子的にアウェーであると言う点だ。

 "妨害"をするか否かであれば、たとえ栗東寮所属である彼女相手とは言え躊躇した者はいただろう。

 

 なんと言っても一番人気。

 彼女が敗北した時に、彼女のファンからその敗因として叩かれる可能性があるが故に。

 

 或いは妨害と言っても具体的に何をすれば良いのか分からなかったり、他にもフェアプレーの精神からそんなこと考えもしない者もいるかもしれない。

 

 ――しかし"道を譲る"か否かであればどうだろうか?

 レースがハイペースで進んでいる以上、当然走るウマ娘達のコーナリングは何時もより荒く、外に軌跡を描く訳であるが、一番人気とは言え、他寮から乗り込んできた相手が外を上がっていくからと言って、その軌跡を態々内に寄せ、道を譲ってやる判断をするウマ娘がいるのか否か……。

 

 仮にもここはG1の舞台である。

 そんな優しさ……否、甘さを持つウマ娘が走る様な場所では断じて無い。

 

 つまるところディクタストライカが消耗を抑えることは不可能であり、加えて掛かり気味のウマ娘が多い現状を考えれば、たとえ悪意が無くとも競りかけられより外側に軌道を描き、更なる消耗の目すらある。

 

「……凄く美味しい展開じゃ無いですか、それ!?」

 

 天利の世紀の発明でもしたかの様な喜色を含んだ声に、頷いて肯定を示す鳥林。

 

 しかしどうしたことか、その顔は状況に反して、僅か程の楽観も見えない。

 

(――無難を嗤え、か……)

 

 なんとなく頭を過ったそのフレーズに、鳥林は丁度ターフビジョンに映ったディクタストライカの表情を確認する。

 

 当然笑顔なんて浮かべてる筈もなく、そこにはただ必死に走る一人のウマ娘がいるだけだ。

 

 ――だと言うのに、誰の声だろう?

 

 遥か遠くの何処かから、嗤い声が聞こえた気がした。




ウマ娘のイベント、今回から150万Pって中々に辛い…仕事のせいで自由時間なくなったから余計にそう感じる。
ダイイチルビー当たったからなんとかモチベ維持できましたが、当たらなかったら辛かったかも。

それと次回についてですが、書くこと自体は決まっているのですが、PC使えないので最悪来週の土日まで待ってて下さい。
可能であれば木曜日までには投稿しますが、多分無理です。
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